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アーリーマジョリティがイノベーター理論において最も大切な理由

IT分野を筆頭に、毎日次から次へと心血を注いで作られた新しいサービスやプロダクトがリリースされていく昨今ですが、残念ながらその全てが世界中に普及するとは限りません。

普及しないとは言っても利用者が全くのゼロというわけではなく、いわゆる新しいものに敏感な人の中でのみ流行し、一般層に普及しないまま終了してしまうプロダクトも数多くあるものです。

新しいものに敏感な人の間では話題になっても一般層に普及しない製品と、同じ新しいものでも世間に幅広く普及した製品とでは一体何が違っているのでしょうか。

今回はイノベーター理論におけるアーリーマジョリティに注目しながら、その原因を探っていきます。
【目次】

イノベーター理論とは

まずはイノベーター理論について簡単に理解しておきましょう。イノベーター理論はアメリカで生まれたイノベーションの普及に関する考え方で、消費者の新商品に対する購入態度を5つの層に分類しています。

イノベーター

1つ目のカテゴリはイノベーター(innovator=革新者)です。イノベーターとは読んで字のごとく、誰よりも先に新商品に飛びつくアドベンチャー精神が旺盛な購入者のことを指しており、製品を購入する理由も単に新しいからということが大半です。

それゆえに新商品からリターンを得ようという意識は低く、市場の中でも2.5%程度しかいない、希少な集団と言えるでしょう。

アーリーアダプター

2つ目のカテゴリにアーリーアダプター(early adopter=初期採用者)があります。彼らはイノベーターほどの行動力はありませんが、新しいものには常にアンテナを張っており、ある程度の判断力を持って行動を起こす人たちです。

実際アーリーアダプターが行動を起こすかどうかは、以下の消費者の購入の指標となっている節もあるため、彼らは「インフルエンサー」や「オピニオンリーダー」と呼ばれることもあります。

アーリーアダプターは全体で見ると市場の13.5%程度しか存在しないとされていますが、その影響力を加味すると決して無視できず、新製品の普及には彼らの支持は欠かせない要素となります。

アーリーマジョリティ

アーリーアダプターの一つ下の層に区分されるのが、今回のトピックでもあるアーリーマジョリティ(early majority=前期追随者)です。彼らはアーリーアダプター以上に慎重ですが、比較的早いうちに行動を起こすとされる集団で、市場全体の34%を占めています。

アーリーマジョリティがアーリーアダプターと異なる点としては、やはりアーリーアダプターの声を聞いてから動くという慎重さです。彼らにとってインフルエンサー(アーリーアダプター)の存在は大きく、意思決定においてはまさに鶴の一声の価値を持っています。

新しいものに興味はあるが、確実な利益が手に入ることがわかるまでは動かないのがアーリーマジョリティの大きな特徴と言えるでしょう。

レイトマジョリティ

新しいものには慎重で、みんなが買わないと私も買わないを貫くのがこのレイトマジョリティ(late majority=後期追随者)です。割合としてはアーリーマジョリティ同様、市場の34%を占めていますが、彼らは新しいものに対して利益は求めておらず、むしろ新しいものを手に入れないことのデメリットを気にして行動を起こす傾向にあります。

新製品の利益にあまり興味はないが、害がないことを十分に確認してから他者と共に動きたい集団と言えるでしょう。

ラガード

新製品に対してもっとも鈍感な反応を示すのが、ラガード(laggard=遅滞者)と呼ばれるグループです。彼らは市場全体の16%しか占めていませんが、それでもイノベーターとアーリーアダプターを合わせた数と同程度の割合を占めている点は見逃せないポイントです。

ラガードの特徴としては、新製品や世間の流れに無関心であること、あるいは新しいものや世の流れに対して常に警戒心を抱いている点です。新製品によるイノベーションが完全に世間に馴染むまでは、頑なに新製品の購入を拒み続けるため、普及率100%の最後の壁がラガードであると言えるでしょう。

