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「感染症」がEC運営に与える意外な影響とは

先日、WHO(世界保健機構)によって「COVID-19」という名称を定められた新型コロナウイルスは依然として世界で猛威をふるい続け、未だ収束の兆しが見えません。

人々の健康はもちろんのこと、企業の就業に制限がかかったり、感染拡大による世界経済の停滞を懸念し株価が下落するなど、その影響は想像以上に広範囲に渡ります。

一見、感染症とは無縁のように感じられるECも例外ではありません。本稿では、今回のような世界的な感染症が発生した際にECサイトが受ける影響について考察します。
目次:
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物流への影響がクリティカル

最もクリティカルな影響になり得るのは、EC運営の要とも言える物流が感染ルートに応じて強制的に制限されることがある、ということです。

現に、物流業界ではANAカーゴや近鉄エクスプレスが感染症発生源とされる都市と日本を結ぶ便や支店営業の停止を発表しています。また、同地域に拠点を持つその他の物流企業も何らかの措置を段階的に取るものと思われます。

仮に日本国内で、それも都内での感染拡大が認められた場合、物流の分断がECに及ぼす影響は甚大になることは想像に難くありません。

テクノロジー領域の開発スピードが加速する?

基本的にこのような感染症は一早く収束することが理想的であるわけですが、パンデミック級の感染拡大が長引いた場合、ある種の“怪我の功名”的な影響も出てくるでしょう。

例えば、今回の感染症では、更地から10日間という驚異的なスピードで開設された中国の病院が話題になりましたが、感染拡大の脅威によって、テクノロジー領域の開発スピードが同様に加速するということも十分に考えられます。

ウイルスによる感染拡大を防ぐためには、人と人との物理的な接触を極力なくすのが効果的とされています。つまり、日常生活のあらゆる場面において無人でのオペレーションを可能にするテクノロジー等が実用化されれば、それは感染拡大の防止に大きな効果をもたらすはずであると言えます。

それは、同じことがEC運営の現場でも当てはまります。特に、人と人との接触を避けることができる物流が実現できれば、今回のような緊急時においても、影響を受けることなく通常運転が可能になるかもしれません。

フルフィルメントの無人化

いまだに多くの人的リソースに頼るところが大きい倉庫内での作業を完全無人化することが可能であれば、非常事態の中でも業務に支障は出ないでしょう。

例えば、ユニクロやGUを展開しているファーストリテイリングが推進する「有明プロジェクト」では、物流の完全無人化を目指した改革に着手しています。

RFIDを用いて商品の位置と動きを追跡し、入庫、荷下ろし、検品、出庫指示、梱包用の箱作りから商品の入った箱の容積最適化、コンテナの後片付けまで、すでにピッキング以外の作業が全て自動化されており、2018年10月の時点で省人化率90%を実現していました。

唯一残っていたピッキング作業の無人化も、産業用ロボットのコントローラー製造業を展開する株式会社MUJINとの提携で間も無く実現される見込みと言われています。

ファーストリテイリングは独自にこのようなテクノロジーに対する投資を重ねて、短くはない歳月をかけて現在に至っているわけですが、仮に感染症によって国民の日常生活が脅かされている状況下で国からの要請などがあれば、その開発スピードが一段と加速する可能性は大いにあるでしょう。

無人配送(ドローン)

今回の新型コロナウイルス蔓延の危機的状況の中において、テラドローン株式会社(東京都渋谷区)が、感染拡大を防ぐべく、地方自治体や医療機関と連携し、「ドローンによる医療物資の輸送プロジェクト」を開始。医薬品や検査キットなどの医療物資を新昌郡人民病院から新昌郡疾病管理センターへの輸送を開始しています。

このプロジェクトでは、発送の際も受け取りの際も無人ステーションを利用するスタイルのため、輸送物と人間の接触を最低限に抑えることが可能であり、医療物資の二次汚染を防ぐのに効果的な輸送法となっています。

そしてもちろんドローンであれば渋滞を気にすることなく、同社によれば従来の陸送輸送と比較すると輸送効率が50%以上向上すると言います。

これらのメリットは、日用品や食料品を扱う宅配に置き換えてもそのまま活きるため、コンシューマーが直接関わる、宅配のラストワンマイルを担うドローン宅配便の早急な実用化が待たれるところでしょう。

例えば、ドローンを活用した配送などは世界各国で実証実験が行われており、日本国内でも2017年に楽天とローソン2社によるプロジェクトで、あるいは2018年には東京電力グループ・ゼンリン・楽天3社によるプロジェクトや日本郵便のプロジェクトで、ドローンによる宅配便の配送実験が成功しています。

現状のドローン宅配には安全性、受け取り時の本人確認方法やその精度など課題も多いと言われていますが、今回のような緊急事態が、これら実用化に必要なテクノロジーの進化を加速させる可能性は大いにあるでしょう。しかしながら、飛行できる地域の規制が緩和されない限りは普及には至りませんので、テクノロジー以外の部分でも、民間企業と国の連携が必要不可欠と言えそうです。

無人配送(自動運転)

2020年の初頭、トヨタがコネクテッドシティプロジェクト「Woven City(ウーブン・シティ)」を発表しましたが、このプロジェクトでは、街中を「eパレット」などの完全自動運転のモビリティが走行することが前提となっています。

もちろん、トヨタ以外でも、無人宅配については世界中で研究開発や実証実験が進められており、ドローン宅配と並んで実用化が目前に迫っている技術と言えます。

ドローン同様、実用化には様々な課題がある中で、自動運転による宅配の最大の壁は、「自動運転レベル4」、「運転自動化システムが全ての動的運転タスクおよび作動継続が困難な場合への応答を限定領域的に持続的に実行すること、作業継続が困難な場合でも利用者が介入の要求に応答することは期待されない」状態を達成することでしょう。

そして、その壁をブレークスルーする原動力が感染症拡大の脅威、というのはあり得ない話ではありません。


非常時にはECの利用率が上昇傾向

ここまでに挙げたような無人化のテクノロジーが実用化され、普及することが前提ではあるものの、生活者からすれば、非常時でも問題なく食料品や消費財を購入できるとすれば、不要不急の外出ができない期間のECの利用率は大幅に上昇するでしょう。

実際、現在の中国では、オンラインゲームと並んでECの業績が好調に推移しているというレポートもありますし、今回の新型コロナウイルスと何かと比較される2003年のSARS騒動の際には、SARSの存在が中国を最先端のオンライン大国というポジションへと押し上げた一因になったとする向きもあるのです。

参考:https://premium.toyokeizai.net/articles/-/21666

ECは社会的機能を担うインフラとなり得る

平常時は、あくまで購買チャネルの選択肢の一つ、というポジションのECですが、このような非常時においては、「人々の生活を平常に保つ」という社会的機能を担うインフラこそECである、と見ることもできます。

また、小売企業として、平常時からそれを正式に謳えるということは、企業としての価値やプレゼンスを大いに高めると思います。ひいてはブランディングに大きく寄与することにもなるでしょう。

そのためにも、流通小売企業は、最新のテクノロジーをいち早く実装し、さらなる利便性向上の実現を目指すことには大きな価値があると言えるのではないでしょうか。