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特商法改正案による影響を考える。ECサイトは改修が必要?


政府が2021年3月に閣議決定し、今国会中に成立を目指す特商法改正案。初回無料やお試しサンプルといった広告で、消費者の意に反する高額な定期購入契約を結ばせる悪質な業者の手口を阻止するための案が出されています。



注目したいのは、この改正案によって、ECサイトにも大きな影響が出ると予想されている点です。



本記事では、ECで販売をしている事業者も知っておきたい特商法の改正案の内容についてと、通販事業者やECサイトに及ぼす影響についてまとめています。



審議中の特商法について



特商法(特定商取引法、以下特商法)は、事業者の違法な販売や悪質な勧誘から消費者を守るための法です。特に、事業者と消費者がトラブルになりやすい販売形態に焦点を当てており、悪質な業者が事業を行いにくくなるよう法律が定められています。正しい手法で販売事業を行う一般的な事業者を、悪質な事業者という競合相手から保護する法と言えるかもしれません。



特商法の対象となる販売方法と概要、ECサイトにおける表示義務について詳しく解説します。



特商法の対象となる販売方法



特商法の対象となっている類型は、次の7つです。



  • 訪問販売 (キャッチセールス、アポイントメントセールス)
  • 通信販売 (新聞・雑誌・ネット等電話以外の通信手段による販売)
  • 電話勧誘販売 (電話を切った後郵送で手続きする手法も含む)
  • 連鎖販売取引 (顧客を商品の販売員としてスカウトし、新規顧客に連鎖的に商品を売る取引)
  • 特定継続的役務提供 (エステ、語学教室等)
  • 業務提供誘引販売 (仕事を紹介するという名目で、業務に必要な道具や設備を販売する)
  • 訪問購入 (消費者の自宅で、顧客の持ち物を買取する)



これらの販売には、勧誘開始前に事業者の氏名を明らかにすること、勧誘を目的としていること等を明示する義務があります。



また、本来は1万円×30ヶ月ローンであるにも関わらず「1万円払うだけ」等初期費用のみを提示するような販売手法は禁じられており、消費者はこれらに対してクーリング・オフや意思表示の取り消しといった権利を有しています。



今回の改正案では、「消費者を誤認させる表示」や「虚偽の表示」とみなされる表現がさらに明文化されました。違反した場合の直罰も設定されています。



具体的には、消費者が定期購入でないと誤認させるような行為をして実際に高額な定期購入をさせた場合、業務停止命令あるいは業務禁止命令等の行政処分が下されます。また、ECサイトでは、最終申込画面で契約内容の表示を出していない場合に懲役もしくは罰金が科されます。



特商法改正案の背景:相次ぐトラブル報告



こうした改正の背景には、悪質な購入契約被害の増加があります。



2020年に消費者庁に寄せられた被害相談は約5万6,000件で、前年度よりも1万件以上増えていました。これは悪質な事業者の増加や手口の巧妙化といった問題だけではなく、緊急事態宣言によるステイホーム、自粛生活でECサイトの利用者自体が増加したことも一因とみられています。



つまり、ECサイトでショッピングを楽しむ人が増えたことで、悪質な業者のターゲットとなる被害者も増加したと考えられます。



特商法改正でECサイトの表示義務はこう変わる



特商法改正によって、ECサイトは大幅なサイト改修を迫られる可能性があります。



今後、ECサイトの運営事業者は、最終申込画面にも以下の項目を表示させる必要があります。



  • ①価格(送料)
  • ②支払い時期と方法
  • ③商品の引渡し時期
  • ④申込期間の定め
  • ⑤キャンセルポリシー(返品特約)



多くのEC事業者が懸念しているのは、④の「申込期間の定め」という項目です。



例えば、「セール期間の終了まであと○時間○分○秒」、「あと○分以内お申込で特別価格のご提供」等のいわゆるタイムセール表示を掲載している場合は、消費者の誤認を避けるためにECサイトの最終申込画面にもこの文言を表示させ続けなければなりません。これは、消費者が複数の商品を注文した場合も同様です。購入商品の中に1点でもタイムセールの対象商品が含まれていた場合は、「申込期間の定め」表示が必要になります。



現状、自社ECサイトの最終申込画面でセール期間や残り時間の表示をさせ続けている事業者は、ほぼないと言えます。そのため、この表記をするためには多くの事業者がカートシステムや決済画面表示の改修を実施しなければならないでしょう。



定期購入の誤認回避表示も必要に



申込や購入の最終画面では、定期購入に関する記述も必要になります。



具体的には、



  • 定期購入契約期間と内容
  • 定期購入の解約条件
  • 定期購入複数回分の総額



等の表記が必要になります。



この時、定期購入契約ではないと消費者が誤認するような表示をすると特商法違反となり、罰せられる可能性があります。



申込最終確認画面に定期購入の期間や複数回分の総額表示がない場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。



消費者が定期購入契約ではないように誤認されるような表記をした場合には、100万円以下の罰金となります。



特商法改正によるサブスクへの影響も



特商法改正では、詐欺的なサブスク取引を規制する文言も盛り込まれるとみられています。



例えば、無料だと思ってダウンロードしたアプリが一定期間を過ぎると都度課金がなされるようになっていた、お試し価格の買い切り品だと思っていたら実はサブスクリプション課金商品だった、という消費者の誤認を招くようなサブスク取引は今後厳しい規制の対象になりそうです。



適正なサブスクサービスを提供している一般の事業者にはあまり関係のない規制かもしれませんが、今一度サブスクへの誘導が適切か、課金の説明が分かりやすい場所に表示してあるかどうか、確認すると安心かもしれません。







改正法案が成立した場合施行はいつ頃?



