データ経営をどう実現する?DX時代のビジネスモデルについて
IoTやAIなど新しい技術が生まれたことで、世の中の情勢は大きく変わり始めています。さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今では経営の在り方さえ進化が求められるようになりました。
ビッグデータ時代となった今、もはや経営にもデータ分析が欠かせません。DXを進めるほどに、データドリブンな経営戦略が必要となります。
この記事では、これから求められる「データ経営」というビジネスモデルを始め、データの収集方法や活用方法についてご紹介します。
データから価値を創出するこれからのビジネスモデル
顧客のニーズや購買行動が多様化した現代では、データから価値を創出するビジネスモデルが必要です。
今までの経営戦略では、経営陣の勘や経験といった人的スキルに頼っている面が少なくありません。もちろん勘や経験も必要ですが、ITの発達で消費行動が複雑化している今では、顧客行動やニーズの変化の全てを人が感じることはもはや不可能です。属人的な経営戦略だけでは、確度が下がると言わざるを得ません。
今の市場で必要なサービス・新しい市場や分野といった情報は、データにナビゲーションしてもらう時代となりました。
今後優先される経営課題
新型コロナウイルスの感染拡大が進み、世界中がパンデミック状態となりました。世界経済にも打撃を与え、日本の経営課題も大きく変容しています。
グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート 2021によると、パンデミックによって生まれた経営課題は、以下の通りです。※
- 1位 変化への対応
- 2位 ビジネスプロセスの自動化
- 3位 データドリブンな経営
- 4位 オンラインとオフラインを融合した顧客体験
- 5位 ヒューマンセントリック経営
※グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート 2021より抜粋
https://www.fujitsu.com/jp/vision/insights/digital-transformation-survey-2021/index.html
レポートの結果から、企業に必要とされる経営課題の1位は「変化への対応」であると判明しました。新型コロナウイルスで世界中が混沌としており、経済への打撃は計り知れません。店舗の運営でも正解がわからず、自粛要請や時短営業で売上に伸び悩む企業も多いのではないでしょうか。
パンデミックのように誰も予測できない災害レベルのトラブルは、今後もいつ起こるか分かりません。企業が長く活躍するためには、環境の変化に対応できる柔軟性が重視されているのです。
データドリブンな経営が求められる
企業はどう環境の変化に対応すべきかと言うと、やはり「データドリブン」な戦略が必要となります。データドリブンとはデータ駆動ともいい、客観的なデータに基づいて判断する経営方法を指します。
かつて、経営では“KKD”が主流でした。勘(Kan)、経験(Keiken)、度胸(Dokyou)という属人的な3つのスキルを合わせ、過去の事例を参照しながらプロジェクトを進めていく方式は、製造業などで昔から行われています。
消費者も人ですから、ある程度経営手法の中に勘や経験も必要でしょう。しかしそれだけでは主観的になりやすく、より確度の高い戦略のためには“データ”という客観的な要素が不可欠なのです。
データドリブンな経営が必要とされる理由は、以下の2つの背景が挙げられます。
- ビッグデータ活用の実用化
- AIやIoTなど第4次産業革命の台頭
ITが進化したことで、消費者の環境も大きく変化しています。1人1台のスマートフォンが当たり前となり、SNSで個人が情報を発信できる時代になりました。今では企業がSNSに参入し、顧客とコミュニケーションを取る事例も少なくありません。スマートフォンやSNSで気軽に買い物ができ、消費行動も大きな変化を見せています。
消費者がオンラインで行動すれば、その行動履歴は全てデータとなります。例えば年齢や性別、メルマガ登録や購入履歴といったデータを分析すれば、顧客行動や潜在ニーズを探ることができます。またWebサイトの閲覧履歴やアクセスデータを始め膨大なデータが溢れており、それらをいかに活用できるかがデータ経営では大きなポイントとなるのです。
需要や市場の予測、顧客の潜在ニーズ、求められる商品やサービスなど、データの中にはあらゆる答えが隠されています。企業が定めるゴールへ到達するためには、ビッグデータを解析して現状を把握することが近道となるのです。
社内全体がデータを活用するワークマン
低価格かつ機能性の高いアパレルグッズを販売するワークマンは、データ経営の成功事例としても注目されています。
アウトドアやスポーツウェアメーカーは多くありますが、「普及価格」を実現する企業はなかなかありません。ワークマンはデータ経営も活用することで、4000億円といわれる「普及価格×機能性」の空白市場を切り開いたのです。※
※「しない経営」「データ経営」で4000億円の空白市場を切り開いたワークマンのマーケティング手法
https://netshop.impress.co.jp/node/8910
ワークマンは、現場(店舗)のデータを十分に活用する事で大きな成果を生み出しました。
ワークマンではスーパーバイザーが加盟店を巡回してデータを収集しています。そのデータを基に検証を行いながら、「今売れる」と判断したアイテムだけを店舗に陳列して常に最適化を図っているのです。
ワークマン全体では約5400もの商品がありますが、100坪の店舗に並ぶのは約1800アイテムのみ。データを基に、「今売れる商品」のみを陳列しているのです。
