ECzine Day 2018 Spring「あたりまえを変えろ!ECの次世代インターフェースで、新しい買い物体験を」セミナーレポート
2018年3月13日(火)に開催された「ECzine Day 2018 Spring」。そのクロージングセミナー「あたりまえを変えろ!ECの次世代インターフェースで、新しい買い物体験を」のセミナーレポートをお届けします。
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目次
当社が開発したR&Dの機能を、当社ブランドである「Orangeシリーズ」ソフトウェアに組み込んだり、請負開発や、時にはサービス開発事業という形で、いろいろな企業様と新しいサービスを作っています。
また、IoTのビジネスをやるために、ITだけではなくハードウェアの領域にもチャレンジさせていただきました。
ハードウェアの製造技術も身に着け、家電メーカーとしても運営しています。
大手企業の新しい取り組みの実証実験にも関わっています。例えば三井のリパークが運営するスペースシェア「toppi!」の取り組みや、宅配ボックスのIoT化を業界に先駆けて発表したりしています。
基本的には、研究開発からのアウトプットを使って、今までの文化をどう変えていくかを考えています。
この表を見せると、「思ったより伸びてないよね」「このままいったら15年後はどうなるんだろう?」といったいろいろな反応があります。
小売業界の大手企業役員の方と話していて、目の色が変わってきたなと感じるのが15兆円、16兆円といった市場領域に入って来たまさに最近のことです。
オムニ施策の崩壊というのは、ユーザーへの訴求を分かっていなかったのではないかと推測します。店舗併用型のサービス利用について需要が低いという調査結果が出ており、実際にエスキュービズムのクライアントでもそういった結果が出ていました。
理由は二つ考えられます。
店舗が好きな人が、WEBサービスを使ってお店に来ていろいろ遊びたいといった欲求はまだ先進的すぎた、時代が早かったのではないかということ。
もう一つは、ネット専用型サービスの躍動があったこと。メルカリなどはCtoCサービスで新しいポジションを築いています。
こうしたことから、オムニチャネルはまだ難しかったのではないかと考えています。
Eコマースという分野でいうと、店舗とWEBの使い分けを、ブランドやサービスごとに消費者がうまく使い分けている点が印象的です。なかなか同じブランドで両方使ってもらうということが苦戦しているところです。
感情論かもしれませんが、現在のECサイトは合理性や利便性を追及したロジカルに動くものというものがECの定義で、実店舗はロジカルではないと思います。
たとえば、家具を買う時に10店舗も20店舗も歩き回ってスペックや価格を比較して買う、とそこまではされないと思います。2~3軒見て、「あ、これいいかも」と直感的に買ったりすることが多いでしょう。
先日、ある眼鏡店の方は「メガネのフレームを買う人は、大体選んだ3点のフレームの中から買う。3つ以上のフレームから選ぶ人は30%」とおっしゃっていました。お店で買う時は、感情で買う傾向にあると感じています。
また、「この定義は誰が決めたのですか」という質問に対しては、答えられない方が多いのではないでしょうか。
これまでのECの文化はAmazonやアリババや楽天などのモール事業者が作ってきました。これまで15年ほどやってきた企業の定義がECの定義になっているんですね。
その仕様で考えるのではなく、新しいECの定義を考えて仕組みを作っていかなくてはならないと考えています。
専門店には、たとえばポケモンGOのようなエンタメの要素は不可欠ではないかと考えます。WEBサービス、アプリ系でいい仕組みが出ているので、それをどうECシステムに組み込むかを考えていかなければと思います。
では、モール事業者ではない小売企業が、ECの世界でどう戦うかを考えた時に、現在のECの定義と戦っても勝ち目はないでしょう。商品とスペックが分かっていて、価格が決まっていて、買いたい時に買えるとなったら、消費者はAmazonで買ってしまうからです。
既存のモールが持つ利便性、合理性だけではない次世代のECはどうやったらできるのか、といったことを考え、R&Dの現場にフィードバックしています。
