データサイエンティストはいなくなる?変化する企業の需要に対応するスキルが必要
データサイエンティストは「21世紀で最もセクシーな職業」と称されたこともある、注目の仕事です。
デジタルが常に身の回りに存在するアフターデジタル、デジタルシフトの現代において、IT企業、小売業界、メーカーといったあらゆる場所で需要があるといわれています。
一方で、企業が求めるスキルは現実離れしていて、企業と人材のマッチングは難しいという声もあります。また、AIが高度に発達するとデータサイエンティストの役目を果たすようになるため、将来的には必要とされなくなる職業といわれることもあります。
実際はどうなのでしょうか?
本記事では、データサイエンティストの概要と主な業務内容について解説しています。さらに、AIが本当にデータサイエンティストにとって代わるのかという問題と、時代とともに変化しつつあるデータサイエンティストの求められるスキルについてもふれています。
【目次】
- データサイエンティストとは
- データサイエンティストが企業でおこなう主な業務
- データサイエンティストが使いこなすツール
- データサイエンティストに転向しやすい主な職業
- データサイエンティストを求める企業とは
- データサイエンティストの需要に変化が起きている
- まとめ
データサイエンティストとは
データサイエンティストは、AIの機械学習や統計学といった知識を用いて、膨大なビッグデータからビジネスの新しい視点や革新的な活路を見出すのが主な仕事です。
企業が収集した各データは、ともするとそれぞれに一貫性がなく、そのままではデータとして活かせないことがあります。それらをITスキルや統計解析といった技術で精査し、有益な構造に組み直すのがデータサイエンティストの役割です。
数学者的な知識とITスキル、トレンドスポッターの素養を複合的に持ち合わせており、これらを用いて企業に貢献をする人材がデータサイエンティストとして求められています。職業として認知され注目されたのはここ10年ほどとされており、比較的新しい仕事といえます。
社団法人も立ち上げられています。
・一般社団法人「データサイエンティスト協会」
https://www.datascientist.or.jp/
データサイエンティストが企業でおこなう主な業務
データサイエンティストの雇用には企業に所属しているスタイルと、フリーランス契約があります。
データサイエンティストの業務内容は企業の形態や業種によって多種多様ですが、データサイエンティストが担う主な役割をあえて挙げるなら、次のようになるでしょう。
統一されていないデータの収集とフォーマット化
企業が収集したデータや、活用すべきビッグデータを使いやすいフォーマットに変更する作業です。
統計情報の理解とデータに秩序を見出す作業
膨大なデータを統計学的見地から整理して、統計的な分布をまとめます。
また、バラバラに見えるデータをさまざまな手法で構造化し、秩序を見出す作業もデータサイエンティストの仕事です。
SASやR、Pythonなどプログラミング言語を用いる作業
小売やメーカーにおいても、データサイエンティストはプログラミング言語に習熟していることが求められます。データを扱うスキルだけでなく、ITスキルも必須といえるでしょう。
ビジネス課題に対し他部門と連携してデータ主導型の解決を試みる
データサイエンティストは孤立するのではなく、ITをはじめとした企業の各部門と連携の上、業務をおこなっていきます。その上で、企業が抱えるビジネス課題に対して、データ主導型の解決策を提示していくのが役割です。
データ分析の最新手法、トレンドの把握
データサイエンティストには、統計やAIの研究者的な一面もあります。AIを進化させる機械学習やディープラーニングは日々進化しており、最新の分析手法についても適宜知識をアップデートさせる必要があります。
データサイエンティストが使いこなすツール
データサイエンティストが用いるツールや技術には次のようなものがあります。
データ視覚化(データ・ビジュアライゼーション)
データ分析の結果やそこから構築した構造を他部門や上層部に分かりやすく示すためには、グラフィックや図表を用いてデータを視覚化する必要があります。
機械学習とディープラーニング
