ライバル多数参入のEC市場で再確認しておきたい「自社ECならではの強み」
ECの市場規模は以前から18兆円を突破し堅調な伸長を見せていることに加え、コロナ禍の影響により、その利便性を多くの消費者が認知、あるいは再確認したことで、今後ますますその重要性が増しています。
しかし、これからのEC市場では、単にチャネルを持つだけでオートマチックに売上が伸びる訳ではありません。あらゆる規模のチャネルがひしめく中で、確実に顧客の目に留まり、継続的に利用してもらえるリピーターをいかに増やせるかがポイントになってきます。
そして、適切な投資を行える環境なのであれば、その手段の一つとして有効なのが自社ECなのです。
目次:
- EC市場は今後も伸長、競争が激化
- 「顧客ファン化」の要は自社EC
- EC上に「そこを訪れる理由」を生み出す
- 自社ECの構築はマーケティングそのもの
- 自社ECの方針策定に役立つ基本フレームワーク
- さいごに
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EC市場は今後も伸長、競争が激化
国内のEC市場は、この10年間着実に伸長を続け、2010年の約7.8兆円から2018年時点では約18兆円と、約2.3倍の規模となりました。伸長率で見ても、毎年概ね7〜10%の間で安定して推移しています。
そして、BtoCにおけるEC化率は2018年時点で6.22%となっており、このEC化率も、平均で毎年伸長率10%程度で順調に伸びている状態です。
マクロ的視点で見れば、少子化に喘ぐ日本では、今後市場が急激に拡大する可能性は低く、単純にEC化率がこのまま順調に伸びていくと考えれば、それは実店舗における売上の減少を意味している、ということになります。
ここ数年はD2Cが注目されていることも手伝い、これまで直販チャネルを持っていなかった大手企業が自社ECの開設を目論んだり、Shopifyに代表されるような、手軽かつ本格的に自社ECチャネルを構築できるプラットフォームの存在によって、多くのスタートアップ企業や個人事業主が続々と参入する土壌が出来上がっており、EC市場はさながら群雄割拠の戦国時代の様相を呈しています。
もちろん、これは単純に実店舗が必要なくなる、という未来を示唆している訳ではありません。むしろ実店舗の重要性は増していて、正確にこの事象を捉えるならば、「ECの存在はマスト、実店舗の売上は、ECチャネルもしっかりと整備されている企業がパイを多く取る」ということになるでしょう。
「顧客ファン化」の要は自社EC
新しく起ち上がったブランドがオンラインチャネルを確保する場合や、顧客の利便性に応える(いつも利用している、ポイントも貯まっている等)意味でAmazonや楽天市場などのECプラットフォーマーがいまだに重要な意味を持っていることに変わりはありません。
一方で、「便利だから」とか「安いから」といった即物的な理由を乗り越えて、ECでも実店舗でも自社の商品を繰り返し購入してくれるようなお客様を増やしていく、という点にフォーカスした場合、自社ECは無視できないチャネルだと言えます。
特に、ある程度の市場を掌握できる規模の企業であれば、魅力的な自社ECの有無が顧客ファン化の要であると言っても過言ではありません。
この時に留意しなくてはならないのが、自社ECが消費者にとって「魅力的である」ということです。たとえ既に多くの顧客を抱えている大手企業だとしても、ただ単に自前のECチャネルを開設しただけで自動的にECでの売上をあげられるという話にはならないのです。
EC上に「そこを訪れる理由」を生み出す
今時の実店舗のフラッグシップショップには、様々な魅力に溢れています。テクノロジーを駆使して今までにない便利な買い物体験を提供していたり、あるいは、ブランドの世界観が余すことなく表現された空間を作り上げて、たとえ買い物をしなかったとしても、そこを訪れること自体がエンターテインメントとして成立している店舗も数多くあります。
自社ECはいわばオンライン上の「フラッグシップショップ」です。したがって、自社ECの理想的なあるべき姿も、リアル店舗のフラッグシップショップと寸分違わず同じ、一言で表現すれば「そこを訪れる理由」がある、ということが重要なのです。
どのような「理由」を前面に出すべきかについては、大きく分けて二点あります。
一点目は、利便性です。使いやすいUI、なるべく少ないクリック数で決済が完了できるシンプルさ、クリックアンドコレクトなど、購入した商品がスムーズに手に入れられる物流の仕組み、購買すればするほど増えるインセンティブなど、他へ移ると得られない利便性が自社ECにあることは、それだけでそこを訪れる大きな理由となります。特に商品のスペック自体やストーリーでの差別化が難しい場合は、この利便性の有無が売上にも大きく影響すると言えます。
逆に言えば、既に多くのEC上で再現されている利便性については、すなわち多くの消費者が既に体験済みの可能性があるということです。つまり、その利便性がECに搭載されていないことは、そこを「訪れない理由」に直結してしまうリスクがある、ということなのです。