たとえばインバウンド公共事業。全日空商事様と一緒にインバウンド送客プロジェクトを進めているのですが、各自治体のインバウンド向けのコンテンツを見てもらうと、大概が史跡名勝や文化というものをコンテンツとして、多言語化して動画やWEBサイトに出しているんです。これは日本人のエゴで、外国人観光客は基本的にあまり興味がない分野です。
マンホールの蓋だったり、薬局だったり、まったく計算外のところが流行ってしまっています。
外国人観光客を公共事業で集めたかったら何をやらなければならないかというと、「フォトジェニック」、今年であれば「動画ジェニック(ムービージェニック)」が流行りつつあります。写真を撮ってinstagramに共有する「インスタ映え」という言葉も流行りましたが、「私たちのエリアにはこんなに【映える】ポイントがあるよ」ということをコンテンツにして、海外のインフルエンサーを使って集客するといった施策が必要だと思います。
自治体の方々と話していると、「この史跡が」「この文化が」「この祭りが」という言葉がよく出てきますが、今は「フォトジェニック」がキャッチ―です。インスタ映えするスポットが150ヶ所あります、といった打ち出し方をした方が集客できると思います。
ECだけではなく、そういった観光産業でも文化や考え方を変えなければならないところに来ています。
今ある日本の次世代ECに関わるアーキテクチャは、この4つのカテゴリに分かれると思います。
どれかを単体で導入して成果が出るということはほぼないと思います。この4つを組み合わせてどう使うか、という事業者側の企画力が試される時代になっていくでしょう。
これから5~10年すると、みんなヘッドマウントディスプレイを持っているような状況になるのではないかと思いますが、ブラウザ上でどう店舗ロケーションを変えるか、ECのインターフェースを変えられるか、現在研究開発を行っているところです。
VRコマースはスマートフォン、タブレットPCがターゲットになりますが、PCはほとんど考えておらず、スマホを片手にどうやって楽しんでECサイトで買ってくれるかを考えてやっています。
(VRコマースに)期待するユーザー、期待しないユーザーとしては、
ここで、ファミリア元町中華街店様にご協力いただいて制作したVRコマースのデモ画面をご紹介します。
実際のお店を撮影、360度映像にし、お店にある商品をそのまま買えるようにしています。
商品をタップすると、そのままカートに入れて、購入することができます。
当然、これだけで売上が上がるというわけではありません。VRコマースに他の要素を掛け合わせていく必要があります。
たとえば、フロアを案内する仕組みをどうするか?という観点でも、デジタルで接客する店員を出すか、Amazon Barのように先にユーザーに対して質問をして「おすすめのフロアはここです」と移動させるなど、他のテクノロジーを組み合わせていくことで利便性を上げることができるでしょう。
VRコマースの場合、買い忘れたものをすぐに買えたり、ついで買いを促進することができるなどの、相乗効果があるのではないかと考えています。
こちらはオムニ7で実証実験を行った時のVR店舗(※1月10日(水)~2月6日(火)の期間限定店舗、クローズ済)です。
オムニ7やロフトなど、セブン&アイグループの商品が、店舗の枠を超えて同じ棚に並んでいます。
デジタルマーケティングの話になってきますが、この商品に行きつくにはどうしたらいいだろう?という誘導する案内がなかったことが課題といえます。
今後、この課題をどうすべきか第二フェーズ、第三フェーズを検討しています。Amazonでただ買うよりも、どうやってAIチャットやエンタメの要素を入れて楽しく買い物ができるのか、という視点で考えています。
VRがいいきっかけになって、今後新しい戦略が打てるのではと考えています。
EC全体をVRで作り変えなくてもいいと思っています。今はレコメンド機能でおすすめされても、皆さん情報が入りすぎていて引っかからないことの方が多いのではないでしょうか。
以前は15%あったレコメンドからの売上が、今は4%ほどだといいます。新着ランキングも目新しさがないような状況で、そうした特集コーナーをVRコンテンツとしてスポットで作って誘導したり、使う側の企画力が試されていると思います。
マーケティングの企画力がある企業さんとはコンバージョン率の高い仕組みを作れそうだなと思います。
越境ECについては皆さん注目されていますが、法人取引の卸問屋様がショールームをVR化したいという問い合わせを多くいただいています。こういったプラットフォームとして使われることもあります。
越境ECで苦戦されている方は皆さん同じことをおっしゃると思います。
