Eビジネスを推進するORANGEシリーズ

EC-ORANGE
お役立ち資料ダウンロード ニュースレター登録

競り勝つ力を手に入れるアッパー・マーケティング:現場との違い

マーケティングが弱いとされてきた日本企業。これからは、現場レベルのマーケティング施策だけでなく、トップがおこなう「アッパー・マーケティング」の重要性が高まっていきます。
この記事では、
  • アッパー・マーケティングとロウアー・マーケティングの違い
  • ロウアー・マーケティングの基礎4P分析
  • アッパー・マーケティングの内的および外的活動
について解説し、経営とアッパー・マーケティングの関連についてまとめています。
目次:
■無料メルマガ:デジタルシフトのヒントが届く■

マーケティングにはレイヤー(層)がある

マーケティングは、手当たり次第あらゆる施策を講じればよいというわけではありません。どのようなターゲティングをおこなうか、またどのような媒体を使うかを慎重に見極める必要があります。
そして、マーケティングを展開する企業にもレイヤー(層)があり、上層部がおこなうマーケティングをアッパー・マーケティング、現場や実務といった下の層がおこなうマーケティングをロウアー・マーケティングとして区別しています。
一般的なマーケティングは、ほぼこのロウアー・マーケティングに該当します。

ロウアー・マーケティングは内的な活動である

まず、一般的なマーケティングであるロウアー・マーケティングについて基本の型をおさらいしておきましょう。
ロウアー・マーケティングは、組織内部で方針や施策を検討・決定できる活動です。そのため、大きくとらえると外部との調整や相談を必要としない内的な活動ということができるでしょう。
ロウアー・マーケティングにはさまざまな手法や戦略がありますが、基本的なデータ分析法として、ここでは「4P分析」を紹介します。

ロウアー・マーケティングの基本4P分析

4Pは、
  • プロダクト(Product:製品)
  • プライス(Price:価格)
  • プレイス(Place:流通)
  • プロモーション(Promotion:販売促進)
の頭文字をとったものです。この4Pはマーケティングにおける実行戦略、「マーケティングミックス」に関連するものとしてとらえられています。

■関連記事:店舗設計・運営に必要なマーケティングフレームワークは「4P」?「4C」?
Product
4P分析でいうところのProduct(製品)は、デザインやブランド名、パッケージや販売する際の保証なども含めて考えます。
製品によって顧客にどのようなメリットが提供できるか=顧客ニーズをどのような方法で満たすのかという戦略が、4P分析における「Product」の項目です。
Price
Price(金額)は、設定することによってターゲット層もおのずと決定してしまいます。
そのため、製品価値と照らし合わせてふさわしい価格かどうかや、顧客が購入してくれる価格かどうかをよく検討する必要があるでしょう。また、購買の可能性が見込める価格であると同時に、利益を上げられる設定にするよう気をつけなければなりません。
Place
Place(流通)は、製品をどのような場所で販売するか、どのような流通経路を利用するかという検討です。
大きく分けるならば、広く流通させるか狭く流通させるかという選択がまず検討されるでしょう。
流通を絞るならば、「ネットでしか買えない」というふれこみをして、インターネット上で受注販売のすべてを完結させるやり方や、地域限定、自社店舗のみで限定的に販売するようなやり方が考えられます。反対に、コンビニや量販店、百貨店といった店舗と契約し全国規模で広く流通させるやり方もあります。

いずれにしても流通経路は、Price(価格)の時点で想定したターゲット層に、的確に届けられることが求められます。
例えば、コンビニをよく利用する層をターゲットにするならばコンビニやスーパーなどを中心に流通を展開させるべきであり、百貨店を主な販路としてもそれほど売上は見込めないでしょう。4P分析はそれぞれの要素を独立させて考えるのではなく、4要素を複合的にとらえる必要もあるということです。
Promotion
Promotion(販売促進)では、広告やCM、メルマガ送付、イベント実施など、製品を顧客に認知させる方法の検討がおこなわれます。これについてもPriceやPlaceの検討と同様、効果的にターゲット層へ届ける方法を選択しなければなりません。
若年層をターゲットとした製品は、TVCMよりもSNSを通じたプロモーションが効果的なことが多く、インフルエンサーなどを通じて製品のよさをアピールするのもよくとられる手法です。

ロウアー・マーケティングは現場や社内で完結する

4P分析がマーケティングのすべてではありませんが、現場レベル、つまりロウアー・マーケティングでは、マーケティング担当部門がこれら4つの要素を複合的に分析し、製品を世にリリースするための方向性を決定します。
対外的な調整や、企業のあり方を大きく変革するようなマーケティングは、当然ながら実施されません。

アッパー・マーケティングは内外活動を兼ねる

日本企業は、元来マーケティングに対する意識が低いといわれてきました。製品開発や製造、営業といった部門と比較すると、マーケティング部門は軽んじられることが多く、それゆえに良質な製品を作っても想定するほど利益をあげることができない場面が多いとされています。
特に、海外の類似製品やサービスと比較した場合、製品の質に遜色はないのに競り負けるというケースがみられます。これは、マーケティングを軽視してきた日本企業のあり方そのものに原因があるという意見があります。

マーケティングが軽視されてきた理由には、営業とマーケティングが混同されてきた、あるいはモノづくりに注力してきた歴史があり、「売る努力」や「見せること」のノウハウが蓄積されなかったことなどが考えられます。

