「パルス型消費行動」を把握しECに即効性のある施策を!
最近、マーケティングに関わる人々の間で度々話題になっているのが「パルス消費」という言葉です。
これは、Googleの日本法人であるグーグル合同会社が2019年に実施した、デジタル化に伴う近年の生活者に関する独自調査の結果に基づいて、同社が新たに提唱する消費行動モデルです。
スマートフォンが多くの生活者にとって絶対的な行動起点となっている今、この「パルス消費」について知っておくことは、特にECサイトの効果的な運営に即効性のある改善あるいは施策を打ち出すのに大いに役立つでしょう。
目次:
- ある3つの買物行動パターン
- 6つの直感センサー
- 8つの検索動機と「バタフライ サーキット」
- 「パルス型消費行動」は決して今に始まったことではない?
- 「〇〇 x Commerce」(クロスコマース)を意識する
- リアル店舗は最も「パルス」を引き起こしやすい
- さいごに
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ある3つの買物行動パターン
今時の生活者のリアルな消費マインドおよび消費行動はどうなっているのでしょうか。
スマートフォンの普及によって、買物をするのに時間的空間的制限から解放され、人々のライフスタイルが多様化している以上、それらも同様に多様化していように思えます。それも、無数のパターンに枝分かれするほどに。
しかし、グーグルは徹底的な独自調査の結果、ある程度、あらゆる生活者に共通する3つの買物行動パターンを見出しています。
買物行動への影響
1:今、人々は買う瞬間まで知らなかった名前の商品を買うことに躊躇しなくなってきている
2:今、人々は何かを買うためにお店やECサイトに行く時点で、具体的にどの商品を買うかまだ決めていないことが多い
3:今、人々は暇つぶしにスマホを眺めているときに、偶然知った商品をその場で買うことに躊躇しなくなってきている
(出典:「Think with Google 買いたくなるを引き出すために – パルス消費を捉えるヒント」)
そしてグーグルは、上記のような買物行動を「パルス型消費行動」と名付けました。
一見、これらの行動パターンはいわゆる“衝動買い”のようにも見えますが、グーグルによれば、パルス型消費行動が誘発されるのは「日常的に消費する商品に対して」であり、衝動買いとは一線を画した消費行動だと言えるとのことです。
注意しなければならないのは、これらの行動が、趣味的な商品に対する非日常的な買物行動ではなく、日常的に消費する商品に対して行われている点です。その意味で、従来型の「衝動買い」とは一線を画した消費行動だと言えます。
(出典:「Think with Google 買いたくなるを引き出すために – パルス消費を捉えるヒント」)
パルス型消費行動において特徴的なのは、購買に至った商品をサーチしたり、何かを買おうと考えてスマートフォンをいじっている訳ではない状態で、それが起きる、という点にあります。
何の気なしにSNSを眺めていたり、自身のライフスタイルを充実させるための情報を検索している中で間接的に目に入った情報によって瞬間的に購買意欲が刺激され、その刺激がある閾値を超えると購買に至る——“パルス”とはまさに言い得て妙です。
6つの直感センサー
では、何が生活者のパルスを誘発するのかが気になります。それを意図的にコントロールできれば即売上に繋げられる訳ですから。
グーグルによれば、それは生活者が持つ以下の6種類の“直感センサー”によって誘発されるとしています。
- Safety:より安心安全なものに反応する
- For me:より自分にぴったりだと思うものに反応する
- Cost save:よりお得なものに反応する
- Follow:売れているものや第三者が推奨するものに反応する
- Adventure:知らなかったものや興味をそそるものに反応する
- Power save:買物の労力を減らせることに反応する
こうして見ると、誰にでもこれらのセンサーが反応した経験は身に覚えがあり、「確かに」と納得できるものだと思います。
これらのセンサーは常に同じのものが反応する訳ではなく、同じ人物の中でも状況や対象商品に応じて反応するものが変わります。例えばいつもは「Cost save」センサーが反応しやすい人であっても、対象商品が我が子に与える離乳食となると、「Safety」センサーとなる可能性は大いにあるでしょう。
そして、この直感センサーを一つずつ意識するだけでも、いくつかの具体策を思いつくことができます。「Follow」センサーを反応させようと思うなら、適切なインフルエンサーマーケティングが有効かもしれませんし、「Power save」センサーは、一連の購買システムの利便性を追求することが有効でしょう。
もちろん、どれか一部だけに注力するのではなく、自社で扱う商品とターゲットに定めたペルソナをよく理解し、全方位的に対策を立てる必要はありますが、直感センサーの横に施策アイデアを思いつく限り書き出していくなど、フレームワークの一環として活用するのもアリだと思います。
8つの検索動機と「バタフライ サーキット」
もう一つ、スマートフォンを行動起点としている生活者に相対するにあたり、必ず意識しておくべきことの一つに、人々の検索行動に対する理解が挙げられます。グーグルは、これについても現代人の検索動機を以下の8つに分類して掲げています。
情報探索を掻き立てる8つの動機
1、気晴らしさせて「へー」
関心があるものに対して情報収集自体を楽しみたい検索動機
2、学ばせて「ふむふむ」
今まで知らなかっとことに対して、網羅的に知識を蓄積したい検索動機
3、みんなの教えて「そんな感じか」
世間や周りの人が選んでいる商品・サービスを把握したい検索動機
4、ニンマリさせて「うしし」
一般的にはなっていない知る人ぞ知る商品・サービスを知りたい検索動機
5、納得させて「なるほどね」
自分の今持っている考えが本当に正しいものなのか確認したい検索動機
6、解決させて「はいはい」
具体的な方法や手段が分からない時に、今すぐ役立つ答えを手に入れたい検索動機
7、心づもりさせて「やっぱりか」
商品・サービスにあとでがっかりしないように、あらかじめ期待値を下げておきたい検索動機
8、答え合わせさせて「ですよね」
商品・サービスについて、自分の選択が間違っていないと思い込みたい検索動機
(出典:「Think with Google 買いたくなるを引き出すために – パルス消費を捉えるヒント」)
さらに、グーグルは《1》~《4》を「さぐる」ための検索動機、《5》~《8》を「かためる」ための検索動機と分類し、人々は「さぐる」から検索を始めて徐々に「かためる」へと綺麗に流れていくのではなく、「さぐる」と「かためる」を不規則に行ったり来たりしながら、ある点で突然購買行動を起こすと述べており、この「行ったり来たり」という検索行動にも「バタフライ サーキット」という名前を付けています。
「直感センサー」と同様、この「バタフライ サーキット」もある種のフレームワークとして活用できると思います。特に、ECへの流入や、流入後のアシストコンバージョンなどを意識しながら、関連商品の提示の仕方や、オウンドメディアのコンテンツ設計などの足がかりにするのに有効なのではないでしょうか。
「パルス型消費行動」は決して今に始まったことではない?