機械学習は、AIの数学的アルゴリズムと自動処理によるものです。ディープラーニングは機械学習から一歩深化したAIの学習方法で、複雑な抽象概念をモデル化するために研究されている領域です。
いずれも生データを企業に活かすために必要な知識や研究で、データの中からパターンを見つけ出す「パターン認識」もこれらと同様に扱われることがあります。
テキスト・アナリティクス
テキスト・アナリティクスは、非構造化データを調査し、ビジネス・インサイト(ビジネスにおける革新的な気づきや、その際に働く「知」)を見出す作業をさします。
データサイエンティストにビジネス・アナリスト的な側面があるといわれるのは、こうした作業をおこなうためでもあります。
AIがデータサイエンティストにとって代わるのは少し先の未来
このように、データサイエンティストがおこなう業務は多岐にわたっています。さまざまな知識が横断的に必要とされるため、この数年のうちにAIが完全にその業務内容を担うことは難しいと専門家はみています。
データサイエンティストに転向しやすい主な職業
データサイエンティストになるにあたっては、特定の資格や検定がありません。どれだけ幅広い領域で使える知識をもっているかということや、実務経験や現場での働きが重視されます。
そのため、新卒の就活生にとっては目指すハードルが高い職業だと思われている傾向にあります。すでに別の職業に就いていて、キャリアアップのためにデータサイエンティストを目指す人には、エンジニア、統計解析の研究者や学者、ビジネスアナリストなどが挙げられます。
エンジニアの場合は、システム開発やプログラミングに対する知識のほかに統計学やAIに関する機械学習周辺知識を学んで転職する必要があるでしょう。
統計解析の専門家からデータサイエンティストを目指す際には、プログラミング言語の習得が必要になります。統計学に関する知識が豊富な場合、分析基盤の構築ができるようになるとデータサイエンティストとして活動することができるでしょう。
ビジネスアナリストの場合は、統計学の知識とプログラミング言語と基礎から学び直す必要があるかもしれません。一方で、ビジネスの最前線で活躍してきた経験や実績をかわれる可能性も高く、即戦力のデータサイエンティストとして活動できるケースもあります。
いずれにしても、プログラミング言語に精通していて統計学にも明るく、ビジネスの現場実績も豊富という人材はめったにいません。そのため、多くの企業はより重視すべき項目を決めて、それに合った人材が集まるように求人募集を出し、雇用しています。
業界や部門によるデータサイエンティストの傾向は、次のようになっています。
IT系はプログラマー型データサイエンティスト
当然といえば当然ですが、IT系企業では統計解析ツールを活用できるプログラマー型のデータサイエンティストの求人が出ています。
また、IT系企業だけでなく大きな企業のIT部門でデータサイエンティストを雇用する場合も、同様の傾向がみられます。
事業部門の雇用はアナリスト有利?
事業部門では、ビジネスの現場レベルで活躍実績があるアナリスト型のデータサイエンティストが求められる傾向にあります。
とはいえ、事業部門に優秀なアナリストスタッフが揃っている場合には、ビッグデータから新たなビジネスモデルを構築できるようなアルゴリズムの専門家や、機械学習について知見のあるデータサイエンティストを求める場合もあります。
スタートアップ企業はアルゴリズムのスペシャリストが活躍
スタートアップ企業は、企業自体が新しいことや今までになかったサービスの普及に向けて動いているため、仮説モデルの構築ができるアルゴリズムのスペシャリストが求められる傾向が強いといえます。
データサイエンティストを求める企業とは
データサイエンティストが働きやすい職場、活躍しやすい企業を考えた場合は、大量のデータを日常的に扱っているという実務的な点以外に「データに価値を置いている企業かどうか」が焦点になります。
企業が膨大なデータを収集していたとしても、トップがその情報に価値を見出していなければデータサイエンティストは雇用されても充分な成果を上げることはできません。
また、出されたデータや仮説モデルが企業の大きな変化を促すものであっても、それを受け入れられる土壌が整っているかも重要です。企業体制によっては、データサイエンティストを雇用することが必ずしもプラスにならないこともあります。場合によってはデータサイエンティストを雇用する前に、企業体制そのものを変革する必要性に迫られるでしょう。