キャズム理論の登場

新製品がなかなか越えられない「谷」

イノベーター理論における5つの階層を理解しておくことは大切ですが、これに加えてもう一つ押さえておかなければならないのは、キャズム理論の存在です。

キャズムとは「裂け目」や「溝」を意味する言葉ですが、その意味の通り、世間への普及のために新商品は必ず超えなければならないキャズムにぶつかり、ここが超えられないことで世間に広がることのないまま消えていったプロダクトは決して少なくありません。

キャズム理論においてはイノベーターとアーリーアダプターの市場を初期市場、アーリーマジョリティやレイトマジョリティによって構成される市場をメインストリーム市場と呼びますが、この二つの市場の間に存在するギャップこそ、キャズムの正体なのです。

アーリーマジョリティの重要性

もうすでにお気づきかもしれませんが、初期市場とメインストリーム市場の境界線となっているのはアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間、つまり市場のキャズムはアーリーマジョリティの手前に存在しています。

イノベーターとアーリーアダプターには広めることができても、アーリーマジョリティの「谷」を越えることができなければ世の中にイノベーションを起こすことはできません。

イノベーションは初期市場にどう広めるかではなく、市場の大多数を占めるメインストリーム市場に受け入れられるかどうかで決まり、メインストリーム市場の登竜門であるアーリーマジョリティの心をつかめるかどうかによって、普及率は大きく変わってくるのです。

アーリーマジョリティの心を掴むには

アーリーマジョリティのニーズに注目する

肝心のアーリーマジョリティの心をどう掴むかですが、これに関してはまだ必勝法と言われる理論はありません。ただ正攻法とされるアプローチは、やはり彼らのニーズに沿った商品紹介を行うということです。

よく言われているのが、初期市場とメインストリーム市場では商品のニーズが違うという点です。

iPhoneにみるアーリーマジョリティへのアプローチ法

例えばApple社のiPhoneを例に考えてみます。iPhoneはスマートフォンのパイオニアとも言われ、間違いなく携帯電話市場にイノベーションを巻き起こしたプロダクトでしたが、初期市場に対するアプローチはいかに目新しいアイデアで、かつ優れたコンピューターであるかを紹介するというものでした。
ビジュアルのインパクトは新しいものが大好きな初期市場の心を掴み、瞬く間に話題となりましたが、問題はいかにしてキャズムを越えたかです。

メインストリーム層に対するアプローチとしては、どういった日常のシチュエーションでiPhoneが役に立つかという広告を打ったことが大きいでしょう。

例えばタッチスクリーンで操作する豊富でキャッチーなアプリケーションの数々を映し出したCMは、当時飽和状態にあったフィーチャーフォン保有者の心を強く揺さぶりましたし、iPhoneの示した「これ一台で何でもできる」というスマートなイメージは、ミニマリズムや断捨離ブームと合致していたと言えます。

時代の流れは小手先で操れるものではありませんが、少なくともiPhoneをはじめとするスマートフォンの浸透は、時代のニーズに合わせたプロダクトだったことが理由として挙げられるでしょう。

勝率の高い市場を見つける

新製品がメインストリーム市場を抑えるためには、市場のスキマを見つけることも重要です。

iPhoneは高品質な内蔵カメラでも有名ですが、最近では写真に「iPhoneで撮影」とだけ書かれたポスターなど、カメラの性能を全面に押し出した広告もよく見かけます。

これはカメラに興味のある人、それも一眼レフを買うほどではないが、軽い趣味として写真を撮ってみたい人の市場開拓と言えます。というのもiPhoneはすでにミラーレス一眼やデジカメに匹敵するレベルのカメラを備えているため、カメラを買うならiPhoneを選んでもらえる可能性があるためです。

一見して飽和しているように見える市場であっても、スキマはどこにでも必ず存在します。このスキマをきちんと見極めてメインストリーム市場に食い込む力こそ、キャズムを越えるためには必要な能力の一つと言えるでしょう。