本物だと思われないというところでは、ある百貨店役員の方のお話ですが、「中国の方にコスメが人気で、レジにいつも100人くらい並ぶ。中国に帰ると、アリババに同じ商品を掲載しているのに、1割も買ってくれない」そうなんです。その百貨店のEC店舗であるという案内をしているのにも関わらずです。
アリババに出ている商品が本物かどうか疑って買ってくれないという人に対して、どうやったら本物だと知ってもらえるのか、と考えると、日本に来て買ったお店と同じロケーションがあり、ブランドがちゃんと伝わって、実店舗と同じような感動がある、という感情に訴えるしかないのではないかと思います。VRコマースであれば、その突破口になりうると考えられます。
テレビやCM、移動中の駅や街頭のサイネージの動画を見て、「この商品いいな」と思うことがあると思います。ドラマを見ていて、俳優の着ていた服が欲しいとか、動画サイトで流れてきた商品CMが気になったとか、そういった訴求に対して動画インターフェースというのは有効なのではないでしょうか。
ECZineさんで、「EC利用者の4割超が「インスタやTwitter上に購入ボタンがあったら使いたい」(ジャストシステム調査)」という記事が公開されています。
「SNSに上がっている商品情報や動画からそのまま買えたらいい。購入ボタンを付けてほしい」という声が多いという調査結果です。動画からどうやって買わせるかということを考えていく必要があります。
残念ながら、いまのところは動画から商品が買えるわけではないのですが、とても良いチャレンジだと思います。
こうした動画を使ったEコマースの仕掛けというのが重要になってくるでしょう。
動画コマースでは、動画上に表示されている商品アイコンをタップしてフリック移動するだけで、カートに入れられるようになっています。SNS上から購入出来たり、自社のECサイトに組み込んだりと、新しい購買方法を提案していく予定です。
動画から商品をカートに入れ、その後、カメラを立ち上げてクレジットカードをその場でスキャンすると買えるような仕組みを考えています。
こうした新着アイテムやお店の強みなどを訴求するコマース方法もあって良いのではないかと思います。
消費者に対して、どういうMDにしたら買う気になるか、企画会議もやっていますが、実際はやってみないと分からないところがあります。
動画コマース、VRコマースにおいて、どう接客をしていくかというのは重要なポイントになってきますので、AIのチャットボットやデジタル接客をどう組み合わせて、どうプロモーションをやっていくか、ということにかかってくるでしょう。
テレビ通販のような動画を作れば、売れるのかというと疑問があります。SNSだからこそ刺さる企画コンテンツがある、動画メディアだから刺さるコンテンツがあると考えられるからです。
Twitter、Facebook、LINE、instagram、自社ECなど、いろいろなところに組み込んで、そこから買えるようにする。VR系、AR系、動画系、どれも企業ごとの企画力が試されます。
どう企画してどう拡散して、どうお客さんに楽しんでもらうかにかかっています。
最初はゲスト購入で、だんだんファンになって会員になるという、新しい顧客のエンゲージメントの形はこういったところから始まってもよいのではないでしょうか。
ただ、ライブコマースというのは「その時間に、その場所(アプリ)に行かないと買えない」という制約があります。Eコマースではライブ感は必要なのか?ということが疑問に思っていることです。
有名人や憧れのインフルエンサーが案内していて、訴求がターゲットにマッチしているものであれば、売れる可能性があります。私はゴルフが好きなんですが、スピース選手や松山選手がしゃべりながら新しいゴルフボールのプロモーションをしていたら買うかもしれないですね。
ライブコマースはCtoCで威力を発揮するプラットフォームなのではないかと思います。
ある会社のチャットボットの例ですが、最初にお話しした「ECの定義」の中の「検索の概念」カテゴリーから検索する、キーワードから検索する、といった検索の概念を変えようとしています。
LINEなどのチャットをやりながら、いきなり商品が出てきて、そこから売上が立っている会社さんもあるそうです。
これも「検索」という新しい文化の概念だと思います。検索は、カテゴリーから調べなければならないと誰が決めたのか?モール事業者が編み出した技であって、専門店が真似する必要はないと考えます。
