サードパーティcookie廃止撤回:それでもプライバシーサンドボックスなど代替手段は備えるべき
Googleは、2024年7月にサードパーティーCookieの廃止を撤回するというコメントを発表しました。
サードパーティーCookieの段階的な廃止は、数年間にわたって延期を繰り返されてきましたが、一旦は「継続的に使用される」と考えてよさそうです。
廃止されないとなると、これまで必死に代替案を模索してきたのは無駄だったかと落胆する人もいるかもしれませんが、それには及びません。
Googleは引き続きサードパーティーCookieを使用しながらも、新たな技術も併用していくとしています。
新たな技術の概要はまだ公表されていないものもありますが、サードパーティーCookieやその代替技術とされたプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)にも課題がある以上は、さまざまな施策を検討してきたる発表に備えることが重要でしょう。
本稿では、これまでのサードパーティーCookieにまつわる動きを振り返るとともに、プライバシーサンドボックスの課題や、今後のオンラインによる広告出稿をどのような戦略で捉えていくべきかという問題についてまとめています。
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プライバシーサンドボックスとサードパーティーCookieの併用へ?
本メディアでも「サードパーティ Cookieはまもなく廃止される」という記事を書いてきましたが、Googleはこれを撤回しました。
今後は、サードパーティ Cookieと、その代替技術として提唱していたプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)を併用するとのことです。
そして、今後はユーザーの利便性とプライバシー保護を両立させる「新しいエクスペリエンス」を提供する用意があるとも発表しています。
サードパーティーCookieは廃止の方向性が打ち出された時から、その時期の延期が繰り返されてきました。
廃止を発表した当初から反対する声は大きく、プライバシーサンドボックスにも数々の課題が見つかるなど、すんなり代替技術に移行できなかったのが、延期の大きな要因と考えられます。
Googleはchromeの「サードパーティーCookie廃止」予定を撤回
Googleが、サードパーティーCookie廃止を初めて明言したのは、2019年〜2020年です。
当初は2022年にサードパーティーCookieを全廃するという予定が公表されていました。
それが2024年に延長され、さらに2024年の4月時点では「2024年中の廃止はない。2025年に完全廃止する。」とされてきました。
この度重なる延期は、「サードパーティーCookie廃止の計画撤回」によって終止符が打たれました。
プライバシーサンドボックスを実装
Googleは、サードパーティーCookie全廃を撤回した代わりに、プライバシーサンドボックスだけではない、新しい機能を導入するとしています。
プライバシーサンドボックスは、Googleによるプライバシー保護と広告の効率化を両立するための技術です。
プライバシーサンドボックスを実装すると、サードパーティCookieを削除した場合でも、広告の収益減少を最小限にとどめられるという報告もあります。
セキュリティ保護強化の方針は変わらず
そもそも、サードパーティーCookieの廃止は、ユーザーのプライバシー保護、セキュリティ保護を求める声が高まったことによって提案されたものです。
特に、欧米や中国では2019年頃からネット上のプライバシー保護の重要性を訴える声が強くなり始めており、これを受けてGoogleがとった対策の一つがサードパーティーCookieの廃止でした。
事実、W3C(World Wide Web Consortium:ウェブの標準化を目指す非営利の国際的団体)は廃止の撤回を受けてなお、改めて「サードパーティCookieは削除されるべき」という見解を発表しています。
サードパーティCookieは、ユーザーがどのようなサイトを訪問しているのかを追跡できる仕組みのため、有益なターゲット層に広告を出稿したい企業や広告事業者にとっては便利な仕組みです。
もともとサードパーティCookieは、今サイトを訪れているユーザーは、新規の訪問者なのか、あるいはリピーターなのかを判別するためのツールでした。
それが次第にログインやオンラインショッピングの買い物カートの中身保存、広告のターゲティングなどに活用されるようになって、現在に至っています。
買い物かごの中身が保存されるなど、ユーザーにとって利便性を感じられる機能もありますが、第三者が自分のオンライン行動履歴を把握できる状態は、プライバシーの侵害にあたるという懸念があります。
W3Cは、ウェブにおいて何よりも重視されるべきはプライバシーとセキュリティだと考えています。
もちろん、多くのユーザーも、利便性は確保しつつできることならばネットにおける自分のプライバシーを守りたいと考えているでしょう。
Googleはその点を理解しており、プライバシー上の懸念点をカバーできる技術を検討していると考えられます。
プライバシーサンドボックスにも課題
一方で、プライバシーサンドボックスもすべてを解決する万能の技術ではありません。
