「無人配送」が配送業界の課題を解決する?配送業者・大手ECサイトの取り組み
ECを運営していると、避けては通れないのが「配送」です。ヤマト運輸・佐川急便は2017年10~11月に個人向け料金を引き上げ、日本郵便も「ゆうパック」を平均12%値上げしました。
値上げは顧客側であるECにとって痛いものですが、需要の高まりに人員が追いつかず、現場で働く配送員にしわ寄せがいっているのもまた事実なのです。
そこで、運送業界の労働力不足の解消に期待されているのが、ロボットやドローン、自動車の自動運転など、現代テクノロジーを活用して無人で荷物を配送する「無人配送」です。
2019年2月には、運送業者ではない大手ECサイト楽天も無人配送の実現に向けての取り組みを発表しました。本記事では、各社の取り組みについて触れながら、これからの配送について考えていきましょう。
【目次】
配送業界が抱える人員不足の課題の解決策として、各社が無人配送の実用化への動きを加速化しています。
スマホを持つ人口が増えるにつれ、インターネット通販は世代を問わず当たり前のものとなりました。インターネット通販の利用者の増加に伴い、配送に対するニーズも年々増加しています。
少子高齢化社会が進むにつれ、運転免許を返納するなどして、自力で買いものに行けない「買いもの弱者」の問題も取りざたされています。高齢者世帯だけではなく、子育て世帯でもネットスーパーへの需要が高まっているといえるでしょう。
しかし、このような配送ニーズに対して、運送業者の人員は不足状態が継続中。国土交通省の調べによると、トラックの輸送能力の約6割は未使用。1回の配送で2時間弱の待機時間が発生しています。
燃油の価格上昇や最低賃金の値上げなど、高いコストも運送業界の苦しさに追い打ちをかけています。
また、共働きの増加に伴い、全体荷物の約2割は再配達が必要な状態に。労働力不足に加え、非効率さも運送業者が抱える課題です。
山間地域や離島など、限界集落と喚ばれるような地域や僻地への配送も課題のひとつ。特に、こうした地域に住んでいる世帯は高齢者世帯の割合が高くなり、周辺に店もなければ自力で買いものに出るのが困難な「買いもの弱者」であることも珍しくありません。配送がもっとも必要とされる地域のひとつでありながら、コスト面から満足いくサービスを提供できていない現状があるのではないでしょうか。
無人配送は、運送業界が抱える「労働力不足」「非効率性」といった課題を解決する一助となると期待されています。
この実証実験に先駆けて、ZMPは2017年10月8日から宅配ロボット「キャリロデリバリー」による実証実験を六本木ヒルズで行なっています。なお、「キャリロデリバリー」は日本初の自動走行宅配ロボットです。
日本郵便と行なった実証実験で使われたのは、宅配ロボット「CarriRo Deli(キャリロデリ)」。福島県双葉郡浪江町にある、ふたば自動車学校で実施されました。自動車学校が選択されたのは、実際の配送環境や道路環境に近いロケーションのためです。
日本郵便側は東北日立とも連携し、ゆうパックを配送する際の人の飛び出しや自動車・人とのすれ違いといった点を実験しています。
また、日本郵便は宅配ロボットだけではなく、ドローンの本格導入も目指しています。こちらは、2017年11月に長野県伊那市で実証実験が行なわれました。
ロボネコヤマトは、荷物の受取時間を利用者が10分刻みに指定できるサービスです。人工知能により、配送ルートは最適化されます。これまでにも何度か実証実験を繰り返してきましたが、それらはすべて人が同乗している状態での実験でした。
初の無人運転による実証実験の結果は、見事成功。時速10キロ程度で走行する自動運転車両が指定場所に停車し、無事荷物が利用者の手に渡りました。受け取り方は、ドアが開いたあと、スマホをかざして車内に設置されたロッカーを開ける仕組みです。
自動運転は、あらかじめ車載用パソコンに入力された地図情報に加え、車両に設置されたカメラが撮影したデータで障害物の有無を判断しています。ここに、さらに信号の情報も加えることで安全性を確保しています。信号情報は、携帯電話網を使って車両に送信する技術を用いています。これは日本初の技術であり、実証実験で初めて確かめられました。
信号機に専用無線機を取り付け、信号の色や点滅までの残り時間といった情報を車両に送信。情報を元に、自動運転システムが「進む」か「停止する」かを判断する仕組みです。
今回の実証実験で無人での配送には成功したものの、停車位置の確保や利用者が受け取りに来るまでの待ち時間の発生によるタイムロスなど、まだまだ課題はあります。今後も実用化が期待される取り組みです。
ここでは、Amazonと楽天の無人配送に対する取り組みについて紹介します。