商品を多数並べなくても、会話の中でおすすめされた商品を買う、という新しい概念を持っているわけですね。
こういった新しい検索軸と、WEB接客という形もありだと思います。
もう一つ事例をあげますと、大阪の阪急百貨店では、百貨店の中の案内をAIチャットボットに代替させています。今後の予測としては、「レストラン街の蕎麦屋に行きたい」と入れると「蕎麦屋は20分待ちです、寿司屋はすぐに入れます」といった会話もできるようになると思います。
お店でも使えるAIチャットは非常に便利で、スーパーなどでも活用できるのではないかと思います。
AIチャットコンシェルジュを自社のサービスに全部繋げてしまって、ECの質疑応答もできる回答もできる、メディアの情報提供、予約サービスも使える、ソーシャルコンテンツも連携している、店舗案内もしてくれる、そういった世界ができるのではないでしょうか。
単に自社アプリを作ってもつまらない、たとえばAIチャットを組み込んで、育児コンシェルのような立ち位置にしてしまって、子供を産む前や産んだ後など、常に回答してくれるアプリであれば顧客にとっても有益なものになるだろうという構想を話しています。
育児相談でコミュニケーションをしながら、最終的にECサイトにつなげていければいいなと思います。
なぜメルカリがこんなに流行っているのか、他社サービスについて理解するということを考えた方がよいと思います。
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目次
- 1:当たり前を作るR&Dと市場の動向
- 現在のマーケットはどうなっているのか
- 市場動向から考えるオムニチャネル戦略の今後
- 2:今までのECの文化、定義は誰が作ったもの?
- 違う業界でも文化を変える必要がある
- 3:ECのインターフェースを変える
- 4:VRインターフェース
- VRコマースの課題
- VRコマースのコンテンツはスポットでもOK
- VRコマース×越境EC
- 5:動画インターフェース
- 動画コマースのアイデアに繋がるヒント
- 新しいインターフェースとしての動画コマース
- 問われる企画力
- 新しい顧客のエンゲージメントの形
- 6:ライブコマース
- 7:AIチャットでWEB接客
- アプリのWEB接客事例
- ECでのAIチャット活用
- 8:まとめ
登壇者紹介
株式会社エスキュービズム 取締役 真田 幹己
2011年 7月株式会社エスキュービズム入社。中堅・大手小売業向けコンサルティングや新製品・新規事業開発を担当。2014年エスキュービズムの取締役に就任。現在はECやPOSでの施策だけでなく、小売・流通業界を中心に、VRコマースを活用した次世代オムニチャネルなど、新しい購買手法を推進している。
1:当たり前を作るR&Dと市場の動向
エスキュービズムでは、「当たり前を作るR&D」と銘打ち、即効性のあるアイデアをテーマに、研究開発(R&D)を行っています。小売企業の皆さんが新しい施策を打つ時に「こんなものがあったら便利だよね」と思われるものを社内で研究開発しています。当社が開発したR&Dの機能を、当社ブランドである「Orangeシリーズ」ソフトウェアに組み込んだり、請負開発や、時にはサービス開発事業という形で、いろいろな企業様と新しいサービスを作っています。
また、IoTのビジネスをやるために、ITだけではなくハードウェアの領域にもチャレンジさせていただきました。
ハードウェアの製造技術も身に着け、家電メーカーとしても運営しています。
大手企業の新しい取り組みの実証実験にも関わっています。例えば三井のリパークが運営するスペースシェア「toppi!」の取り組みや、宅配ボックスのIoT化を業界に先駆けて発表したりしています。
基本的には、研究開発からのアウトプットを使って、今までの文化をどう変えていくかを考えています。
現在のマーケットはどうなっているのか
皆さん最近ようやく、ECに本気で取り組もうとされているのかなと、市場を見ていると感じます。もともと、5年前(2013年)の予測では2018年は20兆円の売上があると見込まれていました。出典:野村総合研究所発表資料1年ごとに、1~2兆円ずつ伸びてはいますが、来年度そこまで達成できるかはまだ分かりません。
2018年度までのIT主要市場の規模とトレンドを展望 https://www.nri.com/jp/news/2013/131127.aspx
この表を見せると、「思ったより伸びてないよね」「このままいったら15年後はどうなるんだろう?」といったいろいろな反応があります。
