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サブスクリプションコマースのポテンシャルはテクノロジーと編集力によって加速する

つい先日、「日本サブスクリプションビジネス大賞2019」の発表がありました。このイベントは、日本初の“No.1サブスクリプション”を決めるための公募型の大賞となっているのですが、このようなイベントが新たに立ち上がることが象徴しているように、今や“サブスク”は、言葉自体、誰もが日常生活の中で自然と使うほど浸透しましたし、ビジネスモデルとしても、様々な分野のサービスに広がって盛り上がりを見せています。

(ちなみに、グランプリを受賞したのは株式会社トラーナが展開している知育玩具のサブスクリプション、「トイサブ!」というサービスでした)

本稿では、そんなサブスクリプションビジネスの中でも、ECをベースにし、実体あるプロダクトを購入できるサービスを提供している「サブスクリプションコマース」について、その成り立ちと発展、そして今後の可能性について紐解いていきたいと思います。

目次:

サブスクリプションの変遷

サブスクリプション自体の歴史は古く、元々は17世紀のドイツの出版社が百科事典の制作費を事前に集金し、順次発行していったのがその発祥と言われています。

日本においても新聞配達や牛乳配達、あるいは三河屋が運んでくるビールなど、各家庭にとってなくてはならないプロダクトを都度購入する手間を省き、事業者に長期に渡る安定収入をもたらすビジネスモデルとして、昔から存在していました。

その後、ことさら「サブスクリプション」という言葉で(特に日本で)注目され始めたのは2011年頃からです。キッカケは、デザインソフトウェアを展開するAdobeが、年間契約ライセンス形態で提供するCreative Cloudのサービスを始めたことでした。その後、NetflixやSpotifyなど、サブスクリプションではおなじみのサービスが日本展開されたことなども手伝って、その言葉は誰もが知るところとなっていったのです。

ソフトウェアやウェブコンテンツなど、様々なサービスがサブスクリプションモデルを取り入れていく中で、実体のあるプロダクトを定期便で届けるサブスクリプションコマース(プロダクトが箱に入れられて届くため「サブスクリプションボックス」という呼称も)も、様々なカテゴリーのものが生まれました。

化粧品やワイン、花、肉のサブスクリプションなど、もはや見つからないカテゴリーなど存在しないのではないかというほどサービスの範囲は広がっています。

米国に拠点を置き、サブスクリプションビジネス用のSaaSを提供しているZuoraの調査「Subscription Economy Index」によれば、世界数百社が展開するサブスクリプション事業の成長率は2012年1月から2017年9月までの間で年率17.6%。これは1株あたりの売上高で米国小売業の5倍、S&P 500(※)の8倍にものぼります。

※S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスが定める米国の代表的な株価指数

サブスクリプションコマースで成功するためのキーワード

そして近年登場したサブスクリプションコマースには、かつての牛乳配達や新聞配達にはなかった、いくつかの新しい要素/視点が備わっています。

この要素を把握することは、なぜ今サブスクリプションコマースがあらゆるビジネスにおいて存在感を増しているのかを理解する一助になるでしょう。

キュレーション/編集要素

かつて、モノを買うということは、こだわりの有無に拘らず購入者が銘柄を指定することが常識でした。しかし、多くのサブスクリプションコマースが提供しているのは「何が届くかは箱を開けてからのお楽しみ」というワクワク感です。

これは、ワインや日本酒、花など、銘柄に拘らずカテゴリー全体をこよなく愛しているという消費者がいる場合に成立しやすいと言えるでしょう。ここで大切になってくるのは、サービスを提供する事業者の「キュレーター/編集者」としての信頼感です。

毎月届けられるプロダクトのセンスがいい(=自分の好みに合致するという意味で)、届けられたプロダクトの品質がいつも素晴らしい、自分の知らないことを教えてくれる、あるいは、自分が知っているプロダクトであっても、その新たな一面を見いだすことができる情報を一緒に届けてくれる、そのおかげで、そのカテゴリーのことがもっと好きになる——ただ単にプロダクトを届けるだけでなく、このようなプラスαの価値を継続的に提供し続けることで、消費者との関係を構築していくことこそがサブスクリプションコマースの肝です。消費者にとってはまさに、お気に入りの雑誌を定期購読するのと同じ感覚と言えるでしょう。

