BNPLはキャッシュレス化の潮流の一つ
「今購入して後で支払う」(Buy Now Pay Later)の略であるBNPL。国内のBNPL市場は2024年には18兆円を超える見込みがあり、クレジットカードに替わる新しい決済方法として、キャッシュレス化の潮流の一つとなり始めています。
BNPLの仕組みはクレジットカードと似ているものの様々な点で違いがあり、手数料は事業者側が負担しなければなりません。しかし手数料を負担してでも期待できるメリットがあり、EC事業者は注目すべき支払方法の1つです。
この記事ではBNPLの概要やメリット、国内・国外サービスや今後の展望について解説します。
キャッシュレス社会においてのBNPL
まずはBNPLの仕組みや各国での浸透、EC事業者が注目すべき理由を解説します。
与信サービスの一つBNPL
BNPLはクレジット決済と同じく与信サービスとして、取引先に信用を供与することで成り立つ支払方法です。クレジット決済ではカード事業者が加盟店に利用額を支払うのに対し、BNPLでは「BNPL事業者」が加盟店へ立て替え払いを行います。
またクレジットカードで分割払いを行う場合、消費者が手数料を負担します。しかしBNPLの場合は加盟店が手数料を負担することになり、消費者が支払う必要はありません。さらにクレジットカードでは厳しい審査がありますが、BNPLの場合簡単な審査・もしくは審査なしで利用できます。
BNPLとクレジットカードの主な違いは以下の通りです。
クレジットカード | BNPL | |
審査 | 厳しい | 簡単またはなし |
分割手数料の負担 | 消費者 | 加盟店 |
手数料 | 約2~3% | 約4~5% |
上記のようにBNPLは与信サービスであるものの、クレジットカードのような厳しい審査がありません。また分割にしても消費者が手数料を負担する必要がなく、リボ払いに対するハードルが下がります。
しかし、店舗側は今まで消費者が負担していた手数料を負担しなければいけません。さらに手数料はクレジットカードより多く、この点だけ見るとメリットがないように見えます。しかし店舗側には手数料を差し引いても期待できるメリットがあるため、後ほど解説します。
日本では72.2%の人がBNPLを「知らない」と回答
BNPLはキャッシュレス時代の新しい決済方法ですが、日本ではまた浸透していません。2022年1月にネット通販経験者の30代~70代の消費者に対しアンケートを行ったところ、72.2%の人が「BNPLを知らない」と回答しました。(※)
同アンケートによるとECでの支払い方法はクレジットカードが82.0%と最も高く、次いでコンビニ払いが6.7%です。圧倒的にクレジットカード払いが多い状態ですが、BNPLを知っている人のうち47.1%と約半数が「使ってみたい」と回答しています。
※日本トレンドリサーチ社調査:【BNPL】72.2%が、後払い決済サービス(BNPL)を「知らない」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000087626.html
BNPLが伸びる理由は各国で違う
海外でも浸透し始めているBNPLですが、実は支持される理由は各国で異なります。欧米豪、東南アジア、日本では商習慣などの違いから、それぞれ違う理由でBNPLが支持されているのです。
欧米豪は「便利だから」使う
欧米豪で消費者がBNPLを支持する大きな理由としては、「金利がかからない」という点です。実はアメリカではクレジットカード払いをするとき「リボ払い」が一般的で、買い物をする際に「一括ですか?」と店舗側が聞くことは基本的にありません。
つまり、欧米豪の消費者はリボ払いによる手数料負担が当たりまえなのです。しかしBNPLの場合加盟店側が手数料を負担するため、分割(=リボ払い)にしても消費者が手数料を負担する必要がありません。
そのためクレジットカードを持っていても、BNPLに移行する消費者が急増しています。
東南アジアは「クレカがないから」使う
クレジットカードを持つためには、引き落としを行う銀行口座が必要です。しかし東南アジアでは銀行口座を持つ人が少なく、成人人口のうち約7割もの消費者が銀行口座を持っていないというデータもあります。(※)
