企業成長の戦略としてデジタル投資が重要な理由
ITを活用して自社システムを刷新したり業務の効率向上をはかったりする「デジタル投資」が注目されています。
デジタル投資は不確定要素が大きいとして避けられる傾向もありますが、行なった企業はコロナ禍にあっても収益が拡大したというデータがあります。
また海外の投資家はデジタル化を支援する企業への投資を積極的に行なっているというデータもあり、巣ごもり需要からスタートしたデジタル需要は今後も世界的に順調な伸びを見せると予測されています。
企業のDX化もデジタル投資の一つですが、いまは新たに制度化された「DX投資促進税制」により、全社をあげたDX化を実施すると税控除や特別償却が受けられるケースもあります。
日本は国際的にデジタル化が進んでいないとされていますが、それはデジタル化によって経済成長が見込める余地があると言い換えることもできます。
今回は、アフターコロナとデジタル投資の関係、外国人株主や国際基準における国内デジタル投資の可能性、DX化の追い風となる「DX投資促進税制」についてご紹介します。
デジタル投資をした企業は収益が拡大傾向
どんな改革も、「必ず業務改善が見込める」、「必ず企業が成功する」という改革はありません。
とりわけデジタル投資は、従来のビジネススタイルを大きく変える可能性をはらんでいるため積極的に導入を検討できないという企業もあるようです。
ですが、コロナ禍に直面するよりも前の段階でデジタル投資を積極的に行なっていた企業は、デジタル投資を行わなかった企業と比べて事業収益がさほど減っていないという結果が出ています。
2020年8月に実施されたITRの「デジタルビジネス動向調査」において、デジタル投資を行った企業はコロナ禍にあっても約20%の企業が事業収益は「大きく拡大した」、「やや拡大した」と回答しています。
一方で、デジタル投資を行わなかった企業のうち、コロナ禍で事業収益が拡大したと回答したのは約13%で、その他の約80%超もの企業が、収益は「やや減少」した、あるいは「大きく減少」したと回答しています。
これは、デジタル投資を行わないまま緊急事態宣言を迎え、環境が整わないままテレワークやオンライン会議を余儀なくされ現場が混乱したために、各業務が滞ってしまったというシチュエーションも想定されます。デジタル投資を行ってきた企業の中には、オンライン設備の充実や社員がテレワークできるだけのシステムがすでに備えられていた、という企業もあったでしょう。
デジタル投資で事業変革
人類がコロナウイルスに打ち勝てば、以前のような生活が戻ってくると予想する人もいます。ですが、世論としてはアフターコロナは以前のような価値観、ライフスタイルが過去のものとなって、新しい世界となるという見方が有力です。
緊急事態宣言下での在宅勤務が想定よりも快適だと感じた人の割合は一定数存在します。国内では少数ながら、コロナ後も在宅ワークを併用しながら勤務できる体制を構築した企業もあります。
また、ECはこれまで以上に顧客層が拡大し、これまで顧客として取り込むのが難しかった高齢者にも販路を見出すことができるようになりました。
こうした価値観の変化に対応するために、いまデジタル投資が注目されています。
デジタル庁創設と脱ハンコ 遅れを取り戻す日本
日本は、諸外国に比べてIT化が遅れている傾向にありました。
金融業や医療、教育といった分野には特にIT利用における規則が厳しく、テクノロジーを導入しようとしてもさまざまなハードルに阻まれて難しいとされてきた背景もあります。
しかし、2021年9月にはデジタル庁が創設され、「デジタル社会形成基本法」も制定されたことで少しずつ変化がみられます。
この法律は、日本の国際的な競争力強化と国民の利便性向上のためにデジタル社会を形成していくための法律です。医療においても、遠隔診療やオンライン服薬指導といった取り組みがはじまり、GIGAスクール構想によって教育界も一歩ずつではありますがデジタル改革が進められています。
企業や行政サービスではいわゆる「脱ハンコ」として、押印プロセスを廃止したり必要に応じて簡略化したりといった取り組みも始まりました。
コロナウイルス蔓延による影響は全世界的に長期化しており、日本国内でも企業や経済に対する影響が長引くことが懸念されています。
在宅勤務やオンラインでの連携、業務効率向上を実感しやすいコロナ禍のいまこそ、デジタル化の遅れを取り戻し、新たなビジネススタイルを構築すべき好機なのではないでしょうか。
デジタル投資企業は外国人からも注目
デジタル投資を積極的に行なっている企業は、海外からも注目されています。
外国人株主比率が高まった企業のリストには、積極的にデジタル投資を実施した企業名が多く上がりました。これらの企業は、今後の収益UPも期待されています。
日本経済新聞が調査し発表した「売上高100億円以下の企業における外国人株主比率(2020年度)」では、電子ギフトの販売やECサイトシステムの運営、オンライン診察サービスや手作り品売買サービス、SNSマーケティング支援等、デジタル化を支える企業が上位にランクインしました。
企業や個人がオンラインを使ってギフトを贈る、サービスを享受するという流れは巣ごもり需要で注目されましたが、こうしたやり取りを電子化する動きは今後も加速すると外国人投資家たちは予測しています。すでに諸外国ではこうした事業やサービスが浸透しており、今後の日本でもまだまだ拡大する余地があるとみられているからです。
デジタル投資は税制でも有利に
