ECサイト運営に不可欠な不正転売対策、高額な悪質転売を防ぐために
不正転売対策は、ECサイト事業者と不正グループとのイタチごっこの様相を呈しています。ECサイト事業者は、国内で実行役を募る組織的な不正グループだけでなく、免税制度を利用した海外からの「転売ヤー」対策にも追われています。
転売やクレジットカードの不正利用は、消費者だけが被害に遭うのではありません。本物のサイトに擬態した偽サイトの横行により、謂れのないクレームを処理する必要に迫られる、ブランドイメージを棄損されてECサイトの信頼性が損なわれるといった被害が出ています。
本稿では、近年急増する転売不正利用の実態を確認するとともに、奏功した防止策の実例、政府の免税制度改正へ向けた動きなどを紹介しています。
また、中古市場の伸長と不正転売の関連についても触れています。
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組織的な転売不正利用はより巧妙に
不正な転売は年々巧妙化しています。
フリマアプリでは、高額なブランド品を架空出品し、仲間と売買を成立させた後に、立て替え払いのシステムを悪用して売上金を詐取するといった詐欺が散見されました。
また、クレジットカードの番号盗用や不正利用の被害も前年比と比べて約2倍に増えており、高い水準で推移しています。
ECサイトからの情報漏洩件数が前年比11倍に
ECサイトからのカード情報流出件数は、2024年4月〜6月までで12万727件となりました。これは、前年同期比の11倍に相当します。
カード情報の流出による被害額は、半数以上が3万円未満というデータもあり、少額決済を短時間に繰り返すことで、カードの持ち主が不正利用に気づきにくくなるなどの問題も生まれています。
従来のクレジットカード犯罪は、スキミングによってカード番号を入手し、偽造カードを使用する手法が主流でした。
こうした不正行為を防止するためにクレジットカードにICチップ搭載が必須化されたことによって偽造は困難となったものの、今度はフィッシングメールなどで盗んだカード番号をオンラインで使用する方法が新たな主流となりつつあります。
さらにこれに対応するため、企業はカード登録の要件を厳格化したり、1日に使える金額に制限を設けたりして犯罪を未然に防ぐ工夫をしています。
しかし、ユーザビリティのための措置であった本人確認のスキップが悪用されるなど、脆弱な部分を狙った犯罪が増加しています。
偽ショッピングサイトを経由させる手口が急増
偽ショッピングサイトは、粗悪品を販売したり、購入代金を騙し取って商品を発送しなかったりするサイトのことです。近年、本物のECサイトと見分けがつかない巧妙な偽ショッピングサイトが急増し、EC事業者にとって大きな脅威となっています。
2023年に通報された偽ショッピングサイトは4万7,278件あり、前年よりも2万件近く増加しました。
偽サイトは、SEO技術を利用して検索結果に上位表示させたり、上位表示されているサイトを改ざんするなど、SEOポイズニングと呼ばれる攻撃手法を取ることが多くなっています。
本物のサイトだとユーザーに誤認させ、クリックしたURLを強制的にリダイレクトし、マルウェア感染させたり、偽ショッピングサイトに誘導するなど、本物のサイトをいわば踏み台として利用する手口です。
偽ショッピングサイトの特徴は、大幅値引きや特価など、安さを強調しており、「本日限り」や「品薄」といった表示によって購入を急がせ、代金を騙し取ったり粗悪品を売りつけたりします。
こうなると、消費者は本物のECサイトに対して、「ECサイトから不正サイトに飛ばされた」、「代金を払ったのに商品が届かない(写真と異なる商品が届いた)」といったクレームを入れることになり、EC事業者はクレーム対応と、自社サイトのイメージ棄損という大きなリスクにさらされることとなります。
従来は、翻訳された日本語が不自然、ドメイン名が不審といった点をチェックすれば、ユーザーは偽サイトに気付くことも可能でした。しかし、AIの進化で翻訳の精度は向上し、ドメイン名も一見して不正なサイトとは分からないような自然なものに変わっています。
■偽サイトへの誘導を防ぐには
これらの偽サイトを減らすためにEC事業者ができることは2つあります。
一つは、Googleなどの検索エンジンで自社のサイト内を検索して、発信した覚えのない情報があるかどうかを精査することです。これは、比較的すぐに行えるチェックで、日常的にパトロールすることで、不正な偽サイトにいち早く気づけるようになります。
もう一つは、そもそも不正アクセスをさせないように、WEBサイトの改ざんを検知するツールの導入や、認証の強化など、セキュリティを強くすることです。偽サイトは脆弱なサイトを狙い、SEOポイズニングを仕掛けてくるからです。
言い換えると、つけ込む隙のないサイトを構築すれば、偽サイトが出現するリスクを小さくすることができます。
免税品の不正転売も相次ぐ
海外の転売ヤーが限定のキャラクターグッズやおまけのついた菓子などを大量購入し、海外で売る、免税品の不正転売も増加しています。
この買い占め行為は、個数制限の範囲内であれば違法ではありませんが、一部の消費者が大量に購入すると、買えなかった消費者の不満は募ります。
さらに、買い占められたアイテムが高額転売されると、市場の健全性も損なわれるため、対策が必要です。
政府も、近く免税制度の改正案を発表する予定ですが、企業側も限定商品の転売対策が求められます。
情報漏洩に繋がる不正利用の防止対策事例
不正利用は、売上に打撃を与えるだけでなく、情報漏洩に繋がるリスクも高まるため、強固な対策が求められます。
モール型サイトでは無在庫転売を取り締まるために出店審査を厳格化するなど、対応に追われています。アフィリエイト広告では、信頼できるアフィリエイターを見極めるなど、テクノロジーだけに依存しない姿勢も重視されています。
