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ANA、東急不動産——大手が次々に仕掛ける「複合型サブスク」は、未来へ繋がるか?

ソフトウェアやデジタルコンテンツから、最近ではファッションや車、焼肉店——サービスの使用頻度が高いコンシューマーにとってはコストパフォーマンスがよく、事業を展開する側としては安定的な収益をもたらすサブスクリプションモデルは、近年、さらに広い事業領域で注目されるようになりました。

そして2020年、これまでは“サブスク化”することなど想像もできなかったサービス、例えば公共の交通機関や家、といったものにまでその波は広がりつつあります。

本稿では今年初頭に発表された、全日本空輸(以下ANA)および東急グループの「複合型サブスクリプション」の事例を取り上げつつ、サブスクリプションモデルの可能性について考察したいと思います。

目次:

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「航空券と家」の多拠点生活サブスク

2020年1月16日、ANAは、日本初の国内線航空券サブスクリプションの実証実験を開始すると発表しました。

最も大きな特徴は、この実証実験がANA単独でのサブスクリプションサービスを提供するわけではなく、住居のサブスクリプション「ADDress」を展開するスタートアップ企業、株式会社アドレスと手を組んで行われている、という点にあります。

「ADDress」は、それ自体が月額40,000円(税別)で日本全国にある家を自由に住み替えることができる「多拠点生活」のサブスクリプションサービスを提供しています。

今回ANAと株式会社アドレスが取り組むのは、多拠点生活に必要な住居と、そこへの移動手段としてのフライトを同時に提供する複合型サブスクリプションなのです。

ANAは、事業的な課題として、搭乗人数の少ないローカル路線をいかに維持するかということについて以前から解決方法を探っていた感があります。加えて、地方の過疎化という社会課題に対して「交流人口」を増やすというアプローチが取れる「多拠点生活」に目をつけ、株式会社アドレスに声をかけつつ、自社の課題と結びつけたプロジェクトとして、今回の複合型サブスクリプションを推進していると捉えることができます。

「ANA×ADDress」サービス詳細

次に、このサブスクリプションの中身を詳しく見ていきましょう。

複合型のうち、ANAの部分だけを切り取れば、サービス内容はいたってシンプルで、月額3万円(税込)で、羽田発着の国内線の指定便(羽田〜新千歳、鳥取、高松、徳島、熊本、大分、宮崎、福岡)を2往復まで利用可能という内容になっています。

ANA国内線の通常料金は、最も安い路線で羽田〜高松間の51,780円(往復)ですので、毎月1回、1往復利用するだけでも元が取れる計算になります。

使う人を選びすぎる

ただし、このサブスクリプションには様々な制約が存在します。

前述のように、このサービスは「ADDress」と手を組んだ複合型サブスクリプションであるため、ANAの国内線チケットをサブスクリプションで購入できるのは「ADDress」の加入者に限定されているのです。

「ADDress」は月額40,000円のサブスクリプションですから、ANA分と合わせて、サービス全体では月額70,000円のサブスクリプションであると言えます。これをコストパフォーマンスがいいと捉えられるか否かは、現実的に多拠点生活を送れるライフスタイルを持っているかどうかにかかっています。

「ADDress」は現在、毎月の利用日数上限が14日(同一の家に対する連続予約上限は7日間)となっているため、このサブスクリプションに対する70,000円に加えて、いわゆる「ホーム」となる拠点のランニングコストが必要となるわけです。

さらに、航空チケットを取る際も、各路線に対してANAのサブスクリプション指定便を利用しなければならず、指定されるのは比較的利用客の少ない便となっている模様です。

利用する際は出発の10日前以上に連絡が必要など、実証実験とはいえ、利便性には疑問符をつけざるを得ない内容と言えるでしょう。

もっとも、今回の実証実験における利用客の枠は50名となっており、おそらく枠は完売しているものと思われますし、今後、さらなるサービスの拡大と共に利便性が高まるのであれば、コスパそのものの魅力は大きいと思います。

日本初、「交通手段×生活サービス」サブスク

実は、ANAの発表と全く同日に、同じく「複合型サブスクリプション」の発表をしたのが、東急グループ(東急、東急電鉄、東急バス、東急レクリエーション、東急グルメフロント)です。

こちらは、同一グループ内の複数社による、電車・バス(+電動自転車)、映画(「109シネマズ」)、そして蕎麦(「しぶそば」)のサブスクリプションサービス「東急・東急バス サブスクパス」を打ち出しました。