不確定要素が強いと敬遠されがちだったデジタル投資ですが、2021年の税制改正により、税務面での優遇が受けられることで積極的な検討や導入が進むかもしれません。
令和3年度税制改正に含まれる「DX投資促進税制」は、一部門でなく全社規模でデジタル化に取り組むことで3〜5%の税額控除もしくは30%の特別償却を受けられる税制度です。
企業のDXを促進する税制改正
「DX投資促進税制」は、令和3年8月2日から令和5年3月31日までに、認定事業適応事業者(青色申告法人)が提出する認定事業適応計画にしたがって実施されるデジタル関連投資における税額控除、特別償却等の優遇措置のことです。
デジタル投資の対象は、クラウドシステムの導入といったソフトウェア関連、機械装置や器具備品等のハード面のどちらに対しても有効ですが、取締役会等で承認を受ける全社規模のDX化関連の変革業務のみが対象となります。
また、D要件(デジタル要件)、X要件(企業変革要件)の二つを満たす事業適応計画を事前に提出し、認定を受ける必要もあります。
提出した計画が承認されれば、優遇措置として事業の用に供した適格投資に対しての3%が税額控除されるか、もしくは30%の特別償却を受けることができます。なお、グループ外の法人とデータ連携する場合なら適格投資に対しての5%が税額控除となります。
国際的にもデジタル投資が求められている
デジタル投資の必要性は、諸外国でも認知されています。
総務省の調べによると、米国のICT投資額は約72兆円(2017年)となっていて、これは30年間で4倍以上に投資額が拡大している計算になります。
ちなみに国内のICT投資は16.3兆円にとどまっており、他国と比べた時の伸び代がかなり大きいことが分かります。こうした投資額の低さが経済成長を鈍化させる一因になっているという見方もあり、「DX投資促進税制」によってどれだけ伸長がみられるかがアフターコロナにおける経済成長のカギといえるかもしれません。
前述の通り、外国人株主も企業のデジタル化を後押しする日本企業を支持する傾向があり、まだ需要を掘り起こして事業規模を拡大できると見込んでいると想定されます。
国際感覚とのギャップを意識するという点では、デジタルに強い人材の国外流出を懸念する声もあります。
今年、フィンテック(ファイナンス・テクノロジー)の重要な柱のひとつであるブロックチェーン(分散型台帳)技術の複数のスタートアップ企業が、日本から国外へ拠点を移すという出来事がありました。拠点を移した主な理由は、日本の暗号資産に関する税制とされています。
暗号資産は新しい技術であり、慌てて税制を改正したり特定の企業のみを優遇したりすることは好ましくありません。とはいえ、デジタル化が加速する国際社会において日本だけが有望な起業家やスタートアップ企業を逃し、経済成長の妨げてしまうことにならないよう、変革も求められるでしょう。
国際社会も日本のデジタル化を望んでいるという認識をもって企業のDX化を検討し、積極的なデジタル投資を行っていく時期が到来しているといえそうです。
デジタル投資で自社事業の拡大を目指す
では、デジタル投資を行って自社をDX化するとは、具体的にどのような状態を目指すべきなのでしょうか。
「DX投資促進税制」の対象要件として定められているように、DX化で重要なのはデジタルで「X」つまり企業変革を起こすことです。XのないDX化はデジタル最適化(Digital Optimization)であり、現代の価値観にアップデートされたデジタル投資と言い切れない面もあります。
企業変革がまず起きやすい場所として、物流、製造が挙げられます。
物流や倉庫管理や輸送といったシーンでは多くの人材が必要になりますが、AIやロボティクスを使う、倉庫や多店舗POSをシームレスに連携できる在庫管理システムを導入する、といった投資により、省人化や効率化を達成できます。
製造の分野において、多様化する顧客のニーズに応えるための多品種少量生産を実現するのもDX化なら可能です。顧客それぞれの好みを反映させた製品づくりや、新しい顧客体験のかたちを提供するためには、次世代に対応するためのデジタル投資、企業変革が肝要です。
製造した商品をどのように顧客に届けるか、という点に着目すると、例えばシェアリングサービスに着目したDX化がアイデアとして考えられます。販売チャネルの代わりに、サプライチェーンとデマンドチェーンの双方が円滑に運営されるようなシステムを構築する必要が生じるケースもあるかもしれません。レンタルと回収のサイクルをしっかりと構築することで顧客の利便性が高まり、サービスに対する支持を得られやすくなるはずです。
また、シェアリングを主軸とするならば、故障やトラブルに即応できるようなカスタマーサービスも構築する必要が出てきます。
さらに、製造分野のDX化は、巡り巡って物流の分野にもつながっていきます。
製造したものをどのようにエンドユーザーまで届けるのか、またシェアリングのサイクルを物流の力でどのように回していくのかといったシステムは、物流と製造のDX化なしには成立しにくいものです。
そして、物流と製造の分野に注目することで、企業全体の成長戦略が見えてくることもあります。
言い換えれば、企業全体の変革を目指すにはまず個々の部門に注目し、どうすれば効率化できるか、アフターコロナに即した事業にできるかを検討すべきといえるでしょう。
デジタル投資の中には、中長期ではなく短期的な伸長を期待できるものも多くあります。段落
さまざまな選択肢の中から、自社に合わせたデジタル投資を組み合わせて実施していくことが成長へのカギとなるはずです。