この問題を解決するには、内的にも外的にも活動することができる、高職位のマーケティング、つまりアッパー・マーケティングが必要になります。

アッパー・マーケティングの内的活動

アッパー・マーケティングの内的な活動は、しばしば経営戦略や内部人事と混同されます。しかし、アッパー・マーケティングにおける資源配分や人材育成は、あくまでマーケティング戦略に基づく動向であることに注意しなければなりません。
資源配分
企業における資源は、キャッシュだけではありません。事務所や工場、設備から人材まで、企業を構成している価値あるものは、すべて資源です。
これをそれぞれどのくらいの割合で配分し、事業を展開させていくのかを検討するのが経営における資源配分です。

一方、マーケティングに特化した資源配分は、マーケティング戦略においてどのように資源を活用するかが焦点になります。これは、社内全体や競合企業の動向など、多角的な視点を持ち得る高職位にしかできないマーケティング関連業務といえるでしょう。
組織構築
組織構築も、資源配分と同様マーケティング施策に関連したものとなります。
各部門から横断的に人員を招集してプロジェクトチームを構成したり、異業種との限定的な提携や協業を実施してマーケティングに活かすなど、高職位だからこそ実現可能な行動が求められます。
また、通常の人事異動や調整も、マーケティング施策を念頭に置いて配置されるのであれば、アッパー・マーケティングにおける組織構築とみなされるでしょう。
人材育成
人材育成も、先に挙げた項目と同様、マーケティングに焦点をあてた活動や取り組みをさします。
効果的なマーケティングのための大々的な研修の実施なども、広い意味ではアッパー・マーケティングとしての人材育成といえるかもしれません。

アッパー・マーケティングの外的活動

内的活動は、経営と同義にとらえられてきた項目が多い印象です。
では、外的な活動はどうでしょうか。外的なマーケティング活動は、社内だけで完結しない対外的なアクションをさします。
対象市場設定と複合化
対象市場の設定については、まずマーケターがおこなう手法のひとつ、STP戦略をおさえておきましょう。
STP戦略は効果的に市場開拓をおこなうための手法で、自社製品がどのようなターゲット層に価値を提供できるのかを分析するものです。
  • セグメンテーション(Segmentation:市場細分化)
  • ターゲティング(Targeting:ターゲット層抽出)
  • ポジショニング(Positioning:競争優位性の設定)
STP戦略の提唱者である米国の経営学者、フィリップ・コトラーは、上記3つを戦略のポイントとして挙げています。市場全体を相手取るのではなく、さまざな属性によって細分化し、狙い定めるべきターゲット層を抽出する、これがSTP戦略です。
抽出したターゲット層に対して、どのような優位性をアピールできるかという点が、ポジショニングになります。つまりターゲット層に対して競争優位性を設定します。

コトラーの掲げたSTP戦略は、ここから4P分析につなげることでより一層の成果を得られるとされています。
しかし、この戦略が登場してから現在にいたるまで、消費のあり方は大きく変化し続けています。
STP戦略や4P分析は、いまだ有効なマーケティング手法として通用しますが、これらだけでは競合に勝ち続ける持久力を獲得することはできないと考えられています。

こうした現場レベルのマーケティングとあわせて、アッパー・マーケティングとして市場の複合化をおこなっていく必要があります。具体的には、世界標準化や、各国に合わせた現地適合化のよい部分を併せ持つなどという展開やそれにともなう決定が挙げられます。
ブランドマネジメント
ブランドマネジメントは、昨今のブランドヒストリーを重視する志向を鑑みて、必ずアッパー・マーケティングとして実施すべき項目です。なぜなら、現場レベルのロウアー・マーケティングのみでは、思い切ったアクションや施策をうちにくい物事だから。トップだからこそできる舵取りを求められるのが、ブランドマネジメントです。
ブランドに対する共感を高め、製品のファンではなくブランドのファンになってもらうことが、ブランドマネジメントの基本といえます。
M&A
M&A(合併&買収)も、時にはアッパー・マーケティングのひとつとして機能します。
M&Aは、ブランドマネジメントとも密接な関連があり、合併によって相手企業のブランドイメージを共有する期待が高まる一方、買収したことでそれまで構築してきたブランドイメージが180度変わってしまうリスクもはらんでいます。いずれも、トップが経営とマーケティングを同一のレベルで考え、戦略を展開していく必要があるでしょう。

アッパー・マーケティングの好例「資生堂」

アッパー・マーケティングの成功例として話題にのぼるのが、魚谷雅彦氏が就任した後の資生堂です。
魚谷氏は、招聘を受けて複数の企業を経営者として渡り歩く、いわゆるプロ経営者で、2014年に資生堂社長に就任しました。
2013年度の資生堂は、営業利益260億円、赤字146億円。それが魚住氏の社長就任後、急速な業績回復を果たしました。魚住氏は、当初、2014〜2017年を資生堂の再構築期と位置づけていましたが、それよりも短期間でV字回復したかたちです。

マーケティングに特化した人材とブランド管理

2014年度以降、資生堂は6地域本社体制を構築しました。
国や地域の事業に対する知見がある人材を現地法人のトップに据え、ブランドマネジメントに関しても、国や地域の責任を重視するかたちに変革しました。

また、商品開発にのみ注力しがちだった社風から、顧客に商品の良さを伝えるのかを焦点にスライドさせています。
マーケティングのあるべき姿については、「サイエンス&アート」から「アート&サイエンス」に転向したとしています。
つまり、数値で管理するマーケティングを第一とする姿勢から、創造性や芸術的観点から思考するマーケティング戦略へと大きく舵をきったということです。
これにより、営業利益と売上高を大きく伸ばすことに成功しました。

まとめ

消費のあり方が変わるように、マーケティングも新たな局面を迎えています。
現場で調査や分析、実行できる施策だけでなく、企業全体が「マーケティング戦略」について意識を共有し、トップと現場がそれぞれできることを展開していく、それが製品のよさを顧客に広く周知できる方法なのではないでしょうか。