しかし日本と同じくスマートフォンは1人1台以上普及しており、EC市場も急拡大しています。そのため、銀行口座やクレジットカードを持たずにEC決済を行う方法として、BNPLが普及しているのです。
※オリックス株式会社:7割が銀行口座を持たない東南アジアの可能性を引き出せ
https://www.orix.co.jp/grp/move_on/entry/2020/10/21/100000
日本は「不安だから」使う
日本は銀行口座の開設率も高く、リボ払いが一般的というわけでもありません。しかしBNPLが注目される理由として挙げられるのが、「クレジットカードの不明瞭さ」です。
「クレジットカードはお金を使った感覚が薄く、つい使いすぎてしまう」「あれこれと購入してしまい、請求月に焦る」などの理由で、他国よりも支払いに対する不安感が高くなっています。
さらに欧米豪はリボ払い利用者が54.7%なのに対し、日本は2か月を超える支払いを選ぶ利用者は7.8%と圧倒的に少数です。リボ払いの手数料を負担しなくていいBNPLは、消費者のリボ払いにおける不安感を払しょくしています。
EC事業者がBNPLに注目すべき理由
BNPLでは、今まで消費者が負担していた分割手数料を加盟店(EC事業者側)が負担しなければいけません。この点だけ見ると、「利益が下がる」「BNPLを導入したくない」と思うEC事業者も多いのではないでしょうか。
しかしEC事業者や小売店にとっても、BNPLという決済方法は以下のようなメリットがあります。
- ECにおける“カゴ落ち”の防止
- クレジットカードを持てない若年層の確保
ECサイトでは、購入者がカートに商品を入れたものの決済前で離脱してしまう「カゴ落ち」が課題です。カゴ落ちの主な理由として「手数料が嫌になった」「クレジットカード情報の入力が面倒」といった決済の面倒さが挙げられます。
BNPLは消費者側の分割手数料もなければ、クレジットカード情報も必要ありません。認証コードで簡単に決済できるのでカゴ落ちリスクを軽減でき、手数料を負担しても売り上げアップが期待できるのです。
また社会的信用が低くクレジットカードを持てない若年層の顧客も、BNPLを使ってキャッシュレス決済ができます。小売店側としては顧客層の拡大に直結するため、この点でも大きなメリットがあるのです。
BNPLサービスは国内・海外とも多彩
キャッシュレス時代の新しいサービスとして注目されるBNPLは、国内・国外でもサービス事業者が増えています。
国内サービス
国内のBNLPサービスを4つご紹介します。
ネットプロテクションHD「atone」(アトネ)
株式会社ネットプロテクションズは、スマホ決済のBNPL「atone」を提供しています。同社はテクノロジーで新しい信用を創造する「クレジットテック」のパイオニアでもあり、2002年から日本初の未回収リスク保証型の後払い決済「NP後払い」を提供しました。
約20年かけて与信の仕組みを作り、信用スコアについて精度が高い点が特長です。圧倒的な学習データの量と質により、約97%と高い与信通過率を誇っています。
国内のBNPLサービスとしてパイオニア的存在であるネットプロHDは、2021年12月に東証1部に上場しました。
PayPayの「PayPayあと払い」
2022年1月、キャッシュレスアプリでおなじみのPayPayはPayPayで使った金額を翌月にまとめて支払える後払いサービス「PayPayあと払い」を同年2月から開始すると発表しました。
高校生を除く18歳以上の利用者が本人確認を行い審査を通過すると、アプリ上で利用できる仮想クレジットカード「PayPayカード」が発行されます。オプションを申し込めば、プラスチック製のカード発行も可能です。
PayPalは「ペイディ」の買収で日本サービスを開始
大手オンライン決済サービスPayPalは、株式会社Paidyが提供するBNPLサービス「ペイディ」を買収しました。2021年第4半期に買収完了予定で、買収額は約3,000億円です。PayPalはこのペイディなどで日本での越境EC事業サービスを拡充し、日本での存在感を高めていくと明言しています。
