これから来るECトレンド:アパレルに広がるBORISとBOPIS
オンラインで購入した商品を実店舗で受け取ったり(BOPIS)、返品したり(BORIS)するサービスが日本でも増え始めています。
配送業者の負担軽減や、顧客満足度アップが期待できる一方で、実店舗のないEC業者にとっては苦戦を強いられる状況にもなりかねず、今後の動きが注目されています。
この記事では、BORISとBOPISについて解説するとともに、サービスを実施しているブランドやメーカーの紹介、こうした動向がEC業界にどのような影響を与えるのかについて書いています。
【目次】
- BORISとは
- BOPISとは
- ECのアパレル返品率を下げることが小売の売上UPに
- BORISはOMOにおけるひとつの施策である
- BORISやBOPISを実施しているアパレルEC
- 実店舗のないEC専門事業者はどうすべき?
- 米国の返品文化と日本のECトレンドの関係
BORISとは
BORIS(Buy Online Return Un Store)は、オンラインで購入した後、店舗で返品するショッピングスタイルのことです。ECにつきものである返品と、その手続きの煩雑さを回避するためのシステムとして日本でもBORISに対応するショップが増えてきました。
返品は、その手間から顧客満足度を下げてしまうおそれもあります。
ゆえに返品率を下げることはアパレルECにとって重要な課題でした。
BOPISとは
BORISと共にBOPIS(Buy Online Pickup In Store)というサービス形態もよく使われるようになっています。BOPISは、オンラインで購入した商品を実店舗でピックアップするショッピングスタイルをさします。日本でもオムニチャネル施策を採る企業が増加したため、この手法も浸透してきました。
オンラインで注文した商品は、長らく自宅で受け取るのが一般的でした。店舗受け取りは、顧客が仕事帰りや外出中に商品を受け取ることができるため、場合によっては自宅受け取りよりも便利な選択肢になります。
店舗によっては、試着や裾上げ、サイズ直しをその場でできることもあり、顧客満足度の向上に貢献するシステムといえます。
宅配業者にとっては再配達をしなくてよくなる、EC業者にとっては店舗で試着することによって返品率を下げられるなどのメリットがあります。
ECのアパレル返品率を下げることが小売の売上UPに
米国では、ECの成長前は売上の10%程度だった返品率が、ECの発展後30%に増加、アパレルに限定するとその数字は40%にも達するという調査結果が報告されています。
パソコンやスマホの画面では、微妙な色合いの違いやサイズ感を確認することが難しいので、実店舗で購入する場合と比べて返品率が上がるのはある意味必然といえます。ECで洋服を購入した誰しもが、一度は「思っていた色と違った」、「ネットで見たデザインが実際に見ると想像と違った」、「サイズが思ったより小さく作られている」という経験をしているのではないでしょうか。
返品は、EC事業者や従業員の手間を増やし、顧客満足度を低下させます。しかしパソコン画面で実物にふれてみることができない以上、返品そのものの数を減らすことは難しいでしょう。
そこで新たなサービスとして台頭してきたのがBORISやBOPISです。実店舗で商品の受け取りと返品ができれば、カスタマーセンターを通すよりも返品作業は手軽になり、また従業員の負担も減らすことができます。
BORISはOMOにおけるひとつの施策である
BORISやBOPISは、OMO戦略におけるひとつの施策です。
OMO(Online Merges with Offline)は、オンラインとオフラインを併合すること、オンとオフの垣根を超えて共有されるマーケティング概念のことです。このキーワードは2017年、SINOVATION VENTURESを創業した李開復(リ カイフ)が提唱しました。
BORISやBOPISはこうした戦略の一環として知られています。
OMO以前には、O2O(Online To Offline)つまりオンラインからオフライン、もしくはオフラインからオンラインへと顧客を誘導する戦略が一般的でした。この考え方から進化し、オンラインとオフラインを融合させようというのがOMOです。
■特集:ECから考えるオムニチャネル・OMO■
BORISやBOPISを実施しているアパレルEC
まだ少数ではありますが、BORISやBOPIS方式を国内で展開しているブランドを紹介します。
ZARA:返品先を自宅引取と店舗から選べる
ZARA.comでは、返品したい商品の返品場所を、配送業者による引き取りか店舗持ち込みの2つから選ぶことができます。
返品場所で「自宅」を選択すると自宅まで配送業者が商品を引き取りにやって来ますが、「ZARA店舗」を選ぶと最寄りの店舗まで商品を持ち込むことで返品が完了します。
日中は誰も家にいないという世帯も多くなり、外出のついでに店舗へ返品できるBORIS式の方が便利に感じられるかもしれません。
ちなみに返品・交換は無料ですが、発送日から30日以内の商品限定で、手続きの際は電子レシートか紙のレシートが必要になります。
・ZARAヘルプ「返品・交換」
https://www.zara.com/jp/ja/help/how-to-return-h37.html
ユニクロ:3ヶ月以内なら返品OK
ユニクロでは、店舗での購入と同様の期間である3ヶ月以内の返品を受け付けています。
オンラインストアで購入した商品でも、明細書と返品カードを持参すれば全国のユニクロ店舗で返品手続きを受けることができます。
転売目的で購入した商品の返品や、同一商品を50点以上返品・交換すること、過度に返品を繰り返している場合は対応しないケースもあるようです。
・ユニクロ「お問い合わせ」
https://faq.uniqlo.com/articles/FAQ/100001836
ジーユー:状態確認の上返品・交換OK
ジーユーでは、オンラインストアで購入した商品の返品・交換を注文日より1ヶ月以内に限って受け付けています。
