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事例からみるチャットコマース:ECからCC元年へ


FacebookメッセンジャーやLINEといったチャットアプリを活用し、チャットボットが消費者に対して最適なレコメンドや販売をおこなう「チャットコマース」が注目されています。
アクティブユーザー数の多いチャットアプリは、世界的に市場として熱い視線を注がれている存在。AIが消費者とチャットでコミュニケーションをとることで、まるで実店舗のような自由度の高い接客を実現したり、ECでは販売しにくい商品、サービスをセールスできることが期待されています。本記事では、チャットコマースの概要と国内外の事例についてまとめています。実際の導入事例を見ながら、チャットコマース元年といわれる昨今のチャットコマース事情について考えてみましょう。






目次:





チャットコマース(CC:会話型コマース)とは



チャットコマースは、Facebook MessengerアプリやLINEを使って、消費者が企業のAIとコミュニケーションを取りながらモノやサービスを購入する新しい販売スタイルです。
英語ではConversational Commerce(カンバセーショナル・コマース)といい、「CC」と表記されます。
これまで、商品の魅力を画像で伝えにくいアイテムや、接客での説明をほぼ必須とするサービスなどはECでの販売に向かず、実店舗のみしか展開できないと考えられていました。
しかし、チャットボットを利用したチャットコマースのよって、オンラインでも実店舗のような接客が可能になりました。日本ではまだそれほど一般的ではないかもしれませんが、すでに海外では「ECに変わるCC」として注目されています。また、国内でもユーザー個人に寄り添う購買体験の提供ツールとして、さまざまな可能性を模索している企業が増えつつあります。



APIのオープン化がチャットコマース普及のカギ



チャットコマースという新しい手法が普及しはじめている理由のひとつに、APIのオープン化があります。
APIとは、あるプログラム(ここではメッセンジャー機能やデータ)を外部の別プログラムから呼び出して利用する手順を定めた規約のことです。つまり、APIが公開されると、そのプログラムを活用する新しいシステムやツールが開発できるようになります。
2016年に、FacebookとLINEがメッセンジャーのAPIをオープン化したことで、次々と企業が参加し、チャットの利便性が高められていきました。



チャットアプリユーザーの増加もチャットコマースを後押し



チャットアプリを使う人口が爆発的に増加していることも、チャットコマース誕生の背景にあります。
2017年以前はSNSの方が優勢でしたが、現在では、全世界的にSNSのアクティブユーザー数よりもチャットアプリを使うアクティブユーザー数の方が多いというデータがあります。
また、この差は今後も広がっていくのではないかという見方もされています。



国内に目を向けると、LINEの月間アクティブユーザーは2020年9月の時点で8, 600万人以上とされています。当初は10代を中心とした若者のツールだった印象のあるLINEですが、グループチャット機能などの充実によって家族間のコミュニケーションツールとして、サークルやシフト管理の連絡網として活用されている例も多く、その利用者層は年々広がっています。



以前は、SNSを活用したマーケティングやSNSページから遷移することなく購入できるECの手法が盛んに展開されていましたが、トレンドは徐々にSNSからチャットアプリに移っているといえるでしょう。事実、中国の大手チャットアプリ「WeChat」には現在すでにチャットボットが800万以上稼働しているといわれています。



サードパーティCookieの影響を受けないリターゲティング施策



サードパーティCookieのサポートが2023年に廃止される予定(当初の予定よりも延期)となっており、多くのWebサイトで既に利用規制が始まっています。これにより、広告やサードパーティCookieを利用したリターゲティング施策などが大きな影響を受けています。



LINEなどのチャットツールであれば、サードパーティCookieに影響されずリターゲティング施策を実施することが可能です。チャットコマースはこれからのリターゲティング施策としても非常に有効といえます。



チャットコマースなら長期的なコミュニケーションも可能に



チャットアプリは、多くのユーザーの生活に密着しているため継続的なコミュニケーションを実施できる点も、チャットコマースにおける利点のひとつです。セールスレターやメールとは違って、ユーザーと密なコンタクトをとることができ、ブロックされない限りはメッセージを送ることができます。
世界は大量生産、大量消費といった過去の販売モデルから脱却して久しく、ユーザーひとりひとりのニーズに合わせた売り方の確立が叫ばれています。チャットコマースは、その実現における最適なツールのひとつといえるでしょう。短期的なセールスだけでなく、長期的なコミュニケーションを通じて継続的な売上を構築していくことも期待されています。



チャットコマースの海外事例



では、実際に企業がおこなっているチャットコマースについて見てみましょう。まずは海外の事例からです。



店頭の接客をチャット上でも「H&M」



ファストファッションブランドの「H&M」は、海外向けに、チャット上で実店舗と同じような接客が受けられるシステムを顧客に提供しています。
H&Mの登録ユーザーは、趣味や好みをチャットのやりとりでヒアリングされ、そのライフスタイルに合致するコーディネートを知ることができます。
これは、実店舗と同じような接客をオンライン上でも求める顧客だけでなく、実店舗で接客されるのは苦手だがファッションについてアドバイスをもらいたいと考えている顧客にも喜ばれるサービスといえるかもしれません。



WeChat内のメンバープログラムを展開「Nike」



Nike(ナイキ)は、中国の大手チャットアプリWeChat内で、世界初となるNikeメンバープログラムを立ち上げています。
「NikePlusメンバー」としてユーザー登録すると、人気モデルやメンバーのみしか手に入れることのできない上級モデルのアイテムを購入できるようになります。また、WeChatに組み込まれたメンバーの認定QRコードを実店舗に提示すると、特別な体験を受けられることも。チャットアプリを通して、ファンクラブのようなシステムと体験をユーザーに提供しています。