ただ、今回紹介するAmazonの無人配送は、ドローンによる配送ではありません。2019年1月にAmazonが発表したのは、無人配達ロボット「Scout」です。「Scout」はパイロットプログラムとして、すでに実用化されているものなのだとか。
「Scout」が活躍するのは、荷物を利用者に直接届ける最後の行程、「ラストワンマイル」です。一定エリアにまで到達したあと、個々の利用者のところまで荷物を届ける行程は、運送業者にとって負担が大きいものであり、課題なのですね。
「Scout」は歩行者や自動車・ペットなどを認識し、利用者の元まで衝突せずに配送できます。まだ一般的な実用化にまでは至っておらず、まずは6台の「Scout」が月曜~金曜の日中にアメリカ・ワシントン州で配送しています。Scoutの配送風景も動画で見ることができますよ。
京東は、自国・中国ですでにドローンと無人走行車両を運用している実績を持っています。今回の提携で、これらを楽天が日本でも活用していくことになりました。
京東のドローンは、最大積載量が5キロ、最長飛行距離は16キロ、最大飛行時間は40分。これだけの馬力・飛行距離があれば、十分本格的な物流で活用できます。楽天は、離島や山間地域など、これまで配送にコストがかかっていた地域の配送にドローンによる無人配送を活用したいと考えています。
無人走行車両は、最大積載量50キロ、最大走行速度は時速15キロです。こうした技術が中国で発達しているのは、国土の広さが背景にあります。一定エリアまで配送したあと、利用者の自宅までの「ラストワンマイル」が課題だったのです。これは先ほど紹介した、Amazonの「Scout」が解消できるとされているものと同様の課題ですね。
一方、楽天も京東と提携するまで何も行なってこなかったわけではありません。これまで、楽天は独自にドローン配送の実証実験を行なってきました。2016年には千葉県のゴルフ場、2017年には福島県南相馬市でローソンと共同実験を行なっています。
日中の大手ECが提携することで、より一層無人配送の実用化の促進が期待できるでしょう。
カーシェアや配車サービスといった取り組みの他、取り上げられたのが無人配送です。国は、企業がこうした事業の実証実験を行なうための「パイロット地域」を全国に数ヶ所選定し、取り組みを支援する姿勢を示しました。この実験には、トヨタ自動車やソフトバンク、JR東日本など、30社あまりの会社が参加する見通しです。
施策のひとつに、ドローンによる荷物の配送や、再配達の削減が挙げられています。
現在、日本の国道では無人走行車両の運行は認められていません。また、ドローンの飛行にも規制がかけられており、住宅地では飛行が禁止されている場合がほとんどです。そのため、ご紹介した楽天の取り組みも、現在はまだ私道でのみ試されている段階なのです。
とはいえ、無人配送への需要は高まるばかり。機械の技術レベルの向上に伴い、将来的にはドローンが配送を担える日がくる可能性も決して低くはないでしょう。
今後、ますますEC市場のニーズは高まっていくでしょう。EC業界の需要が高まるほど、合わせて配送ニーズも高まります。無人配送技術が確立され、当たり前のように活用できる未来を作ることが、業界全体の課題だといえるのではないでしょうか。
値上げは顧客側であるECにとって痛いものですが、需要の高まりに人員が追いつかず、現場で働く配送員にしわ寄せがいっているのもまた事実なのです。
そこで、運送業界の労働力不足の解消に期待されているのが、ロボットやドローン、自動車の自動運転など、現代テクノロジーを活用して無人で荷物を配送する「無人配送」です。
2019年2月には、運送業者ではない大手ECサイト楽天も無人配送の実現に向けての取り組みを発表しました。本記事では、各社の取り組みについて触れながら、これからの配送について考えていきましょう。
【目次】
無人配送とは
無人配送とは、呼び名の通り運転手や配達員を不要とする配送方法を指します。配送方法は、ドローンやロボットの他、自動運転によるトラックなど、多種多様です。配送業界が抱える人員不足の課題の解決策として、各社が無人配送の実用化への動きを加速化しています。
無人配送のニーズが高まる背景
無人配送の実用化が急がれる背景には、運送業界の労働力不足と配送需要の高まりがあります。スマホを持つ人口が増えるにつれ、インターネット通販は世代を問わず当たり前のものとなりました。インターネット通販の利用者の増加に伴い、配送に対するニーズも年々増加しています。
少子高齢化社会が進むにつれ、運転免許を返納するなどして、自力で買いものに行けない「買いもの弱者」の問題も取りざたされています。高齢者世帯だけではなく、子育て世帯でもネットスーパーへの需要が高まっているといえるでしょう。
