介護・福祉関連のBtoB ECの未来:2025年へ向けた需要と課題とは
- 平均寿命は長いが、健康寿命は伸び悩み。介護用品を必要とする人は多い。
- CareTEXは、介護用品を3つのブースに分けて展示会を開催。用途別、施設や在宅の別、人材関連など、関連事業は多岐にわたる。
- 介護・福祉関連用品の受発注システムの成功事例は、バラエティ豊かな品揃えと24時間対応が鍵。
- 介護保険との連携、慢性的な人手不足の現場とECシステムをどのようにコネクトするか。団塊の世代が高齢者となる2025年の未来を考える。
一億総介護社会?高齢者の増加と健康寿命
介護が必要な高齢者は増加の一途をたどっている
現在、高齢者の4分の1が、日常生活に支障のある何らかの症状をかかえているとされています。衣類の着脱や入浴、食事を自力でとることに苦労している人も多く、また認知症などの介護や見守りが必要な疾病も、今後増加していくと内閣府は予想しています。
WHO(世界保健機関)が発表している世界保健統計においては、常に平均寿命ランキングの上位に位置している日本ですが、平均寿命の伸び率に比べると健康寿命(日常生活に制限のない期間)の伸びは横ばい。長寿の国日本は、要介護者の多い日本でもあり、介護のニーズは高まるばかりです。
介護用品のニーズ:CareTEXにみる需要
介護に必要なものは、消耗品から手すり、車椅子といった補助器具まで多岐にわたります。ブティックス株式会社が主催する介護関連用品のBtoB商談展「CareTEX(ケアテックス)」では、次のような3つの区分でブースを分けています。
■介護用品展(在宅介護・施設介護のための用品・機器等)
歩行補助用品、ベッド用品、トイレ、おむつ、サポーターや補聴器等生活支援用品
■介護施設産業展(高齢者施設向け設備・備品等)
介護浴槽、ストレッチャー、防犯カメラ、介護関連事業者、ゼネコン等
■介護施設ソリューション展(高齢者施設の課題解決のための用品・サービス等)
経営コンサル、介護食配食、各種アウトソーシング、介護レク関連等
参考:CoreTEX2018
http://caretex.jp/info/aboutcaretex.html
このブース分けから分かるように、介護は、要介護者の状態によっては暮らしを丸ごとリフォームするといっても過言ではありません。
文部省は、統廃合によって使われなくなった校舎を児童福祉施設や老人福祉施設へと転用するプロジェクトを立ち上げましたが、まだ充分に活用するにいたってはいません。
しかしながら、施設の整備や人材の確保、継続的な運用にかかる物的、人的なコストを考えるとそれも無理からぬものがあります。
・文部科学省「~未来につなごう『みんなの廃校』プロジェクト~」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1296809.htm
こうしたさまざまな商品を扱うECシステムは、どのようなものが成功するのでしょうか。次に事例を挙げました。
成功事例からみる介護・福祉関連ECサイトの今後
事例1:Web受発注システムで24時間対応を可能に:AladdinのECシステム
このシステムでは、最大5万点の商品登録が可能で、それらのアイテムは、1商品あたり10カテゴリまで紐付けができます。細分化したケア用品も、互いを紐付けすることで発注しやすくなり、在庫管理が容易になるというメリットがあります。
介護用品はおむつのサイズや介護食の食品情報、さまざまな補助器具の対応機種など、詳細な製品情報が求められることが多くあります。このシステムは、サイズや型番といった情報からも商品の検索をかけられるようにすることで、ニーズや特性に合わせた商品を提供可能にしています。
さらに、24時間体制の現場に合わせ、Webの受発注も24時間対応を可能に。互いの営業時間や休日を気にすることなく、欲しい時に必要なものを供給できるシステム構築で、昼夜の区別なく働く介護・福祉の現場に物品を提供しています。
事例2:幅広い商品ラインナップと一括請求でコスト削減に貢献:株式会社ClothoのECシステム
Clothoの介護業界向け商品は、車椅子やポータブルトイレといった補助用品から、宅配食材、とろみ剤といった介護食、おしりふきや衛生用品などの防災用品、手すりやスロープといった介護向けリフォーム家具など品揃えが豊富。
介護に特化しているシステム構築ではありませんが、その分、業界の固定観念にとらわれない運用を実現しています。
事例3:用品からレクリエーションまで包括的な提供:スマート介護
プラス株式会社ジョインテックスカンパニーによる介護向け「デリバリーサービス」のBtoBサイトです。3万点以上の商品を掲載しています。
リハビリ用品や口腔ケア、入浴関連用品だけでなく、レクリエーションも取り扱っているのがポイント。ハンガーやクリップをリメイクして飾る手芸や、ダンス・ゲームをパフォーマンスする催しのデリバリーなど、介護施設が必要とする物事を網羅しているのが強みといえます。
今は2025年までの準備期間?新規参入の課題とは
需要は2025年にピークと予想されている
2025年は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるため、介護・福祉関連の需要がひとつのピークを迎えるとみられています。
参考:Fuji Keizai マーケット情報
https://www.fuji-keizai.co.jp/market/16007.html
このデータによると、2025年における介護・福祉関連の用具や関連システムは、2015年比でおよそ24%増加し、介護の負担を軽減する介護用ロボットの市場は8倍にもふくれあがる予想も立てられています。
一見すると、介護・福祉関連のBtoBおよびBtoCの市場は、金の鉱脈のようにみえます。しかしながら、こうした「特需」ともいえる未来の前にクリアしておくべき課題もあります。
ネットリテラシーの整備はどこまで進むか
介護・福祉関連のECシステムづくりにおいて課題となるのは、「利用者のネットリテラシー」です。
慢性的な人手不足のなかで運営される介護施設や福祉施設で働く介護従事者にとって、企業間電子取引はまだ未知の分野といえます。利用方法や決済の方法、受発注のタイミングなど、場合によってはECサイト側からの詳細なマニュアルが必要となるかもしれません。
また、BtoCのサイトでは、この傾向はより顕著になります。老老介護が当たり前になりつつある現代において、ネットで介護用品を注文するという行為は、介護にあたる高齢の家族にとって大きな負担になる可能性があります。通常のECサイトよりもさらに見やすく、そして分かりやすいシステムの構築が必要とされるでしょう。
介護保険、ケアマネ、包括的な連携
ポータブルトイレや入浴用品といった直接肌にふれる用具は、特定福祉用具と呼ばれています。実費を支払ってから市役所などで払い戻しを受けると、1~2割の負担のみで用具を購入することができるようになっています。
しかし、この適用が受けられるのは、指定事業者から購入した場合に限られています。そのため、新規参入をして該当用品を販売した場合も、指定事業者にならなかった場合は、売上がおもうように伸びないことが予想されます。
介護や福祉は、ケアマネージャーなど地域の包括的な支援が関わっています。ゆえに、それらとの連携を強めることで、介護関連の需要に大きく食い込める可能性はあります。
まとめ
介護は、する方もされる方も大きな負担をともなうとされます。互いが人間の尊厳を保つために、介護を軽減する用品や技術の開発は、今後も続けられ日進月歩の進化をとげることでしょう。
しかし、それを流通させるのは人間であり、実際に用いるのもまた人間です。人と近い場所に位置するシステム構築が、来る超高齢化社会の有用なECサイト、システムといえるのではないでしょうか。