購買動機の分析で、ECのかご落ちを防止する

かご落ち率は、サイトが大きくなっていくに従って高くなります。
売上の2.7倍もの機会損失が生じているといわれており、かご落ち防止策はそのまま売上向上策へとつながることにもなります。
本記事では、かご落ちの原因となる「購買離脱理由」をデータから探っています。
その上で、購買離脱の大きな要因となっているECサイトの使いにくさを解消する重要性、実例について挙げました。
さらに、消費者がカートインする心理、つまり購買動機についてもチャネルごとに傾向をまとめています。
サイトで商品を購入する大きな動機となるのは「価格」でしたが、ライブコマースでは商品に関する「詳細な情報」が購入に至る決め手となる傾向にあります。
また、YouTubeをはじめとした動画広告は何度も見ることが、購入の後押しになることもデータから見えてきます。
さらに、SNSと実店舗の意外な関連についても、SNS運営、実店舗の接客パターン構築に役立つヒントがあります。
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かご落ち、購買離脱をどう防ぐか
ECサイトで商品をカートに入れたにも関わらず、最終的には購入しない「かご落ち」は、カート放棄、カート離脱、カート落ちともいいます。
日本だけでなく世界のEC事業者も頭を悩ませている問題で、英語ではOnline Shopping Cart Abandonmentと表現します。
かご落ちの原因は、主に「サイトが使いづらい」、「送料が高いと感じた」、「気が変わった」という3つが挙げられます。
2024年問題に端を発する輸送費の高騰により、価格面をネックと感じて購入を取りやめるのはある意味自然現象といえる側面もあるでしょう。
しかし、ECサイトのUXを改善することで、購入画面までスムーズに遷移してもらい、気が変わる前に決済へと誘導することは戦略次第で可能になるはずです。
使いにくさが離脱理由に
ECサイトを閲覧する時、ユーザーの約60%が、デザインされたページの方が購入意欲がわくというデータがあります。
少々意外かもしれませんが、この傾向は年代が上がるほど強まり、50代男性では約75%がサイトデザインの影響を受けるという結果も出ています。
また、女性は30代以降からデザインされたページの影響力が大きくなります。
これを裏づける調査結果として、ECサイトでの買い物を取りやめる=かご落ちした経験がある人は、「使いにくい」、「商品が分かりづらい」、「検索しても欲しいものが見つからない」といった理由で購入しなかったと回答したことも明らかになっています。
なお、購入をとりやめるその他の原因には、レビューへの不信感や、決済の煩雑さが挙げられています。
もっとも、決済の煩雑さはUX改善で解消できる可能性もあります。実際に、ログイン画面や通知の許可を求める画面をユーザー目線で修正したことで、ログインやサイト閲覧の利便性が向上した例は多く、ECサイトを適宜改修していくことのメリットは大きいでしょう。
利便性を担保したデザインの重要性と実例
実際にかご落ちを防ぎやすいデザインには、「簡潔さ」と「簡単さ」というキーワードがあります。
例えば、料金の表記は、税込・税別の表記を統一し、あらかじめ商品詳細ページに送料を掲載するなど、簡潔な表現が求められます。「購入時に支払う総額」を前もって記載しておくことで、送料が高くて購入しないといった追加料金発生によるかご落ちのリスクを軽減することができます。
さらに、ユーザーが入力する情報はできる限り簡単にすることも重要です。
例えば、Amazon Payなど、アカウントを作成していればパスワードのみで自動的に支払いができる決済方法の導入も、決済情報の入力を簡略化するアイデアの一つになります。
利便性を担保したデザインは、サイトの安定性や信頼度にも関わってきます。
動線が複雑なサイトは、ユーザーに不信感を抱かれるケースもあり、実際に複雑化したシステムは脆弱性をつかれてサイバー攻撃に遭うリスクもあります。

チャネルによって異なる「購買動機」
ECサイト、ライブコマース、動画、SNS、実店舗と、販売チャネルは多様化しています。
消費者が商品を見て購入に至る動機は、それぞれのチャネルによって異なるため、各チャネルに合わせたユーザー体験が必要です。
購入を決定づける判断軸が何かという傾向を知ることで、消費者が購入しやすい動線の構築が可能になるでしょう。
通常のECサイトは「価格」
ECサイト・ユーザーの多くは、価格の安さやクーポンやセールといった割引の有無を購買動機としています。
