日本上陸!Amazonプライムワードローブが変える?アメリカの返品制度と商習慣(※2018/10/26追記)
【目次】
このサービスでは購入したアイテム数に応じて割引が得られるほか、受け取りから7日以内であれば本体料金はもちろん、配送料も込みで全額返金を得られるというのが最大のポイントでしょう。
自宅で試して気に入らなければ返品することを推奨するサービスは、日本人からすれば大胆なアイデアのように思えますが、実はアメリカの小売業における返品制度とは、日本のそれとは比較できないくらい生活に浸透したシステムなのです。
「まとめて試着、気に入ったらお支払い」とある通り、サイズや色違いの商品をまとめて取り寄せ、気に入ったもの以外は返品が可能なサービスになっています。
着払い伝票が入っており、ユーザーは返送料を気にすることなく試着サービスを受けることができるようになっています。
そのため返品はあくまでも何か手違いがあった場合や、商品に問題があった場合に限って行われるため、客側の自己都合での返品は日本では「例外のサービス」という位置付けであることは一般的な共通認識でしょう。
一方でアメリカにおける返品サービスは、日本に比べてはるかに浸透していると言えます。「サイズが合わなかった」「やっぱりいらなくなった」という理由での返品は当たり前ですし、衣類で言えば洗濯済みであったり、多少使用感のある場合での返品も日常茶飯事です。
もちろん電化製品のような大型の買い物でも同様です。新品テレビを購入して、一週間使用してからやっぱり返品、というのは決して珍しい話ではありません。たとえ商品がどんな状態であろうとも、購入からどれだけ時間が経とうとも、返品はいつでも受け付けてもらえるというのがアメリカにおける小売業のサービスの一環なのです。
ちなみにこれは食品でも同じことが言え、一口食べて味が気に入らないから返品、なんてこともあります。さすがにここまでくるとやや嫌な顔をされることも多いようですが、それでも返品に応じてくれるところは少なくありません。
レシートの有無や商品の状態はもちろん、その店舗で購入したかどうかもわからない品でさえ、返品手続きに応じてくれるのがアメリカの返品サービスなのです。
「返品できることの安心感」は、日本では「通販」を例に考えてみるとしっくりくるのではないでしょうか。
今でこそクーリングオフ制度やJADMAマークをはじめとした通販のルールが整えられていますが、通信販売が普及してきた当時はそのような消費者の安心を保証する制度はもちろんなく、広告の打ち方や販売方法まで、ルール無用の悪質な取引が横行していました。
ところが通販における宣伝方法の規制、そして返品・返金制度が国によって定められたことで、通信販売の環境は大きく改善し、公正な取引がなされている場として消費者の信頼を獲得することに成功。売り手と買い手にとっての取引の場が広がりを見せた瞬間でした。
日本では国や社会がルールを作ることで消費者の安心を保証してくれますが、一方のアメリカは国ではなく、国民一人一人が慣習によってお互いに保証します。
アメリカは日本以上に知らない者同士で築かれてきた国ですから、意外にも生活に関わる慣習やルール、秩序に対して国民は敏感です。時に「訴訟大国アメリカ」と表現されることもありますが、自分の身は自分で守るしかない精神を育んできたゆえの結果と言うこともできるでしょう。
「返品に寛容である」慣習も同様で、見ず知らずの小売店が自分たちのブランドを保証するために始めた返品サービスが、競合店同士でお互いに真似をはじめたことで、最終的に小売業のスタンダードなサービスとして広まったのです。
し烈な競争社会が、結果として消費者の安心を生むことになったのは、まさにアメリカならではの秩序のあり方の一つと言えます。
今日までアメリカが返品サービスを続けてきた理由としてもう一つ重要なのが、返品に寛容なことで、消費者の購買意欲を掻き立てている点です。
アメリカの小売業における平均的な返品率はおよそ8%、オンラインショッピングであればその割合はさらに増加するとのことですが、それでも返品サービスを続けるのは、http://blog.livedoor.jp/usretail/archives/51988425.html結果的に売上の向上につながっているとされているためです。
