EC化率は2050年には39%へ。これからのECリニューアルは目的に合わせた進化がマスト
国内外で、ECサイトをリニューアルする動きが活発化しています。
90年代半ばから2023年まで、時代の流れとともに進化し続けてきたECとECサイトですが、ここへ来てAI等新たなデジタルテクノロジーを組み合わせて、さらなる顧客体験と業務効率化を達成するための改革が色々と実施されています。
全面的なリニューアルが難しい場合は、今必要な部分のシステムだけを入れ替えるアドオンテクノロジーという手法を用いたり、補助金を活用したり、工夫して乗り切る事もできます。
本稿では、昨今のECリニューアルトレンドのキーワードであるID連携、アプリ、OMO強化、メディアコマース戦略をチェックするとともに、2024年にくると予想される、国内外のIT投資の見通しについても紹介しています。
無料メルマガ登録はこちら:デジタル化のヒントが満載のメルマガをお届け
大手ECモール、ECサイトのリニューアルが活発に
日本のEC化率は、2050年には39%へと成長すると推定されています。
ちなみに2022年のEC化率は9.13%でした。
ここからあと約四半世紀の間に、どのように30%の伸長を達成するのでしょうか?
ある機関によると、2050年の日本では消費の中心を担う層は、少子高齢化によって減少こそするものの、その全世代がデジタルに高い親和性を持つようになるため、EC化は急加速すると見られています。
買い物にかける時間は減少していくと予想され、その分、利便性を求めて人はECサイトを利用するようになる、と予測が立てられています。
店舗数や店舗面積は年々縮小していき、来店を前提とした店舗だけでなく、ダークストアやオンライン/オフライン融合型の店舗の割合が、全体の20〜30%を占めるという見立てもあります。
こうした予見に対応するかのように、ECサイトのリニューアルが活発化しています。
商品の紹介のみだった公式サイトにECサイト機能を持たせたり、独自の自社アプリに大手モール並みの利便性を持たせたりと、大手モールも小売事業者も、軒並みECサイトは変革の時を迎えています。
ECサイトの発展
ECサイトは、90年代半ばに誕生しました。日本では1997年に楽天スーパーオークションがスタートし、1999年にはYahoo!ショッピング、Yahoo!オークションの提供が始まっています。
Amazonは、本販売専門のECサイトとして2000年にサービスを開始し、2002年にマーケットプレイスを始めました。
2011年には、FacebookがECをスタートし、翌年の2012年には、資金がなくても簡単にショップを開設できるECサイト作成サービスが複数誕生、誰でも容易にネットショップを開けるようになりました。
こうしたECサイトの発展には、配送インフラの整備やスマートフォンの普及、法整備といった周辺事情も深く関連しています。
佐川急便が宅配事業を始めたのは1998年で、日本でECサイトの立ち上げがスタートした時期と重なります。
また、ECサイトの利用拡大に伴って法律も整備されました。
2000年頃は、EC市場が急速に発展を遂げた事で、消費者トラブルの件数もまた急増していました。この混乱は、ネットバブル(ITバブル)の崩壊と言われています。
EC市場を取り巻く状況を是正するため、2001年には電子消費者契約法が、2005年には個人情報保護法が施行されました。これらの法律によって、消費者はより安全にECサイトを利用できるようになったのです。
ネットバブルが弾けた事によって、EC市場は新たな幕開けを迎えたと言っても良いでしょう。
さらに、スマホの普及もEC市場に変化をもたらしました。
iPhoneが本国で発売されたのは2007年で、日本に上陸したのは2008年です。手のひらサイズの高性能な端末の普及は、ECサイトを身近な存在にしました。
そして、世界的なパンデミックであるコロナ禍も、ECサイトと人との距離を縮めた要因の一つと言えます。
世界的な巣篭もり需要によって、ECサイトは安全で便利なショッピング体験になりました。
それまで若年層のものと捉えられていたECサイトの利用は、高齢者層にも広がり、現在ではあらゆる年代の人がより気軽にECサイトで買い物をするようになっています。
リニューアルによる進化
ネットバブル崩壊時には、多くの専業ECサイトが倒産してしまいました。
これによって、「ECは実店舗と組み合わせて運営すべき」という風潮が生まれ、リアル店舗とECをいかに融合させていくか、試行錯誤が続いてきました。
昨今のECリニューアルは、それぞれの規模や目的に特化した進化を遂げるという意味で、より多様化していると言えるでしょう。
ID連携、アプリ、OMO強化、メディアコマース戦略
キーワードは、ID連携、アプリ、OMO強化、メディアコマース戦略の4つです。
利用者数が約9,600万人と言われるLINEは、ヤフーとのID連携を強化しようとしています。
ID連携を強化して、他社のECサービスとの結びつきを強め、相互送客を可能にする事で業績を伸ばすのがLINEの戦略です。
自社のスマホアプリをリニューアルして、大手モール並みの操作性と利便性を持たせようとする取り組みもあります。従来のアプリは、紙のカタログに載っている商品ナンバーを入力するだけで商品が検索できる高い操作性が評判のアプリでしたが、この企業はさらに紙のカタログなしでの商品検索システム、問い合わせや配送状況のチェックといった自社の利用に関わるすべてを網羅できるアプリにリニューアルする予定とされています。
3つめのキーワードであるOMO強化は、ユニファイドコマースという手法が該当します。OMOはオンライン、オフラインを融合させて売上を上げていくという考え方ですが、これに顧客体験の向上をプラスするのが、ユニファイドコマースです。
すでに、現代のECサイトはEコマース3.0という「何でも、いつでも、どこでも」買えるフェーズに入っていると考えられています。何でもいつでも購入できる状態が当たり前になった今、他社との差別化として求められるのが、顧客体験というわけです。
