『音楽販売』はどこへ向かうのか:音楽データ配信の未来とECにおける可能性
- 音楽の販売の主流はCDからデータ配信へ移行しつつある。
- データ配信によって音楽における「在庫」の概念は形骸化。CD100万枚のミリオンセラーは過去のものとなり、世界中の音楽はストリーミングによる定額聴き放題が当たり前の時代に。
- 1曲からダウンロードできる手軽さに着目したECサイトやファッションなど他ジャンルとの複合的な販売方法も検討できる。
音楽を買うということ:CDからデータへ
「CDを買う」のはもはや当たり前ではない?
レコード、カセットテープ、CD、レーザーディスク。長い間、音楽を購入するということは、こうしたメディアを購入することを意味しました。お気に入りの音楽を持ち歩くためにポータブルプレイヤーを揃え、カセットテープやMDにせっせとダビング。好きなアーティストの曲を集めて、自分だけのオリジナルミックスを製作した方も多いでしょう。
しかし、現代において音楽の聴き方は大きく変化しています。1曲ごとの配信や定額聴き放題のストリーミングサービスによって、レコードやCDを購入しなくても「データ」にお金を払うことで、音楽が手に入るようになったのです。
「ストリーミング」という音楽の聴き方
データ配信のなかでも、定額料金を支払えばサイト内の音楽を何曲でも聴き放題という「ストリーミングサービス」は、音楽業界にとって特に新しいかたちのサービスといえます。Amazon Music Unlimited(アマゾン・ミュージック・アンリミテッド)、LINE MUSIC(ライン・ミュージック)、Apple Music(アップル・ミュージック)、Google Play Music(グーグル・プレイ・ミュージック)など。各社の利用料金は同額ですが、ターゲットにしている年齢層が異なっていたり、メリットに違いがあったりとそれぞれ差別化をはかっています。そのため、一強が圧倒的なシェアをもつまでにはいたっていません。
Amazon Music Unlimited
約4000万曲を月額980円で聴き放題。Amazonプライム会員との併用で割引あり。LINE MUSIC
約2400万曲を月額980円で聴き放題。非会員も30秒間視聴ができるといったメリットが人気で、中高生の利用者が多い。Apple Music
約4000万曲を月額980円で聴き放題。iOSに統合されているのでiPhoneユーザーはアプリからダイレクトに利用できる。Google Play Music
約4000万曲を月額980円で聴き放題。加入者本人以外に、5人までファミリー会員を追加可能。追加人数が多いほど割安な料金で利用できる。アーティストにとっても、こうしたストリーミングサービスでの楽曲使用許可は、新たなファン獲得につながるメリットがあります。
その一方で、レコード会社にとってはCDが売れなくなる一因とも見られています。
そのため、ストリーミングに慎重な姿勢を示すレーベルも少なくありません。
とはいえ、ストリーミングは大きな流れとなって消費者の間に浸透しつつあるのが現状です。
CDという形で手元に音楽を所持したいという層がいなくなることはないでしょう。しかし、今後もデータで音楽を楽しむ層が増えていくのではないかと考えられます。
消費者の意識にも変化:音楽=無料!?
音楽消費の形態が変化することで、消費者、特に若年層の意識の変化もみられます。無料で動画を視聴できるYoutubeで国内外の著名なアーティストがPVを公開すると「無料で見られるなら買ってまで見なくていい」という風潮が中高生を中心に広がりました。
データを違法ダウンロードするなどして、お金を払うことなく不正なやり方で手に入れる方法が多数出てくるなど、音楽業界が危惧するポイントは「CD離れ」だけではありません。
しかし一方で、米国では違法ダウンロードをおこなう人の方が、違法ダウンロードをしない人よりも多くの金額を音楽にかけている、という驚きのデータも発表されました。
データ配信における消費者や業界周辺の動向に関してはさまざまな事情が複雑にからみあっており、把握が難しい面もあります。
参考:Gigazine「海賊版の音楽を違法ダウンロードするユーザーの方が音楽により多くのお金を使っていることが判明」
https://gigazine.net/news/20160311-pirates-spend-more-money-on-music/
音楽ECサイトの未来
CDとデータ配信の両立は可能か
CD通販とストリーミングサービスの最大の違いは、「在庫」です。CDの通販は在庫をもつための倉庫が必要ですが、データを販売するストリーミングサービスは、広いスペースを必要としません。また、手元に届けるための手段や時間、送料といったコストも不要です。
データの著作権や管理をきちんとすれば、購入ボタンが押された次の瞬間に音楽を提供することができるのです。
当然のことながら、タワーレコードやHMVといった大手CD取り扱い店も、データ配信の興隆に手をこまねいていたわけではありません。
現に、HMVはUSENと共同で月額490円の聴き放題スマホアプリ「スマホでUSEN」を開発。
ECサイトでは音楽系記事を充実させ、顧客への情報発信を積極的におこなうなど、実店舗と通販の両方で音楽業界を牽引しています。
データになったからこそ可能な売り方とは
データ配信が容易になったからこそ、可能になる音楽の売り方もあります。それは、音楽に特化したECサイトとは限らないかもしれません。音楽単体の価値ではなく、ファッションや書籍、映画など、さまざまなカルチャーとの複合的なプロモーションをEC上でおこなうのも面白そうです。
実際、村上春樹の数年ぶりの新作「騎士団長殺し」が発売された当時は、クラシック音楽に特化したストリーミングサービス「ナクソス」が、作品に関連した楽曲を集めた特集を組んで話題になりました。
NAXOS「特集楽曲 村上春樹『騎士団長殺し』」新作解禁となってから、すぐにプレイリストを組むという企画は、プレスや流通の必要がないデータ配信だからこそできること。
https://smp.naxos.jp/ce/feature/%E6%9D%91%E4%B8%8A%E6%98%A5%E6%A8%B9%E3%80%8E%E9%A8%8E%E5%A3%AB%E5%9B%A3%E9%95%B7%E6%AE%BA%E3%81%97%E3%80%8F/
深夜に書店へ並んで新刊を手に入れたり、熱心な愛読家である「ハルキスト」が集うカフェが取材されたりと、村上春樹の新作がもつイベント性を最大限に活用した企画といえます。
こうしたクロスオーバー的な試みが、データ配信音楽のECにおいても、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。
まとめ
音楽の販売方法は違っても、消費者が音楽にふれてカルチャーを楽しむ気持ちは昔も今も変わりません。データ配信は賛否両論があります。しかし、複合的な要素をもつEC、別ジャンルとの連携などによって、新たな「音楽の売り方」を模索し、業界の活発化を目指すことは可能です。
音楽業界や音楽関連ECの未来については、さまざまな視点からの構築が重要といえるのではないでしょうか。