特商法のあり方について検討委員会が報告書を公表したのは、2020年8月です。



2021年3月に改正案が提出されて、同年4月22日から審議がスタートしました。特商法のような法律や法案は、国会に提出されると審議され、衆議院・参議院で可決された場合に法律となります。



なお、法律の成立後は、内閣から奏上された日から起算して30日以内に公布されなければならないという決まりがあります。特商法改正案は第204回国会(1月18日〜6月16日までの150日間)中の成立を目指すものですが、交付から施行までは周知期間として約1年かけることが一般的です。



このことから、特商法向けの対策は来年度に向けて講じていくというスケジュールが想定できるでしょう。



特商法改正案でサイト改修の必要は?ECに与える影響



特商法は消費者を守るための法律です。今回も「消費者の意に反するような申込・購入を防ぐ」という目的で改正案が出されています。



申込の最終確認画面について言及されているので思い違いしやすいですが、改正案のために「最終確認画面を絶対に作成しなければならない」というわけではありません。



現実的に、タイムセールやセール期間の残り時間を正確にカウントダウンしていくということは、ハガキのような書面による契約申込では不可能です。また、自社ECを持っている事業者の中には、決済画面の改修が技術的・コスト的に困難というケースもあるでしょう。



しかし、特商法改正案はあくまで「消費者の意に反して商品を購入すること」、「消費者が事実を誤認するような表示をして契約を締結させること」を禁じる法です。



「すべての決済システムにおいて最終申込画面の形式的な設定を義務づける」というわけではありません。



申込内容の確認や訂正の機会がある、キャンセルのための条件が分かりやすいところに明示されているという場合には、消費者の利益を損なう恐れがないとみなされるケースもあるでしょう。



大手モールは条件クリア 自社ECは要チェック!



楽天市場等の大手モールの最終申込画面は、すでに特商法改正案の表示義務を満たした表記になっています。



そのため、大手モールに出店していてモールの決済システムを利用しているEC事業者は、特商法改正案施行後であってもそれほど大きな変化を感じないかもしれません。念のため、出店しているすべてのモール型店舗が改正案に沿った形の最終申込画面かどうかを確認すると良いでしょう。


■特集:ECモール■


一方で、自社ECサイトを運営している事業者は、多くの場合「販売期間」と「セール期間」を注文確認画面等に表示できるようサイトやシステムを改修する必要が出てくるかもしれません。



とはいえ、現状はAmazonの「今すぐ買う」ボタンは最終申込画面を表示させることなく決済する仕組みでありながら、条文に違反していない、つまり今のままで問題ない販売方法とみなされているようです。



このことが、「すべての決済システムにおいて最終申込画面の形式的な設定を義務づけるわけではない」と想定する根拠にもなっています。



消費者庁が抑止したいのは、あくまで消費者に意図しない購入をさせる行為と考えられます。



改正は、チャットで誘導しながら購入契約と気づかせず申し込ませる、定期購入であることを極端に分かりにくい表記で記載する、といった販売手法をなくすために検討されているものであり、明らかに事業者と消費者双方が合意に基づいて購入していると判断できる(Amazonの「今すぐ買うボタン」等)ものについては今まで通り運営していける可能性もあります。



負担増加?ECプラットフォーマー EC事業者の取るべき対応



特商法改正案に伴ってEC事業者が確認しなければならない点は、次の3点です。



  • 解約方法や条件の記載の見直し(キャンセルポリシー)
  • タイムセール表示の工夫
  • 複数回契約表記の見直し(サブスク含む)



特商法の性質自体が消費者の利益を守るものですが、改正案によって、その意義はさらに強まります。



商品や契約を申し込むすべての消費者が、価格や契約期間を誤認したり意にそぐわない条件に苦しんだりしないよう、表記を見直してみてください。



技術的、コスト的に改修が難しい場合には、タイムセールや期間限定セールのような販売方法そのものを見直して新たなセールス戦略を構築するといった対処も有効かもしれません。



参考:特定商取引法ガイド https://www.no-trouble.caa.go.jp/



悪質な業者から消費者を守る:改正の目的



近年、特に被害が多いのが「初回無料」やワンコインのお試し価格で消費者を高額な定期購入に誘導するという悪質な通信販売です。



この通信販売の悪質性は、消費者は1回のつもりで購入しているのに対して実際は高額かつ継続的な購入契約を結ばされているという点にあります。



やせるサプリ、コスメ等を保護者のクレジットカードで勝手に契約してしまう未成年の事例も多く寄せられています。契約解除の方法が極端に分かりにくかったり、途中解約で法外な違約金がかかったりと、消費者の利益に反する商法を排除するために改正案が出ました。



消費者は安全に買い物をする権利があり、利益が損なわれるようなことがあってはなりません。



ただし、規制が過ぎると正当な方法で販売事業を展開している優良企業、事業者がサイト改修や決済システムの見直しといった大幅なコストを負担することにも繋がってしまうかもしれません。



特商法改正案は、違反すると直罰もありうるため、多くの通信販売やECの事業者が動向を見守っていることでしょう。最終申込画面へのタイムセール表示等、サイト改修の必要性について検討している事業者も多いはずです。



繰り返しになりますが、特商法改正の前提となっているのは、「消費者の意に反する購入を防ぐ仕組み」の必要性といえます。



改正案の条文を確認することはもちろん必要ですが、自社のECサイトが消費者にとって安全で利用しやすく、分かりやすいものになっているかどうかを今一度チェックする機会ととらえてはいかがでしょうか。