返品可能とはいえ一度買ってしまえば返品もそこそこ手間ですから、買う・買わないで悩んでいる人を返品可能が後押しして「買う人」にしてしまうことができます。
返品率が高いと言われるアメリカの小売業ですが、「返品不可なら買わない人」たちを「買う人」と「返品する人」にまでレベルアップすることができれば、結果的にコストを差し引いても利益を出すことができるのです。
日本はゼロリスク社会が優先されるため、たとえ多少の合理性を犠牲にしてでもリスクを回避することに集中してしまいがちですが、アメリカでは「事故は起こるもの」精神が優先されるため、多少の返品やクレームに対応するくらいなら、彼らに返金して全体の利益を優先することが美徳とされるのです。
また多少の廃棄やクレームよりも全体の数字を大切にする精神は、経営者だけでなく国民全体にも共有されており、結果的に社会はそれでうまく回っているのがアメリカです。一方の日本は問題が起こるとすぐに責任問題や説明責任の話になってしまい、一つのミスやクレームが会社の運営にとって足を引っ張ってしまうことも少なくからずあります。日本で返品サービスが浸透しない理由の一つはそこにもあるかもしれません。
主な原因は上でも少し触れたように、寛容すぎる返品サービスのあまり、悪用する人や心ない返品を敢行する消費者の存在です。
制度的にではなく、慣例的に返品サービスを行ってきたアメリカの小売市場ですから、例えば商品の状態やいつどこで買ったのかなどに対して寛容であるぶん、使い古しの品を返品されたり、ドレスを必要な時に買っては役目を終えると返品に持ってくるなど、慣習を悪用して取引の範疇を超えたサービスの使い方をする人も後を絶たず、実質的な売上が落ちてきているという問題が大きくなってきています。
売上が減少傾向にある中、返品のコストもかさむ。アメリカの大手百貨店ではついに返品期間を定めるなどのルール作りを始めましたが、結果的にさらに売上を落とすことになるのではないかという声も上がっています。
日本人からすれば返品期限があるのは当たり前かもしれませんが、小売業・流通業を掌握しようとしているamazonがやるからこそ、アメリカの返品サービスにも一定のルールが生まれる可能性があるわけです。
加えてamazonにはモンスター級の資本力がありますから、潤沢な時間とお金を用いてルールに少しづつ改良を加えていく余裕もあります。
このようにamazonはアメリカ人に物理的なライフスタイルの変化だけでなく、返品サービスのような生活の慣習の変化さえもたらしてしまう影響力を持っていることが、この新サービスの登場から読み取ることができるのです。
- アマゾン・プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)とは
- アマゾン・プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)日本でもサービス開始!
- アメリカの小売店における返品事情
- 返品サービスは信頼の証
- 返品サービスは信頼以上の価値を生むのか
- アマゾン・プライム・ワードローブの登場はアメリカの小売市場を変えるか
アマゾン・プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)とは
2017年に米amazonが発表した「アマゾン・プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)」は、100万を超えるamazonのファッションカタログから衣服を三点以上購入した際に適用されるプライム会員向けサービスです。このサービスでは購入したアイテム数に応じて割引が得られるほか、受け取りから7日以内であれば本体料金はもちろん、配送料も込みで全額返金を得られるというのが最大のポイントでしょう。
自宅で試して気に入らなければ返品することを推奨するサービスは、日本人からすれば大胆なアイデアのように思えますが、実はアメリカの小売業における返品制度とは、日本のそれとは比較できないくらい生活に浸透したシステムなのです。
アマゾン・プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)日本でもサービス開始!