小売業界の大手企業役員の方と話していて、目の色が変わってきたなと感じるのが15兆円、16兆円といった市場領域に入って来たまさに最近のことです。
市場動向から考えるオムニチャネル戦略の今後
2010年代になって、オムニチャネルやO2Oといった施策が広がってきましたが、オムニチャネルは最初の想定よりはあまりうまくいかなかったという印象があると思います。オムニ施策の崩壊というのは、ユーザーへの訴求を分かっていなかったのではないかと推測します。店舗併用型のサービス利用について需要が低いという調査結果が出ており、実際にエスキュービズムのクライアントでもそういった結果が出ていました。
理由は二つ考えられます。
店舗が好きな人が、WEBサービスを使ってお店に来ていろいろ遊びたいといった欲求はまだ先進的すぎた、時代が早かったのではないかということ。
もう一つは、ネット専用型サービスの躍動があったこと。メルカリなどはCtoCサービスで新しいポジションを築いています。
こうしたことから、オムニチャネルはまだ難しかったのではないかと考えています。
Eコマースという分野でいうと、店舗とWEBの使い分けを、ブランドやサービスごとに消費者がうまく使い分けている点が印象的です。なかなか同じブランドで両方使ってもらうということが苦戦しているところです。
感情論かもしれませんが、現在のECサイトは合理性や利便性を追及したロジカルに動くものというものがECの定義で、実店舗はロジカルではないと思います。
たとえば、家具を買う時に10店舗も20店舗も歩き回ってスペックや価格を比較して買う、とそこまではされないと思います。2~3軒見て、「あ、これいいかも」と直感的に買ったりすることが多いでしょう。
先日、ある眼鏡店の方は「メガネのフレームを買う人は、大体選んだ3点のフレームの中から買う。3つ以上のフレームから選ぶ人は30%」とおっしゃっていました。お店で買う時は、感情で買う傾向にあると感じています。
2:今までのECの文化、定義は誰が作ったもの?
皆さんに「ECサイトとはどういうものですか」と質問をした時に、9割以上の方が左にカテゴリー検索があり、上に注目キーワード、新着商品が並んでいて、2カラム3カラムのレイアウトで、そこで商品が検索できて商品詳細が出てくる…というのをECサイトの定義と答えるのではないかと思います。また、「この定義は誰が決めたのですか」という質問に対しては、答えられない方が多いのではないでしょうか。
これまでのECの文化はAmazonやアリババや楽天などのモール事業者が作ってきました。これまで15年ほどやってきた企業の定義がECの定義になっているんですね。
その仕様で考えるのではなく、新しいECの定義を考えて仕組みを作っていかなくてはならないと考えています。
専門店には、たとえばポケモンGOのようなエンタメの要素は不可欠ではないかと考えます。WEBサービス、アプリ系でいい仕組みが出ているので、それをどうECシステムに組み込むかを考えていかなければと思います。
では、モール事業者ではない小売企業が、ECの世界でどう戦うかを考えた時に、現在のECの定義と戦っても勝ち目はないでしょう。商品とスペックが分かっていて、価格が決まっていて、買いたい時に買えるとなったら、消費者はAmazonで買ってしまうからです。
既存のモールが持つ利便性、合理性だけではない次世代のECはどうやったらできるのか、といったことを考え、R&Dの現場にフィードバックしています。
違う業界でも文化を変える必要がある
様々な業界で「文化、定義を変えろ」と言っています。たとえばインバウンド公共事業。全日空商事様と一緒にインバウンド送客プロジェクトを進めているのですが、各自治体のインバウンド向けのコンテンツを見てもらうと、大概が史跡名勝や文化というものをコンテンツとして、多言語化して動画やWEBサイトに出しているんです。これは日本人のエゴで、外国人観光客は基本的にあまり興味がない分野です。
マンホールの蓋だったり、薬局だったり、まったく計算外のところが流行ってしまっています。
外国人観光客を公共事業で集めたかったら何をやらなければならないかというと、「フォトジェニック」、今年であれば「動画ジェニック(ムービージェニック)」が流行りつつあります。写真を撮ってinstagramに共有する「インスタ映え」という言葉も流行りましたが、「私たちのエリアにはこんなに【映える】ポイントがあるよ」ということをコンテンツにして、海外のインフルエンサーを使って集客するといった施策が必要だと思います。
