残り202日!増税に向けて、小売店舗が備えておくべき3つのこと(2016年3月追記)
オリンピック招致に湧く日本ですが、そんな中でも「増税」の2文字を見ない日はありません。2012年8月22日に決定された改正消費税法により、消費税は5%から10%へ引き上げられることが決定しました。来月には、増税を予定通り実施するかどうか、最終的な判断がくだされる見込みです。
増税については、「自販機のジュースが130円になる」という価格の上昇や、「急いで冷蔵庫の買い替えをしておこう」という駆け込み需要など、買い手視点での話題が先行しますが、売り手の側でも価格の改定やシステム対応などが必要となります。
増税の是非は別の場所での議論に任せるとして、今回は来る増税に備えて、売り手、すなわち「店舗」側が考えるべきことをまとめてみたいと思います。
税率の変遷と、今回の増税
まず、これまでの消費税率の変化について整理してみます。
※筆者作成
消費税が導入されたのは1989年4月。当時の税率は3%で、国民から広く浅く税を徴収し、安定した税収を確保することが目的でした。
その8年後、地方消費税の導入と福祉制度の充実という名目で、3%から5%へ引き上げられます。
2004年には、いくら支払えばその商品を購入できるかを簡単に分かるようにすることを目的として、値札等への「総額表示」が義務付けられました。
このような変遷を経て、2014年4月に2度目の増税が行われます。
今回の増税では、景気への影響を鑑みて、段階的に2014年4月に8%へ、2014年10%への引き上げが予定されています。
1997年の3%⇒5%への増税時の対応
先述の通り、日本にとって初めての増税は、1997年の3%から5%への引き上げでした。
この時行われた対策に学ぶことができるはずですが、具体的にどういった対応が必要だったのでしょう。
当時のPCの普及率は30%弱、インターネットの普及率は20%にも届きません(※1)が、とある会計士事務所のホームページ(※2)に、事業者向けのアドバイスとして、下記ような内容が記載されていました。
★“レジスターの税率変更準備を早めに手配して下さい。”
レジスタの税率設定を変更するべく、業者への確認を促しています。「深夜営業をしているお店では平成9年4月1日午前0時に1度レジを締めて精算をおこない、精算が終わった時点で税率の変更をすると良いでしょう。」と精算の方法も案内しています。
★“税率アップに伴う価格転嫁をどうするか今から考えておく必要があります。”
価格改定について増税分を商品の販売価格に転嫁させるのかどうか、検討を促しています。
★“税率変更の店内表示も行うと良いでしょう。”
店舗内に消費税法の改正を伝える表示を薦めています。
このように、事業者は各種対応に迫られましたが、当然店舗規模や業種によって対応は異なります。もし当時の増税に対応した社員・スタッフがいる場合は、当時の対応について聞いておくべきでしょう。
店舗が備えておくべき3つのこと。
では、今回の増税に向け、店舗で備えておくべきことは何でしょうか。
1.価格の改定
当然ながら、税率が変わるということは、商品の販売価格も変わるということなので、前回の増税時と同様、各店舗で検討する必要があります。
仮に現在のままの価格を維持した場合、実質値下げをすることになります。
※筆者作成
増税分を価格に転嫁するかどうかは、店舗毎の判断に委ねられますが、1997年の移行時にも転嫁はなかなかできなかったと言います。日本商工会議所のアンケート結果によると、1997 年の増税時に増税分を価格に転嫁できたかという問いに、売上高 5 千万円以下の中小企業者の6割が転嫁できなかったと答えています。(※3)
転嫁ができないからと言って、商品価格を据え置けば、その分店舗の利益が減ってしまいます。商品によって、販売価格を上げても売れ行きにさほど影響が無いものと、そうでないものを見極め、商品毎に適切な価格設定を行わなければなりません。
2.値札などの表示価格の変更
税率・価格の変更に伴い、値札などの表示も変更が必要となります。
変更が必要な箇所として、下記が挙げられます。(※4)
※筆者作成
・値札
アパレル店など、商品それぞれに値札が付いている場合は、全ての商品の値札を変更する必要があります。もっとも作業量が多いと思われます。
・商品陳列棚
商品の並ぶ棚に価格を掲示している場合、商品数分の変更する必要があります。これも作業量としては多いと思われます。