グーグルは、パルス型消費行動を、“従来のような、ある程度時間をかけて買いたい気持ちを醸成させる「ジャーニー型消費行動」とは区別すべき”としています。
確かに、大局を見れば、時代とともに人々の消費行動は大きく変わって来ています。しかし、それではスマートフォンがなかった時代にパルスは起きなかったのか、と言えばそれは違うでしょう。昔から、人間には同様な直感センサーが備わっていたし、理屈抜きでそれが誘発され、店頭で初めて見たものや、人から聞いたものを調べもせずに買うという行動はあったと思います。
特に、「バタフライ サーキット」に関して言えば、検索行動自体はなかったものの、人に尋ねたり、新聞や雑誌で情報収集したり、店頭に確かめに行ったり、時間と労力はかかるものの、マーケティングファネルで言う所の「比較検討」フェーズで、それを行なっていたと言えるでしょう。
したがって、あまり「ジャーニー型はもう古い!これからはパルス型だ!」と考えるのではなく、あくまで大局観を持って捉える必要があると思います。
とは言え、スマートフォンが人々の行動起点であり続ける以上、実際に「パルス型消費行動」を誘発しやすい「仕掛け」を作っておくことは可能ですし、突き詰めれば、それを意識することこそ、いわゆる「OMO化」へと繋がるとも言えます。
その時に重要なのは、顧客との接点をいかに増やせるか、ということです。
「〇〇 x Commerce」(クロスコマース)を意識する
かつては、パルスが発生した瞬間に購買手段を提供できるのは店頭、あるいはテレビショッピングだけでした。しかし、オンラインオフラインの垣根なく、全てがデジタルで繋がり、人々の行動起点にスマホがある現代では、あらゆる体験を即購買に結びつけることができます。
つまり、パルスを誘発する体験を、いかに多く用意できるかがこれからの小売業に求められている価値とも言えます。例えば、ブランドのアカウントで発信するSNS上にアップする画像や動画でパルスを誘発し、それをそのまま購買に結びつけたり、ファッションイベントでステージのモデルが着ている洋服を「欲しい!」と思った瞬間にプッシュ通知が届き、購買手段を提供する、etc——これがエスキュービズムが提唱している「〇〇 x Commerce」(クロスコマース)という考え方です。
どんな形であれ、スマホが行動起点となっている限り、購買手段の提供はEC機能との連携になりますから、その仕組みの開発をいかに進められるか、というのは、未来型の小売業には必須の課題になってくるかもしれません。
リアル店舗は最も「パルス」を引き起こしやすい
OMOの時代、リアル店舗は最もパルス型消費行動を誘発しやすい場である、と捉えるべきでしょう。すでに述べたとおり、昔から店頭は衝動買いを可能にする数少ない場であったわけですし、現代ではそこにデジタルという強力な武器が備わっています。
仮に、店舗を訪れた人間がその場で商品を購入しなかったとしても、今話題のb8taのように顧客の店内行動データを取得できる環境を用意できれば、その分析結果から、最適なクーポンをプッシュしたり、確実にその顧客の「パルスが振れる」関連商品をプッシュすることも可能になってくるはずです。
さいごに
どうやれば「パルス」が誘発できるかを想像しながら、顧客と商品の接点を思いつく限り書き出し、その中で優先度をつけながら施策を実現していくというマーケティングの仕掛け方自体は、昔から形を変えながら連綿と行われてきたある意味で「王道」とも言えます。
しかし、より時代に即した施策を可能にするためには、やはりどの接点でも顧客を1IDで見ることができる統合データベースの構築を含め、根本的なインフラの整備が必要になってくるのもまた事実です。
パルス型消費行動を意識しながら、今すぐ実戦できる施策に取り組みつつ、未来に向けた投資も確実に行なっていくことが、全ての小売業にとって必要不可欠な取り組みなのではないでしょうか。