次世代の購買プラットフォームはSNS。決済機能追加で新たなチャネルに
Z世代を中心に、購買行動のための情報収集手段として利用されているSNSですが、SNSからサイトに遷移する事なく購買まで完結するスタイルが台頭しつつあります。
各SNSもプラットフォームに決済機能を追加する等、投稿からシームレスに購買へとつながる「オン・プラットフォーム・コマース」の実現に向けた計画を着々と進めています。
SNSにおける購買行動は、商品に興味を持つ事からスタートするため、各SNSの特化したプロモーションの展開が不可欠になっていきます。それにはまず、SNSの利用傾向や支持されやすい投稿について知る必要があります。
本稿では、動画投稿が主要なコンテンツとなっている昨今の各SNSの潮流について解説し、SNSとZ世代の関わりについてまとめています。
SNSとメールがECに果たす役割を、データを用いて紐解き、SNSのプラットフォームを活用するためのヘッドレスコマースについても紹介します。
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SNSが購買プラットフォームへ
SNSは、ソーシャル・ネットワーク・サービス(Social Networking Service)つまり、登録したユーザー同士が交流するための場としてスタートしました。
しかし、今のSNSは広告などの商品認知から購買までを流れるように完結できる、購買プラットフォームとしての役割を果たしています。
たくさんの人が閲覧するSNSには、消費者と商品が出会う機会も多く、インフルエンサーや口コミ等で商品の特性を周知しやすいというメリットがあります。さらに、フォローキャンペーン等の販促を行ないやすいという特性もあり、Facebook、Instagram、TikTokという3大ソーシャルメディア・プラットフォームでマーチャントの活発な利用が見られます。
特にショート動画の訴求力は強く、X(旧Twitter)のようなテキストベースのSNSよりも、エンタメ性が高く、一瞬でユーザーの興味を惹けるような動画投稿は、そのまま購買へとつながりやすくなっています。
レコメンド精度向上とECの関係
SNSのレコメンド性能は年々向上していて、SNSやYouTubeは各ユーザーの関心が高そうな動画や投稿が表示されるようになっています。
InstagramやTikTokでは、コンテンツに対するリアクション、投稿者とユーザーのやり取り履歴等を総合的に判断して、おすすめの投稿が各ユーザーに向けて表示され、YouTubeは動画のクリック数、完全視聴した動画の種類といったデータを元にしておすすめ動画が表示されます。
すなわち、SNSのユーザーは「自分に興味のある情報」に接しやすく、それ以外の情報はどれだけ流行しても目に入りにくいという状況にあります。
従来の購買ファネル(漏斗)は、商品やサービスを知る「認知」から「興味」に進み、「比較検討」を経て購買に至るプロセスが一般的でした。
しかし、SNSの購買ファネルは、レコメンド機能の進化によって、いきなり「興味」から購買に至るプロセスがスタートします。
この事から、知名度がなくても商品やサービスが売れやすい状況にはなっていますが、まずは、SNSユーザーが思わずリアクションしたくなるような魅力的なコンテンツを投稿しなければなりません。
特にインパクトの強い動画が求められるのはTikTokです。
TikTokは他のSNSよりもタイムラインが速く流れる傾向になるため、一般的には「冒頭3秒」で興味関心を持たせる構成が必要とされています。
インパクトが強い動画や、ビフォーアフターがはっきり分かるような明快な構成、実際に自分が商品やサービスを購入したら、と想像できるリアルさが好まれます。
一方で、Instagramは「インスタ映え」というワードの生みの親でもあり、作り込まれた動画が好まれます。動画は、「リール」という機能を使って投稿可能で、おしゃれな世界観や、完璧なライフスタイル等、憧れの気持ちを喚起するような投稿が支持されやすいSNSです。
また、セールストークのダイジェスト版として活用しやすいものには、「YouTubeショート」があります。若年層を中心としながらも、比較的幅広い世代に視聴者がおり、商品やサービスを活用した「ハウツー動画」や「長尺動画のショートver. 」のように多様な動画が投稿しやすいのが特徴です。
SNSをプラットフォームとして活用するためには、各サービスの特性を理解してユーザーの意識へダイレクトに訴求できるような投稿が必要になるでしょう。
SNSに決済機能を追加
SNSプラットフォームは、こうした状況を受けて「オン・プラットフォーム・コマース」と呼ばれる、プラットフォームから離脱せずシームレスに購入へ進めるプロセスづくりを進めています。
Metaは、2024年4月からFacebook、Instagram上でチェックアウトできないショップは、アクセス不可となる旨を発表しました。
また、チェックアウトできないショップは、コンテンツ公開APIを使って商品にタグ付けする事もできなくなります(広告出稿は除く)。
これが施行されると、事実上、MetaのSNS上で購入を完結させる以外の選択肢はなくなるという事です。
TikTokは、9月にShopifyを利用する「TikTok Storefront」を停止し、今後どこかのタイミングで、ECサイトのリンクを禁止すると発表しています。
その代わりに、TikTokショップで販売したいブランドや企業を募集しており、SNSプラットフォームとECの関わりは次のフェーズに移ったと言えそうです。
ECの多様化が進む
これまで、ECサイトはAmazonやShopify、楽天のような大手モールサイトか、自社ECサイトの二極化という傾向でした。
最近では、第三のECサイトとも言うべき、オン・プラットフォーム・コマースというスタイルが登場しつつあり、ECの多様化が進んでいます。
オン・プラットフォーム・コマースは、ユーザーが投稿の閲覧から購入までを分断なしに行えるという点で、SNSで商取引する事業者とユーザーに大きなメリットがあります。