Array 鶏が先か卵が先か、という感じではありますが、そこから観光客を呼び込み、文化を伝えていくというフローを作っていくことが重要だと思います。手法をいろいろと考えていかなければならないんですね。
自治体の方々と話していると、「この史跡が」「この文化が」「この祭りが」という言葉がよく出てきますが、今は「フォトジェニック」がキャッチ―です。インスタ映えするスポットが150ヶ所あります、といった打ち出し方をした方が集客できると思います。
ECだけではなく、そういった観光産業でも文化や考え方を変えなければならないところに来ています。
3:ECのインターフェースを変える
モール事業者が作って来たECの定義を変えるには、インターフェースから変える必要があります。今ある日本の次世代ECに関わるアーキテクチャは、この4つのカテゴリに分かれると思います。
- ライブ
- AIチャット
- VR/AR
- 動画
どれかを単体で導入して成果が出るということはほぼないと思います。この4つを組み合わせてどう使うか、という事業者側の企画力が試される時代になっていくでしょう。
4:VRインターフェース
昨年、エスキュービズムではVRコマース技術を発表しました。ただし、まだヘッドマウントディスプレイの品質が悪く、高品質なものは価格も高いために消費者にまだ浸透していない状況です。ちょうどスマホが出始めた頃と同じ感じかと思います。これから5~10年すると、みんなヘッドマウントディスプレイを持っているような状況になるのではないかと思いますが、ブラウザ上でどう店舗ロケーションを変えるか、ECのインターフェースを変えられるか、現在研究開発を行っているところです。
VRコマースはスマートフォン、タブレットPCがターゲットになりますが、PCはほとんど考えておらず、スマホを片手にどうやって楽しんでECサイトで買ってくれるかを考えてやっています。
(VRコマースに)期待するユーザー、期待しないユーザーとしては、
- 期待しないユーザー スペックや価格が勝負のユーザー、買うものが決まっていて検索軸だけ求めるユーザー
- 期待するユーザー 高付加価値を求めるユーザー、価格よりも自分の気に入ったものを買いたいユーザー、ネットでも買い物を楽しみたいユーザー
ここで、ファミリア元町中華街店様にご協力いただいて制作したVRコマースのデモ画面をご紹介します。
実際のお店を撮影、360度映像にし、お店にある商品をそのまま買えるようにしています。
商品をタップすると、そのままカートに入れて、購入することができます。
当然、これだけで売上が上がるというわけではありません。VRコマースに他の要素を掛け合わせていく必要があります。
たとえば、フロアを案内する仕組みをどうするか?という観点でも、デジタルで接客する店員を出すか、Amazon Barのように先にユーザーに対して質問をして「おすすめのフロアはここです」と移動させるなど、他のテクノロジーを組み合わせていくことで利便性を上げることができるでしょう。
VRコマースの場合、買い忘れたものをすぐに買えたり、ついで買いを促進することができるなどの、相乗効果があるのではないかと考えています。
VRコマースの課題
CGでVR店舗を作る場合は、実店舗をVR化するよりもさらにユーザーの買いやすさを追求する必要があります。こちらはオムニ7で実証実験を行った時のVR店舗(※1月10日(水)~2月6日(火)の期間限定店舗、クローズ済)です。
オムニ7やロフトなど、セブン&アイグループの商品が、店舗の枠を超えて同じ棚に並んでいます。
デジタルマーケティングの話になってきますが、この商品に行きつくにはどうしたらいいだろう?という誘導する案内がなかったことが課題といえます。
今後、この課題をどうすべきか第二フェーズ、第三フェーズを検討しています。Amazonでただ買うよりも、どうやってAIチャットやエンタメの要素を入れて楽しく買い物ができるのか、という視点で考えています。
VRがいいきっかけになって、今後新しい戦略が打てるのではと考えています。
VRコマースのコンテンツはスポットでもOK
VRのコンテンツをどう考えればいいかというと、レコメンドや新着アイテムのSKUを少なくして売上を上げたい、競合優位性を作りたい時の新しいプラットフォームとしてとらえていただきたいです。EC全体をVRで作り変えなくてもいいと思っています。今はレコメンド機能でおすすめされても、皆さん情報が入りすぎていて引っかからないことの方が多いのではないでしょうか。
