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小売店に軽減税率対応は必要なのか

2019年10月を予定する税率10%への消費税増税。
消費者としては増税に伴う負担増加が非常に気になりますが、ビジネスの場面では軽減税率が今後大きな課題となってきます。

現在、軽減税率の導入で酒と外食を除く飲食料品は税率8%に据え置かれることになっています。この結果、取り扱う販売品目によっては一つのお店であるにも関わらず、税率が2つになり、一律の税率のみを想定した既存のレジでは対応できなくなります。
そのため、レジの改修や買い替えなどが必要になり、その経費の一部を補助する制度も発表になっています。

消費税軽減税率制度(複数税率)への対応が必要となる中小企業・小規模事業者の方々が、複数税率対応レジの導入や、受発注システムの改修などを行うにあたって、その経費の一部を補助する制度です。
引用元 中小企業庁 軽減税率対策補助金とは
http://kzt-hojo.jp/

現時点での法案では消費税の軽減税率の対象品目は「酒類」と「外食」を除いた飲食料品のほか、定期購読の契約をした週2回以上発行される新聞とすることが盛り込まれています。しかし、この議論が非常に紛糾したという経緯もあり、果たしてどのように実施されるのか、さらにはこの税率変更に関わる話が果たしてここで終わりとなるのかなど、まだまだ不透明であるのが実情です。

今後税制度に変更が加えられ、対象品目が増える場合も考えられます。つまり、飲食料品を取り扱っていない小売店の事業者も決して他人事ではないということです。

今回の税制制度改革で、軽減税率が規定のものとなれば、対象商品を広げるだけで軽減税率に対応すべき企業数は大幅に増加します。今は対岸の火事とみている小売店でも、いつ自分たちがその対応をすることになるのかが分かりません。

そこで今回は、海外の事例などを参考に、どのようなケースが考えられるのか、いくつかの可能性を見ていきたいと思います。

1. はじめに

軽減税率制度が考えられたそもそものきっかけと意図を再度確認してみましょう。
「軽減説率 目的」で検索した所、検索順位1位にあった、NHKの記事で書かれていることがそのまま目的であると私も考えています。

消費税は所得の多い少ないにかかわらず、買い物などの際にすべての人が同じ税額を負担する税です。ただ、この場合、所得の低い人ほど、支出に占める食料品など生活必需品の割合が高くなり、税負担が重くなる逆進性が課題となっています。
http://www3.nhk.or.jp/news/keigenzeiritsu/article01.html
NHK NEWS WEB「どうなる?軽減税率 基本がわかる7のカード」

軽減税率は、この記事でも書かれている通り消費税の「逆進性」の解決を目的としたもの。
そもそも議論の範囲が「食料品」と「新聞」のみに限定されていること自体が本来のあるべき姿ともかけ離れているとも言えますが、消費税が持つ特性――一見すると公平なようで,、実際には不公平な「逆進性」の解決の一助となるのであれば、その試みは評価できるとも言えます。

「逆進性」とは何か?

さて、解決すべき消費税の特性「逆進性」とはどのようなものでしょうか。

仮に低所得の代表者として「小学生の子供」を定義し、その収入(=お小遣い)の100%をお菓子を買うことに費やすとします。すると、食料品の購買率が100%の為、支払う消費税は軽減税率が適応された8%で固定となります。

比較対象の高所得者として、「アルバイトをしている高校生」を定義します。高校生は、お菓子だけではなく、携帯の通信費を支払い、文房具を買い、服を買いました。そうすると、支払った消費税率は8%ではなく、8%~10%のどこかの数字に落ち着くはずです。

つまり、所得に対する「食料品」の購入割合が高い人の方が、税率的に得をするように出来ている制度が軽減税率であると言えます。
しかし、その範囲は果たして本当に食料品だけで良いのでしょうか?