プラットフォームにとっても、販売手数料やユーザーの購買データが得られるというメリットがあり、SNSの存在自体を強固なものにできるという利点もあります。
一方で、オン・プラットフォーム・コマースに移行すると、事業者はこれまで得られていた顧客データのほぼ全てをプラットフォームに渡す事になります。顧客データは販売予測や、商品開発、販促キャンペーンを展開する上で不可欠なものです。データをしっかり担保しながらSNSを効果的に使ってECサイトとして活用していく道を探っていくべきでしょう。
SNSと購買行動の関係性
デジタルマーケティングにおいて、SNSとメールは購買行動に直接結びつく重要なファクターです。ECの利用者は、「以前見た商品がセール中である」という案内メールによって購買を決めるケースが多いというデータがあります。
あるいは、「在庫切れが再入荷した」という内容や、「カートインしたまま放置している商品がある」と知らせる内容のメールも、購買に結びつく可能性が高いというデータがあります。
そしてSNSは、Z世代を中心として、購入に直接結びつく情報を得られる場所として活用されています。
ちなみに、Z世代以外の世代に支持されているFacebookは、広告や企業の投稿を見た時にオンライン購入へとつながりやすいSNSとして知られています。
ある調査では、EC利用者のうち、Facebookでは58%のユーザーがプラットフォームを通じて購買する事に抵抗はないと回答しています。
次点はYouTubeの45%、以下、Instagram(40%)、TikTok(21%)と続いています。
SNSを通じて商品を購入するのは、若い世代にのみ見られる傾向のように感じられるかもしれませんが、Facebookのユーザーで最も多い年代は30代〜40代、最も利用率が低いのは10代〜20代です。
これらのデータを重ねると、30代以上(Z世代以上)の消費者もSNSの情報を参考にしたり、プラットフォームを通じて商品を購入したりするのは特別な事ではないと分かります。
それを裏づけるように、SNSを通じて買い物を「しない」と回答した人はわずか4%だったという驚きのアンケート結果もあります。
あらゆる世代の消費者は大なり小なりSNSで発信される情報を購買行動に反映させていて、その傾向が最も顕著なのがZ世代、とまとめる事ができます。
Z世代にとってのSNS
Z世代にとってのSNSは、情報を取得する手段です。
とはいえ、Z世代の情報源はSNSやだけではありません。情報収集についてのアンケート調査結果によると、Z世代が情報源として利用するのは、SNSが約67%、Youtube等の動画サービスが約63%、TVが約61%と、SNSとTVの利用率がさほど変わらない結果が得られました(複数回答あり)。
若者のTV離れと言われた時期もありましたが、Tver等見逃した番組を気軽に視聴できるサービスがあったり、SNSの宣伝で番組の周知がなされたりと、TVを視聴する流れが戻ってきている傾向にあります。
しかし、商品を購入する時に参考にしている情報源について聞く設問では、SNSが突出して高い事から、購買行動に深く関わるのはSNSと見て良いでしょう。
情報収集で「失敗しない買い物」
デジタルネイティブのZ世代にとって、SNSは情報収集の場です。
Z世代は、SNSを中心としたネットの情報を収集、吟味して購買につなげる「バイヤー型消費」を行なっています。
バイヤー型消費とは、与えられる情報だけでなく自分で積極的に求める情報をリサーチして、自分が本当に必要である、良い、と感じた商品やサービスを選択する消費行動です。
バイヤー型消費は、より積極的に情報収集を行う「開拓志向」、良いものであれば国内だけでなく海外の情報にもアクセスして海外ECサイトの利用も行う「越境志向」、SNSの情報だけをやみくもに信頼するのではなく、自分なりの指針で情報を取捨選択して購買するかどうかを見極める「見極志向」、得た情報を忘れないうちに購買行動へとつなげる「即決志向」
の4つに分類されます。
Z世代は、大量の情報に日々接するため、欲しかった商品や気になるサービスを見つけても他の情報に接するうちに忘れてしまうという事があるようです。情報をそのまま受け取らず慎重に検討する一方で、良いもの好きなものなら忘れないうちにパッと購入する行動の速さが見受けられるのも、この世代の特徴と言えるかもしれません。
触れる情報が多くなると、有益な情報と信頼できない情報が混在してしまいます。
Z世代は生まれた時から多くの情報の情報、選択肢と共に成長してきたデジタルネイティブゆえ、「失敗しない買い物」をするためのメソッドを自分なりに構築しているのではないでしょうか。
ヘッドレスコマースの一つとしてSNSを捉える
SNSを購買プラットフォームとして活用するには、ヘッドレスコマースの一種として捉えるのが良さそうです。
ヘッドレスコマースは、ヘッド(頭)のないコマース、すなわちフロントとバックエンドを切り離して考える手法ですが、SNSをこの立ち位置に持ってくると行うべき施策や導入すべきシステムが見えてきます。
リアルタイムで消費者が接しているチャネルから商品・サービスを購入してもらうのが、ヘッドレスコマースの基本的な考え方です。
一般的に、ECサイトでは1ページ遷移するごとに数十%の利用者が離脱すると言われていて、この離脱を防ぐ上でヘッドレスコマースは有効と言えます。
■特集:ヘッドレスコマース これからのECサイトに必要な未来の「どこでもコマース」
複数のECチャネルを構築
使い勝手の良いヘッドレスコマースの条件には、n対1のように複数のチャネルに対して1つのバックエンドをつなげられる事が挙げられます。
ECサイト、SNSの購買プラットフォーム、大手モールサイトの店舗ページ等、複数のECチャネルを構築する場合、バックエンドもフロントに合わせて構築するとシステムは複雑化します。
チャネルが増えても、1つのバックエンドシステムで対応できる、いくつでも連結できるという構成が、複数のチャネルを持つ上では非常に重要です。