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IT瑕疵担保責任とは?EC事業者必見「民法改正」

  • 民法改正は2017年、120年ぶりに改正された
  • IT瑕疵担保責任は「不適合」という言葉が使われるようになり、修補の範囲や期限などが変更になった
  • 改正後の「不適合(瑕疵担保責任)」では、新たに瑕疵に応じた代金の減額も可能になった
  • 改正により、準委任契約は「履行割合型」と「成果完成型」の2種類となった
  • 民法と契約書の内容では、契約書が優先される

民法改正の基礎知識

民法の改正時期とは

民法は、相続や離婚といったライフステージにおける重要な出来事に関すること、個人および企業の契約関係について定められた法律です。
相続や離婚などプライベートな事柄に関することは民法の「親族法」によって定められています。そして、個人や企業間での契約関係の決まりは、民法の「債権法」という分類に記されています。

民法改正のための法律は2017年5月26日に成立し、2020年4月1日から施行される予定です。「債権法」のいくつかの部分が改正されたため、「債権法改正」とも呼ばれている今回の民法改正。特にIT分野における今後の契約においては、改正点に注意する必要があります。

法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

改正ポイント

今回の改正において大きな影響が出るとされるのが、IT分野でも特にシステム開発委託に関する契約です。「瑕疵担保責任」および、委託契約の形態である「請負」と「準委任」についてもその位置づけが変わります。

IT瑕疵担保責任とは

瑕疵とは

まずは、瑕疵担保責任について改正前と後の変更をチェックしてみましょう。「瑕疵」は、ただ単にキズや欠点をさすこともありますが、法律や当事者の期待する状態に満たないことを意味する場合もあり、ここでいう「瑕疵」は後者の意味で使われます。
つまり瑕疵担保責任とは、発注者が想定する成果物に対して、実際に納品されたシステムの状態が充分ではない時に発生する責任ということになります。

瑕疵担保責任から契約不適合へ

改正前の「瑕疵担保責任」においては、納品されたシステムやアプリに不備やバグが見つかった場合、修補、ベンダーの契約解除、損害賠償請求などができる旨が記されていました。
今回の改正にあたり、この「瑕疵」という文言は削除されます。代わりに「目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」、要するに契約不適合という文言が使われることになりました。
契約不適合に対する修補、契約解除、損害賠償請求といった権利は、改正後も変わらず記載されていますが、細かな点に違いがあります。

改正後の修補請求

改正前は、過分な費用がかかる場合であっても瑕疵が重要であれば修補請求をおこなうことができました。しかし改正後は、いかなる瑕疵であっても過分な費用が生じる修補は請求が不可となります。

改正後の新条件「代金の減額請求」

ベンダーの納めたシステムやアプリが、依頼した要件に満たない成果物の場合でなおかつ契約不適合が認められた場合は、不適合の度合いに応じて減額した代金を支払うことができるようになります。これは改正前には明記されていなかった、改正後の新たな定めです。

責任追及期間の変更

少々込み入った変更点が、責任追及の期間です。すなわち、納品されたシステムやアプリに不具合やバグが見つかった場合、納品から何年経っても修補や代金減額を行使できるわけではないことを理解しておく必要があります。

改正前、こうした追及は、システムやアプリがクライアントに引き渡された時(仕事完成時)から1年以内におこなうこととされてきました。しかし、改正によって「引き渡し時」ではなく「不具合を知った時」から1年以内であればベンダーに対して責任追及が可能になっています。
とはいえ、不具合を知った、知らないという主観的で曖昧な基準は、ベンダー側の抱えるリスクが大きいもの。このことから、知った時期については「引き渡しから最大5年以内」に限るという限定的な条件も付加されています。
つまり、2020年に受け取った成果物に不具合を見つけた場合、見つけた時期が2025年以内であれば、クライアントはベンダーに対して何らかの責任を問うことが可能です。ですが、これ以降に不具合を見つけた場合は、それがどのようなものであっても、ベンダーに対しては瑕疵責任を追及することはできません。

未完成プロジェクトへの報酬請求

以前は、プロジェクトを完成させないとベンダーはクライアントに対して報酬請求ができませんでした。しかし改正後は、未完成であっても中途成果物がクライアントにとって価値があるものである場合、作成した時点までの報酬を請求できるようになりました。

請負契約と準委任契約における改正のポイント

瑕疵担保責任について改正後の変更点をおさえたところで、次は契約形態について見てみましょう。

請負契約

まず請負契約についてです。請負契約は、ベンダーの裁量で仕事を進め、完成した成果物を納める義務を負う契約をいいます。
この契約では、先に解説した「未完成プロジェクトにおける報酬請求」を除き、原則として仕事を完了させないと報酬を受け取ることはできません。

準委任契約

対して、準委任契約は成果物に対してではなく、作業時間や工数によって対価が定められます。プロとしての仕事をしていれば、極論、完成品を納める義務は負っていません。あくまでも依頼された仕事を遂行することに対して、契約を結んでいる形です。
IT業界におけるSES契約(システムエンジニアリングサービス契約)は、代表的な準委任契約です。

改正後:準委任契約「履行割合型」

今回の改正によって、準委任契約には2つのタイプができました。一つは、先に解説した従来通りの「履行割合型」です。成果物があるかどうかではなく、仕事を履行したことに対して報酬が発生するこのタイプは、時間単位で報酬を決定した方が合理的な長期プロジェクトでよく利用されています。

改正後:準委任契約「成果完成型」

改正によって新しく導入されたのが「成果完成型」の準委任契約です。成果物の納品が義務となる請負契約とよく混同されますが、「成果完成型」はあくまで報酬を支払うのが仕事完了時点とされているだけで、成功しないプロジェクトに対して不履行責任が生じるわけではありません。

法律と契約書はどちらが優先されるか

これらの民法は、「当事者の契約によって自由に変更できる」という大いなる前提条件があります。つまり、これらの改正に準拠していない内容が契約書に記されていた場合、民法ではなく契約書の内容が優先されます。
改正による制度は、契約書に記してから初めて適用されます。そのため、ベンダーとクライアントが契約を交わす際は、互いに何を明記するべきか考えておく必要があります。

まとめ

120年ぶりとなる民法改正。パソコンの登場により仕事の形態は大きく変わり、近年はテレワークやフリーランスなど、働き方も多様化しています。さまざまな雇用契約を結ぶ今こそ、民法改正に合わせ必要な知識を身につけておくことが大切です。