もう一点は、その企業やブランドでしか出せない世界観です。実店舗を少し覗いただけでは知ることができない商品の裏側にあるストーリーや、商品そのものだけでなく、そのブランドを形成するカルチャーにまつわる様々な情報が、そこにある、という状態をECで作るのです。それも、単なる情報としてではなく、上質な雑誌や人気のあるYouTuberが提供している動画のように、少し時間が開いた時、たとえ買い物をするつもりがなくてもそこをつい訪れてしまう、というコンテンツがあることが理想的です。そして、独自の世界観を作れる、ということこそが、ECプラットフォーマーでは決して生み出すことができない自社ECならではの強みになるのです(もちろん、利便性の面でも自社独自の利便性を生み出すことができれば、より“強い”自社ECを構築することができますし、そこに挑戦している企業も数多くあります)。
利便性と世界観、この両輪が揃って、初めて“オンライン上のフラッグシップショップ”足り得る自社ECとなるわけですが、その状態を生み出すためには想像以上に長い期間と労力、そしてコストがかかります。
実は、この部分の見積もりが甘い、もしくは予算はあっても、前述したポイントを抑えられず間違った投資の仕方をしてしまうことで成果が出ない、という状況に陥ってしまうパターンも少なくありません。前提として、自社ECとは、店舗運営と同等に綿密な「出店戦略」が必要であり、運営に手間暇がかかるものである、という意識のもと、適切な投資を行わなければならないのです。
自社ECの構築はマーケティングそのもの
実際、効果的な自社ECサイトを構築するためには、プロジェクトの上流から腰を据え、どのようなECサイトにするべきか明確なビジョンを定めた上で進めていく必要があります。
これからの時代において望まれる自社ECは、もはやEC単体で運用するものではなく、OMO(Online merges with Offline)を如何に実現していくかが特に重要になっており、その点に置いて実店舗との連携も含めて考えると、それはもはや自社の商品をどう販売していくか、という全てに関わってくる類のプロジェクトであり、それはすなわちマーケティングそのものである、と捉えられるべきです(ここで言うマーケティングとは、デジタルマーケティングを活用したプロモーションのことではありません、念の為)。
自社のビジネスの在り方を決めるマーケティングである以上、その意思決定には経営者による明確なディレクションが必要です。
そこには、ブラウザやスマートフォン上で確認できるECサイトの見た目だけでなく、商品そのものの在り方やプライシング、その商品のバックグラウンドにあるストーリーの見せ方、自社のお客様が真に求めている購買体験、実店舗との連携の仕方、物流で実現すべきことなど、決定すべきことはほとんど商品を売ることに関わる全てが含まれているのです。
今の時代、既にそのような意識を持たれている企業がほとんどだと思いますが、いまだにECサイトの構築は情報システム部門担当の仕事と見做して、工程のほとんどを一部門に任せきりになっているというケースが見受けられるのも事実です。
自社ECの方針策定に役立つフレームワーク
これは効果的な自社ECを構築する上では絶対に避けなければいけません。自社ECの在り方はもはや経営方針そのものと言っても過言ではありませんから、世の中にある様々な経営分析のフレームワークなどを駆使して、自社ECの明確なポジショニングを定め、社内外のプロジェクトメンバーにそのポジショニングを周知徹底するのはより経営に近いレイヤーが果たすべき役割と言えるでしょう。
参考までに、以下に一般的な経営分析の手法を記載しておきます。
SWOT分析
自社の強み(Strengt)、弱み(Weakness)、外部環境におけるポジティブな機会(Opportunity)と脅威(Threat)を洗い出し、客観的に把握するための、最も基本的な分析フレームワークです。
PEST分析
Poritics(政治)、Economics(経済)、Sciety(社会)、Technology(テクノロジー)に着目し、外部環境をさらに細かくブレイクダウンして分析するためのフレームワークです。
5Force分析
「売り手」「買い手」「新規参入者」「代替サービス」「競合他社」に着目し、外部環境をさらに細かくブレイクダウンして分析するためのフレームワークです。
クロスSWOT分析
SWOTを用いて導き出した分析結果をマトリクスに落とし込んで経営方針の策定に活用するためのフレームワークです。4象限それぞれのマス目を埋めることで、定めた市場において全方位的に具体的な方針を生み出す一助となります。
アマゾフの成長マトリクス
この4象限は、「市場」と「商品・サービス」をそれぞれ「既存」と「新規」に分けて、自社の事業がどのような戦略を取るのかを把握するためのものです。既存商品×既存市場なら「市場浸透戦略」、既存商品×新規市場なら「新市場開拓戦略」、新規商品×既存市場なら「新商品開拓戦略」、新規商品×新規市場なら「多角化戦略」と捉えることができます。構築しようとしている自社ECで扱うべき商品、狙いたいターゲット層を当てはめれば、構築しようとしている自社ECのポジショニングが可視化できるため、それを念頭に置きつつ、検討を進めることができるでしょう。
さいごに
これらはあくまでフレームワークであり、これを使うこと自体が目的ではありません。本質は、自社ECが確実にお客様を惹きつけるためのポジショニングを見つけ、必要に応じて事業の在り方にもメスを入れられる状況を作っておくことです。
そのためには、社内の関係部署を跨いで意思決定と舵取りができるポジションの方を事業責任者に据えるべきでしょう。