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顧客中心のBX(ビジネス・オブ・エクスペリエンス)を考える


かつてはビジネスを成長させるためにCX(顧客体験)を重視することが一般的でした。しかし生活様式がかわり顧客のニーズが複雑化した今、BX(ビジネス・オブ・エクスペリエンス)という概念が求められています。



CXは経営幹部が主体でしたが、BXは組織全体で行う大規模な取り組みです。その分結果も大きく、BXに取り組む企業はそうでない企業に比べ長期的な収益が6倍も高いことが分かっています。



この記事では、 企業価値を高めるためのヒントとしてBXの基本的な概念や企業の取り組み事例、必要な思考について解説します。





CXからビジネス・オブ・エクスペリエンス(BX)へ



「BX」といえばビジネストランスフォーメーション、ブランドエクスペリエンスの略称としても使われますが、この記事で解説するBXとは「ビジネス・オブ・エクスペリエンス」です。



BXの最大のポイントは「顧客の体験」を軸にビジネスを設計し直すことです。短期的な取り組みではなく、組織全体を巻き込んだ中長期的な取り組みなのです。



CXはBXへ進化



BX(ビジネス・オブ・エクスペリエンス)とは、顧客を起点としてビジネスを成長させるためのアプローチです。CXといえばCMOやCOOといった経営幹部の担当領域でしたが、ビジネス・オブ・エクスペリエンスは組織全体で取り組み会社の在り方そのものを進化させる姿勢が重要となります。つまり部門の枠を超えた、包括的な取り組みが求められるのです。



ビジネス・オブ・エクスペリエンスがCXと大きく違う点は、企業の提供するビジネスすべてにおいて顧客を中心とする点です。例えばマーケティング1つとっても、CXでは自社の商品サービスが中心でした。売り上げを伸ばすためには、消費者が自社製品を欲しがる仕掛けづくりに取り組む必要があります。



一方でBXが中心とするものは顧客です。顧客が欲しがるものをリサーチして、それに応えるような製品・サービスを作っていきます。つまりそもそも顧客が欲しいと思うものを作るので、欲しがる仕掛けは必要ありません。



このように製品やサービス設計や会社の存在価値創出の時点から、「顧客が求めるもの」を中心として考えます。



営業手法も顧客が望むものを提供する思考を目指し、物流においても「企業が提供したいタイミングや手法」ではなく、「顧客が欲しい時に欲しい場所で手にできるように」という考えのもと設計されます。



BXでは目先の収益を追い求めるのではなく、企業の存在価値や顧客が求める製品を提供することで長期的に大きな利益を獲得していきます。



様々なエクスペリエンス



エクスペリエンスとは、直訳すると「体験」という意味です。BXで顧客にエクスペリエンスを提供するにあたり、以下の3つのポイントがあります。



  • 顧客ニーズ
  • CXの飽和(同一性)
  • パーパス(存在意義)思考への飛躍



参照:accenture公式サイト|ビジネス成長を再び促進するエクスペリエンスの再興

https://www.accenture.com/jp-ja/insights/interactive/business-of-experience


顧客のニーズは時代とともに変化していますが、それに追いつけていない企業は少なくありません。コロナ禍で生活様式が変わったことで、さらに顧客のニーズはより流動的になりました。業界を超えて様々なサービスが市場に出回った結果飽和状態になり、消費者は少しでも「劣っている」と感じれば他社へと移っていってしまいます。



またCXに取り組む企業が増えた結果、市場のサービスが似たり寄ったりになっています。丁寧な対応ができる接客マニュアルやECサイトでの商品の見せ方など、多くの企業が顧客の快適な消費体験を追求した結果、差別化が難しくなってしまったのです。



市場が成熟してくると、消費者は企業のパーパス(存在意義)を重視しはじめます。アクセンチュアの調査では、30代以下の消費者37%が「社会問題に対する言動に失望して製品を乗り換えた」と回答しています。



企業の存在価値を重視する世代では、商品を選ぶときに環境汚染や産業廃棄物といった社会的問題に企業がどう向き合っているかをなども意識しているのです。SDGsの観点からも、企業が環境問題をはじめサスティナブルな社会の実現に貢献しなければいけません。



つまりこれからBXの視点でエクスペリエンスを設計するには、流動的な顧客ニーズにこたえる柔軟性・似通ったCXからの脱却・企業の存在価値を高める取り組みという3つがポイントなのです。



エクスペリエンス(体験)をどのように創出するか



BXで新たな体験を創出するためには、以下の4つのポイントを基に考えます。



  • 顧客データを活用したニーズの特定
  • 日常的にイノベーションに取り組む
  • 部門の枠を超えた顧客体験の追求
  • 最新技術を駆使して顧客体験をより確実なものにする



