Eコマース×定期宅配事業の現在とミライ
- 定期宅配は、生協、夕食食材、自然食という3つのタイプに大きく分類できる。
- 今後の定期宅配事業は、単身者や子育て中の共働き家庭といった多様なライフスタイルのニーズを把握することがカギ。
- 「クバリエ」の不在時サービス、「オイシックス」のレシピ付き献立キットから、ミライのニーズが見えてくる。
定期宅配事業の3つのタイプ
定期宅配とは
定期宅配は、毎週決まった曜日に注文した食品を届けるサービスです。宅配の日時はルートや地域によってあらかじめ決められており、利用者はその日時に合わせて必要な品物を注文します。定期的に宅配をおこなうこのシステムは、業者にとっては配送スケジュールが立てやすく、また利用者にとっては「いつ届くか」がはっきりしているので商品を計画的に購入できるというメリットがあります。 このような定期宅配は、販売する形態や商品によって3つのタイプに分けることができます。
生協タイプ
生協は「消費生活協同組合」の略称です。組合員と呼ばれる会員たちで構成された、物資の供給と生活の改善を目指す団体で、食料品だけでなく衣料品や保険なども取り扱っています。代表的な生協は、パルシステム。全国的に展開しています。
夕食食材タイプ
先ほど、毎週宅配が基本と書きましたが、夕食の献立に悩まない「毎日宅配」のサービスもあります。このタイプには、その日の夕食食材を配達するプランのほか、高齢者向けに調理済みの惣菜を宅配するものも。共働きや老老介護の世帯数が増えている現代においてニーズは高く、特に「ヨシケイ」は全国に多くの営業所を展開しています。
自然食タイプ
「らでぃっしゅぼーや」に代表される、無添加や有機栽培を特徴とした食料品に特化した定期宅配が自然食タイプです。ほかの定期宅配で取り扱われている商品よりも比較的割高ではありますが、その分、不定期宅配にも対応するなどフレキシブルな対応もみられます。定期宅配におけるニーズを考える上でのポイント
この3つのタイプの定期宅配サービスには、手軽さ、食材へのこだわり、毎日配送など、それぞれに特徴的な要素があります。同じ共働き家庭でも、子どもの有無や人数、仕事帰りにスーパーに寄れる住環境かどうかなど、食事にかけられる時間やコストはさまざま。そのため、あらゆる年齢層、生活スタイルの利用者が各々重視する定期宅配のポイントを理解し、多くのニーズが得られやすいサービス形態を考える必要があります。
定期宅配への新規参入事業からみるニーズ
事例1:イオンの定期宅配新規事業「クバリエ」
イオンは、2018年4月より、プライベートブランド「トップバリュ」をはじめとする商品を扱う「クバリエ」という定期宅配サービスをスタートさせます。実際にスーパーで販売されている商品のほか、どんな料理にも使う定番の野菜をセットにした「ミールキット」、おむつや粉ミルクといったベビー用品の充実を掲げ、子育て世代の共働き家庭や単身者に合わせたサービスを展開しているのが特徴です。
従来の生協や宅配サービスは、専業主婦のいる家庭や、年金で暮らす高齢者が利用するイメージがありました。食品を扱うという宅配の性質上、対面で配送商品のやり取りをする必要があったからです。
そのため、世帯に日中の在宅者がいない単身者や共働き家庭は、荷物を受け取ることが難しく、生協などに加入しづらいのが現状でした。
しかし、生活のあり方が変化した現在では、配送される日中は自宅に誰もいない、もしくは夕方の時間を指定しても残業が入って受け取れないという人の割合がかなり多くなっています。
そこでイオンの「クバリエ」は、不在時でも荷物を置けるよう、封が開いていないことを確認可能な「封印シール」や鍵のかかるカバーの提供をおこない、この問題のクリアしようと考えています。
これは、再配送の件数を大幅に削減することで、再配送のコストをカットする狙いもあります。
事例2:「オイシックス」が打ち出す5つの強化施策
「オイシックス」は、有機野菜を中心としたECつまり、「自然食タイプ」の定期宅配をおこなっています。この「オイシックス」は、宅配事業の流通総額400億円以上(前年比1.5倍超)を2018年の目標に掲げ、5つの施策を打ち出しました。その5つのうち、消費者のニーズに着目した施策といえるのが、レシピ付き献立キットの新商品開発と、オムニチャネルも視野に入れた実店舗の刷新です。
レシピ付き献立キットは「Kit Oisix」と呼ばれ、旬の食材を取り入れた献立が人気の商品です。今後は、料理が苦手な人にも使いやすいセットの開発に力を入れるとされています。
メニューを増やす一方、実店舗は既存の19店舗を閉鎖。電車通勤のワーカーが立ち寄りやすい駅ナカに初出店したり、オムニチャネルを意識した店舗作りを計画したりと、現代に合わせた「便利な購入方法」へと大胆にシフトチェンジをはかっています。
定期宅配事業に関するミライのニーズとは
イオンは、すぐに必要なものはネットスーパーで、毎週消費する食卓の定番商品は宅配で、そして目で見て購入したいものは店舗で、と消費者がニーズに合わせて購入場所を選ぶことを提唱しています。この姿勢は、今後の定期宅配事業において、重要な指針となるでしょう。購入場所の自由選択は、同時に、在庫管理のシステム化という課題も解決できる可能性を秘めています。実店舗とネットの在庫を一元管理することで、余剰在庫を減らし、廃棄される食品や商品を減らすことが期待できます。
ネットで注文し、直近のスーパーで受け取るといった購入方法は、配送コストを削減する手段としても有効。さまざまなアイデアで、企業と消費者の双方が便利と感じられる定期宅配の新しいかたちが実現するかもしれません。
オイシックスは、自然派食品というブランドイメージを守りつつも、駅ナカへの出店やローソンや移動販売事業との提携など、新たな顧客を獲得するための施策を講じています。
これらの事例を見ると、今後の定期宅配事業は、新規の顧客をいかに獲得するかが焦点になりそうです。新規の顧客とは、これまで定期宅配に興味はあったけれど生活サイクルに組み込めず利用していなかった消費者や、時短で効率よく家事をしたいと考える多忙な人です。現代人のライフサイクルが多様になりつつある今こそ、従来は顧客になりえなかった消費者をターゲットにする絶好のチャンスといえるのではないでしょうか。
まとめ
従来の定期宅配といえば、毎週、専用の注文書に記入をするイメージが一般的でしたが、これからの定期宅配事業においては、ネット注文と実店舗とのシームレスな連携が求められます。消費者がストレスなく、買いたい場所で買いたいものを購入できる柔軟性こそ、現代に即したEコマース×定期宅配事業といえるでしょう。