ワークマンでは、ある店舗で効果が出たら再度検証します。品ぞろえの効果があるか?気候区分やエリアが関係しているのか?と本部が因果関係を考えながら検証しており、必要があればマニュアルも書き換えます。常に現場のデータを分析することで変化に柔軟に対応し、業績を伸ばしているのです。
「デジタルマッスル」で変化に対応する
富士通は2021年2月に、世界9か国の中規模以上の企業を対象としたアンケートを行いました。その結果非IT専業企業の78%は「デジタルマッスル」が高く、パンデミックで大きな影響がありつつも効果的に対応できたことが分かっています。※
※ グローバル・デジタルトランスフォーメーション調査レポート 2021
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2021/08/20.html
デジタルマッスルとは富士通が定義した言葉で、アジャイル文化、エコシステム、人材エンパワーメント、ビジネスの融合を合わせたもので、DXを成功に導く組織能力であるとしています。富士通は調査結果から、変化に対応するためには「デジタルマッスル」が必要と明言しました。
DXでIT化を進めると、より多くのデータが資産として企業に流れ込みます。しかしそれらのデータを経営に活かせるかどうかは、このデジタルマッスルも大きく影響すると考えられています。
パンデミックのような大きな打撃を乗り越えるためには“ビジネスマッスル”を鍛え、ビジネスの基盤に柔軟性を持たせることが重要です。
データ経営のためにはデータ収集力が不可欠
データを経営に活かすためには、まずデータ収集が欠かせません。企業がデータを集めるためには、自社で収集する方法と外部のデータを活用するという2つの方法があります。
自社内のデータ収集も進化している
社内データといえば顧客情報や業績などがありますが、今では契約書や写真といった体系化されない社内情報までもデータとして収集する動きが起こっています。
例えば東京海上ホールディングス傘下のイーデザイン損害保険では、2021年6月に正式運用を始めた自動車保険の不正請求検知システムによって、不正請求リスクの検知率向上を実現しました。
不正請求リスクはAIを使ったシステムで、契約書の保険金額や契約時期だけではなく、事故時の天気や曜日、時間や場所といったデータをAIが読み込み不審な点がなかったかを分析します。実際に飲酒運転の隠蔽などを検知し、試験期間を含めると不正検知率は2割以上向上しています。
以前は担当者が聞き取り調査を行っていましたが10件/日程対応することもあり、不正を見過ごすリスクがありました。しかし収集するデータを増やすことでITに任せられる範囲が増え、より高い成果を出せるようになったのです。
そのほかデータを収集してファッションの流行を予測する動きなども起こっており、コロナ禍でデータ分析はますます進化していくでしょう。
データ収集やAIといった第4次産業ビジネスは新興企業の勢いが強く、社内のデータを収集するために新たなソリューションと手を組む企業が増えています。
外部データも活用する
激変する環境を分析するためには、外部データも欠かせません。企業は内部のデータ以外に、「オープンデータ」と呼ばれる外部データを活用する事も重要です。
すでにオープンデータを利用している企業は、市場調査・新事業検討・新製品やサービスの開発という目的でオープンデータを活用しています。新型コロナウイルス感染拡大で顧客のニーズや購買行動が大きく変化しているため、今後もオープンデータを活用する企業は増えていくでしょう。
ただ調査によるとオープンデータの活用について、「欲しいデータが見つからない」「データの形式が統一されておらず分析しにくい」「コスト面に懸念がある」といった課題があることもわかりました。
オープンデータはより多くのデータを収集できる点がメリットですが、データの前処理などある程度スキルが必要になります。内部と外部から広くデータを収集することは、データ経営において欠かせません。しかし集めたデータを活用するためには、やはりノウハウが必要となります。
DXでデータ経営を実現するために必要なこと
DXを進めデータ経営を実現するためには、戦略とスキルが必要です。「とにかく何でもデータを集めよう」という考えではなく、目的ありきのデータ収集が必要となります。
「そのデータで何ができる?」という想像力
データ収集では、まず目的が必要です。「CXを向上させるにはどんなデータが必要?」「顧客のニーズを知るためにはどんなデータが必要?」という想像力を持って進めなければ、膨大なデータを集めても成果を上げることはできません。
どのようなソリューションにしても、まず先立つものは「目的」です。ビッグデータの分析やAIはあくまでも手段であることを踏まえ、「DXで何をしたいか?」「今あるデータで何ができるか?」という事を考えなければいけません。DXにしてもデータ経営にしても、組織を改革するためにはビジョンが必要となるのです。
知識を持った経営人材の確保も必要
DXやデータ経営による経営ビジョンを策定するためには、DXと経営の知識を持った人材を経営陣に加える必要があります。DXのプロジェクトを進めるためには、具体的に以下のノウハウを持った人材の確保が重要と言われています。
- プログラミングを理解している
- ディープラーニングについて理解している
第4次産業や新型コロナウイルス感染拡大の影響で、日本でもIT活用が飛躍的に進んでいます。この変革期こそ、状況に合わせて変化する組織の柔軟性が求められます。不確定要素が多い時代だからこそ、データを活用して世間のトレンドや動向を把握することが求められているのです。
時代に合わせて柔軟に対応するためには、組織全体が柔軟性を持つ必要があります。データ経営を導入し、変わり続ける市場に対応する組織力が求められているのです。