日本でも、2018年10月からプライム会員向けに「Prime wardrobe」のサービスがスタートしました。「まとめて試着、気に入ったらお支払い」とある通り、サイズや色違いの商品をまとめて取り寄せ、気に入ったもの以外は返品が可能なサービスになっています。
アマゾン・プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)の仕組み
日本でも、以下のような流れでアマゾン・プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)を利用することができます。- 対象商品を3点以上、8点まで選択
- 申込後1~3日で到着、配達完了から最長7日まで試着
- 注文履歴から購入か、返送するかを選択
- 返送品は同梱の着払い伝票で返送
着払い伝票が入っており、ユーザーは返送料を気にすることなく試着サービスを受けることができるようになっています。
アメリカの小売店における返品事情
「いつでも返品」は当たり前
オンラインであれ実店舗であれ、日本ではモノを買う場合、お金のやりとりが発生した時点で売り手と買い手の取引は事実上終了したことになり、それ以上の干渉が行われることはありません。そのため返品はあくまでも何か手違いがあった場合や、商品に問題があった場合に限って行われるため、客側の自己都合での返品は日本では「例外のサービス」という位置付けであることは一般的な共通認識でしょう。
一方でアメリカにおける返品サービスは、日本に比べてはるかに浸透していると言えます。「サイズが合わなかった」「やっぱりいらなくなった」という理由での返品は当たり前ですし、衣類で言えば洗濯済みであったり、多少使用感のある場合での返品も日常茶飯事です。
もちろん電化製品のような大型の買い物でも同様です。新品テレビを購入して、一週間使用してからやっぱり返品、というのは決して珍しい話ではありません。たとえ商品がどんな状態であろうとも、購入からどれだけ時間が経とうとも、返品はいつでも受け付けてもらえるというのがアメリカにおける小売業のサービスの一環なのです。
ちなみにこれは食品でも同じことが言え、一口食べて味が気に入らないから返品、なんてこともあります。さすがにここまでくるとやや嫌な顔をされることも多いようですが、それでも返品に応じてくれるところは少なくありません。
レシートの有無や商品の状態はもちろん、その店舗で購入したかどうかもわからない品でさえ、返品手続きに応じてくれるのがアメリカの返品サービスなのです。
返品サービスは信頼の証
それではなぜここまでアメリカに返品サービスが浸透しているかというと、やはり売り手と買い手の良好な関係を維持するために欠かせないサービスだからです。「お情けの返品対応」ではなく、「返品ができる」というサービスそのものがアメリカでは店の信頼感に直結しています。「返品できることの安心感」は、日本では「通販」を例に考えてみるとしっくりくるのではないでしょうか。
今でこそクーリングオフ制度やJADMAマークをはじめとした通販のルールが整えられていますが、通信販売が普及してきた当時はそのような消費者の安心を保証する制度はもちろんなく、広告の打ち方や販売方法まで、ルール無用の悪質な取引が横行していました。
ところが通販における宣伝方法の規制、そして返品・返金制度が国によって定められたことで、通信販売の環境は大きく改善し、公正な取引がなされている場として消費者の信頼を獲得することに成功。売り手と買い手にとっての取引の場が広がりを見せた瞬間でした。
日本では国や社会がルールを作ることで消費者の安心を保証してくれますが、一方のアメリカは国ではなく、国民一人一人が慣習によってお互いに保証します。
アメリカは日本以上に知らない者同士で築かれてきた国ですから、意外にも生活に関わる慣習やルール、秩序に対して国民は敏感です。時に「訴訟大国アメリカ」と表現されることもありますが、自分の身は自分で守るしかない精神を育んできたゆえの結果と言うこともできるでしょう。
「返品に寛容である」慣習も同様で、見ず知らずの小売店が自分たちのブランドを保証するために始めた返品サービスが、競合店同士でお互いに真似をはじめたことで、最終的に小売業のスタンダードなサービスとして広まったのです。
し烈な競争社会が、結果として消費者の安心を生むことになったのは、まさにアメリカならではの秩序のあり方の一つと言えます。
返品サービスは信頼以上の価値を生むのか
返品サービスは全体の利益にも貢献している
