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オムニチャネル式小売販売の実施に伴う組織上の問題点を考える

はじめに、今回の記事には事業マネジメント・コンサルタントとしての個人的なうんちくが沢山織り込まれているかもしれませんが、その点はご容赦ください。

先頃、Eコマース関連のソフトウェアを専門とするHybris、ならびに経営コンサルタント専門のAccentureの両社からの依頼でForrester社が実施したコンサルティングのレポートが発表されましたが、これをスチュアート・ロークラン氏が分析した中で小売業者がオムニチャネル化販売を進めていく上で直面する問題点が明らかになっています。

テクノロジーは様々な場面で重要な役割を担うものですが、あくまで人間の手助けとして機能するものに過ぎないというのは周知の事実です。そしてこのレポート内では組織上で直面する問題点が次のように挙げられています。

オンライン・実店舗間での連携が上手く取れないでいると、せっかくのオムニチャネルも効果的に機能しません。つまり、オムニチャネル化の成功にはマーケティング主任、オムニチャネルEコマース責任者、セールス部長、供給チェーン責任者などといった関係各部署の責任者間での業務連携が不可欠となってくるのです。


実際のところ、我々が独自にアンケートを行った小売業者のうち46%はオムニチャネル専用の部署を設置しているものの、34%が基本的な機能連携の問題や各チャネルでの優先順位の相違などによってスムースで効果的な運用がいまだに実現されていないと答えています。

実際のところ、チャネル間をまたいだ販売ケース(例:オンラインで購入して店舗で商品引渡し)においては、チャネル間の収益状況よりも全体としてのカスタマーサービスの充実に力を注いでいるため、どのチャネルを通して売り上げに結びついたかという点は重要ではないと答えた小売業者はわずか16%にとどまっています。(Forrester統計を参照)

一方で、収益源としてチャネル間の連携の効果を挙げたケースは16%であるのに対し、31%はオンラインのみ、そして21%が実店舗のみであると答えている点にも着目しておきたいものです。

結局は、実際にオンライン・実店舗・モバイルチャネル間の連携の不備を完全に改善し、チャネルを越えた販売に関して組織構成によって統一した収益管理を実践しているケースはまだまだ少ないと言えます。

残念ながら、この統計に関するシナリオにおいて各部署の責任者が明確に示されているとは言い難く、例えば「店舗マネージャー」がどこに当てはまるのかということすらはっきりしないばかりか、最近急増する購入者が直接倉庫で商品の引取りを行うケースや、購買グループの存在などへの対応もはっきりとしていません。

データそのものに関してもその意義がはっきりせず、全ての売り上げ管理を一極化することとオムニチャネルにおける問題点を解決することとは全く関係のないことで、さらにここではカスタマーサービス全てがどのチャネルにおいても均一化しているという非現実的な要素が前提となっています。つまりカスタマーサービスに関してもここではしっかりと念頭に入れられていないのです。

同様に、このレポートの中ではオムニチャネル状況下での相互業務補填はどう実行されるのかについても全く触れていません。何となく1つの組織で全ての問題点に対応していこうとする感じが見られますが、もちろんそのようなことは現実的には有り得ません。


また、問題点があると答えているのがわずか34%である点もかなり楽観的な数値であると感じます。実際のところは80%に近いでしょうし、その理由としては次のようなものが挙げられます。

予想される4つの問題点

販売総額は結局オンライン販売に大きく寄与することになる。

オンラインの販売実績は店舗の販売実績に取って代わるだけの事である。

オンライン販売の成果は販売総額を大きく左右するが、配達よりも店舗引渡しの方が実際は好まれている。

店舗引渡しにはトラブルが付き物。


また、疑問点としては以下のものが挙げられます。

実際のところ、どこがどのように機能しているのか?

商品の選択・梱包過程で問題が生じた際の対処は?

サービス全体が及ぼす影響は?

デザイン面での販売促進効果をどう実現する?