2.「基本的人権の尊重」を意識した税制に

軽減税率を先んじて開発し、運用してきた海外では、既に次の領域に足を踏み出しており、その結果様々な施策が定められているといえます。
日本でも、「逆進性の解決」以外の角度から、別の視点を持つことが必要です。

それは、日本国憲法に定められている基本的人権の尊重。
少し話しが大きくなったな、とお感じになられるかもしれませんが、これが一つの答えを持っていると考えられます。

【第25条 すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する】
中学の社会の授業等でも登場する非常に有名かつ重要な条文ですが、こと軽減税率を考える上では、この条文を意識するべきだと思います。

すなわち、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に含まれるのは「食料品だけなのか?」という事です。

書籍 雑誌

上記にもあるように、「新聞」は定期購読のものであれば、すでに軽減税率の対象として決まっています。
国会の審議のなかでは書籍、雑誌も候補に入っていました。今回、雑誌が対象とならなかった背景としては「有害な図書を除外する仕組みが不十分」であったことが挙げられます。成年向けの図書を軽減税率の対象から外す仕組みがなかったということです。
この件については現在も審議が続いており、憲法25条で定義されている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に対して「食料品」と同程度であるかどうかは疑わしく、今後様々な動きがあり得ると考えています。

欧州など、消費税や付加価値税の先進国ではほとんどの国で書籍、雑誌は軽減税率の対商品となっていることから、日本でも書籍、雑誌が対象となる日はそう遠くないのではないのでしょうか(その一方で「図書館があるではないか」という議論ももちろんあります)。

憲法では学ぶ権利も定義されていますので、ドイツなどでは書籍等と同様に文房具も軽減税率の対象です。
書籍、雑誌、そして文房具。これらを販売品目として取り扱っている小売店は少なくないかと思います。

現在議論されている「書籍・雑誌」が軽減税率の対象になったら、次に対象品目が拡大される領域は「教育」かもしれません。

インフラ基盤

海外ではやはり、電気、水道、ガス、交通運賃など交通インフラの費用は、軽減税率の対象となっている国が多いのが実情です。
これは、生活基盤として必須のものであり、基本的人権を保障する上でも移動の自由は重要な項目ですので、公共の福祉という観点からも基盤インフラ費用は軽減税率の対象となっている国が多いのです。

2. 政策の一部としての運用

軽減税率は上記の様な基本的人権の尊重や逆進性の解消という目的の他に、特定の産業等に対する扶助の機能も持つケースが海外では多くあります。関税の逆パターンの様なイメージですね。

税率を上げることで国内産業を保護するのと同様に、消費税率を下げることで、特定の産業の購買促進、または産業振興自体、あるいはその産業自体が属する経済活動範囲の全てを盛り上げよう、とするものです。

少子化対策

イギリスでは子供服は非課税です。
他にも欧州各国では出産や教育、学費の面で手厚い保護を受けることができます。
日本でも最近、保育園の入園許可が下りなかった母親が書いたというブログが話題となりましたが、問題となっている少子化対策に軽減税率の矛先が向かう可能性は大いにあるのではないのでしょうか。

軽減税率制度が適用され、一回の購買行動の中で複数の税率が存在することに慣れて一定以上の理解が生まれ、環境も立ち上がります。この結果、従来は取り組むことの難しかった、特定業界または特定経済活動の税率低減等に、非常に取り組みやすい仕組みができていくでしょう。
今の所、日本は税金の加算を行う国ですので、特定産業の振興のため、特に少子化対策に関わる企業には軽減税率は有効と考えられます。

国内産業保護

政策の一部として、国内産業の保護や国内産業の成長のために軽減税率が利用されるというケースもあります。
フランスなどでは、嗜好品とイメージの強い世界三大珍味にも課税方法が異なっています。輸入しているキャビアは標準税率、国産のフォアグラやトリュフは軽減税率が適用されています。
また、イギリスでは日常的な食べ物とされるビスケットやケーキには軽減税率が適用され、0%の税率が適用されているのに、それ以外の菓子類に関しては標準税率20%が適用されます。お国柄が反映されているのがよくわかる例です。

3. まとめ

軽減税率の良し悪しや、現状の政策および税制度についてはまだまだ議論の余地があるかと思います。
本稿では今後小売店や企業が直面するかもしれない可能性や、欧州諸国などの考え方をご紹介しました。国内外の取り組みと、そもそも軽減税率のあるべき姿にも踏み込んで、これから先のミライを考えてみてはいかがでしょうか。