4つめのキーワードは、メディアコマース戦略です。
メディアコマース戦略は、製品やサービスを購入する事だけでなくブランドや企業そのものを体験できるよう、メディアサイトとECサイトを融合させる戦略の事を言います。
具体的には、ECサイトを「ものを売る場所」だけに限定するのではなく、バーチャルイベントやアート・エンターテインメントといった体験をも包括したサイトにリニューアルしていくような戦略を指します。
「大手モール並みに利便性を高める」という戦略は、言わばECサイトの機能を研ぎ澄ませていくプロセスを追っていきますが、メディアコマース戦略を展開する場合はECサイトという構造から一度離れて、自社の社会的な立ち位置や顧客層の求めている要素の分析等を行う必要があります。
ECサイトのリニューアルは、EC機能に特化するか、ECを「体験」にフォーカスして進化させるか、どちらの方向を選ぶかによって施策が変わると言えるでしょう。
2024年のIT投資、ECリニューアルも目的の一つに
2024年は、世界的に調達部門の予算が多くなる予測が立てられています。
ある調査によると、調達部門の責任者の9割以上が、「調達業務を最適化する必要がある」と考えていて、持続可能なサプライヤーを見つける必要性を感じている事が明らかになっています。
調達部門の最適化のために投資する分野としては、分析ツールやインサイトツール、システムの自動化、AI関連という回答が挙がりました。
ECを運営する小売業者の多くは、既存の基幹システムに複数の新たな技術を組み合わせてアップデートする複雑さを痛感しています。
リニューアルやそれに伴う改革をするならば、アップデートではなく丸ごと新たなソリューションを導入した方が良いという考えもありますが、投資額が増大するため現実的ではないと考える企業も少なくありません。
市場で生き残りを賭ける中小企業にとって、この打開策となるのがアドオンテクノロジーという考え方です。
アドオンテクノロジーとは、ECシステム等の既存システムはそのままに本当に今必要な部分のみを入れ替える事を言います。喫緊に必要な箇所のみ、的を絞って行う事によって、最小の予算で最大の効果を期待できるはずです。
今求められているシステムの改修部分が何か、という点については、2024年のトレンド予測から読み解けるかもしれません。
ECのテクノロジーに関連した予測には、次のようなものがあります。
レガシーシステムの保守と移行
日本では、まだ1980年代に導入されたレガシーシステムが動いている企業が少なくありません。これまでは、その保守に予算を割いていた企業も多かったかもしれませんが、経産省の「DXレポート」では、このまま保守を続けると2025年以降には最大12兆円/年の経済的損失が生じると示唆されています。
2024年以降は、保守よりもシステムの移行を本格的に検討すべき段階と捉えるべきでしょう。
SNSとの連携強化
メタ(Meta)は、運営するFacebookとInstagram上で、外部サイトに遷移する事なくショッピングを完結できるサービス提供に意欲的です。
現時点ではまだ普及は進んでいませんが、今後はID連携を進めるLINEと同様に、顧客データを活用したソーシャルコマースをどんどん広めていくと予想されています。
消費者意識の高まりとデジタルテクノロジーの活用
生成AIは、業務効率化やコスト削減に活用できる万能のテクノロジーという見方もあります。
しかし、AIの生成物や学習データをどのように扱うのが適切であるか等、議論の余地が残る技術である事も確かです。
ゆえに、海外のアナリストは、消費者が企業に対して個人情報管理の強化を求める等、企業の信頼がより試される未来が来ると予想しています。
一方で、モバイルのカメラとAR技術を組み合わせて、従業員の最適な行動をアシストするといった技術による生産性向上の取り組みは、2024年以降加速すると予測されています。
ECリニューアルの目的と時期
ECリニューアルは、目的と時期を明確に決めてから行うべきです。
ECリニューアルの目的は、消費者のニーズや困っている事柄を洗い出す事で見えてくる場合があります。
例えば、既存のECサイトの問題を分析した時、「閲覧した顧客が目当ての商品に辿り着く前に離脱してしまう」、「顧客情報のデータがスムーズに統合されていない」といった課題が見つかれば、それを改善するのがリニューアルの目的の一つになります。
問題点を見つける時は、閲覧する顧客にとっての問題なのか、営業やマーケティングといったいわゆるバックオフィス側が困っている問題なのかを、はっきりさせる事が重要です。
顧客のためにリニューアルするのであれば、ゴールには「今までにない顧客体験」が据えられます。
バックオフィスの業務改善を主な目的とする場合は、「業務効率化によるコスト削減」や「実行できる施策量の増加」といった目標を掲げる事ができるはずです。
時期については、例えば「リアル店舗の新規オープンに合わせて」、「新生活をターゲットとしたセール時期に合わせて」というように、無理がなく実現可能なタイミングを設定すると安心です。
補助金活用なども視野に
ECリニューアルは、補助金を活用できるケースもあります。
「事業再構築補助金」は、経産省が企業のデジタル化推進のために設けた制度で、ECサイトの構築及び必要な経費について援助を行うものです。
従業員の規模に応じて最大7,000万円まで補助を受ける事ができます。
「IT導入補助金」は、同じく経産省による補助金制度で、会計や受発注、決済、ECの機能を有するソフトウェアやその機能拡張、連携ツールの導入、保守サポート等に対して、補助率2/3以内で50万円超350万円以下という範囲を補助してくれる制度になります。
こうした補助金制度もうまく活用する事で、リニューアルの予想図は資金の制約を受けにくくなり、より利便性の高い改修を実現できるはずです。
■EC-ORANGEでのECサイト開発を対象とした補助金制度