CVRアップ効果も!生成AIとVR/ARによるバーチャル試着がECのパーソナライズな購買を実現する
バーチャル試着は、Googleをはじめとする世界中の企業が開発・導入に力を入れているサービスです。
ECを利用する消費者にとって、最大のデメリットは「実物を確認できないこと」ですが、近年ではサイズ感や質感をリアルに確認できる技術によってバーチャルなお試し体験が可能になりました。
バーチャル試着は、デジタルツールを活かす施策「ファッションテック」の中でも、特にCVR(コンバージョンレート率)向上などの成果が見込める施策として注目されています。
本稿では、ECアプリやサイトの画像や、ユーザーの読み込む画像を組み合わせて試着イメージを構築するバーチャル試着や、VR(仮想現実)とAR(拡張現実)を用いてよりリアルな試着体験ができるサービスまで、バーチャル試着の最前線をお届けします。
無料メルマガ登録はこちら:デジタル化のヒントが満載のメルマガをお届け
バーチャル試着は様々なサービスが台頭
生成AIを利用したバーチャル試着サービスは、より自然で、より便利になっています。
リアルな試着体験に用いられるのは、実在するさまざまな体型やサイズのモデルの写真、実際の商品の画像、生成AI、VR/ARのようなデジタル技術です。
これらを組み合わせることで、よりパーソナライズされた試着体験が提供できるようになり、オンラインでの購買体験が向上します。
ECの課題を解決するバーチャル試着
ECサイトでアパレル商品を購入する際、消費者が最もネックに感じるのは「試せない」ことです。
採寸をどれだけ細かく記載しても、実際に着用してみないと不安なユーザーは多く、色味や質感についてもオンラインでは確認しにくいと考える人がほとんどではないでしょうか。
言い換えれば、この点をクリアすればECの課題は一つ解決したと言えるでしょう。
バーチャル試着がリアルに近づけば近づくほど、「ディスプレイで見ていた想像と違った」、「買ってみたらサイズが合わなかった」という理由での返品件数を減らすことができます。
コロナ禍で国内のEC化率は向上しましたが、それをさらに推進するためには、実店舗に近い購買体験を提供する施策展開が不可欠です。
さらに、実店舗でのショッピング体験を超えるような特別な試着体験を提供できれば、新たな価値が創出されます。
ファッションテックの中でも王道施策
ファッションテックとは、ファッション(Fashion)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた言葉です。
具体的には、AIやAR(拡張現実)、VR(仮想現実)、生成AIをはじめとした人工知能を活用した施策を講じることや、その施策自体を指します。
尤も、アパレル業界において、ITを活用して顧客サービスの利便性を高めたり、製造や流通の過程にデジタル技術を取り入れることも、広義のファッションテックの一部です。
しかし、バーチャル試着のように顧客と直接結びつきやすい技術活用がファッションテックの王道施策とされており、各企業が力を入れています。
顧客と直接関わるバーチャル試着のようなサービス以外のファッションテックには、バーチャルスタイリストやクロージングサブスクリプションがあります。
ECサイト上でAIを用いてユーザーの好みと商品のマッチングを行うバーチャルスタイリストは、日本でも需要が高く、ECの拡大に貢献する技術と見なされています。
一方、毎月定額を支払うことで洋服やアクセサリーをレンタルするクロージングサブスクリプションは、国内ではまだ需要が低いため、可能性は未知数とされています。
多彩なバーチャル試着ツール
現在提供されているバーチャル試着ツールは、大きく2つのタイプに分類できます。
1つは、既存の画像やユーザーがアップロードした写真を使ってコーディネートを構築する方法です。ECの商品詳細画像や、さまざまな体型やサイズのモデル画像を用意しておけばバーチャル試着サービスを提供できるため、ECサイトのショッピング体験を向上させる強力なツールとなるでしょう。
オンラインショッピングの「時と場所を選ばない」という利点をそのままに、試着という付加価値をくわえることができるツールです。
もう1つは、生成AIとAR(拡張現実)を利用して、ユーザーが試着した様子をリアルタイムで確認できるようにする方法です。
この技術は、ユーザー自身がリアル店舗の試着室で実際に試しているかのような体験を提供することができるため、ECの延長線上というより、さらに一段上の新しい購買体験を提供していると言えるでしょう。
Googleも早い段階からショッピングの最適化に取り組んでおり、最近では、肌の色や人種などを設定して、その特徴に合ったモデルの着こなしを見られるバーチャル試着機能を提供しています。
Googleで欲しい商品の名前や色を検索すると、膨大な結果が得られます。
しかし、選択肢が膨大すぎると、ほとんどの人は選択肢過多効果(選択肢が多いと心理的に疲弊し、何も行動しなくなること)により購買意欲を失ってしまいます。
