自社にとって有効なDXを構築する思考法「DXソリューションマップ」のススメ
様々なソリューションツールが世の中に溢れている昨今、デジタルトランスフォーメーション(以下DX)の名の下に、それらをピンポイントで導入したはいいけれど、今ひとつ効果を感じられなかったり、部署ごとにバラバラの施策を推進したことでオペレーションが複雑になってしまったといった失敗談は枚挙にいとまがありません。
本稿では、そんなモヤっとした状態を避け、DXのパフォーマンス最大化を図るための思考法、「DXソリューションマップ」をご紹介します。
目次:
- DXの全体像を把握し、自社に必要なソリューションを棚卸しするための思考法
- DXソリューションとは
- 「購買」を中心に据えることから始める
- DXは必ず二要素以上のソリューションが絡んでくる
- DXソリューションマップの作り方
- ソリューションを選ぶ根拠が明確になるロジックツリー
- POSやECそのものを刷新する必要がある場合にも活用できる
- さいごに
DXの全体像を把握し、自社に必要なソリューションを棚卸しするための思考法
「DXソリューションマップ」は株式会社エスキュービズムが推奨している、流通小売業に特化したDXの思考法です。思考法というと少々大げさに聞こえますが、エスキュービズムは常にこの視点を持ってコンサルティングや提案を行なうという、考え方の基本となっています。自社のDXを俯瞰した視点で捉え、実現したいことを棚卸しし、それを関係者全員の共通認識にする必要がある際に非常に役立ちます。
経営者の立場ならまだしも、現場の担当者は往々にして視野狭窄な状態に陥りがちなため、まずはDXソリューションマップで、自社のDXにおいてやるべきことは何かという全体像を明らかにすることで、全体の進行や決裁を取るための資料作成がスムーズになると思います。
もし、DXを推進するにあたって全体像をうまく描けなかったり、企業内で共通認識が形成できていないと感じる場合は、この思考法を実践することが解決の糸口になるかもしれません。
DXソリューションとは
DXソリューションとは、企業課題を解決するためにDX(デジタルトランスフォーメーション)化を図り、取得できたデータを事業に役立て還元していくことをいいます。企業がDX人材を採用し、全社的にDXを推進していくことも重要なDXソリューションの事例となり得ます。
「購買」を中心に据えることから始める
まずは、このDXソリューションマップの存在意義、コンセプトについてお話ししておきます。
DXを実行する際、経営課題からブレイクダウンされた具体策だけが下りてくるケースが多々あります。例えば、「AIチャットを導入せよ」「セルフレジを導入せよ」といった感じですね。
すると何が起きるかというと、具体策を振られた担当部署では、その領域だけを見てしまい、DXの全体像が見えなくなってしまう、いわゆる「木を見て森を見ず」状態に陥ってしまいがちです。これは、企業の規模が大きくなればなるほど顕著に現れる傾向です。
しかし、流通小売業である以上、具体的なソリューションは必ず「購買」というアクションにつながっているはずです。
DXは必ず二要素以上のソリューションが絡んでくる
そして、ここが大切なところなのですが、本質的なDXを実行しようとする場合、購買を中心に少なくとも二要素以上のソリューションが絡んでくる場合がほとんどなのです。
例1:BIツールを導入する場合
例えばBIツールを導入するとします。その際BIツールが本領を発揮するために、現状のECとPOSがバラバラになってしまっているのであれば統合して見られるようにするべきだし、さらに時代に即したDXを実現するのであれば、そこにIoTとビーコンを導入して店内動線判定を可能にすることでBIの情報をさらに充実させる、ということまで考えを広げていく必要があります。
もし、一部領域のみでソリューションツールを導入するだけのDXになってしまうと、そのソリューションツールのスペックを最大限活かしきれなくなるというリスクがあります。決して小さくないコストを投資してDXを実行するのであれば、その投資対効果を最大化することを考えるべきでしょう。
例2:決済の後払い化を実現する場合
もう一つ例を挙げます。
決済の後払い化を実現したいという場合、当然それは購買に直結したソリューションです。「顧客の買い物にまつわる“面倒臭い”を究極まで取り除く」という購買体験の構築が目的だとすると、それは当然決済の後払い化単体で実現できることではなく、購買というアクションに繋がる別のソリューションが複数必要になってくるはずです。
一部領域だけにしか目配りができていないと、大抵、後から「あれもやればよかった、こうするべきだった」ということが芋づる式に出てくるものです。
DXソリューションマップの作り方
DXソリューションマップの作り方はとてもシンプルで簡単なものです。以下でその方法を図とともに説明します。
1: 中心に「購買」を置く
まず、真ん中に「購買」を据えます。これは店舗であればPOS、ECサイトであればECのシステムを表します。
2: 周辺にソリューションキーワードを配置
次に、「購買」を取り囲むようにソリューションキーワード[1]を配置しましょう。このレイヤーのキーワードは、「AI」や「IoT」「省人化」など、いわゆるDXソリューションの大分類にあたります。ここに入れるキーワードに正解、不正解はありません。日頃からのインプットが必要になりますが、自社のDXでそれをやるかどうかは気にせず、今、業界内で話題になっているキーワードを思いつく限り置いていくと良いです。
3: ブレイクダウンしたキーワードを配置
ソリューションキーワード[1]の周囲には、それぞれのキーワードをさらにブレイクダウンしたソリューションキーワード[2]を配置していきます。このワードは、それぞれが具体的な解決策です。ツールやサービスなど、すでにアウトプットとして世の中に存在するものをイメージしながら進めるとやりやすいでしょう。