ペイディは独自の信用スコアを算出することで取引を引き受け、加盟店への支払いを保証します。すでにアカウントは600万をこえ、グローバルブランドやECモールとのパートナーシップを構築しています。
さらに「どこでもペイディ」というサービスでPayPalやデジタルウォレット、QR決済などの連携を実現させ、オンライン・実店舗共に加盟店を拡大中です。
アジアで急成長の「Pace」も日本サービスを開始
オンラインとオフライン販売事業者向けにBNPLを提供するPaceは、2021年11月に丸紅ベンチャーズ株式会社から出資を受けたことを発表しました。
Paceはコンビニ・銀行振込・クレジットカード・デビットカードの4種類の決済手段から選べる点が特長です。2022年までに日本で1,000以上の販売事業者を集め、ユーザーは10万人以上の獲得を目指しています。
参照:アジアで急成長のBNPL(後払い型決済)事業者のPaceが日本でサービスを開始!!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000091170.html
海外サービス
海外のBNLPサービスを3つご紹介します。
PayPalは「Pay in 4」をスタート
日本向けサービスとして「ペイディ」を買収したPayPalは、2020年8月からBNPLオプション「Pay in 4」の提供もスタートしています。“4”という数字は「4分割払い」からきており、購入決定時に全額分の1/4を支払い残りを指定期限内に支払えば、手数料が発生しないという仕組みです。
Pay in 4の仕組みを使えば、手持ち金が乏しくても、購入額の1/4さえ持っていれば手数料ゼロで購入が可能になります。「今手持ち資金がないけれど購入したい」という消費者のニーズに応える仕組みであり、有力な支払い選択肢の1つとなっています。
Amazonと提携した「affirm」
2021年8月、BNLP事業者affirm(アファーム)は、米アマゾン・ドット・コムと提携してサービス提供を始めると発表しました。Amazonの一部顧客を対象として、50ドル(約5500円)以上の購入でBNLPによる分割払いをできるようにします。数か月以内には一般の顧客に広げ、対象者を広げる計画です。
affirmはPayPalHD共同創業者であるマックス・レブチンCEOが2012年に設立しています。21年1~3月の取扱額は23億ドルを超えており、同年1月には米ナスダック上場を果たすなどBNPLブームに乗り勢いを見せています。
BNPL利用は今後増える見通し
キャッシュレス時代に入り、BNPLはクレジットカードに次ぐ新しい決済方法として注目されています。小売店やEC事業者はカゴ落ちや若年層顧客の獲得といったメリットも多く、対応を進めて損はありません。
Z世代の人気が高まっている
BNPLのような後払いは、「手持ちの現金がない」というZ世代に特に人気が高まっています。与信がほとんどなく気軽に利用できるので、海外のZ世代は100ドルを超える買い物ならBNPLの利用が一般的です。
国内の国内でもBNPL事業者が増えており、BNPLの期待値の高さがうかがえます。PayPalが買収したBNPLのスタートアップ企業Paidyの幹部は「日本でもBNPLは定着する」と明言しており、サービス開発にはZ世代を強く意識しています。
ただ購買経験が少ない若年層は、支払い能力を超えた決済をしてしまうといった問題も無視できません。今後日本でBNPLサービスが浸透するにつれ、法整備や金融に関する教育も進むかもしれません。
しかし顧客の裾野が広がることに間違いはなく、小売店やEC事業者が注目すべき流れの1つです。
キャッシュレス決済との親和性が高い
BNPLの特長の1つとして、スマートフォンと親和性が高い点が挙げられます。BNPLはスマホアプリとしてリリースされることが多く、クレジットカードより手軽に利用できるのです。
スマホアプリ決済はユーザーの利便性が高まるだけでなく、企業側にも「データ活用」というメリットがあります。ユーザーの購買履歴はもちろん行動データや属性データの収取ができ、マーケティングへ活用することも可能です。
サードパーティーcookieの廃止などデータ規制が進む中、BNPLはマーケティングの側面でも大きな可能性を秘めています。