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消費者側と販売側で見解が大きく異なる「店内追跡広告の発信」 ~なぜこの新技術が消費者に嫌われているのか~

オムニチャネル化を推進する小売業者が提供する新たなテクノロジーとして、オンライン上で分析された情報を実店舗での販売に適応させるという最新の広告システムが登場し業界内では話題となっていますが、実際に消費者側からの反応は著しくありません。具体的には店内の買い物客のスマートフォンに接続して広告を発信するのですが、これに対して消費者サイドは拒絶反応を示しているのです。

消費者のフィードバックを集計分析するOpinionLab社の調べによると、1042名の調査対象者のうち77%が店内で自分のスマートフォンに追跡広告が発信されることを快く思っておらず、81%は小売業者側が消費者の個人的なデータを安全に管理しているとは信じがたいとも答えています。
また消費者の購買傾向といったデータの取り扱いに関しては、大手販売業者に比べて小規模のローカルな企業の方が信頼度は高いという結果も出ています。

これまでは商品を購入する以前の段階で消費者の情報を得るということは技術的に不可能でしたし、購入した場合であっても実際に個人情報が取得できるのはクレジットカードを使用したりEメールアドレスが取得できた場合、または会員カードの発行を通してなどといった特殊なケースに限られていました。

しかし今では最新テクノロジー「Geofencing」やWi-Fi、Bluetooth、 そして一般に広く普及しているスマートフォンのおかげで、スマートフォンのシグナルをキャッチすることで消費者の購買行動傾向を把握し、それに合わせた広告発信を実施することが可能になっているのです。基本的には買い物客がデパート内に足を踏み入れるとスマートフォンに個人別に適応したお知らせ画面が現れる、といったイメージです。
このテクノロジーの主な例としては、買い物客の店内での動きを観察分析するNomi(資本金1300万ドル)を始め、Euclid(同2億3600万ドル)、RetailNext(同2億9400万ドル)などがあります。加えて、昨年秋にAppleも独自の店内追跡システムiBeaconを開発したことで、このテクノロジーにスポットライトが大きく当てられるきっかけとなりました。ちなみにiBeaconは当初Appleの店舗でのみ導入されましたが、現在では他の小売店舗でも使用が可能になっています。また、景品付き会員プログラムを提供するShopkickは多くの年間販売実績を記録しており、先頃shopBeaconと呼ばれる店舗内追跡システムを発表し、アメリカの大手百貨店Macy’sが最初に導入を実施しています。

AppleのiBeaconに見るモバイルマーケティングの現状

マーケティング専門家は、このテクノロジーはあくまで消費者が販売業者のアプリなどを通して承認をすることではじめて機能するため、強制的にプライバシーの侵害をするようなことにはならないと主張しています。

販売側は店内メッセージを使用して買い物客にアプリのダウンロードを勧めるといったスタイルが一般的ですが、Walgreens、Kohls、またはStarbucksといった企業のアプリはすでにかなりの人気アプリとして知られています。

一方でプライバシー保護を提唱する側からは、店内追跡システムはメールアドレスを所有者の了解なしに売買していた初期のEメール・マーケティングとの類似性があるという指摘が上がってきています。

ちなみに、2003年のCAN-SPAM条例により、現在は広告メールの定期送信解除機能が義務付けられた他、発行元の現住所の記載も必要となりEメールアドレスの収集自体も禁止されています。

モバイルマーケティングや店内追跡といった分野はまだ歴史が浅いものの、これに対して消費者のプライバシーを保護するための基盤となる法律が制定される可能性は十分にあり得ます。先頃もFTC(連邦取引委員会)が開催したセミナーにおいて業界の各代表がこの「オプト・イン」システムに関する法律制定の是非について議論を交わしています。

iBeaconや類似システムの問題点の一つに「追跡」という言葉の持つ響きがあります。自分が追跡されていると言われて気分の良い人は誰もいないでしょうし、ましてや買い物先の店内での自分の行動傾向を分析されているとなるとなおさらです。しかながらウェブサイトを閲覧する際には毎回このことが当たり前のように行われており、具体的には広告代理店やEコマースサイトなどがクッキーを利用して閲覧履歴に応じて広告を画面上に掲載しているのです。

このクッキーに関してはプライバシー保護の観点で常に議論の的となってきましたが、実際のところインターネットユーザーには基本的に受容されている傾向にあります。

追跡広告支持派の意見としての典型は、オンライン・店舗に関わらず消費者は利便性や割引などの利点と引き換えであれば多少のプライバシー侵害は容認する傾向にあるというもので、それは今回のケースにも確実に当てはまっています。

前述したOpinionLab社の調査では61%がこういったシステムに個人情報の登録をすることで割引サービスという形で直接の利益が得られることを望んでおり、無料の景品も期待すると答えた割合は53%にも上ります。一方で35%もの回答者がこのようなシステムの利用には始めから全く興味が無いため、どのような手段を講じてきたとしても絶対に利用することは無いと答えています。
全体的にはこのテクノロジーに対する消費者の反応は思わしくなく、63%が自分のお気に入りのブランドであったとしても店内追跡広告の発信は承認しないと答えており、販売業者側の思惑と消費者側の見解には大きなギャップが見られています。

この記事はConsumers hate in-store tracking (but retailers, startups and investors love it)を海外小売最前線が日本向けに編集したものです。