しかし、このような配送ニーズに対して、運送業者の人員は不足状態が継続中。国土交通省の調べによると、トラックの輸送能力の約6割は未使用。1回の配送で2時間弱の待機時間が発生しています。
燃油の価格上昇や最低賃金の値上げなど、高いコストも運送業界の苦しさに追い打ちをかけています。
また、共働きの増加に伴い、全体荷物の約2割は再配達が必要な状態に。労働力不足に加え、非効率さも運送業者が抱える課題です。
山間地域や離島など、限界集落と喚ばれるような地域や僻地への配送も課題のひとつ。特に、こうした地域に住んでいる世帯は高齢者世帯の割合が高くなり、周辺に店もなければ自力で買いものに出るのが困難な「買いもの弱者」であることも珍しくありません。配送がもっとも必要とされる地域のひとつでありながら、コスト面から満足いくサービスを提供できていない現状があるのではないでしょうか。
無人配送は、運送業界が抱える「労働力不足」「非効率性」といった課題を解決する一助となると期待されています。
配送業界各社の無人配送への取り組み
運送業者にとって、無人配送の実用化は自社の課題を解決するための重要事項です。テクノロジーの進歩に伴って、多くの会社が長年実証実験を行なっています。ここでは、各社が行なっている取り組みについて紹介します。【日本郵便&ZMP】ゆうパック無人配送の実証実験
ゆうパックを郵送している日本郵便とZMPは、2019年1月31日に無人配送の実証実験を実施しました。この実証実験に先駆けて、ZMPは2017年10月8日から宅配ロボット「キャリロデリバリー」による実証実験を六本木ヒルズで行なっています。なお、「キャリロデリバリー」は日本初の自動走行宅配ロボットです。
日本郵便と行なった実証実験で使われたのは、宅配ロボット「CarriRo Deli(キャリロデリ)」。福島県双葉郡浪江町にある、ふたば自動車学校で実施されました。自動車学校が選択されたのは、実際の配送環境や道路環境に近いロケーションのためです。
日本郵便側は東北日立とも連携し、ゆうパックを配送する際の人の飛び出しや自動車・人とのすれ違いといった点を実験しています。
また、日本郵便は宅配ロボットだけではなく、ドローンの本格導入も目指しています。こちらは、2017年11月に長野県伊那市で実証実験が行なわれました。
【ヤマト運輸&DeNA】ロボネコヤマトの「無人宅配」成功
ヤマト運輸は、DeNAと提携し、自動運転技術を搭載した宅配サービスの実験を2018年4月24日に神奈川県藤沢市で実施しました。プロジェクト名は「ロボネコヤマト」。ロボネコヤマトは、荷物の受取時間を利用者が10分刻みに指定できるサービスです。人工知能により、配送ルートは最適化されます。これまでにも何度か実証実験を繰り返してきましたが、それらはすべて人が同乗している状態での実験でした。
初の無人運転による実証実験の結果は、見事成功。時速10キロ程度で走行する自動運転車両が指定場所に停車し、無事荷物が利用者の手に渡りました。受け取り方は、ドアが開いたあと、スマホをかざして車内に設置されたロッカーを開ける仕組みです。
自動運転は、あらかじめ車載用パソコンに入力された地図情報に加え、車両に設置されたカメラが撮影したデータで障害物の有無を判断しています。ここに、さらに信号の情報も加えることで安全性を確保しています。信号情報は、携帯電話網を使って車両に送信する技術を用いています。これは日本初の技術であり、実証実験で初めて確かめられました。
信号機に専用無線機を取り付け、信号の色や点滅までの残り時間といった情報を車両に送信。情報を元に、自動運転システムが「進む」か「停止する」かを判断する仕組みです。
今回の実証実験で無人での配送には成功したものの、停車位置の確保や利用者が受け取りに来るまでの待ち時間の発生によるタイムロスなど、まだまだ課題はあります。今後も実用化が期待される取り組みです。
配送を多用するECサイトの動き
無人運転の実用化に力を入れているのは、運送業者だけではありません。配送がビジネスに直結しているECサイトも実用化に向けて動いています。自社で配送システムを構築できれば、コストカットにも繋げられるため、大手ECは自らが開発に乗り出しているのでしょう。ここでは、Amazonと楽天の無人配送に対する取り組みについて紹介します。
【Amazon】2019年1月に配達ロボット「Scout」を発表
Amazonによる無人配送と聞いて思い出すのは、ドローンによる配送ではないでしょうか。2016年12月7日に、イギリス・ケンブリッジシャー州で「Prime Air」が荷物を配達したのです。この様子は動画でも配信されたため、見覚えがある人もいるでしょう。空を飛ぶドローンが荷物を部屋まで届ける姿に、未来を感じた人も多いのではないでしょうか。ただ、今回紹介するAmazonの無人配送は、ドローンによる配送ではありません。2019年1月にAmazonが発表したのは、無人配達ロボット「Scout」です。「Scout」はパイロットプログラムとして、すでに実用化されているものなのだとか。