以前は15%あったレコメンドからの売上が、今は4%ほどだといいます。新着ランキングも目新しさがないような状況で、そうした特集コーナーをVRコンテンツとしてスポットで作って誘導したり、使う側の企画力が試されていると思います。
マーケティングの企画力がある企業さんとはコンバージョン率の高い仕組みを作れそうだなと思います。
VRコマース×越境EC
VRコマースは越境ECの突破口にもなると思います。越境ECについては皆さん注目されていますが、法人取引の卸問屋様がショールームをVR化したいという問い合わせを多くいただいています。こういったプラットフォームとして使われることもあります。
越境ECで苦戦されている方は皆さん同じことをおっしゃると思います。
- 本物かどうかわからない
- ジャパンブランドが伝わらない
- 検索ができない
本物だと思われないというところでは、ある百貨店役員の方のお話ですが、「中国の方にコスメが人気で、レジにいつも100人くらい並ぶ。中国に帰ると、アリババに同じ商品を掲載しているのに、1割も買ってくれない」そうなんです。その百貨店のEC店舗であるという案内をしているのにも関わらずです。
アリババに出ている商品が本物かどうか疑って買ってくれないという人に対して、どうやったら本物だと知ってもらえるのか、と考えると、日本に来て買ったお店と同じロケーションがあり、ブランドがちゃんと伝わって、実店舗と同じような感動がある、という感情に訴えるしかないのではないかと思います。VRコマースであれば、その突破口になりうると考えられます。
5:動画インターフェース
今、一番ワクワクするインターフェースが「動画インターフェース」です。テレビやCM、移動中の駅や街頭のサイネージの動画を見て、「この商品いいな」と思うことがあると思います。ドラマを見ていて、俳優の着ていた服が欲しいとか、動画サイトで流れてきた商品CMが気になったとか、そういった訴求に対して動画インターフェースというのは有効なのではないでしょうか。
ECZineさんで、「EC利用者の4割超が「インスタやTwitter上に購入ボタンがあったら使いたい」(ジャストシステム調査)」という記事が公開されています。
「SNSに上がっている商品情報や動画からそのまま買えたらいい。購入ボタンを付けてほしい」という声が多いという調査結果です。動画からどうやって買わせるかということを考えていく必要があります。
動画コマースのアイデアに繋がるヒント
カインズさんがいち早く取り組んでいる事例を紹介します。「カインズHowto」といって、工具の使い方や収納のアイデアなどを動画にしてまとめて掲載しているサイトです。残念ながら、いまのところは動画から商品が買えるわけではないのですが、とても良いチャレンジだと思います。
こうした動画を使ったEコマースの仕掛けというのが重要になってくるでしょう。
新しいインターフェースとしての動画コマース
エスキュービズムは今、新しいインターフェースとして動画コマースをやろうと思っています。- CMをそのまま流して買ってもらう
- 店舗にインフルエンサーなどが訪問して動画コンテンツを制作する
- スライドショーを動画化する
動画コマースでは、動画上に表示されている商品アイコンをタップしてフリック移動するだけで、カートに入れられるようになっています。SNS上から購入出来たり、自社のECサイトに組み込んだりと、新しい購買方法を提案していく予定です。
動画から商品をカートに入れ、その後、カメラを立ち上げてクレジットカードをその場でスキャンすると買えるような仕組みを考えています。
こうした新着アイテムやお店の強みなどを訴求するコマース方法もあって良いのではないかと思います。
問われる企画力
実証実験をやろうと思っている企業さんでも、どんな動画のタイプがいいのか、非常に悩んでいます。どうやったら「映える」動画になるかという企画力が求められてくると思います。消費者に対して、どういうMDにしたら買う気になるか、企画会議もやっていますが、実際はやってみないと分からないところがあります。
動画コマース、VRコマースにおいて、どう接客をしていくかというのは重要なポイントになってきますので、AIのチャットボットやデジタル接客をどう組み合わせて、どうプロモーションをやっていくか、ということにかかってくるでしょう。
テレビ通販のような動画を作れば、売れるのかというと疑問があります。SNSだからこそ刺さる企画コンテンツがある、動画メディアだから刺さるコンテンツがあると考えられるからです。
