ECの課題である返品問題。好転させる考え方とコスト対策をご紹介します
試着ができず実物を確認できない点がデメリットとなるEC購入では、「イメージと違った」「サイズが合わなかった」といったお客様都合による返品依頼も発生します。
しかし多くのECではお客様都合による返品は受け付けておらず、不満を抱いている消費者も多いのです。
この記事ではECにおける返品について、消費者のニーズや返品の捉え方、コスト対策をご紹介します。返品対応に悩んでいるEC事業者は、ぜひ参考になさってください。
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返品を販売機会のひとつととらえる
小売店の課題である返品問題。実物を見て購入できないECではこの返品にまつわる課題が多く、悩みを抱える事業者も少なくありません。
例えばAmazonやコストコといった米国企業は国内でも返品に寛容で、この点も国内の消費者に支持される理由の1つです。
まずはECの返品をどうすべきか、そのアイデアや商習慣について解説していきます。
返品をマーケティングチャネルとしてEC運営に活かす
日本の小売業界では返品=悪と考えられがちですが、返品も顧客との重要なタッチポイントであり「販売機会」の1つです。
「返品マーケティング」という言葉もあり、返品の機会をマーケティングに活用する方法は海外でもポピュラーとなっています。
お客様都合での返品が発生したら、返品の理由や何と交換したのか?などの情報をデータとして集めて分析します。その結果は ECの運営に大きく役立つ貴重なデータの1つとなるのです。
国内の小売店ではお客様都合による返品交換を拒否するケースが多いからこそ、EC運営において大きな武器となります。実物を見ずに購入するECでは購入のハードルが下がり、売り上げアップが期待できるでしょう。
返品無料キャンペーンや試着キャンペーンなど、返品を逆手に取ったプロモーションを打つ小売企業は国内でも増えています。
返品に厳しい日本の商習慣
日本の小売業界は、お客様都合による返品を拒否する店舗が一般的です。昔からものづくりにおいて品質が高かった日本では、海外に比べて初期不良が少なく、返品自体をイレギュラーと捉える背景があったのかもしれません。
しかし日本の返品事情は海外より厳しく、消費者は不満に感じているのです。
■アメリカと日本で返品のしやすさに差がある
アメリカは「返品天国」といわれるほど返品に寛容なことで有名です。レシートさえあれば、使用済みだったり購入から年月が経ったりしていても、アメリカの小売店は多くのケースで返品を受け付けてくれます。
アメリカでは、クリスマスなどでギフトを贈る際にもギフトボックスにレシートを同封することが一般的です。ギフトを受け取った人が商品を気に入らなければ、そのレシートをもとに返品したり交換したりします。
上記のような行動は、日本では「ありえない」「非常識」と思われがちですが、アメリカではいたって普通のことなのです。
一方で日本は返品の敷居が高いことで有名です。初期不良でない限り返品交換を受け付ける店舗は少なく、レシートの有無にかかわらず、「イメージと違う」などのお客様都合の返品は拒否する店舗がほとんどです。
日本では返品=店舗側の好意・サービスとしてとらえられており、消費者側も、お客様都合だから返品は受け付けてもらえないと思っています。
■消費者の87.3%がECの返品体験に不満を感じたことがある
消費者の多くは「お客様都合の返品には応じてもらえない」と思っていますが、納得しているわけではありません。
調査によると、ECサイトにおける返品体験で「不満を感じたことがある」と回答した人は87.3%もいることがわかっています。※
消費者が不満を感じた具体例では、「返品してから交換商品が届くまでに時間がかかる」「2つ注文したうちの1つだけを返品したいのに、支払い方法の関係で2つとも返品して再注文しなければならなかった」といった利便性の低さが意見として挙がっていました。
これは物流やフローの柔軟性が低さが原因と考えられ、小売業界において大きな課題の1つです。
消費者にとって「良い返品体験」となる条件は、スムーズさや手軽さです。
日本で返品する場合、店舗側は「どんな点がイメージと違ったのか?」「いつ購入したのか?」「購入してから一度も使用していないか」などさまざまなことを質問します。消費者はこのやり取りの多さに不満を抱く方が多く、いかに少ないやりとりで返品手続きが完了できるかが重要です。
ECで返品・交換する場合、消費者側が商品を返送→店舗側で検品→新しい商品を再発送といったフローが必要で、物流上どうしても時間がかかってしまいます。その場で交換できる実店舗に比べ、この点も改善が必要です。
■生活者の90%は返品ポリシーを見て購入を止めたことがある
調査によると、ECサイトで商品を購入する前に返品ポリシーを見る消費者は92.2%で、そのうちの92.6%もの人が「そのECサイトでの購入をやめたことがある」と回答しています。
つまり消費者のほとんどはECサイトで購入する前に返品ポリシーをきちんとチェックしており、時には「購入しない」という判断を下しているのです。
「このECサイトで購入しない」と消費者が判断した主な理由は、「イメージやサイズ違いの返品ができない」「返品期間が短い」といった内容でした。つまり“お客様都合”による返品を受け付けないECサイトは、それだけで購入者を逃している可能性が高いのです。
流通規模の大きさと返品対応は比例している
「返品対応は店舗運営に悪影響」と思われるかもしれませんが、実は流通取引額が多いブランドほど返品マーケティングを活用しているデータがあり、ECの売上と比例しているというデータがあります。