「Scout」が活躍するのは、荷物を利用者に直接届ける最後の行程、「ラストワンマイル」です。一定エリアにまで到達したあと、個々の利用者のところまで荷物を届ける行程は、運送業者にとって負担が大きいものであり、課題なのですね。
「Scout」は歩行者や自動車・ペットなどを認識し、利用者の元まで衝突せずに配送できます。まだ一般的な実用化にまでは至っておらず、まずは6台の「Scout」が月曜~金曜の日中にアメリカ・ワシントン州で配送しています。Scoutの配送風景も動画で見ることができますよ。
【楽天&中国EC大手・京東集団】ドローン配送提携
Amazonに続き、日本の大手ECである楽天は、中国の大手ECである京東集団と、ドローンと無人走行車両による無人配送に関する業務の提携を2019年2月21日に発表しました。京東は、自国・中国ですでにドローンと無人走行車両を運用している実績を持っています。今回の提携で、これらを楽天が日本でも活用していくことになりました。
京東のドローンは、最大積載量が5キロ、最長飛行距離は16キロ、最大飛行時間は40分。これだけの馬力・飛行距離があれば、十分本格的な物流で活用できます。楽天は、離島や山間地域など、これまで配送にコストがかかっていた地域の配送にドローンによる無人配送を活用したいと考えています。
無人走行車両は、最大積載量50キロ、最大走行速度は時速15キロです。こうした技術が中国で発達しているのは、国土の広さが背景にあります。一定エリアまで配送したあと、利用者の自宅までの「ラストワンマイル」が課題だったのです。これは先ほど紹介した、Amazonの「Scout」が解消できるとされているものと同様の課題ですね。
一方、楽天も京東と提携するまで何も行なってこなかったわけではありません。これまで、楽天は独自にドローン配送の実証実験を行なってきました。2016年には千葉県のゴルフ場、2017年には福島県南相馬市でローソンと共同実験を行なっています。
日中の大手ECが提携することで、より一層無人配送の実用化の促進が期待できるでしょう。
参考:https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2019/0221_04.html
無人配送に対する国の取り組み
無人配送の促進には、国も支援する姿勢を見せています。2019年4月8日には、経済産業省が自動車産業の課題を官民合同で話し合う会合を開きました。この会合には、ホンダやマツダといったトップ自動車メーカーが参加しています。カーシェアや配車サービスといった取り組みの他、取り上げられたのが無人配送です。国は、企業がこうした事業の実証実験を行なうための「パイロット地域」を全国に数ヶ所選定し、取り組みを支援する姿勢を示しました。この実験には、トヨタ自動車やソフトバンク、JR東日本など、30社あまりの会社が参加する見通しです。
2020年までに物流事業の労働生産性を2割程度向上させることが目標
国土交通省では、運送業界の労働力不足・非効率さを解消させ、労働生産性を将来的に全産業平均並にまで引き上げることを目指しています。短期的目標は、2020年までの2割向上です。施策のひとつに、ドローンによる荷物の配送や、再配達の削減が挙げられています。
ECにとって配送はビジネスの要のひとつ
ECにとって、商品をユーザーに届ける配送は切っても切り離せない要の部分です。自社で独自に無人配送の施策を行なうことは容易ではありませんが、運送業界や大手ECの流れにはアンテナを張っておきたいものですね。現在、日本の国道では無人走行車両の運行は認められていません。また、ドローンの飛行にも規制がかけられており、住宅地では飛行が禁止されている場合がほとんどです。そのため、ご紹介した楽天の取り組みも、現在はまだ私道でのみ試されている段階なのです。
とはいえ、無人配送への需要は高まるばかり。機械の技術レベルの向上に伴い、将来的にはドローンが配送を担える日がくる可能性も決して低くはないでしょう。
まとめ
運送業界が抱える課題は、業界だけのものではありません。配送を必要とするEC、ネット通販を利用するユーザーにとっても死活問題なのです。今後、ますますEC市場のニーズは高まっていくでしょう。EC業界の需要が高まるほど、合わせて配送ニーズも高まります。無人配送技術が確立され、当たり前のように活用できる未来を作ることが、業界全体の課題だといえるのではないでしょうか。