店内改装の効果は?

セール品や季節モノをどう処理する?

組織の統一化については様々な意見があるでしょうが、これらの6つの疑問点だけを見ても簡単には統一化できない流動的な要素がたくさんあることが分かります。引き続き実際起こりうる幾つかのケースについてみてみましょう。

単に売り上げ実績の数字だけにとらわれてしまうと、フラットな視点でビジネス全体の流れを見ることが難しくなってしまう。

各部署の責任者レベルにおいてマーケティング予算の使用優先度などで意見の相違が出る可能性もある。

会計部との連携がスムースに実践されない限り、リアルタイムで上がってくるデータの信頼性は低いままである。

会計システムの大幅な変更・調整が求められるため、そこにかかる手間も少なからず業務に影響を及ぼすことになる。

新システム開発などの技術更新の可能性はどれほどあるのかという事実確認の必要性が出てくる。

組織構造改革において人事関連で想定外の動きが見られるときに、システムはどれほど柔軟に対応できるかという面での不安。

ここで挙げた例は、どのような組織でも直面することになる基本的な技術面での問題点のうちの一握りに過ぎません。このことからも、単にAmazonやZappos、またはGoogleといった大手競合各社とのマーケティング状況を比較して対応していくというだけでは不十分であることが分かると思います。
Forrester社は各部署間でのスムースな連携の欠如を問題点として指摘しています。確かにそれ自体は間違いではないのですが、仮に連携がスムースに実践できる下地が整っている場合でも、昔からのしがらみによる利害関係が邪魔をしたり、従来の方法を無理やりに継続していこうとする姿勢などによって効果的な実現が難しいケースも多く見られます。

一般的に、どのような提案に対しても会計士の答えは「無理です」と決まっていると言われます。確かに各部署の責任者レベルでも「変化」に対して及び腰になりがちであるというのは事実であり、これに対しての対処法は簡単に見つかるものではありません。各部署の統一化、スムースな業務連携などのもたらす効果は多大であるのは確かですが、実際の現場レベルでこれを効果的に実践させようとする際には多くの困難に直面することもまた事実です。

個人的な経験を元に言わせていただくと、組織における問題点の効率的な解決を模索する際には、安易にテクノロジーを頼る方向ではなく、まずはしっかりと問題点そのものを吟味していくことを第一にしていく必要性を強調せずにはいられません。また、ただ単に新たな部署を設立するだけで結局は後ほど部署間での調整が必要になるという状況は変わらなかったり、「オムニチャネル化」という言葉だけを先行させたりするのではなく、状況をさらに深く掘り下げたうえで対策を講じていくことが重要になってくると考えます。


その一方で、これを理想的な形で実践することが出来れば小売における業務管理や販売実施のエリアにおいて新風を巻き起こすことにもつながってきます。この際も、単にオンラインの販売実績をいかに向上させるかについて対策を講じようとするだけでなく、カスタマーサービスの質の向上など「消費者の立場に立った」対応を意識することが大切になってくるのです。

基本的には、マネジメント形態そのものに大幅な影響を及ぼすような変更点に関しては、コンサルタント専門家の介入を実施することで組織内での混乱を最小限に抑え、組織再編に伴う不安要素への対処を行うことが出来ます。このような再編に伴う一連のプロセスで生じてくる様々な問題点への適切な対応を怠ると、その結果は惨憺たるものとなってしまいますので注意が必要です。

ここでの最大の留意点は新たに導入する小売形態モデルそのものではなく、実行に必要な人的要素をしっかりと確保できるかどうかにあります。その根底には業務補填モデルの存在も無視することは出来ませんが、これを最適な形で実行するためにはこのモデル自体が高い次元で機能することが必要になってきます。

いずれにしてもテクノロジー改革=問題解決という図式は成り立たないことは覚えておきたいものです。


この記事はFour organizational conflict scenarios in omni-channel retailを海外小売最前線が日本向けに編集したものです。