次世代の小売戦略:オムニチャネル導入における発展と可能性
リアルとネットには境界線があるのが当たり前……その常識は、この数年で大きく変わってきました。あらゆる販売経路を統合しようというオムニチャネルも、その変革の旗頭のひとつです。
実店舗というリアルと、オンライン通販というネットの世界は、その境界線を限りなくあいまいにしつつあります。新たなショッピング形態「VRコマース」はオムニチャネルの進化形といわれ、その先につながる顧客との関係性の変化を見据えたマーケティングが必要となってきます。
【目次】
オムニチャネルにおけるメリットとは
在庫管理の在り方が変わる
このオムニチャネルのもっとも分かりやすいメリットは、在庫管理です。ネット通販と実店舗の在庫データを一元管理することで、色違いやサイズ違いが実店舗にない場合に、ネットへと誘導することが可能になります。
また、これとは反対に、ネット通販の注文履歴を実店舗でも共有することで、顧客情報に合致した接客をすることも。購入した商品データを元にコーディネートを提案したり、インテリアデザインを揃えるなど、リアルな接客業務にオンラインのデータを取り入れ、店舗の新しい価値創出にもつながるでしょう。
潜在的な購買層の獲得
オムニチャネルにはもうひとつ、可視化しづらいメリットがあります。それは、潜在的な購買層の掘り起こしという大いなる可能性です。ネット通販は、注文し慣れた人には便利なツールですが、「実物を見て買いたい」、「利用してみたいけれどサイトの見方が分からない」という顧客未満の層に一定数人がいるのも現状です。
オムニチャネルなら、実店舗で実物を見てネット通販を利用する、実店舗が運営する公式SNSから気軽に通販サイトURLへジャンプできるなど、ネット通販の利用を考えている潜在的な購買層へのはたらきかけがしやすくなります。
実店舗で販売しているアイテムの写真をSNSで拡散して、その投稿にネット通販のリンクを貼る……これは、チラシを配布するよりも低コストなマーケティングのひとつですが、オムニチャネルはこの手法からさらに多くの顧客を獲得する可能性を秘めています。
今やオンライン、オフラインの垣根は低くなり、顧客は自由にチャネルを飛び越えるようになりました。新しい購買行動に対応するためにも、次世代型のオムニチャネルについて考えることは有効です。
オムニチャネルにおける取り組みにみる今後
これまで、実店舗には「その場にいかないと購入できない」というデメリットがありました。また、ネット通販には「実物を見て購入することができない」という難点があります。
そうした互いのジレンマを解決に導くひとつの有効な手段と成り得るのが、オムニチャネルのさらなる進化形ともいえる 「VRコマース」です。
VRコマースとは
VRコマースとは、特殊な専用機材を使って店内を撮影し、ネット上に仮想現実のショップを出現させる技術のこと。VRと連結させたECシステムによって、顧客は自宅にいながらにして実店舗にいるようなショッピングが可能になります。VRコマースなら、カーソルで商品をクリックする必要はありません。実際に手を伸ばすとVRの商品をピックアップし、カートに入れることができます。
商品の入れ替えは棚の一部を撮影するなどして変更することが可能で、実店舗のレイアウト変更は、従来同様に制約を受けにくいのも嬉しいところ。
この技術により、従来のオムニチャネルだけでは難しかった潜在的な購買層の取り込みが期待できます。さらに、VR体験の面白さから新たな顧客を獲得できるチャンスも大幅にアップします。
実店舗より便利、ネット通販より身近
VRコマースは、店舗での購買体験を重要視するカスタマーの心理に作用するだけではなく、ネットならではの機能も備えています。
たとえば、画像拡大機能はVRコマースの利便性をもっとも感じられるツールのひとつ。高画質で撮影したVR空間で、商品を数千倍に拡大しチェックして、質感やディテールを閲覧してもらうことも可能になります。
また、ゲーム要素をくわえて購買意欲をさらに刺激したり、クーポンを配信したり‥‥。VRコマース独自のプロモーション展開は、さまざまなアイデアを具現化する可能性に満ちているといえます。
2020年代、さらに進化するVRコマース
