配送も「あいのり」で。今、物流のシェアリングエコノミーが加速している
Amazonや楽天などの大手モール型EC、そして大小様々な自社EC。それらのビジネスを支え、消費者にはスマホからタップするだけで欲しいものが自宅に届く(しかも時には送料無料で)、という大きな満足度を提供してくれるのが、物流の存在です。
OMOの実現が当たり前になってきている時代において物流の需要はますます高まる一方で、地方の販売者にとっては輸送コストの地域間格差が深刻化したり、ECのサービス高度化によって物流業界の極度なリソース不足に陥ったりと、課題も山積しています。
そのような物流業界の課題をブレイクスルーするためのキーワードが「物流のシェアリングエコノミー」です。
目次:
しかしながら、個別の契約では輸送効率の悪さ(※)に起因して、事業者にとっては配送コストが割高になるという悩みがありました。
背景には、例えば都市部と地方での需給バランスの偏りなどのために、安定した荷量がないまま輸送車を走行させなくてはならなかったり、需要のある物流拠点が散らばっているために遠回りをしてそこまで移動する必要がある、そもそもドライバーが足りておらず手が回らないなど、様々な問題が横たわっています。
※国土交通省の発表によれば、一般的な実車率(全走行距離に対して荷物を積載して走行した距離の占める割合)は40%。
それらを解決するキッカケとなるのが、物流業のシェアリングエコノミーなのです。
物流業のシェアリングエコノミーは、手がける領域ごとに様々な実証実験が行われ、すでにいくつかのサービスでは実用化されている例もあります。ここからは、具体的な事例を取り上げていきます。
2019年12月、ふるさと納税ポータルサイトを運営する株式会社さとふるは、複数の自治体の返礼品を、ある経由地までまとめて輸送して配送コストを削減する「さとふるおまとめ便」を、2020年より一部の自治体で導入開始することを発表しました。
この発表は、ここまで北海道八雲町で行ってきた実証実験の結果を受けており、実験で明確な効果が認められたことを意味しています。
そもそも「さとふる」がこの実証実験に踏み切った背景には、改正地方税法によって、「ふるさと納税の寄付募集にかかる費用は寄付額全体の5割以下」と定められたことがあります。
これにより、北海道や九州など、ふるさと納税利用者が集中する都市部から離れた地域は、配送コストが上記改正で言うところの「寄付募集にかかる費用」を圧迫し、集客に多大な影響を及ぼすことになったのです。
そこで、さとふるは北海道八雲町と共同で「おまとめ配送」の実証実験を行い、配送コストの削減が可能かを検証しました。
取り組みの内容自体は非常にシンプルです。
これまで北海道の出荷場所から配送先まで一つ一つを個別配送していたため、取り扱う返礼品が増加するにしたがって配送費用が嵩んでいく状態でした。
それを「おまとめ便」では、北海道から都市部の経由地までを一旦一括で配送し、経由地からは個別配送する仕組みに変更しました。その結果、総配送料を約15%削減することに成功したのです。
2020年からは実験の成功を受けて北海道八雲町での本格導入の他、福岡県中間市など一部の自治体での導入を進める他、複数自治体の返礼品をまとめて配送するといった取り組みの検討にも入っています。
サッポロホールディングス(飲料)と、エバラ食品工業(調味料)、日本パレットレンタル(JPR、輸送用パレットの提供)は、2019年の12月、3社共同で、岡山エリアと大分/福岡エリア間の共同輸送を開始しました。
この3社は、工場、物流センターの位置関係が、輸送車をシェアリングするのに非常に好都合だったことが、今回の取り組みへと発展した最大の要因でしょう。
簡単に説明すると、サッポロは大分県日田に工場が、岡山に物流センターがあります。エバラ食品は、岡山県津田に工場が、福岡県に物流センターがあります。JPRは岡山に倉庫があります。図にすると以下のような形です。
従来は、3社が個別に輸送を行っていましたが、ドライバー不足によって、岡山エリアと大分/福岡エリア間約500kmの片道運行を個別で確保することが困難になったため、位置関係的に好都合な3社で協業し、ラウンド運行を実施することで輸送効率を上げる取り組みを行うことになったのです。
こちらも本格導入の前に実証実験を行っており(2019年7月~)、そこでは実車率99%以上を実現しただけでなく、これにより全体でCO2排出量を約15.2トン低減することにも成功しています。