データサイエンティストの需要に変化が起きている
どのような職業も、時代の変化によって求められるスキルは変化していきます。
データサイエンティストは比較的新しい職業ではありますが、進化のスピードが早いデジタルに深く関わっているだけであって、すでに3番めのフェーズに突入しているといわれています。
CERN(欧州原子核研究機構)で量子物理学の研究をおこない、ドイツのインターネットサービス会社のデータサイエンティストを務めた経験のあるデータサイエンティストDominik Haitzによると、データサイエンスの歴史は次の3つの時代に区分されるといいます。
- ビッグデータとビジネスの関係が薄い2010年代以前
- ビッグデータの可能性に注目されはじめた2010年代
- AIとディープラーニングが流行している現在(2010年代末)
この時代区分によってデータサイエンティストに求められる役割や、重要度は変化しており、現在も必要とされる知識やニーズは変化し続けているといえるでしょう。
同氏が述べている現代のデータサイエンティストに必要なスキルは、次の4つです。
現代のデータサイエンティスト・スキル:ビジネスマインド
初期のデータサイエンティストの仕事は、ビッグデータを分かりやすく整理して、ビジネスの役に立つようなモデルを構築したり課題解決の糸口にしたりすることと考えられていました。
しかしが現在では、新しいビジネス的価値の創出を求められています。データサイエンティストの仕事が企業としての意思決定に大きな影響を及ぼすこと、企業に現実的な変化をもたらすことを、社会は期待しています。
そのため、データサイエンティストは起業家的な素質を有する人が向いているともいわれています。
現代のデータサイエンティスト・スキル:ソフトウェア工学の職人技
2010年代において、データサイエンティストに必要なスキルは、ビッグデータや企業が収集したさまざまなデータを操作したり抽出したりすることだと考えられていました。
つまり、膨大なデータを扱うことに長けていればデータサイエンティストの素養があるとされていたのです。しかし現在では、この考え方は否定されています。データサイエンティストも、ソフトウェア工学の技術を深く学び、総合開発環境の使い方やAPIの作り方などに習熟しているべきだと考えられています。
現代のデータサイエンティスト・スキル:統計学とアルゴリズムのツールボックス
統計学やアルゴリズムに対する理解は、以前からデータサイエンティストにとって必要なスキルとされてきました。
重要なのは、こうした概念や機械学習について知識を有しているだけでなく、それがともなうリスクに対しても理解し、クライアントに説明ができるということです。相関関係と因果の混同はしばしば企業にとって大きなリスクとなるため、これらに対して明確に解説できるスキルも求められるでしょう。
現代のデータサイエンティスト・スキル:ソフトスキル
ソフトスキルは、さまざまなスキルや特性、属性の組み合わせです。
- コミュニケーションスキル
- 人格特性
- 社会的知能および感情的知能指数
これらの組み合わせによって同僚たちと良好な関係を築き、業績を上げていくスキルをさします。
データサイエンティストは、数字やAIなどの機械を向き合う仕事と思われがちですが、他の部門と協力しておこなう業務も少なくありません。同僚とコミュニケーションをとって各部門がスムーズに連携のとれる体制を維持する、クライアントを理解して問題や目標をより明確なものにするよう努めるのも、現代のデータサイエンティストに求められるスキルです。
まとめ
データサイエンティストは、AIによってビッグデータの活用が容易になり、いずれいらなくなる職業だといわれることもあります。しかし実際には、AIが人のイマジネーションを超えるまでには長い年月が必要であり、AIが人間の仕事を奪ってしまうまでにはまだいくつものフェーズがあるだろうと考えられています。
今のところ、デジタルシフトの現代にあって、新たなビジネス的価値を創出できるのは人であるデータサイエンティストであり、企業に多大な貢献をする可能性がある職業といえるでしょう。