「電車やバスなどの交通手段と、映画や食事などの生活サービスが一体となった定額制サービスは日本初の取り組み」(東急グループ リリース)であるとし、高齢化に伴い外出機会の減少が見込まれる中で、交通・不動産・生活サービス事業を展開する東急グループの総合力を活かして沿線価値を高めることを目的とした実験内容となっています。

ここから読み解く限りでは、ターゲットはあくまでも高齢者が中心となる想定であると考えていいでしょう。なぜなら、東急線や東急バスを通勤通学などで普段から利用しているコンシューマーは、ほとんどが定期券を所有しているはずだからです。

つまり、リタイア後、自宅に籠りがちな層へ向けてのサービス展開および実証実験であると捉えた方が自然なのです。

「東急線・東急バス サブスクパス」サービス詳細

「東急線・東急バス サブスクパス」のサービス内容は少し変則的なものとなっています。

まず、基本となる「電車・バス1ヶ月乗り放題」に、なんの生活サービスを組み合わせるかによって料金が変わってきます。

たとえば、「電車・バス+109シネマズ」であれば月額30,000円(1日あたり約1,000円)、「電車・バス+しぶそば」であれば月額25,000円(1日あたり約790円)といった具合です。「電車・バス+109シネマズ+しぶそば」の全部入りになると月額33,500円(1日あたり約1,120円)となります。

このサービスには専用の電動自転車と駐輪場が使い放題になるオプションもあり、「電車のみ+電動自転車」であれば月額18,000円(1日あたり約600円)から利用可能です。

https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20200115-1.pdf

利用希望者は、東急が運営する「SALUS ONLINE MARKET」で申し込むことができ、サブスク購入者には、自身が選択したサービスが印字されたパスが郵送されます。

デジタル時代のサービスとして、利便性には疑問符

「東急・東急バス サブスクパス」の利用法についても、ANAのサブスクリプション同様、ある程度制限があります。

たとえば、首都圏に全8館ある109シネマズのうち、サブスクが適用されるのは5館のみです。また、ネット予約には対応していません。また、「しぶそば」で頼めるメニューは「ざるそば」か「もりそば」に限定されており、1日1回しか利用できません。

そもそも、このサブスクリプションを利用するにあたり、「東急ベルID」に登録する必要があるという部分も、手軽に利用できることが生命線とも言えるこの手のサービスとしては利便性を阻害する要因に見えてしまいます。

東急としては、購入者のニーズや利用動向を調査すること自体が実証実験の目的であり、交通を軸にした様々なサービスとの連携を、デジタル基盤の上で実現していく、としていますが、アウトプットされたサービス自体、デジタルを100%活かしきれていない印象は拭えません。

サブスクリプションという手段の目的化?

今回事例として取り上げたANA+ADDressにしても、東急グループにしても、あくまでも実証実験という立ち位置でサービスを提供しているとしていますが、表で見える部分だけを眺める限り、決して誰にとっても魅力的で使い勝手がいいサービスに仕上がっているとは言えません。

実証実験である限り、たとえ表向きの見え方がコンシューマーにとって魅力的でなかったとしても、裏側で確固たる目的を持っていて、それを検証し、次に繋げられるのであればなんら問題はありません。したがって、今回の事例についても現段階で何かしらの判断を下すのは時期尚早なのかもしれません。

しかしながら、優れた新サービスは、ローンチした時から多くの人を魅了するワクワク感が醸し出されていたり、利便性についても改善ポイントはあれど、キラリと光るものがあるものです。

「サブスクリプションモデルがトレンドだから」「うまくいけば安定した収益をあげられるらしいから」というように、サービスを顧客視点でとことん煮詰めずに、手段が目的化してしまうと、次に繋がらないプロジェクトになってしまいがちなので気をつけたいところです。

さいごに

とはいえ、ANAや東急グループが示してくれたのは、サブスクリプションというモデルの可能性です。

両社のような強力な顧客基盤を持っている企業が中心となってサービスを構築すれば、衣食住、ライフスタイルのあらゆるものをサブスクリプションモデルにすることも夢ではないでしょう。

現在も携帯電話のキャリアが様々なサービスの窓口となって決済などを取りまとめているように、仮にスマートフォンがこのまま人々の行動起点となり続けるとするならば、衣食住のあらゆる事象を網羅する複合型サブスクリプションサービスをキャリア決済する、といった未来生活が待っているのかもしれませんね。

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