・店内表示、ポスター、商品カタログ(メニュー)
店舗内に掲示しているポスターや、メニューも価格に合わせて変更が必要になるでしょう。特に飲食店に多いと思われます。
・商品のパッケージ
商品のパッケージ自体に価格が表示される商品は、メーカー側で対応が必要です。価格表示が変更される前の在庫も販売する必要があるので、対応策を考えましょう。
・新聞折込広告、チラシ、雑誌・テレビ・Webサイト・メール等の広告
広告やチラシの入稿データへも変更が必要です。また、前回の増税時と比べ、Webサイトの利用も増えているので、変更が必要な店舗も多いと思われます。
以上、変更が必要な箇所を挙げてみましたが、自社の店舗において、どの対応が必要なのか是非チェックしてみてください。
その上、今回は段階的に2度の引き上げが行われるので、これらの変更作業も2回実施しなくてはなりません。政府もこの負担を軽減するために、税抜での表示を許可する猶予期間を2017年3月まで設けていますが、あくまでも猶予ですのでいずれは変更することになります。
この作業を実施するにあたり、どれだけの作業が必要なのか。それを実施することが物理的に可能なのかどうか。早めに確認して損はないでしょう。
3.レジ税率の変更
店舗の心臓ともいえるレジは、税率の変更が必要です。先述した1997年の5%への税率変更の際に、大半のシステムは対応できる仕様に変更されており、この作業自体はそこまで難しいものではないと見られています。
とは言え、1997年の増税時と今回では異なる点があります。
①同一年度内での複数の税率が存在する。
1989年の3%の導入時も1997年の5%への増税時も、制度の開始は年度の頭である4月1日でしたが、今回は異なります。
直近の8%への増税は前回同様4月1日ですが、予定通り行けば、翌年の2015年10月1日には、税率は10%へ移行されます。この場合、2015年には8%と10%の2つの税率が存在することになります。
例えば、9月30日に購入した商品が10月1日に返品した場合、どうなるでしょうか。この場合、返品は8%の税率で計算します。このような対応が店舗のレジで可能でしょうか。特に小売店では頻繁にあることなので、必ず確認が必要です。
②店舗でのデジタル化が進行している。
税率はレジだけではなく、店舗の売上の管理に用いるシステム全てに影響します。1997年当時はレジスターしか使っていなかった店舗も、時代の流れにより、会計ソフト等の導入が進んでいると考えられます。この場合、システム毎に増税に対応できるのか確認が必要です。
特に、販売管理ソフト等は、自社用にスクラッチで作成したシステムだったり、中には親戚の子に作ってもらったAccessで管理してる店舗もあるくらいです。
日々の業務で利用しているシステムを見直し、対応が可能かどうか確認してみましょう。
③今後の税制の変化に柔軟に対応できる必要がある。
税制の変更は今後も行われていくと考えられます。今後は税率の変更だけでなく、特定の品目の税率を下げる等の可能性もあり、商品毎に税率を設定できるようにしておくと良いでしょう。
以上のように、店舗を取り巻く環境は、前回の増税時と変わっています。
レジだけでなく、その他に使っているシステムの対応可否も合わせて検討し、古いシステムの場合は、この機会に一新するという選択も考えられるでしょう。(※5)
まとめ
今回の増税にあたり、店舗で考えることをまとめてみましたがいかがでしたでしょうか。
もう一度、最低限、考えておくべきことを整理しておきましょう。
1.価格の改定を行うか否か。
2.価格表示の変更をどう実施するか。
3.これからの税制にシステムが対応できるか。
来るべき4月1日に向け何をすべきか、どう対応するか、一度考えておいて損はないはずです。
参考:
2016年4月から「軽減税率対策補助金」の申請ができるようになります(2016年3月追記)
2017年4月に予定されている軽減税率の導入。POSレジの新規導入や、システムの改修などに対応が必要となります。その経費の一部を補助するための補助金制度が発表されています。
消費税軽減税率制度(複数税率)への対応が必要となる中小企業・小規模事業者の方々が、複数税率対応レジの導入や、受発注システムの改修などを行うにあたって、その経費の一部を補助する制度です。
本記事の内容と合わせて、再度ご確認のうえ、複数税率の時代に備えましょう!