稀に、まだ世の中に実例がない、独自のソリューションが必要なケースも出てくるかもしれません。その場合は、自分なりに言語化して関連するソリューションキーワード[1]に紐づけておけば問題ありません。
この作業をする際は、自社で実現すべきDXに照らし合わせて、一旦全てのソリューションキーワード[1]に対してソリューションキーワード[2]を配置することを試みてみることが最大のポイントです。
このマップに具体的なソリューションを落とし込んでいく過程で視野が広がるだけでなく、思考が整理されることで、一見、自社のDXとは無関係だと思っていた領域でも必要なソリューション(あるいは仕組みの構築)があることに気がつくことができます。
4: 自社で必要なソリューションをピックアップ
ソリューションを出し尽くしたら、マップ全体を眺めて、改めて自社で必要なソリューションをピックアップしてみましょう。その際、複数のソリューションが、購買というポイントを通じて関連づけられるストーリーを思い浮かべながら作業することが大切です。「購買」というポイントを中心に据えてDXの全体像を眺めながら棚卸しすることで、本当に必要なことが見極めやすくなるからです。
DXソリューションマップの作成作業はここまでです。出来上がったマップは、プロジェクトメンバー間で共有し、抜け漏れがないか、あるいは個人では気づけなかったソリューションを追加することなどにも活用できます。
繰り返しになりますが、これはあくまで思考法であり、一般的な正解というものはありません。ピックアップすべきソリューションキーワードは、業種業態やトレンドの変化によって時代とともに変わってきます。もっと言えば、企業の数だけ正解があるのだ、ということは念頭に置いておく必要があるでしょう。
ソリューションを選ぶ根拠が明確になるロジックツリー
中には、ソリューションキーワードを満遍なく置いて行くこと自体が難しい、という方がいるかもしれません。その場合は、経営課題からのロジックツリーを作成することで、自社に必要なソリューションに目星を付ける、というやり方もあります。
1:経営課題からブレイクダウンする
基本的に経営課題の多くは、利益を伸ばすことがKPIになります。利益を伸ばす方法は「仕入額を下げる」と「売上を伸ばす」の二方向になります。
2:自社にとって有効なソリューションを書き出す
第3層には、仕入額を下げるためのソリューション、売上を伸ばすためのソリューションを、それぞれ思いつく限りぶら下げていきます。この場合は、「自社にとって有効な」という視点で書き出すのがポイントになります。
3:自社にとって有効なソリューションを書き出す
第4層として、さらに具体的なソリューションにブレイクダウンしたものをぶら下げていきます。ここが、DXソリューションマップのソリューションキーワード[2]に該当するワードです。
この作業によって体系立てて自社にとって有効なソリューションに目星を付けることが可能になります。そして、そこで書き出されたソリューションをDXソリューションマップの一番外側に当てはめることで、DXの全体像を把握しやすくなるでしょう。
加えて、経営課題からブレイクダウンするというプロセスを経ることで、それぞれのソリューションをピックアップする根拠を明確にすることができます。
POSやECそのものを刷新する必要がある場合にも活用できる
DXを推進する際、マップの一番外側にあるソリューションだけでなく、それらのソリューションを実現するために、中心に来る購買を司るPOSやECのシステムそのものを刷新しなくてはならないケースも多々あります。
しかし、特にPOSシステムに関しては、刷新の必要性が認識されづらいという特性を持っています。なぜなら、前述したブレイクダウンツリーに当てはめようとしても、POSは利益に直接寄与することができず、DXに必要なソリューションではなく、単なる「設備」として捉えられがちだからです。
すると、利益に寄与することが想像しやすいソリューションツールには予算が付くのに、POSには予算が付かない、ということが起きるのです。
例えばDXの本質を理解するリテラシーを持たない人物が決裁者だった場合、「保守期間が終了する」といった、分かりやすくハード的な刷新理由がない限り、「今回は変更の必要なし」と、優先度を下げた判断をされてしまったりするという事態に陥ります。
しかし、ソリューションツールだけを導入しても、POSやECサイト自体が古いままだと、本質的な解決にはならないのは明白です。
POS(やEC)はそれ単体で成り立っている設備ではなく、全てのソリューションに繋がる心臓部であること、導入したいソリューションの効果を最大化するためにも、POS(やEC)自体の刷新が必須であることを決裁者に理解させたい場合にも、DXソリューションマップの存在によって、説明資料の作成などが一段とスムーズになるのではないでしょうか。
さいごに
ここまでの内容は購買を中心とした『エスキュービズム的』なDXソリューションマップの考え方ではあります。しかし、弊社を選択いただいたお客様からよくいただく言葉として、「未来像を見せてもらった」「相談した内容を超えた提案をしてもらえた」といったものがあります。
これは、冒頭で述べたように、どんな形でご相談をいただいたとしても必ずDXソリューションマップを描き、全体像を捉えた上で提案に臨んでいるからに他なりません。
この思考法は、日々繰り返し実践することで、常に半歩先を見据えた変革のイメージを鮮明にしておくことができるようになります。また、対社内だけでなく、各ソリューションベンダーに対するRFPを作成する際や、複数社が一堂に会するプロジェクトをスムーズに進行するための共通認識形成などにも活用できますので、ぜひ、日々の業務の中で習慣化することをオススメします。