2022年に予測されるリテールトレンド。チャネルの融合と拡張が進む
2020年に引き続き、2021年もコロナウイルスが世界に大きな影響を与えた一年となりました。激変の2020年に続く2021年。この二年間で新しい生活様式として定着したものもあり、そこから2022年の小売業界のトレンドも予測できそうです。
本稿では、2020〜2021年の小売業全体の動向を振り返るとともに、2022年リテールトレンドについて、現時点での予測をご紹介していきたいと思います。
2020~2021年小売業界動向
2020年は、EC市場の売上が大きく伸長した一年でした。
緊急事態宣言下では、食材や消耗品等日常的な買い物も、回数を減らしたり通販で注文したりする人が増え、これまでECの利用をあまりしていなかった高齢者層も積極的に利用するようになりました。
宣言が解除されても外出と外食を自粛する傾向は続き、BtoC物販系の市場規模は12兆1,960億円にも達しました。2019年から2桁成長を遂げた大手通販企業もあります。
2020年度EC売上上位に大型家電量販店
経産省が7月に発表した「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2020年度のEC売上の上位を占めていたのは、生活家電やAV機器、PCや周辺機器等(2兆3,489億円)、衣類、服飾雑貨等(2兆2,203億円)、食品や飲料、酒類(2兆2,086億円)、雑貨やインテリア等(2兆1,322億円)でした。
巣篭もり需要やテレワークによる家電品需要、PC需要が見て取れます。
また、こうした商品群を取り扱うヨドバシカメラやビックカメラといった大型家電量販店はEC売上上位にランクインし、Amazonや楽天など大手モール以外で、日本市場でのシェアを獲得しつつあります。家電量販店はショールーミング機能やフルフィルメント機能も持ち合わせた次世代店舗へと進化してきていることの現れではないでしょうか。
■特集:ECモール■
Shopify、Makeshop等SaaSサービスの隆盛
デザインや機能をカスタマイズして、簡単にネットショップが作れるSaaS型ECプラットフォームが急速に普及したのも2020〜2021年の傾向でした。
Shopify、MakeshopだけでなくBASE、STORES等、小規模事業者が気軽にEC出店できるサービスが多数台頭したために、SaaSサービスの認知は高まったといえます。それに伴い、メーカー直販のD2Cビジネスも引き続き増加していくと考えられます。
EC市場の拡大と店舗の役割の変化
EC市場の急拡大に伴って、店舗の役割が大きく変化したのも2020〜2021年の特徴です。長い間、ECと店舗は同じブランドであっても住み分けがなされており、それぞれの顧客データをどのように取得して分析していくかという点が重要視されていました。
ですが、それは2020年を境に徐々に過去のものとなりはじめ、ECと店舗を融合させるOMOの概念が必要とされるようになっています。
リアル店舗は、商品を売るだけでなくECの商品を試す「体験」を提唱する場となり、あるいは後述するダークストアのようなスタイルの店舗も重要視されるようになりました。
店舗と物流、EC、この3つの要素は密接に関連をもち、新しい効率化を模索したのが2021年の動向のひとつといえます。
2022年のトレンド予測
2020年から2021年に続く一連の傾向を振り返ったところで、来たる2022年のトレンド予測に移りたいと思います。
メタバースやクイックコマースのような新たな動向もありますが、2021年から注目されていた、サステナビリティや体験型店舗(売らない店舗)もさらなる進化が見られそうです。
メタバース
現実世界のようにショッピングやライブ鑑賞ができる3次元の仮想世界メタバースは、新たなタッチポイントとして注目されています。
国内企業が事業化を構想している「都市連動型メタバース」では、メタバース内に再現された渋谷の街をアバター(分身キャラクター)が散策しているイメージ映像が公開されました。
2021年12月には、韓国の文化体育観光部と韓国観光公社によるアジア最大級のメタバース・コンサートが開催される等、国境を超えた機会提供が期待されています。
一方で、仮想空間で行われる商取引についてルールや法整備が遅れているとの指摘もあります。現行法は、あくまで物理的な事物を想定して制定されているものであり、仮想空間での詐欺や盗難といったケースには適用されない部分もあるとされています。
経産省ではメタバース事業に参入する企業に向けて、法的論点を解説する文書を公表しましたが、現状では著作権や所有権といった側面でグレーな部分が多いのも事実です。
運営元の責任を重くしすぎると、参入障壁が上がってどの企業も運営しなくなるという危惧もあり、2022年以降の動向を細かく見ていきたいところです。
テイクアウト専門店
巣篭もり需要で急速にニーズが高まったテイクアウト。「中食」というワードも、本来は「昼食」の意味でしたが、今では家庭外で調理した惣菜やお弁当を持ち帰って食べるという意味合いで定着しつつあります。
こうした傾向を受けて注目したいのがテイクアウト専門店です。
これまで外食チェーンとして運営してきた企業が、テイクアウト専門の店舗を構えたり、30分以内で食料品や日用品を販売する「即時配達サービス」を謳うデリバリー専門スーパーも注目されています。
ちょっとした贅沢ではなく、日常的な食事として気軽に注文できる価格帯のテイクアウト専門店、そして食料品や消耗品を注文できるデリバリースーパーは、家事の時間が限られる共働き世帯や子育て世帯だけでなく、自炊がコスト高になりがちな単身者、高齢者世帯にも支持されやすいサービス形態といえます。
2020年にEC利用が急拡大したのと同様、2022年はテイクアウト、即時配達の波が押し寄せるかもしれません。
スピード感のある配達には、在庫と店舗間の連携をスムーズにすることが不可欠です。