2021年、Facebookが社名を「META」に変更すると発表しました。METAは「メタバース」と呼ばれる仮想空間を構築する企業に生まれ変わったのです。
メタバースとは仮想現実空間の一種で、将来的には現実世界ではなく仮想空間の中のアバターが経済活動を行ったりサービスを受けたりするというコンセプトです。 VRコマースではブラウザ上での購買行動でしたが、メタバースであれば自分が仮想空間に入り込み、購買行動を行うことになります。
今後どこまで商業活動が可能になるかはこれからの開発や法整備によって変わってくると思いますが、テクノロジーの進化には注目をしていきたいところです。
メイシーズにみるオムニチャネルの取り組み
欧米では、様々なオムニチャネルを取り入れたマーケティングが実行に移されてきました。
米国の大手百貨店メイシーズ(Macy’s)は、2008年からオムニチャネルを念頭においた大胆なマーケティングを展開しています。
ネット通販だけでなく店舗でも両用できるアプリをリリースしたり、フィッティングルームで商品に関するネット上のレビューを閲覧できるようにするなど、リアルとネットの境界を超えるサービスを打ち出し、生き残りをはかっています。
「通販」の概念がグローバルに、ユニバーサルに広がる
オムニチャネルを起死回生の策とみるメイシーズは、実店舗のいくつかを閉店させ、地域に根ざした運営を徹底しましたが、オムニチャネルの運用によってはまったく逆のアプローチも可能です。つまり、海外からの旅行客がVRコマースで下見をし、来日して実店舗を訪れるといったやり方で、全世界的に顧客を獲得するチャンスも生まれます。
さらには、自宅やケアホームからの移動が難しい高齢者が買い物をしたり、幼い子ども連れで実店舗への入店をためらう家族がリラックスして商品選びができたりするなど、福祉や社会貢献の面においても大きな可能性をはらんでいるといえるでしょう。
オムニチャネルで変化する顧客との関係性
オムニチャネルは、顧客一人一人のニーズに即座に対応できる柔軟な動きが必要になります。なぜなら、消費者が時と場所を選ばずに商品を選べるのがオムニチャネルだから。つまり、提供する側にも同じレベルのレスポンスが求められるというわけです。
実店舗よりもネット通販、ネット通販よりもオムニチャネルという具合に、顧客と企業の関係はより近くなっています。
■特集:ECから考えるオムニチャネル・OMO■
目新しさを超えた先にある進化
この距離感をうまく活用していると思われるのが、オーダーメイドスーツの新ブランド「KASHIYAMA the Smart Trailer(カシヤマ・ザ・スマート・テイラー)」です。オンワードホールディングスの子会社であるオンワードパーソナルスタイルが発表したこのブランドは、購入方法を店舗、訪問、ECサイトの中から自由に選択可能。ネットで採寸を予約できる出張採寸を実施しており、一度採寸すると、そのデータを利用してECサイトからも自分のサイズにぴたりと合ったスーツを購入できる仕組みです。現代における「モノの買い方」に着目したオムニチャネル方式により、採寸や試着に何度も店舗を訪れる必要があるというオーダーメイドスーツのイメージをくつがえすことに挑戦しています。
「購入する」という体験を維持したまま、面倒な手順を省略し、得たデータを最大限活用するという点で、すぐれたビジネスモデルといえるでしょう。
求められるのは即応性
つまり、オムニチャネルを導入するにあたり、そのコンセプトの柱となる概念が「即応性」です。
これまで、マーケティングといえば企業が一方的に発信するものが大半でした。しかしながら、こうした一方的なマーケティングは時代に取り残されつつあるのも確かです。多大な影響力をもつインスタグラマーやブロガーといったカスタマーサイドからの発信が増えているのも、その動きのひとつといえるでしょう。
スマートフォンやSNSといったテクノロジーを上手に活用して、ブランドイメージを損なったり、メーカーを安売りすることなく、顧客に近い存在にならなければなりません。
まとめ
まだまだ進化の途上にあるオムニチャネルですが、VRコマースの導入など、次世代を見据えた動きは着実に大きくなっています。
顧客という限られたパイを獲得するためには、より広い展開を見据えて、次世代のオムニチャネルが必要になってくるでしょう。