・Nike Wechat Mini Program
https://www.digitas.com/en-cn/work/nike-wechat-mini-program



コレクションの詳細をチャットでチェック「バーバリー」



英国の老舗ブランド「バーバリー」は、Facebook Messengerでチャットボットを運営しています。
ユーザーは、ショッピングのほか、コレクションの詳細情報を見たり季節ごとのプロモーションを体験したりできるようになっています。



・Burberry Bot



https://www.chatbotguide.org/burberry-bot




チャットでデリバリー注文「ピザハット」



ピザハットは、Facebook MessengerとTwitterメッセンジャーでチャットを開設しています。チャットでの注文ができるほか、よくある質問に対する回答や最新のプロモーションも展開。ほしい情報が会話の中で得られるようになっています。



・Pizza Hut Bot



https://www.chatbotguide.org/pizzahut-bot




チャットコマースの国内事例



次に、国内におけるLINEの公式アカウントなどを使った事例を見ていきましょう。



チャットと実店舗のOMO的連携「キレイモ」



全身脱毛サロン「キレイモ」は、チャットコマースと実店舗をOMO施策として導入しています。
OMO(Online Merges Offline)は、オンラインとオフラインの境界線をなくすという考え方で、2017年にGoogle中国の元CEOリ・カイフが提唱して以来、世界に波及している考え方です。この考え方以前には、オンラインはオンライン、オフライン(実店舗)はオフラインと分けて施策を講じたりシステムを整備することが当たり前でしたが、OMOというコンセプトが一般的になった今では、いかにオン/オフを区別することなくシームレスにするかが重要になっています。



「キレイモ」は、LINE公式アカウントのチャットで脱毛に関連する悩みや予算、ユーザーの名前をヒアリングし、来店予約までをチャット上で受け付けしています。
その後、ヒアリングした顧客情報を各店舗のCRM(顧客関係管理)に連携させ、実際に施術、接客をするスタッフと共有します。
その後、今度は接客を実施した店舗からチャットコマースにフィードバックがおこなわれ、それが次のチャット上でのコミュニケーションに役立てられるという仕組みが構築されています。
このシステムにより、店舗でヒアリングに充当していた時間は約半分に短縮。事前にチャットで相談できることで顧客の来店に対するハードルも下がり、接客体験の質向上がみられると発表されています。



・キレイモ



https://kireimo.jp/




チャットでヒアリングファーストを実現「バルクオム」



洗顔料や化粧品といったメンズスキンケア品の企画・販売をおこなう株式会社BULK HOMME(バルクオム)は、LINEインフィード広告(フィード中のコンテンツとコンテンツの間に挿入されるタイプの広告)の効果を高めるために、2019年3月からチャットコマースを導入しています。
チャットの会話で顧客の肌の悩みを聞き取り、悩みに合わせたスキンケアをレコメンドする「ヒアリングファースト」を徹底。一律的なレコメンドではなく、個人情報を活用してひとりひとりに最適な商品をオススメすることでCPA(アクションあたりの費用)は257%まで改善されたと発表されています。また、チャットから得た情報をベースにしたPush配信によって、1回の会話で購買に至らなかった顧客に対して再び購入を促すシステムも構築しています。



・BULK HOMME



https://company.bulk.co.jp/




フードメニューを簡単検索「LINEデリマ」



日本最大級のフードデリバリー「出前館」とLINEが提携している「LINEデリマ」は、チャットコマースを活用したフードメニュー検索を実装しています。
公式アカウントのトークルームでピザ、寿司、カレー、ケータリング、お酒など食べたいメニューをメッセージすると現在地情報を確認し、全国14,000店の中から自動的に近い店舗をピックアップし、レコメンドしてくれるようになっています。
例えば、「ピザ」とメッセージを送ると、今いる場所に近いデリバリーピザの店舗が表示され、その候補から好きな店舗を選んで注文できるというわけです。こうしたレコメンド機能だけでなく、クーポンやお得なキャンペーンをPush通信でユーザーに知らせており、支持を集めています。



・LINE公式ブログ「LINEデリマ」



https://delima.line.me/




LINEチャットで業務効率化「ヤマト運輸」



ヤマト運輸では、LINEのチャットで配送状況の確認や、配達日時指定、受け取り場所の変更などを設定できるサービスを提供しています。配達前の指定が可能なため、再配達の削減ができ、さらにドライバーの業務効率化が可能となりました。
チャット「コマース」とは異なりますが、LINEチャットの活用方法と課題解決例としては非常に有効な事例ではないでしょうか。



https://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/campaign/renkei/LINE/




チャットコマース の未来には対面の同等の接客体験がある



これまで、メルマガやECサイト内のキャンペーン通知などは、企業から消費者への一方通行になりがちで、ユーザーの嗜好や選択に即した接客が実現可能な実店舗における対応と比較すると画一的になりがちというデメリットがありました。
しかし、チャットコマースであれば、ユーザー個人の好みや悩みをヒアリングすることでその人に合った商品やサービスを体系的にレコメンドすることが可能になります。レコメンドの情報が蓄積されれば、数千人、数万人単位の顧客個人個人に合った長期的なプロモーションも実現できるでしょう。AI技術やチャットコマースの手法が進化していけば、実店舗により近い、あるいは実店舗の接客を超える購買体験の提供が実現する可能性もあります。



さいごに



チャットコマースは、海外と比較すると国内での認知度が低い傾向があり、未知のサービスのように感じられるかもしれません。しかし、スマホの登場から数年でその普及率は爆発的に上がっていき、LINEやFacebook Messengerといったチャットツールも認知度、利用率が加速度的にアップしています。
こうした背景を考えるならば、チャットコマースも次第に、そして急速に消費者の購買行動の重要な選択肢のひとつとして認知されていくのではないでしょうか。