また、テイクアウトや配達専門スーパーの実現には、地域特性を分析した的確な商品ラインナップが必要であり、こうしたシステム構築はデジタル化なくしてはあり得ません。
DX化の必要性は、引き続き2022年のトレンドとも密接に関連していきそうです。
クイックコマース及びダークストア
注文されてから即配達を行うクイックコマース(Qコマース)も、2022年に要注目の存在です。
注文から30分程度で配達されるサービスが多く、QコマースのカテゴリにUber Eats等のフードデリバリーが含まれることも。ですが、Qコマースの多くは食料品やトイレットペーパーのような日用品をスピード感をもって届けるサービスがほとんどです。
注文から30分というスピードを実現しているのは、ダークストアと呼ばれる店舗の存在です。Qコマースを提供する企業の多くは自前在庫をもっておらず、提携店舗と配達パートナー、そしてエンドユーザーをつなぐ役割を担っています。
ダークストアはリアル店舗ではありますが、消費者が直接買い物をする場所ではありません。ECから入った注文の商品をピッキングして梱包、配送する場所であり、いわば店舗と倉庫を兼ね備えたような存在です。
ダークストアの存在自体は、2015年頃から国内でも活用されていたサービスです。いわば特段目新しいシステムではありません。
ですが、Qコマースを実現するためにはダークストアの存在が不可欠であり、今後は存在の重要度が増すことが予想されます。
一方でQコマースは、スピードと品揃えの両立が難しく、配送システムを追求しても黒字化の難しい分野ともいわれています。即時配送、当日配送、週ごとといったスパン別にニーズを掘り起こす必要性も指摘されており、2022年も進化を続けながら試行錯誤が続きそうです。
サステナビリティ
2021年に引き続き、世界的なリテールトレンドに欠くことのできないワードが、サステナビリティです。SDGsと同様に、企業がこれから展開する戦略に欠かすことのできない姿勢であり、コンセプトとなるでしょう。
世界で展開する企業の日本法人は、2025年までにパッケージ包装を廃止、2028年までにプラスチックの使用を停止といった具体的な目標をすでに掲げています。
段階的に再生可能な素材を使ったり、可能であればプラスチック製品を紙製品にシフトしていったりと、具体的かつ段階的な目標を掲げて達成していく姿勢は、ブランドイメージの向上やZ世代からの支持を得るために必要なことだといえます。
アパレル業界でもサステナビリティへの取り組みは進んでおり、2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材へ変更、2030年度までに温室効果ガス排出量を90%(2019年比)削減、等の具体的なゴールを公表、周知しているブランドもあります。
Z世代のような若い世代ほど環境保全やSDGsに関して敏感で、エシカル消費を心がけるという傾向は、2022年においても重要な指標になるでしょう。
積極的にサステナブルな取り組みを実施しアピールしていくことは、2022年を牽引する存在になるための鍵となるかもしれません。
売らない店と体験型店舗
リアル店舗の利点といえば「対面販売」のみ、そんな時代は過去となりつつあります。
2022年も引き続き、店舗でカウンセリングや商品のお試し体験を提供し、購入はECから注文というスタイルが伸びていきそうです。
例えば、何万通りもの組み合わせから自分に合った商品セットを見つけ出してくれる美容カウンセリング。サービスを受けた顧客の8割が、体験後に定期購入に踏み切っているというデータもあります。売らない店舗で提供する商品は、ニーズを見極めたり特別感を打ち出したりすることで、多少割高な商品であっても支持されるという傾向にあります。
実際、オーダーメードスーツを手がけるブランドでは、採寸と生地サンプルに特化した「売らない店舗」の客単価が、通常の物販店舗と比較して2倍近く高いという傾向も見られます。リアル店舗の役割を限定せず、用途を柔軟に考えていきましょう。
とはいえ、体験を円滑にECへつなげるためには、顧客データのシームレスな管理が必要となります。リアル店舗とECの双方から顧客満足度を高める施策、そして「売り方」が求められていくでしょう。
店舗在庫活用型EC
リアル店舗で今現在販売している商品を、そのままEC販売の在庫として扱うスタイルも、2022年の小売トレンドとして注目です。
特に、大型商業施設がモール型ECを提供することで、より利便性の高い在庫活用ができると考えられています。
店舗在庫を活用することで、店舗ごとの不安定な在庫変動のリスクを減少させることが期待されます。また、注文されたアドレスから近い店舗の在庫を発送することで、配送時間や輸送コストを減らせる可能性もあります。さらに店舗の在庫であれば顧客がECで注文した後、店舗受け取りを選択することできるので、物流にかかる負荷を軽減できるのではないかとも期待されています。
■特集:ECから考えるオムニチャネル・OMO■
2022年、ECと店舗の融合が加速する
2022年の小売業は、2020年〜2021年に引き続いてECと店舗を融合させ、OMOをさらに深化させる年になりそうです。
メタバースやQコマースといった、まだまだ進化途中といえるツールや概念のトレンドもあれば、テイクアウト専門店、サステナビリティといった「一過性のトレンド」から「当たり前の概念」に定着していきそうな事柄もあります。また、安定的な黒字化を図る面では発展途上といえるQコマースですが、それを支えているのはダークストアという従来からあるシステムです。
ECと店舗をスムーズに連携するためには、DX化が不可欠です。
DX化は、2025年の崖(稼働中のシステムが複雑化、老朽化して経済停滞を引き起こすとされるリスク)を回避するために提唱されていましたが、2022年を飛躍の年とするためにも必要です。
企業の運営をデジタルシフトさせるだけでなく、小売そのものの形をデジタルシフトさせ、ECと店舗をよりよい状態へ導いていくことが求められます。