DXレポート2.2が示す、日本企業にDX推進が必要な理由
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、「進化し続けるデジタルテクノロジーが人々の生活に影響を与え、日々の生活をあらゆる面で豊かに変えていく」という概念です。ビジネスにおいては、データやデジタル技術を活用することによって、製品・サービス、ビジネスモデル自体を変革していくことがDXの目標として掲げられています。
日本では、レガシーシステムや、経済の停滞による影響が本格的に顕在化する2025年を前にして、今まで以上にDX推進の必要性が増してきています。国も、「デジタル産業宣言」を通じて、レガシー文化からデジタル産業への転換を促し始めました。DX化は、企業の競争力を高めるだけでなく、BCP(事業継続計画)や中長期的なビジョンの確立にも役立ちます。
本稿では、ビジネスにおけるDX推進の必要性を改めて振り返るとともに、経産省によるDX推進ガイドラインやDXレポート2.2、そしてDX推進指標といった資料を活用して、中小規模事業にとって最適なDX化について考えていきます。
DX推進で企業間格差を埋めよ
DXは、スウェーデンの大学教授によって2004年に提唱されました。2000年代初頭から存在している言葉にも関わらず、日本でDX推進が進められているのは未だ一部の大企業のみにとどまっている印象です。
本来であれば、DX推進は中小企業にとっても多くの可能性をもたらすものであり、企業格差を埋める戦略としても有効な手段となり得ます。DX推進のネックとなるのは、既存システムからの置き換えにコストがかかること、デジタル技術やIT戦略の知識があるDX人材の不足といった課題ですが、経営陣が率先してDX推進体制を整備し、取り組んでいくことで道が拓けていくはずです。
DX推進を始めている企業と、そうでない企業とでは、格差が開いているのが現状です。2019年時点では、国内企業の58%がDX化に振り回されているというデータもあります。これは、国内企業の約半数が、DXを始めたものの効果的な方法が分からずに迷走している、あるいはDX対応が思うように進まず、どこから着手しようか戸惑っていることを意味しています。
こうした背景をふまえて、経産省はDX推進体制の構築に役立つ「DX推進ガイドライン」、そして「DXレポート」を公表し、デジタル産業宣言を策定しました。 今からDX推進に向けて新たな企業体制を構築するためには、このガイドラインと最新のDXレポート2.2についておさえておく必要があるかもしれません。
DX推進ガイドラインとは
「DX推進ガイドライン」とは、経済産業省が国内の民間企業向けに策定したものです。DX推進のための経営のあり方や仕組みについて、そしてDXを実現する上で基盤となるITシステムの構築について記されています。
経産省は、ビジネスにおけるDXを、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネ
スモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義しています。
このガイドラインが策定された背景には、「2025年の崖」と称される問題があります。
2025年の崖とは、DX推進が上手く機能せず、レガシーシステムと化した既存システムが企業や日本の経済に深刻な停滞をもたらすとされる問題のことです。また、レガシーシステムとは長年にわたって改善が繰り返されて結果的に複雑化、無秩序化、ブラックボックス化してしまった旧式のシステム全般を指します。
ガイドラインでレガシーシステムと指摘されている「モノリシック アーキテクチャ」は、分割されていない1つのモジュールで構成されているアプリケーションで、現在ではあまり使われなくなったプログラミング言語を使用しているため、改善できる人材も減少傾向にあります。
DX化と対極にあるこのレガシーシステムは、維持するコストもかかる上に生産性を向上させることも難しく、企業の成長を妨げる大きな要因となってしまいます。経産省は、ガイドラインとは別の資料「DXレポート」の中で、レガシーシステムが2025年以降、急速に深刻化して年間12兆円もの損失を発生させると警鐘を鳴らしています。
なお、現在では、複数の小さなサービスをAPI連携させる「マイクロサービスアーキテクチャ」が主流となっています。機能部分ごとの改善が可能で、パーツごとの入れ替えもスムーズなアーキテクチャで、DX化を推し進めるのにふさわしいアーキテクチャです。
2022年7月には、「DXレポート」の最新版である「DXレポート2.2」が公表され、改めてDX推進の必要性が示されました。 2025年の崖を回避するには、大企業だけでなく中小企業もDX推進を実行し、日本社会全体がDX化へ舵を切っていく必要があると考えられています。
DXレポート2.2で改めて示されたアクション
DXレポート2.2は経産省によってまとめられ、2022年7月に公表されました。2018年から、DXレポート、DXレポート2、DXレポート2.1と順に公表されてきたこのレポートは、問題提起やDXにおける具体的なアクションを示すものです。
2018年9月に公表されたDXレポートでは、レガシーシステムからの脱却が示され、2025年の崖を克服する必要性が説かれました。
次いで2020年12月に公表されたDXレポート2では、新たな産業(デジタル産業)構造の必要性、約2年間という長期スパンではなくスピード感を持った情報発信の必要性という2つの具体的な目標が示されました。
2021年8月に公表されたDXレポート2.1では、DX化で目指すべきデジタル産業の姿が提示されています。
そして、今年2022年に公表されたDXレポート2.2では、次の3つのアクションが示されました。
- 1. デジタルを、省人化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべきであること 2. DX推進にあたって、経営者はビジョンや戦略だけでなく「行動指針」を示すこと