ゆえに、想定外に送料が高かったり、クーポンの対象外だったりすると、購買意欲をなくす=かご落ちが発生しやすくなります。
言い換えると、閲覧当初は購入する気があまりない場合でも、予想よりもお得な商品が見つかる、クーポンが発行されるといったことがきっかけになり、購入に至るケースもあるということです。
ライブコマースは「詳細な情報」
ライブコマースの視聴者は、詳細な情報を得ることが購入動機となります。
ライブコマースは、実際に商品を味わったり使用したりする様子を見ることができます。
リアルタイムで気になるところを質問できる上、ECサイトを経由しなくてもその場で購入可能という簡単さが、消費者に支持されています。
また、ライブ配信限定の特典が付与されるなどお得に商品を買えること、ライブ中にしか購入できない商品があることなども、購入を後押ししています。
ライブ中だけの特典をアピールすることも重要ですが、ECサイトに動画のアーカイブを掲載したり、ライブ中にECサイトで使えるクーポンを発行したりするのも、チャネルを横断して購買意欲を高められる良い施策です。
動画は「後押し」になる
動画は、商品の購入に至るための「後押し」として機能しています。
ある調査では、約36%の回答者が、YouTubeの動画広告を見てから商品購入に至った経験があると回答しています。
これは、興味のある商品の広告が、購買意欲の高まったタイミングで、何度も表示されると、特に大きな効果を発揮すると考えられています。
特定の人や物に何度も繰り返し接すると、その対象に良い印象を抱くという心理現象を、単純接触効果と言いますが、動画広告の場合は最適なタイミングを図ることで、この効果が大きくなると考えられます。
動画広告は、ライフスタイルの提案や、暮らしの利便性を高めるといったストーリー性を持たせた動画や、使用イメージを具体的に思い浮かべやすい動画が支持されやすい傾向です。
広告以外の動画活用では、ECの商品ページに着用動画や、組み立て・使用方法の解説動画を埋め込むという手法があります。
また、掃除道具やコスメは「ビフォーアフター」のような比較動画を掲載するのも、言葉以上の説得力を持つ商品説明になります。
SNSは「トレンド感と口コミ」
2020年頃には、SNSを見て情報収集を行うのは20代が最も多く、40代以降はサイト検索に重きを置いているというデータがみられました。
しかし、そこから5年が経過し、デジタルネイティブ世代が多くなったことから、SNSで情報収集を行う人の割合は格段に増加していると推測されます。
しかし、若年層には「自分に合わない商品を購入して失敗したくない」という意識もあります。
この傾向により、SNSはトレンドをチェックしながら自分に合った商品を探すツールとして活用されており、実際の購入は実店舗で商品を見てから決断するという流れが見えてきます。
実店舗とSNSの連携を強めるだけでなく、ECサイトにSNS投稿を埋め込んで、SNS、EC、実店舗という3点の強みを活かし合う施策も展開可能です。
実店舗では「実物に触れる」
SNSで事前に商品情報や口コミをチェックした消費者は、若年層ほど実際に店舗を訪れ、「自分に合う商品かどうか」を吟味する傾向にあります。そのため、実店舗では実際に商品に触れて試着する、使い心地を試すなど、「手にとって実物に触れる」という体験が重視されています。
購買離脱理由と購買動機の理解を
一般的に、かご落ちによる機会損失は売上の2.7倍にもなるといわれています。
ECサイトの規模が大きいほど、かご落ちのリスクは高まりますが、これは商品数が膨大になると決済に至るまでの画面遷移が多くなりやすいからと考えられます。
しかしサイトが大きくなっても、使いやすさを追求することでかご落ちをある程度防ぐことは可能です。
主な購買離脱理由である「商品説明が分かりにくい」、「送料が高かった」、「決済画面に辿り着くまでに興味がなくなった」というネガティブな感情は、商品選びから決済画面に至る動線をスムーズにすることで減少させられるからです。
ECサイトを始めて見るユーザーでも直感的に操作していけるようなデザインが、これからますます重要になってくるでしょう。
一方、サイト以外のチャネルでは、サイトを閲覧する消費者とは異なる購買動機が存在していることもおさえておくべきです。
ネット通販を利用することは、広い世代にとって当たり前になりましたが、「どのチャネルを好むか」という傾向は、まだ各世代によって差異があります。
それぞれの利用者が購買に至る「決め手」となるもの、あるいは購買するかしないかの「判断軸」にしているものを敏感にキャッチして、デザインやシステムに落とし込んでいく必要があります。