3PL(サードパーティ・ロジスティクス)大手の日立物流は、AIやIoTなどを駆使した最新設備が完備された倉庫スペースを複数のEC事業者で利用する「シェアリング型プラットフォームセンター」を2019年9月から本格稼働させています。
物流設備への投資が厳しいスタートアップや中小企業が、日立物流の設備を必要に応じた従量課金制で利用できるサービスとなっており、具体的には物流センターにおける「アセット」「システム」「スペース」「マンパワー」を複数の事業者で共有することで事業者のコスト削減やリソース不足を解消した先にあるサービス向上に寄与しています。
日立物流は同サービスをまずは埼玉県春日部センターでの稼働からスタートし、今後は全国規模で展開していく予定です。
物流のトレンドや最新の仕組みを押さえておくことは、EC領域のDXやひいてはその先にあるサービスの質向上に深く関わってくるため、常にアンテナを張っておきたいところですね。
OMOの実現が当たり前になってきている時代において物流の需要はますます高まる一方で、地方の販売者にとっては輸送コストの地域間格差が深刻化したり、ECのサービス高度化によって物流業界の極度なリソース不足に陥ったりと、課題も山積しています。
そのような物流業界の課題をブレイクスルーするためのキーワードが「物流のシェアリングエコノミー」です。
目次:
- 輸送効率を爆上げする?物流シェアリングのポテンシャル/li>
- 物流のシェアリングは「四方良し」
- 配送コストの15%削減を実現した「さとふるおまとめ便」
- 実車率99%超えを実現した、3社による「ラウンド運行」
- 物流に対するイニシャルコストを大幅に抑える「シェアリング型プラットフォームセンター」
- さいごに
輸送効率を爆上げする?物流シェアリングのポテンシャル
これまで事業者と物流業者の関係性は1対1が基本でした。つまり、配送が必要な事業者は、それぞれが任意の物流業者と個別に契約を交わし、サービスの提供にあたっていたわけです。しかしながら、個別の契約では輸送効率の悪さ(※)に起因して、事業者にとっては配送コストが割高になるという悩みがありました。
背景には、例えば都市部と地方での需給バランスの偏りなどのために、安定した荷量がないまま輸送車を走行させなくてはならなかったり、需要のある物流拠点が散らばっているために遠回りをしてそこまで移動する必要がある、そもそもドライバーが足りておらず手が回らないなど、様々な問題が横たわっています。
※国土交通省の発表によれば、一般的な実車率(全走行距離に対して荷物を積載して走行した距離の占める割合)は40%。
それらを解決するキッカケとなるのが、物流業のシェアリングエコノミーなのです。
物流のシェアリングは「四方良し」
物流業のシェアリングエコノミー化が進むと、物流業者や事業者、消費者、そして社会や環境にもベネフィットがあると考えられています。物流業者
輸送に関して言えば、シェアリングによって輸送効率を高めることで、ドライバー1人あたりにかかる負担を軽減し、人材不足や労働環境の改善を見込めます。また、シェアリング自体を新規ビジネスとしてグロースさせるという可能性もあるでしょう。事業者
輸送効率を高めることで配送コストの削減に期待ができます。大規模事業者にとってみれば、それは消費者に対する送料無料などのサービスを提供するのに重要な要素になりますし、地方の小規模事業者にとってみれば、単価の小さな商品を小ロットで顧客に届けやすくなるでしょう。消費者
シェアリングによって物流業者や事業者に余裕が生まれれば、配送料無料がデフォルト、という世界になる可能性もあるでしょう。さらに、例えば別々の事業者から購入した商品が自動的にワンパッケージにまとめられて配送されるなど、シェアリングによる全く新しいサービスの恩恵を受けることが今後出てくるかもしれません。社会/環境
輸送効率が高まれば、輸送車の無駄な走行が減り、CO2削減などの環境負荷低減への貢献に期待できます。また、提供されるシェアリングサービスにもよりますが、荷積み作業自体をサービス提供企業が請け負うことになれば、物流業者は男女の雇用機会を均等にしたり、体力が衰え始めた高齢者の雇用を促進することなどにも貢献できます。物流業のシェアリングエコノミーは、手がける領域ごとに様々な実証実験が行われ、すでにいくつかのサービスでは実用化されている例もあります。ここからは、具体的な事例を取り上げていきます。
配送コストの15%削減を実現した「さとふるおまとめ便」