これを回避するためには、パーソナライズされた購買体験の提供が必要です。
オンラインショッピングをする時に消費者が持っている心のイメージをいかに形にするかが、今後のECにとって重要になるでしょう。
ECアプリの中に組み込まれた試着ツール
ECアプリ内の商品単体画像と、さまざまな体型のモデルを組み合わせる試着サービスは、ユーザーがコーディネートを自由に楽しめる利便性が特徴です。
既存の画像を組み合わせて試着イメージを生成することにより、新しく商品やモデルを撮影するコストをかけなくて良いのがメリットです。
これと似た技術の活用により、ユーザーが自分の写真を複数枚読み込むだけで、自分が試着しているような画像を生成する試着サービスもあります。
ユーザー自身の写真を使うことで、よりリアルな試着体験が可能になります。
AIで効率的に着用イメージを生成
AIを活用した画像認識にARエフェクトを組み合わせ、あたかも自分が実際に試着しているような体験ができるサービスも登場しました。
リアルなARバーチャル試着は、手前にあるオブジェクトが後ろにあるものを隠す「オクルージョン」という技術により可能になっています。
例えば、腕をカメラに映すと、腕の形を検知して時計やブレスレットが現れます。ARエフェクトは腕や足の動きに追従するため、実際に試着して確かめるように質感をチェックすることも可能になっています。
また、メガネを試着する場合は、目と目の間を自動計測してフィット感のある試着を行えるサービスが登場しています。リアルタイムで試着するだけでなく、あらかじめ撮影した動画を読み込んで商品と合わせることができるなど、消費者のニーズに細かく対応したサービスが好評を博しています。
こうしたAI技術を活用して、ウィッグの試着サービスを提供する企業もあります。
ウィッグは洋服やメガネ、アクセサリーよりも試着のハードルが高く、来店予約やカウンセリング予約を経て試着体験を提供している店舗がほとんどです。
しかし、AIを活用した試着サービスであれば、店舗に行かずに試着をすることができます。
この試着サービスを導入した企業は、ファッションアイテムとしてのウィッグだけでなく、医療ウィッグ選びの利便性も高まることを期待しています。
仮想現実での試着がより実体験に近づく
VRChatをはじめとして、VR(仮想現実)の世界でも試着の動きは広がっています。
VR上で動かすアバター(分身)の姿形を自分好みに作ることは、2Dのゲームなどでも一般的ですが、近年はよりリアルな着せ替えが楽しめるようになってきました。
アバターは体型を自由にカスタマイズできることが多く、実際の人間に近い形からうさぎやクマといった動物、あるいは架空のキャラクターの体型など、多様なフォルムを構築できます。
VRのファッションの最先端では、こうした多様な体型に合わせてリアルと同じ洋服を試着したり、体格の異なるアバター同士でおそろいの衣装を着用したりできるようになっています。
VRの世界では現実では着られないような奇抜なデザインの服よりも、実際に着用できるようなリアル感のあるファッションが好まれる傾向があり、この点がアバターのリアルな着用感を求めるニーズの元になっていると言えるかもしれません。
ECの課題を技術の進化で解決
ECは、商圏を気にせず事業を展開できるのが最大の強みです。
多言語対応など必要な施策を講じることで、越境ECとしての可能性も高まるでしょう。
一方、ECの飛躍的な成長の前には、商品を手に取って試してもらうことができないという大きなハードルが立ち塞がっています。
実店舗をECのダークストアとして活用する取り組みなど、在庫管理・配送システムの効率化は進んでいますが、オンラインでリアル店舗とまったく同じ接客や購買体験を提供するのは困難を伴います。
これを解決するのが、バーチャル試着のような技術です。
リアル店舗に近づけようとするのではなく、ECだからこそできる購買体験を提供することで、ショッピングに新しい価値を創出することができるでしょう。
CVRアップの効果も見込める
CVRは、コンバージョン・レート(Conversion Rate/コンバージョン率)の略です。
CVRとは、サイトやアプリにアクセスした訪問者のうちで最終成果に至ったユーザーの割合を示す指標です。
なお、ここで言う最終結果とは、ECサイトの場合、商品の購入になります。
ある企業では、バーチャル試着サービスを提供を開始したところ、試着サービスを利用した顧客は、利用していない顧客に対して約4倍のCVRを獲得しました。
試着は、購入を迷っている消費者を後押しするツールとなります。
心の中にぼんやりと浮かぶ「欲しいもの」や「なりたい自分」をバーチャル試着サービスで具現化することで、新しい購買体験を提供し、ショッピングの満足度を高めることができるでしょう。
生成AIなどデジタルテクノロジーの進化はスピーディです。それに伴って、バーチャル試着の精度もさらに向上していくことが期待されます。