以下の表は、返品マーケティングを実施しているブランドとその流通取引額を調査した結果です。
流通取引額 |
返品マーケティング実施率 |
1億円以下 |
27.7% |
1~5億円 |
30.7% |
5~10億円 |
25% |
10億円以上 |
52% |
参照:Recustomer、「ECサイトの返品・交換データ調査レポート」公開
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000046039.html
上記の通り、ECサイトの流通取引額が高くなるほど返品を活用し、返品マーケティングを実施していることがわかっています。
返品はそれ自体を受け付けていないECも多く、対応することで顧客満足度アップにつながります。返品ポリシーの条件を緩和することで購入率アップにつながりますし、リピート率アップも期待できるでしょう。
返品コストをどう低減するか
ECにおいて返品ポリシーを緩和した時、まず課題となるものが「返品コスト」です。ECサイトにおける返品率は約30%もあるといわれており、コスト面で折り合いがつかず返品に対応できないECも少なくありません。
EC業界でも返品が重要視されるようになり、今では事業者が取り入れやすい返品サービスも増えています。
返品はCSや店舗スタッフ、物流のコストがかかる
お客様から商品が返品されたら、事業者は返品処理をしなければなりません。返品された商品は検品作業を行い、状態によっては梱包し直すことも必要です。商品棚に再度並べるまでには、店舗スタッフにも多くのコストがかかります。
またECでは物流に関わるコストが大きいことが課題になります。輸送費や車両費用、人件費などの値上げも相次いでおり、原油価格高騰によって物流コストの上昇は落ち着いていません。
ECにおいて返品対応を進めていくためには、上記のような物流コストや運営におけるコストをどう削減するかがポイントとなります。
BORISやBOPISは実店舗ありきの返品サービスである
ECと実店舗の両方を構えている企業では、アパレル業界を中心に「BORIS」や「BOPIS」が注目されています。
BORISとは「Buy Online
Return Un Store」の略であり、ECで購入した商品を実店舗で返品するシステムです。BOPISとは「Buy Online Pickup In Store」の略で、ECで購入した商品を実店舗で受け取ります。
BORISやBOPISはオンラインとオフラインを融合した施策であり、オムニチャネルを進めている企業にとって画期的な取り組みです。これらの取り組みでは、衣料品チェーンストア「しまむら」やワーキングウェアを取り扱う「ワークマン」が成功事例として知られています。
ECと実店舗のどちらも運営している企業は、BORISやBOPISを導入することで返品コストの削減が実現するでしょう。詳しくは、これから来るECトレンド:アパレルに広がるBORISとBOPISをご参照ください。
返品対応に注力するEC事業者・サービスが増えている
BORISやBOPISは実店舗ありきの取り組みであり、EC専門の事業者は実現できません。
しかし、昨今ではEC事業者向けに返品やキャンセル処理を請け負うサービスが登場しました。これにより、EC専門事業者は返品対応をアウトソーシングするという選択肢が生まれています。
返品・交換受付センターを構築したり、返品の自動承認・拒否したりといったことを外注でき、返品における業務コストを削減できます。また配送業者との連携による自動集荷機能まであり、自社の集荷コストが増える心配もありません。
別のサービスでは、AIを搭載した自動返品システムによって顧客体験やCS業務負担を軽減してくれるものもあります。メールやチャットなど手作業で集めていた情報も一元管理でき、データ活用にも有効です。
返品ポリシーの緩和は業務コストの負担増に直結するため、「実現したくてもできない」と悩む事業者が少なくありません。返品対応を強化したいEC事業者は、「アウトソーシング」という方法も手段の1つとして検討できます。
令和4年6月に改正された特商法も要チェック
消費者の多くははECサイトの返品ポリシーをチェックしていますが、中にはそうではないケースもあります。
消費者庁は特定商取引の改正が行われ、令和4年6月1日より、返品を含む6つの項目を「注文確定直前の最終確認画面」で表示するよう義務付けられました。
注文確定直前の最終確認画面で明記すべきなのは販売価格や支払時期、返品方法、申込期間などです。
すでに対応している事業者は問題ありませんが、返品ポリシーを緩和したり見直したりするなら修正対応が必要となります。
特定商取引法の改正について、詳細は消費者庁の公式ページをご参照ください。
返品は必ずしも損失ではない
EC事業者の方に向けて、返品の捉え方や対応方法などをご紹介しました。さまざまなコストがかかる返品対応は、お客様都合の場合受け付けない事業者が多いものです。
しかし海外との商習慣の違いなどから不満を抱く消費者は多く、ECにおいても返品ポリシーを緩和しようという流れが生まれています。
今回ご紹介した「返品マーケティング」のように、返品=損失・悪とは限りません。むしろ流通取引額が多いECほど返品マーケティングを取り入れており、消費者の購入ハードルが下がったり有益なデータが得られたりとメリットもあります。
「返品対応まで手が回らない」という事業者は、ご紹介したようなEC向けのアウトソーシングもおすすめです。EC市場が盛り上がり競合他社も増加している今、返品対応は差別化の1つになるのではないでしょうか。