そのためにはターゲットにするペルソナを徹底的に磨き込み、取り扱うプロダクトよりも、まずブランドの世界観そのものを好きになってもらうことが成功への近道です。

例えば、この世界観の構築が素晴らしいのが「My Little Box」です。特定のカテゴリーではなく、“日常にきらめきを与える”というコンセプトに基づいてキュレーションされたコスメやアクセサリー、雑貨が毎月届くサブスクリプションコマースで、プロダクトだけでなく、パリで活躍するイラストレーターkanakoさんのイラストで彩ったボックスをはじめ、「My Little Box」という世界観そのものに魅了されたファンがたくさん付いているのが強みとなっています。

消費者に好きになってもらう世界観の構築という意味では、インフルエンサーの活用もサブスクリプションコマースとは非常に相性がいいと言えるのではないでしょうか。

https://www.mylittlebox.jp/


消費しない必需品

「定期購入」という特性上、サブスクリプションコマースで扱うプロダクトとしては、コスメや食品、あるいは雑誌(変わったところではカミソリ)など、消費することを前提としたものが相性がいいのは間違いありません。

しかし、近年では必ずしも消費することを前提としないプロダクトを扱うサブスクリプションコマースも増えています。その代表が、アパレル系のサブスクリプションでしょう。

かつては洋服は購入し、所有するものと考えるのが常識でしたが、シェアリングエコノミーが自然と身についているミレニアルズ以降の世代にとって、洋服はもはや所有するものではありません。

そこに目をつけて登場したのが、エアクロやメチャカリなど、洋服レンタル系、そしてairRoomやSubscLife、CLASといった家具レンタル系のサブスクリプションです。これらのサービスは、ミニマルでサステナブルな生活にポジティブなイメージを抱く層に絶大な支持を受けやすいと考えられます。

アパレルや家具に限らず、「消費しない必需品」をキーワードに探ると、新たなビジネスチャンスに結びつくものが見えてくるかもしれませんね。

「必需品」という視点では、災害備蓄用品が半年に1回届くサブスクリプションを展開していたyamoryなどは目の付けどころが素晴らしいサービスでしたが、現在は全面リニューアルのためサービス停止状態となっています。

パーソナライズ要素

テクノロジーが圧倒的に進化し、様々なデバイスがIoT化していくこれからの時代で存在感を増していくのが「あなただけのプロダクト」を実現するサブスクリプションコマースでしょう。

これをいち早く実用化しているのが、資生堂が提供するOputuneです。このサービスは、会員登録すると化粧水の原材料となるカートリッジ5本と専用の化粧水製造マシンが届きます。ユーザーは専用のアプリをスマホにDLし、アプリを通じて毎朝自分の肌の状態を測定すると、その日の気象状況なども織り込んだ上で、その日のユーザーにぴったりのスキンケアパターンを弾き出してくれます。そして、そのデータが瞬時にマシンに連携され、スキンケアコスメが自動生成されて抽出されるのです。

これは、まさにAIとIoTをフル活用しプロダクトをパーソナライズ化させる、“半歩未来”のサブスクリプションコマースと言えるのではないでしょうか。

今後伸びるのは「パーソナライズ要素」を掛け合わせたサブスクリプションコマース?

アリババの創業者、ジャック・マーが提唱する「ニューリテール2.0」では、これからは5分間で2000個の同じプロダクトを作るより、5分間で2000種類の異なるプロダクトを作ることが重要になる時代と言われています。

そのことに鑑みても、今後大きなポテンシャルを秘めているのはパーソナライズ要素を掛け合わせたサブスクリプションコマースでしょう。

例えば、食品などはまだ生鮮食品自体のEC化率が高くないブルーオーシャンであり、そこにAIや、IoT化した冷蔵庫などを絡ませることでパーソナライズ要素(足りなくなったストック食品が自動的に届く、好みのメニューを自動判別して、毎日そのレシピに必要な新鮮食材が自動的に届くなど)を掛け合わせたサブスクリプションコマースが実現できたら、こんなにワクワクすることはありません。

このパーソナライズという要素を掛け合わせることで、すでにサブスクリプション化が当たり前になっているカテゴリーでの差別化も(今の所は)可能です。

2014年ごろ、「一万円選書」というサービスで北海道の「いわた書店」がブレイクしましたが、このようなサービスをテクノロジーで実現するサブスクリプションコマースが、近い未来、次々と登場してくるのではないでしょうか。