以下に、昨今の効果的と考えられる防止策を一例として挙げました。
ドロップシッピングなど無在庫販売を禁止するプラットフォーム
ドロップシッピングとは、自社で在庫を保管せず商品を売る販売方法です。注文が入るとメーカーから直接顧客に商品が発送される仕組みで、個人が手軽にネットショップを始めやすいのがメリットです。
しかし、人気商品は在庫確保が難しく、取引不成立になるリスクがあります。中には商品を意図的に確保しない、詐取を目的とした悪質な業者も存在します。
ある大手ECモールは、この対策として、商品の在庫証明審査を導入しました。また、個人事業主の出品数に上限を設ける、リアルタイムで出品を検知して検索結果に表示させないようにするなど、安易な転売を防ぐシステムを構築しています。
これらの対策により、出店審査の合格率は11.2%と厳しいものになったと公表されています。同モールは、「シビアな数字になった分、不正な販売を行う店舗を減らすことができた」としています。
店舗での免税販売が空港での還付型に
8ヶ月連続で同月過去最高数を記録している訪日観光客ですが、これに伴い、免税購入品を国内で転売していると思しき事例も増えています。
そこで免税品の転売対策として、政府は免税制度を根本から見直す計画を発表しました。
具体的な改革案や導入時期などは、年末の2025年度税制改正大綱に盛り込まれる予定ですが、免税相当分をクレジットカードや電子マネーの形で後から返金する形になると予想されています。
現在の日本の免税制度は店頭での税免除が主流ですが、調査では国外持ち出しが確認できたのは一部にとどまり、不正転売が疑われるケースも多発しているため、制度の適正化が急務とされています。実際、2022年度の調査では、免税制度を利用して合計1億円以上の物品を購入した約60人の訪日客のうち、物品を国外に持ち出したと確認できたのは1人のみだったという記録もあります。
こうした本来支払われるべき税金の滞納額は約18.5億円にも達しており、適切な制度改正によってこれが是正されることに期待が高まります。
アフィリエイト広告の制限
モニター価格や初回特別価格を宣伝するアフィリエイト広告を悪用する不正に対しても、広告情報を活用するブロックの仕組みが登場しています。
増加するアフィリエイト広告を悪用する不正に対して、新たな防止策としてクリックIDが導入されています。クリックIDは、広告経由で正規ルートから訪れたユーザーにのみ付与され、不正アクセスはリダイレクトにより該当ページに到達しない仕組みです。
不正購入・転売は、リーダーがLINEなどで低価格で購入可能なリンクを共有し、複数の転売者がそこから商品を購入するという手法が一般的です。
クリックIDを導入すると、正しい手法でサイトの商品ページを訪れたユーザーはクリックIDがあり、不正なアクセスを試みるユーザーはクリックIDがないという違いが生まれます。
さらに、クリックIDを持っていない不審なユーザーが該当ページへアクセスすると、別のページへ自動でリダイレクトされる仕組みになっており、不正購入を防ぐことができます。
これまで、アフィリエイト広告の不正検知は、不正購入者とのいたちごっこが続いており、システムをかいくぐって購入に至ってしまうケースが散見されていました。
また、不正購入のために広告出稿量を減らす、定期購入につなげる初回購入特典を廃止するといった変更を余儀なくされることもありました。
現在では、クリックIDという手法により、不正な手続きによるアクセスを該当ページまで到達させないという根本的な対策が可能になっています。
こうしたテクノロジーの活用だけでなく、アフィリエイト広告の出稿先として信頼できるアフィリエイトサービスプロバイダー(ASP)を選別するという考えをもつことも重要です。
ブログやSNSで商品を紹介し、売れた分の成功報酬を得るアフィリエイターの中には、商品を購入して転売サイトに放出する、未払い対応をして広告報酬のみを得るといった悪質な個人もいます。こうした事態を避けるためには信頼できるアフィリエイターを選別することも重要で、高い承認基準を設けたり、クローズドな環境での募集を行ったりすることが求められています。
高価格帯からジャンク品まで、中古市場が伸長したことも背景に
キャッシュレス決済の普及や、フリマサイトの台頭などにより、個人間でのEC取引がしやすくなった昨今では、中古品、ユーズドなどの市場もまた盛り上がっています。限られた資源を有効活用するリユースの考え方もまた、こうした市場の活況を支える背景となっていると考えられます。
中古市場が活発化すると、付加価値のついた高級品や限定品で利益を得ようとする犯罪もますます活発化するかもしれません。市場規模が大きくなった分だけ、不正の件数も増えるのが世の常です。
EC事業者にとって、不正利用の防止策を講じることはもはやマストと言えるでしょう。悪質な不正利用とのいたちごっこになろうとも、不正の手口を知り、それを封じるための対策を講じていく必要があります。
近年の中古市場は多様化していて、高級ブランド品のリセール、セカンドハンド市場から、家電やおもちゃなどのリサイクル市場に至るまで売り手と買い手は共に増加傾向にあります。これに伴って、中古品店で売れそうなものを探し、それよりも高値で売却するという「せどり」を行う一般消費者も多くなりました。
百貨店は直営の買取・引取サービスをスタートさせ、大手家具メーカーも、自社製品専用の再販プラットフォームを開くなど、自社のターゲット層に合わせた中古市場の開拓に動き始めています。若年層の間では、中古品への抵抗が以前より薄くなっているという傾向も見られるため、今後は新品と中古品の差異が小さくなり、同列と見做されるジャンルも出現するかもしれないという声もあります。
この傾向が続けば、ますます不正転売対策は重要になっていくでしょう。