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EC・店舗の両方にWin-Win クロスショッピングは小売の定番へ


2020年3月下旬、Yahooの親会社となるZホールディングス(以下ZHD)とヤマトホールディングス(以下ヤマトHD)が業務提携に向けた基本合意書を締結しました。これは、ZHDの新たなコマース戦略として、「クロスショッピング」を提唱し、ECと実店舗の連携と物流・配送の強化を実現するためのものでした。



ZHDは、新型コロナウイルスが世界に蔓延するずっと以前から、小売業界に必要な機能として準備を進めていたわけですが、多くの小売企業がコロナ禍の煽りを受け、消費者の購買行動が根本的に変化する中で、ZHDの取った戦略は、あらゆる小売企業にとって参考にすべきものになったと言えます。



本稿では、ZHDのみならず、これからの小売企業が考えるべき「クロスショッピング」の在り方について考察していきます。



目次:





またしても新たなワードが…「クロスショッピング」とは?



ここでまず整理しておきたいのは、クロスショッピングという言葉です。小売業界に身を置く方からすれば、またしても覚えなくてはならない言葉が出てきた、という感覚になるかもしれません。



加えて、過去の情報を遡ってあたってみると、似たような言葉でありながら異なる意味合いを持つものも散見されます。したがって、まずはこれらの言葉について整理しておきたいと思います。



クロスショッピング



今回メインとなる、ZHDが提唱しているのがこの言葉です。正しくは「Xショッピング」と表記します。



これは、シンプルに言えば、これまでも再三その必要性、重要度が語られてきたオムニチャネルと同様のものです。特にZHDの「クロスショッピング」は、ヤマトHDとの提携ということもあり、物流の側面から見たオムニチャネル化、といったものになっています。



彼らの戦略の柱は主に3つで、1つ目がヤマトHDとの連携による新しい物流サービスの提供、2つ目が「PayPayモール」における、実店舗の在庫連携機能の提供、そして3つ目がYahoo!JAPANのショッピングシステム「XS(クロスショッピング)エンジン」の提供となっています。



特に2つ目の施策が、クロスショッピング、すなわちオムニチャネル化に直接関係しているところになります。従来店舗とEC別々に管理していた在庫を一元化し、EC上には出店ストアの実店舗在庫情報が表示されるので、利用者にとってはより幅広い在庫から欲しい商品を探すことができますし、もちろんEC上でその商品を購入して、必要に応じて最寄りの店頭で商品を受け取ることも可能です。



つまり、オンラインオフラインの区別なく、顧客はどちらのチャネルを活用しても、同じ情報に触れることができるし、一人の顧客として認識された上で、シームレスなサービスを受けることができるという、まさにオムニチャネルのコンセプトを体現したものになっているわけです。



企業側から見ても、クロスショッピングには多くのメリットがあります。販売機会の損失を減らすことができますし、ECで購入した商品の店頭受け取りを提供することによって、ナチュラルにO2Oを実現し、場合によっては顧客の「ついで買い」を誘発することも可能になっています。



“その他の”クロスショッピング



海外の小売業界に特化したメディアなどでは、「cross-shopping」とは、一度の買い物で近隣に固まる複数の実店舗に立ち寄って商品を購入する行為に対して使われることもあります。これは根本的に今回述べているクロスショッピングとは定義が異なりますのでご注意ください。



クロスチャネル・ショッピング



さらに、以前から使われていて紛らわしい言葉に「クロスチャネル・ショッピング」というものがあります。これは、かつて小売店が商品の専門性で分類されており、消費者も目的の商品ごとに店舗を選んで購買行動を起こしていたのに対し、近年では商品の専門性の境界線は曖昧になり(ドラッグストアで食料品を販売することなどがその一例)、消費者が商品の価格や品揃え、あるいは利便性などを基準にしてチャネルを選択し、購買行動を起こすことに対して使われる言葉になっています。



ECと店舗の融合が進むと向上する3つのこと



ZHDが提唱する「クロスショッピング」は、広義の意味でオムニチャネル化であると捉えられることは、前項の通りです。概念としては以前からその重要度が語られていたものの、実際にオムニチャネル化を高次元に実現できている企業はまだまだ少ない、というのが実情であり、その観点からZHDとヤマトHDの業務提携が業界に与えるインパクトは大きいと言えます。



では、改めて、オムニチャネル化によって得られる企業のベネフィットにはどのようなものがあるのでしょうか。



EC化率の向上



まず挙げられるのは、EC化率の向上です。ただでさえ、それは小売企業にとっての当面の課題のひとつだったわけですが、コロナ禍の影響により、EC化率の向上は今や急務の必須課題へと変わりつつあります。



もしオムニチャネル化を素早く実現できれば、自社のEC化率は確実に向上するでしょう。



たとえば、ホームセンターを全国に展開するコメリでは、2019年5月にニューリテール事業部を立ち上げて自社ECの「コメリドットコム」の利便性向上に取り組んでいます。施策は様々ですが、特に実店舗とECの連携を強化するアプリのリニューアルによって、近隣店舗の在庫確認はもちろん、取り置き注文やデジタルチラシの掲載など、チャネル間の行き来をよりしやすい機能の実装と改善に取り組んだ結果、2020年3月期に3.6%だったEC化率は、2021年3月期には4%への増加が見込まれています。


■特集:ECから考えるオムニチャネル・OMO■


顧客満足度の向上



オムニチャネル化を高次元に実現できれば、当然顧客の満足度は向上します。これは世代間でリテラシーの差などもある部分ですが、今やミレニアル世代より下の消費者などは、一度オムニチャネル化された購買を経験してしまえば、他店でそれが実現されていないサービスを受けると、それはすべてマイナスの購買体験として記憶されてしまうでしょう。



ついで買いによる売上向上



先述しましたが、たとえECサイトによって接点ができた顧客であっても、取り置きや店頭受け取りといったサービスや、顧客を1IDで認識した形でのO2O施策を実施することで、実店舗において「ついで買い」を誘発する可能性を高めることができるでしょう。



セレンディピティ(偶然の出会い)を演出することは、今のところECサイトには苦手な分野とされており、それこそが実店舗が存在するひとつの価値でもあります。実際に商品に触れられる店舗だからこそ、単に事務的に商品を受け取りに来ただけのつもりだった顧客の足を止めさせ、思ってもいなかった商品に興味を抱かせ、最終的にはアップセル、あるいはクロスセルを実現することも可能なのです。



クロスショッピング(=オムニチャネル)は、もはやこれからの小売の定番に



数は少なくても、既に高次元にこれを実現している小売企業がある以上、クロスショッピング(=オムニチャネル)はもはや、これからの小売企業にとって最低限整備されていることとして消費者からは期待される時代が来ています。



しかし、「言うは易し、行うは難し」であることも事実です。あらゆるシステムを統合して在庫や顧客の情報を一元管理しなくてはならないことはもちろん、顧客の要求にスムーズに応えるための物流の整備が不可欠だからです。



もし、発注された商品をスムーズに顧客に届けることができずトラブルが多発すれば、それはたちまち顧客から見放されてしまうリスクへと直結します。



したがって、クロスショッピングの実現においては、フロントエンドのUI/UXもさることながら、まず、強固で安定したバックエンドシステムの構築が最重要課題であると言えます。