2024年2月〜5月に行われていたプライバシーサンドボックスの検証実験では、3つのAPIが正常に作動したことが確認されました。
作動したAPIは、リターゲティング配信に用いるProtected Audience API、興味類推ターゲティングに使用するTopics API、コンバージョン計測に用いるAttribution Reporting APIの3つです。
この実験では、広告表示にかかるレイテンシ(時間)が従来よりも長い傾向にあること、また、カテゴリごとに配信ボリュームが偏ってしまうことなどが確認されました。
さらに、コンバージョン数の少ない配信では、計測の誤差が大きいというデータもあります。
プライバシーサンドボックスを使って広告配信をするためには、ケースごとにこれら複数のAPIを使いこなす必要があり、これまでサードパーティCookieを活用して行ってきた広告配信の手法を変えざるを得ないケースもあります。
どのAPIを使って代替すると最も良い効果が得られるか、といった点については検証不可能なことも多く、ある程度はとライン&エラーを覚悟して刷新に動いていく必要がありそうです。
独占禁止法に抵触する可能性
Googleは過去にも、Facebook(現Meta)との不正な広告契約などが取り沙汰されていましたが、プライバシーサンドボックスもまた独禁法に抵触する恐れがあると指摘されています。
CMA(Certified Management Accountant:米国公認管理会計士)は、ICO(Information Commissioner’s Office:英国個人情報保護監督機関)と連携して、プライバシーサンドボックスがユーザーにとって有益であり、損害を与える存在にならないよう監視するとしています。
世界は、Googleが自社のエコシステム内でデータ共有を占有することで、オンライン上の競争において優位に立つことを懸念していますが、Google側も今まで以上の透明性を担保すると表明しています。
このあたりも、プライバシーサンドボックスや新たな技術の概要が今後明らかになっていく過程で注視していく必要があります。
共通IDやコンテキストマッチングの可能性
プライバシーサンドボックス以外の主な代替手段とされているのが、共通IDとコンテキストマッチングです。
共通IDには、確定ID方式と推定ID方式という2つの種類があります。
確定ID方式とは、広告主と媒体社がそれぞれ保持している保持しているファースト・パーティ・データ同士をマッチングさせる方式です。
推定ID方式は、ユーザーのIPアドレスやOS、ブラウザの種類といった複合的な要素からユーザーが同一人物であることを類推していく方式です。
推定ID方式は、確定ID方式より精度こそ落ちるものの、より多くのユーザーをターゲットにできるというメリットがあります。
言い換えると、確定ID方式は確実性の高い方法でありながら、多くのユーザーをターゲットにするのは難しい手法と言えます。
コンテキストマッチングは、日本語で文脈連動と言います。
これは、個人情報の取り扱いなどによってハードルが高くなりがちな共通IDの手法よりも、導入しやすい手法です。
サードパーティCookieは、個人のサイト訪問履歴などプライベートな情報を基にした手法でしたが、コンテキストマッチングはサイトのコンテンツ内容を基にした手法です。
コンテキストマッチングは、サイト内のコンテンツや文脈をAI(人工知能)が分析して、その枠を求める事業者に対してオークションするという仕組みが採用されています。
雑誌で例えると、ブライダル情報誌に式場の広告を載せたり、旅行雑誌にレンタカーや旅行代理店の広告を載せたりといったところで、いわば広告の原点回帰的な手法と言えるかもしれません。
広告業界、企業が対策を終えていない
広告業界は、こうした代替手段の中から最良なものを選ぶという取捨選択を迫られています。
最良なもの、とは最良の組み合わせを指すのかもしれません。
なぜならGoogleはサードパーティCookieを引き続き使用しながら、新しい技術を導入すると発表しているからです。
事実、外野からはプライバシーサンドボックスはまだサードパーティCookieと置き換えることはできないという声が聞かれます。
広告業界や企業は、この数年、「サードパーティCookieを近々に廃止する」という動きに追随するため、奔走してきました。延期が重なり、プライバシーボックスとの併用に着地した今、APIをどのように活用すべきか検討中の企業も多いでしょう。
いずれにしても未発表の部分があるため、どんな方向へ進んでいこうとも対応でいるような柔軟性を持つ必要がありそうです。
引き続き代替案を模索すべき状況
Safariは2017年に、Firefoxは2020年にサードパーティCookieを廃止しました。
Googleも、何年もの間サードパーティCookieの廃止を延期してきた背景があるため、今後「撤回を撤回」する可能性もゼロとは言い切れないかもしれません。
欧米では引き続きプライバシー保護を重視する傾向にあるので、法整備や世相の状況によっても方針が変わることは十分にあり得ます。
このような確定しない未来を前にした時は、引き続き代替案を模索し、さまざまな新しい手法を試すことが重要です。
比較的導入のハードルが低い手法から試すという施策も有効です。
いずれにせよ、サードパーティCookieのみに頼るのではなく、多角的な視点を持って広告とそれを取り巻く状況を注視していく必要があります。