建設資材、ネットで買うか?店舗で買うか?:Amazonの嵐をやりすごす
- 小売業の強敵であるAmazonは、建設資材の分野においてそれほど脅威ではない
- 建設資材購入時における消費者の心理と、高い専門性が実店舗の強み
- 実店舗の強みを活かしつつ、デジタルテクノロジーを導入し、さらなる成長戦略をたてるのが吉
- 業者と個人消費者、どちらに合わせたサービスを導入するか見極める
小売業の強敵Amazon
全世界的にAmazonの存在が小売業の脅威となっているというのは、周知の事実です。特にアパレル業界においてこの傾向は顕著ですが、書籍、日用雑貨、食品などありとあらゆる商品を販売するAmazonに押され気味なのは、どこの業界も同じ。では、どのような影響が出ているのでしょうか。
影響は配送料金にもあらわれる
ヤマト運輸は宅急便の基本運賃と各サービス規格の改定をおこない、2017年10月1日以降の宅急便運賃の値上げに踏み切りました。この運賃値上げに関しても、AmazonをはじめとするEコマース関連の配送が著しく増加したことが一因とみられています。参考:ヤマト運輸が2017年5月22日に掲出した新聞広告(関東版)2017年6月からは定形外郵便物、3kg以内の荷物を送ることができるゆうメールに関しても料金が値上げとなり、通販およびECの業者にとって悩みのタネになっています。
http://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/ad/1001/pdf/1001_ad.pdf
配達の難しさがネット通販を抑制
しかしながら、こうした事態は、建設資材を販売する実店舗においてプラスにはたらいているといえるかもしれません。 もともと建設資材、特に板状の資材は配送にコストがかかり、ネット通販では利益が出にくい傾向にありました。昨今の配送費用値上げにより、その傾向は一層顕著になっています。そのため、購入者はパソコンでAmazonへ注文を出すよりも、実店舗へ足を伸ばした方が効率がいいという考えに至るのでしょう。実店舗が選ばれているというよりも、物理的な問題からAmazonが選ばれにくい、つまりネット通販におけるプロダクト分野は成長しにくいと表現した方が的確かもしれません。
実店舗のメリットは健在
住宅リフォームなどに使用する建設資材の販売に関して、未だに実店舗販売が利用されやすいのには、もうひとつ理由が考えられます。それは、基礎資材や内装および外装資材といったものを購入する際の、ごく当たり前の心理です。すなわち、強度やサイズ、色味などを実際に目で確かめてから決めたいという考え。資材は大量に発注することも多いため、間違いのないよう、実店舗で確認してから購入したいという心理がはたらいているのです。
特に、個人のDIY消費者であれば、自分の家の壁紙や棚板の色の実物を目で見て直接購入したいと考えるのは自然なことです。
「実物を見て買えない」というネット通販の最大ともいえるデメリットは、こと建設資材購入といった場面では、より大きくマイナス方向へはたらきます。
専門性の高い実店舗の安心感
また、Amazonがありとあらゆる物の販売をおこなっているのに対し、建設資材を扱う実店舗は、そのほとんどが住宅関連の事物を専門に扱う企業によるものです。実店舗で資材を購入したい、または住宅リフォームを依頼したいと考える消費者は、こうした専門性の高さも選択した理由のひとつになっていると考えられます。 購入したい資材の在庫がない時、代替品について相談したいと思えば、専門的な知識を有している実店舗が、消費者にとっては便利です。または実店舗であれば、次回入荷について確実な情報が得られると考える消費者もいるでしょう。そうしたサービスを期待して実店舗を利用する消費者も一定数いると考えられます。実店舗の強みを活かした次世代の資材販売とは
とはいえ、新しい対策を打ち出さなくても実店舗がずっと安泰というわけではありません。米国の大手百貨店は、自社レーベルの電化製品をAmazon経由で流通させることを決定しました。今後も、国内外で同様の動きが出てくる可能性は充分に考えられます。デジタルテクノロジーの活用
その予防策として検討すべきなのが、デジタルテクノロジーを取り入れることです。 デジタルテクノロジーを取り入れたマーケティング対策としては、具体的に- デリバリープログラムの整備
- AR(拡張現実)の導入
- マップやアプリでの管理システム作り
ホームデポは、2017年上半期の収支報告で、マーケティング予算の半分近くをデジタル関連に充てていると明かしました。
ホームデポがリリースしたアプリには、リフォームをした時の完成予想図を見られるAR、どこの店舗に在庫があるか一目で分かるマップが備わっていて、今後は音声サービスについても検討中とのこと。
数時間ごとの配送サービスをおこなうデリバリープログラムにより、効率的な流通を確保したことも、業績アップの理由のひとつとされています。
実店舗ならではの強みを維持したまま、デジタルテクノロジーを取り入れて顧客を確保するというのが、ホームデポの姿勢です。
リフォーム資材を必要とする顧客とは
住宅リフォームにおいて資材を求める顧客は、業者と個人DIY消費者の2タイプです。デジタルテクノロジーを用いてサービスを展開する場合は、自社の顧客のタイプを見極め、対象に合ったサービスを打ち出していく必要があります。個人のDIY消費者がリフォームにのぞむ場合、前述のARは特に役に立ちます。完成図を具体的にイメージすることで必要な資材を買い足したり、場合によっては必要な工具を注文するということも出てきます。
顧客が業者の場合は、在庫管理と連動させた注文履歴の管理が不可欠になるでしょう。同じ資材を何度も購入したり、一度に大量の資材を発注する可能性が高いからです。
とはいえ、両者の間には共通して求めることもあります。たとえば、予算。業者は見積もりをとって資材を購入するのが当たり前ですが、DIY消費者にとっても資金は無尽蔵というわけではありません。あらかじめ予算を立て、それに従って購入計画を立てます。そのため、ネットでかんたんに見積もりを作成できたり、資材の値段を事前に知ることができるのは、両者にとってメリットになりうるのです。
こうした共通項をデータ化し、それぞれの消費者が利用しやすい、より効率的なサービスを打ち出す戦略も充分可能です。
まとめ
Amazonのような巨大マーケットに対し、実店舗は太刀打ちできないという風潮は全世界的なものとなっています。米国では小売業の廃業が相次ぎ、そのニュースは大きく取り上げられます。しかし、ホームデポのようにデジタル技術を活用し、存続をかけたマーケティングを展開している企業が多いのもまた事実です。
さらに、自社レーベルをAmazonを通して流通させている企業も少なくはありません。Amazonと実店舗は対立関係にあるわけではないのです。しかし、既存のマーケティング手法を維持したままでは、実店舗を運営し続けていくことはできません。
時代に合った技術を適宜取り入れ、消費者のニーズに合致したサービスをおこなっていくことが必要になるでしょう。