Twitter、Facebook、LINE、instagram、自社ECなど、いろいろなところに組み込んで、そこから買えるようにする。VR系、AR系、動画系、どれも企業ごとの企画力が試されます。
どう企画してどう拡散して、どうお客さんに楽しんでもらうかにかかっています。
新しい顧客のエンゲージメントの形
最近のEC事業者はすぐ会員の囲い込みを始めますが、SNSでライトにものを買えるようになったら、三回目くらいに「会員になってもいいかな」と思わせるような、逆の発想で先にものを買わせるというところから始めるのもいいのではないかと思っています。最初はゲスト購入で、だんだんファンになって会員になるという、新しい顧客のエンゲージメントの形はこういったところから始まってもよいのではないでしょうか。
6:ライブコマース
ライブコマースに関しても、ようやくメルカリやLive SHOP!などいろいろ出てきました。ただ、ライブコマースというのは「その時間に、その場所(アプリ)に行かないと買えない」という制約があります。Eコマースではライブ感は必要なのか?ということが疑問に思っていることです。
有名人や憧れのインフルエンサーが案内していて、訴求がターゲットにマッチしているものであれば、売れる可能性があります。私はゴルフが好きなんですが、スピース選手や松山選手がしゃべりながら新しいゴルフボールのプロモーションをしていたら買うかもしれないですね。
ライブコマースはCtoCで威力を発揮するプラットフォームなのではないかと思います。
7:AIチャットでWEB接客
最後はAIチャットです。現在、AIチャットのシナリオのチューニングレベルはものすごく向上しています。下手な営業マンより、ロジックを組み込んだAIチャットの方が、勝手に営業してくれるので優秀かもしれません。ぜひ取り組んでいくべきだと思います。ある会社のチャットボットの例ですが、最初にお話しした「ECの定義」の中の「検索の概念」カテゴリーから検索する、キーワードから検索する、といった検索の概念を変えようとしています。
LINEなどのチャットをやりながら、いきなり商品が出てきて、そこから売上が立っている会社さんもあるそうです。
これも「検索」という新しい文化の概念だと思います。検索は、カテゴリーから調べなければならないと誰が決めたのか?モール事業者が編み出した技であって、専門店が真似する必要はないと考えます。
アプリのWEB接客事例
ナノユニバースさんのアプリですが、チャットをしていると商品が出てきて、また会話していると商品が表示されるような仕組みになっています。商品を多数並べなくても、会話の中でおすすめされた商品を買う、という新しい概念を持っているわけですね。
こういった新しい検索軸と、WEB接客という形もありだと思います。
もう一つ事例をあげますと、大阪の阪急百貨店では、百貨店の中の案内をAIチャットボットに代替させています。今後の予測としては、「レストラン街の蕎麦屋に行きたい」と入れると「蕎麦屋は20分待ちです、寿司屋はすぐに入れます」といった会話もできるようになると思います。
お店でも使えるAIチャットは非常に便利で、スーパーなどでも活用できるのではないかと思います。
ECでのAIチャット活用
EC業界はAIでもっとお客様を喜ばせることができるのではないかと思います。AIチャットコンシェルジュを自社のサービスに全部繋げてしまって、ECの質疑応答もできる回答もできる、メディアの情報提供、予約サービスも使える、ソーシャルコンテンツも連携している、店舗案内もしてくれる、そういった世界ができるのではないでしょうか。
単に自社アプリを作ってもつまらない、たとえばAIチャットを組み込んで、育児コンシェルのような立ち位置にしてしまって、子供を産む前や産んだ後など、常に回答してくれるアプリであれば顧客にとっても有益なものになるだろうという構想を話しています。
育児相談でコミュニケーションをしながら、最終的にECサイトにつなげていければいいなと思います。
8:まとめ
本日お話しした内容を、3つのポイントにまとめてみました。WEBサービスの流行りを集めて考慮する
WEBサービス、アプリについては皆さんよく知っています。しかし、なぜ流行っているのかロジカルに分析できている方はいらっしゃらない気がします。なぜメルカリがこんなに流行っているのか、他社サービスについて理解するということを考えた方がよいと思います。