世界的な消費トレンドの変化 ブランドが生き残るための施策とは
新型コロナウイルスが世界で猛威をふるいはじめて1年強、人々の生活はそのマインドとともに激変し、「ニューノーマル」と呼ばれる生活様式が定着しつつあります。それに伴う形で、人々の消費行動にも大きな変化が見られるのは当然のことでしょう。
そして、あらゆる企業にとって、変化した消費トレンドを汲み取り、それに素早く対応することは現状の最重要課題といっても過言ではありません。
本稿では、消費者のマインドや行動が、コロナ禍において実際どのように変化したのか、そしてそれに対応するためにブランドが採るべき施策は何かについて考察していきます。
【目次】
変化する消費者、企業の価値観
一口にコロナ禍における消費トレンド、といっても、実は、フェーズによってまったく状況が異なっている、という事について、企業としてはまず目を向けるべきかもしれません。
例えば、コロナ第一波では、誰にとっても未知のウイルスと遭遇したばかりという恐怖心や、最初の緊急事態宣言による緊張感などから、全体的な消費そのものが大きく落ち込んでいた一方で、パニック消費などの影響もあり、生活必需品の価格は高騰し、スーパーマーケットなど、前年同期の実績を上回るほどの伸びを見せた業種もありました。
ところが、年が明けてやってきた第三波では、第一波とは全く異なる消費傾向が見られます。
まず、同じ緊急事態宣言下でも、第三波のものではパニック消費も起きず、スーパーマーケット系の業種が特需の恩恵に預かるような事態にはなっていません。そして、全体的にどの業種でも消費が弱く、デフレ傾向にある、という特徴も挙げられます。
これには、いくつかの要因が考えられます。
旅行関係や飲食関係は、そもそも自粛を強いられている、という根本的な問題がありますが、それ以外の小売関係などでは、コロナ禍による所得の減少が消費の抑制を生んでいる、という図式が見られます。
そして消費者は、対価を支払うものをこれまで以上に思慮深く選ぶようになりつつある、と考えられます。
これについては後ほど詳述しますが、このような消費者の変化をいち早く捉えて施策を打ち出している企業として、ユニクロやGUを展開するファストリテイリングが挙げられます。
「サステナビリティ」はより重要なキーワードに
2021年2月、ファストリテイリングは、自社のサステナビリティについてのビジョンや実際の取り組みについてまとめた「サステナビリティレポート2021」を発表しました。
ファッション産業は地球に大きな負荷を与えている、という前提に立ち、20年後を見据えて全国の店舗やオフィスで再生可能エネルギーの導入を促進し、温室効果ガス排出量実質ゼロを目指して自社が取り組む具体的な目標を2021年中に定めるとしています。
ファストファッションといえば、低価格で商品の入れ替わりサイクルが早く、それに伴って消費者の購入頻度も上がる、というのがこれまでの常識であり、ユニクロと言えばその最前線にあったブランドです。
それが、柳井会長兼社長の言葉を借りれば「一番大事なことは、気に入った服を長く愛用すること、今年買った服が2年前に買った服に合うこと」、という考えを全面に打ち出している部分に、消費者のマインドの変化への対応が現れていると言えます。
ブランドや企業が生き残るために
サステナビリティの他にも、今後の時代を生き抜いていくために、企業やブランドが大切にすべき、消費トレンドに関するいくつかのキーワードがあります。
非接触でも充実した顧客体験
米国の小売企業ウォルマートは、2020年のコロナ禍において最も成功したリテール企業と言われています。そして、その要因として挙げられるキーワードが「利便性」です。
BOPIS(Buy Online Pick up In Store、オンラインで購入し、店舗で受け取りができるサービス)や、カーブサイドピックアップ、そして利便性の中心にあるアプリのUI/UXの改善など、ウォルマートはデジタルテクノロジーを駆使して、徹底的に顧客の利便性を高める施策に投資し続けてきました。
痒いところに手が届くような利便性は、弱まった顧客の消費マインドを刺激し、購買の背中を押す重要な要素になります。
今後はセンシング技術などの進歩によって収集できる顧客行動データの精度がますます高まり、それによってよりクオリティの高いパーソナライゼーションが可能になってくるでしょう。そうすれば、顧客にとっての利便性はさらに高まり、それ自体が気持ちのいい買い物体験へと直結します。
逆に、一度その利便性を体験してしまった顧客は、同等の利便性を備えていない企業、ブランドでの買い物を避けるというリスクさえあると考えておいた方がいいでしょう。
フィジカルとデジタルの融合
今後の時代では、よりフィジカルとデジタルの融合による新たな体験価値に対して人々は対価を支払う傾向が強まっていくでしょう。
デジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXによって単に利便性を高めるだけではなく、デジタルを活用するからこそ得られる顧客データや即時性を、実店舗におけるサービスやプロダクトを利用する上での体験に還元していく仕組みが必要になっていくのです。
これは今「フィジタルリアリティ(フィジカル+バーチャルリアリティを意味する造語)」などと呼ばれています。
オンラインで提供されるワークアウトを自宅で体験できるPelotonなどは、まさにフィジタルリアリティを体現していますし、実際コロナ禍でジムの使用が制限されている時に売上が大幅に伸びたという事実もあります。
ちなみに、フィジタルリアリティというのは別にフィットネス業界に限った話というわけではありません。デジタル技術を活用して、リアルにおける体験価値を高めたサービスを提供することを指します。
例えば、今話題になっている音声SNSのClubhouseなども、テクノロジーによって「肉声」というフィジカルをな体験を新たなものにしており、これも一種のフィジタルリアリティと言えるでしょう。
トレンドの変化に素早く対応できる組織づくりを
「モノからコトへ」という考え方は、少し前からずっと言われてきていることではありますが、テクノロジーの進化が、「コト」のクオリティを飛躍的に高めつつあり、その結果、ここまで見てきた通り、顧客が対価を支払う対象がより如実に体験になっている、というのが、現在の消費トレンドである、ということが言えそうです。
では、企業やブランドがそのトレンドを組み入れて実際にサービスやプロダクトを展開できるようになるには、何を意識すればいいのでしょうか。
組織構造改革の推進
特に日本の企業は(あるいは政府も含めて)、世界のDXと比較して、スピードが遅いとされています。
これは、かつて人々がモノに大きな価値を見出していた時代に得た成功体験に基づいたやり方に縛られ続けている大企業が多いから、という見方があります。つまり、組織の構造が、いまだに「モノづくり」を前提としたものになっている、ということです。
組織が大きければ大きいほど、それを変革する労力も膨大になりますが、これからの時代、「コトづくり」に特化した組織構造への変革が求められていることは間違いないでしょう。
EX(Employee Experience)の改善
もう一点、消費トレンドへ対応した組織にする上で、「EX(Employee Experience)」を改善するという観点も重要でしょう。
例えばセキュリティを重視するあまり、オンラインツールが使えない、クラウドが使えない、オフィスの外でインターネットに接続できない、などの状況にある企業はいまだに多いのではないでしょうか。
もちろんセキュリティは軽視すべきでない重要な課題ですが、消費者が当たり前に使用しているテクノロジーを、企業として活用できない状況では、新たな体験価値をスピード感を持って生み出すことは難しくなってしまいます。
小売業界ではOMOの重要性が叫ばれていますが、それを実現するには、まず労働環境においてもOMOを実現できる組織づくりを目指すべきでしょう。