返品サービスは店のブランドに直結してくることがわかりましたが、合理的なアメリカ人がイメージだけで慣習をズルズルと引きずると言うのは違和感を覚えるところです。今日までアメリカが返品サービスを続けてきた理由としてもう一つ重要なのが、返品に寛容なことで、消費者の購買意欲を掻き立てている点です。
アメリカの小売業における平均的な返品率はおよそ8%、オンラインショッピングであればその割合はさらに増加するとのことですが、それでも返品サービスを続けるのは、http://blog.livedoor.jp/usretail/archives/51988425.html結果的に売上の向上につながっているとされているためです。
参考:http://blog.livedoor.jp/usretail/archives/51988425.htmlお客さんを店舗で悩ませるくらいなら、とりあえず買ってから悩んでもらう。この「とりあえず買わせる余地」を生み出すのが、寛容な返品サービスの最大のメリットと言えるでしょう。
返品可能とはいえ一度買ってしまえば返品もそこそこ手間ですから、買う・買わないで悩んでいる人を返品可能が後押しして「買う人」にしてしまうことができます。
返品率が高いと言われるアメリカの小売業ですが、「返品不可なら買わない人」たちを「買う人」と「返品する人」にまでレベルアップすることができれば、結果的にコストを差し引いても利益を出すことができるのです。
木を見て葉を見ないアメリカ人
今回の米アマゾンによる返品サービスもそうですが、アメリカ人の経営者はどれだけクレームや返品に追われたとしても、結果的に利益が出ればそれで良いという合理的なマインドで行動している人は多い傾向です。日本はゼロリスク社会が優先されるため、たとえ多少の合理性を犠牲にしてでもリスクを回避することに集中してしまいがちですが、アメリカでは「事故は起こるもの」精神が優先されるため、多少の返品やクレームに対応するくらいなら、彼らに返金して全体の利益を優先することが美徳とされるのです。
また多少の廃棄やクレームよりも全体の数字を大切にする精神は、経営者だけでなく国民全体にも共有されており、結果的に社会はそれでうまく回っているのがアメリカです。一方の日本は問題が起こるとすぐに責任問題や説明責任の話になってしまい、一つのミスやクレームが会社の運営にとって足を引っ張ってしまうことも少なくからずあります。日本で返品サービスが浸透しない理由の一つはそこにもあるかもしれません。
amazonの新サービスの登場はアメリカの小売市場を変えるか
アメリカが抱える返品サービスをめぐる問題
ここまで述べた限りでは、アメリカにおける返品サービスはまさに理想的なサービスのように思えるところですが、大きなデメリットも抱えています。主な原因は上でも少し触れたように、寛容すぎる返品サービスのあまり、悪用する人や心ない返品を敢行する消費者の存在です。
制度的にではなく、慣例的に返品サービスを行ってきたアメリカの小売市場ですから、例えば商品の状態やいつどこで買ったのかなどに対して寛容であるぶん、使い古しの品を返品されたり、ドレスを必要な時に買っては役目を終えると返品に持ってくるなど、慣習を悪用して取引の範疇を超えたサービスの使い方をする人も後を絶たず、実質的な売上が落ちてきているという問題が大きくなってきています。
売上が減少傾向にある中、返品のコストもかさむ。アメリカの大手百貨店ではついに返品期間を定めるなどのルール作りを始めましたが、結果的にさらに売上を落とすことになるのではないかという声も上がっています。
amazonの新サービスは資金力とまとめ売りがカギとなるか
そんな返品サービス事情に新しい風を吹き込もうとしているのがamazonです。冒頭ですでに紹介した通り、amazonの全額返金の返品サービスはまとめ買いをした会員が対象で、かつ到着から7日以内という期限を設けています。日本人からすれば返品期限があるのは当たり前かもしれませんが、小売業・流通業を掌握しようとしているamazonがやるからこそ、アメリカの返品サービスにも一定のルールが生まれる可能性があるわけです。
加えてamazonにはモンスター級の資本力がありますから、潤沢な時間とお金を用いてルールに少しづつ改良を加えていく余裕もあります。
このようにamazonはアメリカ人に物理的なライフスタイルの変化だけでなく、返品サービスのような生活の慣習の変化さえもたらしてしまう影響力を持っていることが、この新サービスの登場から読み取ることができるのです。