- 3. 個社単独ではDXは困難であるため、経営者自らの「価値観」を外部へ発信し、同じ価値観をもつ同志を集めて、互いに変革を推進する新たな関係を構築すること
※経済産業省「DXレポート2.2(概要)」より引用
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/covid-19_dgc/pdf/002_05_00.pdf
DX推進にあたっては「互いに変革を推進する新たな関係を構築」できる同志的な企業連携が必要ではないかと示されていて、2018年〜2021年までの内容よりも具体的かつ踏み込んだ内容になっていることが分かります。
経産省は、これらのアクションを実行するための一助として「デジタル産業宣言」を策定、レポートと併せて企業の意識改革、具体的な行動開始を促しています。
これまで、デジタル導入におけるユーザー企業とベンダー企業の関係は、「低位安定」にありました。低い生産性に満足して、大きな変革を望まないこの姿勢を変えないと、DX推進は円滑に行うことが難しいと考えられます。レポート2.2が具体的なアクションについて言及しているのは、この関係を打破してより積極的な姿勢を取っていくべきだと考えているためと言えそうです。
DX先行企業が急増した背景
DX推進を成功させているDX先行企業は、2021年に急増しました。
企業がどれくらいDX化を成功させているかについては、DX推進指標を独立行政法人情報処理推進機構が2019年から調査しています。 この機構に寄せられた回答では、2020年の305社を大きく上回り、486社となっています。
成功している企業は大企業が多く見受けられますが、中小企業も健闘しています。特に、データ活用やスピード・アジリティ(速さと敏捷性)といった点については、大企業よりもむしろ成熟している傾向にあるというデータが発表されています。また、486社のうち、6件は個人事業主でした。
DX先行企業が急増した背景には、2025年の崖が迫ってきた危機感があると考えられています。DX推進指標を提出している企業は、従業員規模や売上高の大きな大企業から、システム改修が比較的容易な小規模事業者まで、年々増加しています。
さらに2021年は、コロナウイルスによってDX化の必要性を痛感したという企業も少なくないでしょう。
コロナ禍でDX化が進んだ?
オンライン会議や在宅勤務といったリモートワークの必要性に迫られて、DX推進が始まったという企業も少なくありません。
また、巣篭もり需要やステイホームといった風潮によって消費者のライフスタイルが変化し、それに対応するためにDX推進を余儀なくされたという企業もあります。オンラインでのミーティングやショッピングが幅広い層に浸透したことで、デジタルツールへの理解が深まったこともDX化が進んだポイントの一つと言えるかもしれません。
人材とデータ活用がDX推進のポイント
DX推進に成功した企業が、成功要因として挙げているのは、DX人材の確保や、DXに関する社内教育の強化、社員とのビジョン共有等です。
各部署の連携を密にして、必要なデータを活用することで、社内全体が一つのビジョンを共有し、その目標に向かって努力していけるでしょう。DX化によって連携が取れれば、業務効率化につながり、それを企業成長へとつなげていくことができます。
反対に、DX推進のハードルとして挙げられているのは、人材不足、システム入れ替えにかかる予算が確保できない、各部署の連携が取れないといったポイントでした。
ここから、DX推進を成功させるためには、DXに強い人材を確保すること(もしくは社内教育によって全員がデジタル知識を高めること)が重要であることが見えてきます。 また、時にはコンサルタントや社外の人材を登用することで、社内の組織構造が客観的に明らかとなり課題を解決する糸口が見えることもあります。
ここから、DX推進を成功させるためには、DXに強い人材を確保すること(もしくは社内教育によって全員がデジタル知識を高めること)が重要であることが見えてきます。
大企業だけがDXに成功するのか
DX推進と一口に言っても、すべきことは膨大です。
企業活動は、企画(マーケティング)、開発、製造、物流、広告、販促(販売)、CRMといった多くの機能を兼ね備えていますが、このすべてを一気にDX化しようとすると、膨大なコストと時間がかかってしまいます。それぞれの機能を司る部門の連携を取ることも難しく、携わる人材の確保や社内教育についても混乱が生じるでしょう。
これを一気に成し遂げられるのは、潤沢な資金と人的コストを動かせる有数の大企業数社に限定されてしまいます。なぜなら、大企業は一つの施策が失敗しても、その反省をふまえて第二の施策、第三の施策と、新たな取り組みを続けていける体力があるからです。
DX推進というキーワードが聞かれ始めた初期に、大企業ばかりがDX化に成功しているように見えたのには、こうした理由があります。しかし、日本のほとんどの企業は中小企業であり、大企業と同じように延々とトライアンドエラーを繰り返すことはできません。
とはいえ、DX推進の目的は企業としての成長です。一斉にDX化する施策を取る必要はどこにもありません。
中小企業のDX化は「スモールスタート」がキーワードになります。
中小企業もスモールスタートでDX推進
DX化においてまず必要となるのは、課題の可視化です。 すべての企業活動を一斉にDX化しようとするのではなく、ボトルネックとなっている(今後なるであろう)課題を見つけて、その一点のための施策を検討します。
課題の可視化は、業務の非効率的な部分を洗い出すだけでなく、顧客のニーズを再認識したり、顧客体験のあり方を捉え直したりするのにも有効です。課題を可視化することで、目指すべき目標も共有されやすくなります。
携わる従業員の意識がバラバラだと、仮に施策を講じたとしても、DX推進によるメリットを感じにくくなってしまいます。
しかし、課題をまず誰の目にも明らかな状態にして、その改善方法をトライアンドエラーで探していくことによって、自然とDX推進に向けた社内教育、目標の共有化が行われていきます。
スモールスタートから、小さな成功を積み重ねていけば、大企業ほどコストをかけなくても今後を生き抜くDX化が可能になるはずです。