こちらは、地方から都市部への配送を効率化するシェアリング事例です。2019年12月、ふるさと納税ポータルサイトを運営する株式会社さとふるは、複数の自治体の返礼品を、ある経由地までまとめて輸送して配送コストを削減する「さとふるおまとめ便」を、2020年より一部の自治体で導入開始することを発表しました。
この発表は、ここまで北海道八雲町で行ってきた実証実験の結果を受けており、実験で明確な効果が認められたことを意味しています。
そもそも「さとふる」がこの実証実験に踏み切った背景には、改正地方税法によって、「ふるさと納税の寄付募集にかかる費用は寄付額全体の5割以下」と定められたことがあります。
これにより、北海道や九州など、ふるさと納税利用者が集中する都市部から離れた地域は、配送コストが上記改正で言うところの「寄付募集にかかる費用」を圧迫し、集客に多大な影響を及ぼすことになったのです。
そこで、さとふるは北海道八雲町と共同で「おまとめ配送」の実証実験を行い、配送コストの削減が可能かを検証しました。
取り組みの内容自体は非常にシンプルです。
これまで北海道の出荷場所から配送先まで一つ一つを個別配送していたため、取り扱う返礼品が増加するにしたがって配送費用が嵩んでいく状態でした。
それを「おまとめ便」では、北海道から都市部の経由地までを一旦一括で配送し、経由地からは個別配送する仕組みに変更しました。その結果、総配送料を約15%削減することに成功したのです。
2020年からは実験の成功を受けて北海道八雲町での本格導入の他、福岡県中間市など一部の自治体での導入を進める他、複数自治体の返礼品をまとめて配送するといった取り組みの検討にも入っています。
実車率99%超えを実現した、3社による「ラウンド運行」
こちらは、複数社が輸送車をシェアし、実車率を高めることでドライバー不足を解消するBtoBの取り組み事例です。サッポロホールディングス(飲料)と、エバラ食品工業(調味料)、日本パレットレンタル(JPR、輸送用パレットの提供)は、2019年の12月、3社共同で、岡山エリアと大分/福岡エリア間の共同輸送を開始しました。
この3社は、工場、物流センターの位置関係が、輸送車をシェアリングするのに非常に好都合だったことが、今回の取り組みへと発展した最大の要因でしょう。
簡単に説明すると、サッポロは大分県日田に工場が、岡山に物流センターがあります。エバラ食品は、岡山県津田に工場が、福岡県に物流センターがあります。JPRは岡山に倉庫があります。図にすると以下のような形です。
従来は、3社が個別に輸送を行っていましたが、ドライバー不足によって、岡山エリアと大分/福岡エリア間約500kmの片道運行を個別で確保することが困難になったため、位置関係的に好都合な3社で協業し、ラウンド運行を実施することで輸送効率を上げる取り組みを行うことになったのです。
こちらも本格導入の前に実証実験を行っており(2019年7月~)、そこでは実車率99%以上を実現しただけでなく、これにより全体でCO2排出量を約15.2トン低減することにも成功しています。
物流に対するイニシャルコストを大幅に抑える「シェアリング型プラットフォームセンター」
こちらは輸送だけではなく、出荷までの一連の物流工程をシェアする取り組みの事例です。3PL(サードパーティ・ロジスティクス)大手の日立物流は、AIやIoTなどを駆使した最新設備が完備された倉庫スペースを複数のEC事業者で利用する「シェアリング型プラットフォームセンター」を2019年9月から本格稼働させています。
物流設備への投資が厳しいスタートアップや中小企業が、日立物流の設備を必要に応じた従量課金制で利用できるサービスとなっており、具体的には物流センターにおける「アセット」「システム」「スペース」「マンパワー」を複数の事業者で共有することで事業者のコスト削減やリソース不足を解消した先にあるサービス向上に寄与しています。
日立物流は同サービスをまずは埼玉県春日部センターでの稼働からスタートし、今後は全国規模で展開していく予定です。
参考:http://www.hitachi-transportsystem.com/jp/news/20190617.html
さいごに
物流事情は、今回ご紹介したシェアリングサービス以外でも、輸送自体をUberやUberEatsのように個人ドライバーに依頼できるマッチングサービスや、荷主事業者と空き倉庫事業者をマッチングさせるサービスが登場するなど、AIやIoTなどのテクノロジーによってどんどん変化してきています。物流のトレンドや最新の仕組みを押さえておくことは、EC領域のDXやひいてはその先にあるサービスの質向上に深く関わってくるため、常にアンテナを張っておきたいところですね。