店舗での返品を受け付けてもらうためには、商品のほかに明細書と返品カードが必要になります。これにくわえて後払いの場合は払込受領書、LINE Payで支払っている場合は決済を証明できる履歴の提示が必要です。
こちらもユニクロと同様、転売目的で購入した商品の返品や、過度に繰り返される返品・交換には対応していません。
・ジーユー「お問い合わせ」
https://faq.gu-global.com/articles/FAQ/100001924
Bershka:一部返品不可の商品もあり
スペインのインディテックスグループの一員であり、ZARAの兄弟ブランドとして知られるBershka(ベルシュカ)は、オンラインストアで購入した商品の返品について、自宅から配送依頼をする方法、店舗に出向いて商品を返却する方法の2つを実施しています。
店舗での返品手続きは、返品を希望する商品ラインを扱っている店舗を選ぶ必要があります。レディース商品はレディースラインの販売を実施している店舗へ、メンズ商品はメンズラインを扱っている店舗へ返品するということです。
返品には電子レシートを印刷するかスマホなどに表示する必要があります。また、ストッキングやヘアアクセサリーなどはサービスの対象外になっています。
・Bershka「ショッピングガイド」
https://www.bershka.com/jp/shopping-guide.html
番外編ニトリ:オンラインショップでのキャンセル・再注文OK
アパレル以外のECでも、BORISを実施しているサイトがあります。
インテリア用品や家具を扱うニトリでは、ネットショップ「ニトリネット」で購入した商品を、14日以内ならば返品・交換できるサービスを実施しています。ネットショップで購入した商品でも、商品と購入や出荷を示すメール、メンバーズ会員番号を提示すれば、全国のニトリ店舗へ返品することができます。
なお、当然ながら衛生用品や消耗品、オーダー家具や加工された商品については対象外となっています。
・ニトリ「キャンセル・返品・交換」
https://www.nitori-net.jp/ec/userguide/cancel/
実店舗のないEC専門事業者はどうすべき?
BOPISやBORISはブランドやメーカーだけでなく、配送業者や顧客にとっても負担を軽減し満足度を高める施策といえます。
ただし、ひとつ大きな問題があります。それは、実店舗を持たないEC専門の事業者がどのようにこの施策に対応すればよいかということです。全国各地に返品専用のオフィスやブースを設けるというのは現実的ではないので、店舗をもつ大手ECと提携する、何らかの方法でオンラインにおける返品対応の効率化をはかるという必要性が生じるかもしれません。
BOPISやBORISが一般的になれば、オンラインのみで完結するECが却って不便に感じられてしまうかもしれないからです。
従来、わざわざ店舗に出向かなくても欲しいものがボタンひとつで注文できるECは便利な未来型ショッピングでした。しかし、PCやスマホ一台でショップとつながるECが「未来」だった時代はそろそろ終わりを告げようとしています。BOPISやBORISは、オンラインとリアル(実店舗)の次なる関係のひとつの象徴であるといえるのではないでしょうか。
米国では実店舗のないECの返品を請け負う事業も
米国には、実店舗を保有していないECブランドの返品プロセスを請け負うスタートアップ企業「Happy Returns」があります。
Happy Returnsは、全国各地のモールや大学のキャンバス、小売店などに350ヶ所以上のブース「Return Bar」を設置しており、カスタマーはそこへ返品したい商品を持っていくことでスムーズに返品ができるようになっています。
特筆すべきは、商品の受取から返金処理、商品の状態チェックや商品の販売元であるクライアント企業までの返送作業すべてをHappy Returnsが一括で請け負っていることです。
日本よりも返品率が高い傾向にある米国では、クライアントがHappy Returnsに外注した方が、自社でオンラインショップの返品受付をするよりもコストカットになると考えられています。今後日本で同様のサービスや事業が出てくるかは未知数ですが、返品の多い米国では同様のスタートアップ企業や返品専用のアプリなどが次々にリリースされている状況にあるようです。
米国の返品文化と日本のECトレンドの関係
Happy Returnsのようなサービスが登場する土壌には、「返品文化」ともいえる米国ならではの買い物スタイルがあります。
日本では、返品といえば不良品やサイズを間違えたものが圧倒的多数で、「気に入らないから」、「買ったものの自宅に戻ったらもう欲しい気持ちがなくなった」という理由を堂々と言える人は少数かと思います。事実、多くの店舗やオンラインショップは、
- 返品は未使用、未開封に限ります
- お客さまのご都合による返品はお受けいたしかねます
などの但し書きをつけて返品案内をしています。
一方、米国は無条件返品を実施している企業が多く、上記のような自己都合による返品も決して少なくありません。一説には、米国で購入される品物の10個に1個が返品されているともいわれるほど、返品が多いのです。しかし、なかには悪質なケースも多く従来の返品方法を維持することはもはやできないというのが一般的な見方です。比較的返品に寛容だった米国が迎える変換点が日本にどのような影響を与えるのか、今後に注目です。
さいごに
BORISやBOPISは、大量の返品という課題が深刻化する米国で発達していますが、返品・交換の少ない日本でもユニクロやZaraといったブランドで実施され、注目され始めています。
返品を体験してみたブログや個人レポも散見され、見た限りは配送業者を手配しておこなう返品よりも便利だと感じている顧客が多いようです。
返品が容易になれば、「似合うかどうか分からないけれどとにかく買ってみよう」と気軽にオンラインショッピングをおこなう層が増える可能性もあり、収益増につながる可能性もあるでしょう。