複雑化する顧客ニーズに応えるためには、顧客データの活用が欠かせません。企業内のデータは一元管理して、部門を超えてデータを利用できる仕組みが必要です。顧客データを深く掘り下げることで、今のニーズを理解していきます。



またアプリやシステムは提供したら終わりではありません。絶えず顧客接点の強化や創出を考え、アプリの更新はもちろん絶えず革新していく姿勢が必要です。PDCAサイクルを回していくことで、自社にしかない価値の創出につながります。



また営業などのフロントオフィスや物流といったバックオフィス、この2つの融合も重要です。顧客接点が急増した今、部門の枠を超えた顧客体験の向上が求められます。



ビジネス・オブ・エクスペリエンスでは、顧客が求める体験をどう創出するかが第1の課題となります。まずは上記のポイントを参考に、顧客が自社に求める体験を追求してみましょう。







企業の存在意義(パーパス)とは



すでに自社の存在意義を見出し、サービスを創出したり方向転換をしたりした企業はたくさんあります。今回は国内の3企業について、BXを基にした取り組み事例をご紹介します。



みんなの銀行



みんなの銀行は、2021年5月にふくおかフィナンシャルグループが提供を始めたアプリのみのデジタルバンクです。「なぜ銀行が必要なのか?なぜお金が必要なのか?」という根本から見直した金融サービスで、今の生活者が使いやすい銀行のかたちを求めてゼロから創出しました。



みんなの銀行では、キャッシュカードや通帳、実店舗が存在しません。BXにおける顧客体験を重視して、24時間365日原則即時にできる口座開設、支払いや振り込み、貯蓄までをスマホ上で完結できるシンプルなサービスを創出しました。



すでにネットバンクは多々ありますが、既存銀行がもとになっているものがほとんどです。みんなの銀行は既存のネットバンクと一線を画す新しい金融サービスを作り、消費者に支持されています。



ちなみにみんなの銀行はUIデザイン、システム構築や銀行業務について、外部のノウハウを持つ専門家とともに開発しています。新しい知見を持つ外部の人材の力を借り、BXにふさわしい体制で開発を加速させました。



味の素



国内大手の食品企業である味の素は、オウンドメディア「AJINOMOTO PARK」を活用して顧客接点を増やしたり、ファンを育成したりしています。



単に商品を売るだけではなく、その商品のレンジレシピを紹介したりファンが集まれる環境を作ったりすることで、より顧客の体験を高めようとしているのです。



デジタルマーケティングに取り組む企業はすでに多くありますが、味の素はオウンドメディアを活用して新規事業開発も行い、中長期的なBXに取り組んでいます。



吉野家



牛丼でおなじみの大手外食チェーン吉野家は、顧客に提供する価値を見直し方向転換しました。



1950年に誕生した吉野家は、70~90年代前半まで「はやい、うまい、やすい」というキャッチフレーズでした。しかし2001年には「うまい、やすい、はやい」と“はやい”を最後に持ってきて、キャッチフレーズを変更しています。



当初は「はやさこそ価値」と考え、馬蹄型のカウンターや自動飯盛機などスピードを重視した体験を提供。注文からお会計までわずか7分というスピードで市場を席捲しました。



しかし今では、牛丼をかきこみ足早に立ち去るスタイルは求められません。そこで吉野家はゆっくりした食事体験ができるよう内装にもこだわった「クッキング&コンフォート」として店舗を作り、方向を変えました。



電源を常設したカフェ形式の店舗で、PCやスマホ片手に食事が楽しめます。吉野家は創立当初にこだわった「はやい」という価値観を見直し、今の顧客ニーズに合わせた店舗づくりを行っているのです。



ビジネスを変革するBX思考



エクスペリエンスとは「体験」で間違いないのですが、単なる体験という思考では成功しません。BXにおけるエクスペリエンスは「これまでになかった体験」かつ、「これまで妥協していたものを打ち破るもの」と定義する必要があります。



例えば1980年代に急速に広まったソニーのウォークマンは、それまでの音楽の在り方を進化させたことで大成功しました。音楽は建物の中で聞くもの、自由に持ち運べないものという概念を打ち破り、ラジカセよりもはるかに小型のウォークマンで「音楽を持ちだす」というエクスペリエンスを提供したのです。



インターネットが当たり前となった昨今では、インターネットを活用した体験はあらゆる企業が導入しており、消費者にとっては目新しくありません。



インターネットを少し取り入れて新しいサービスを始めるのではなく、業務プロセスや企業の価値そのものを再設計していく思考が求められます。ITを取り入れるのではなく、企業が再定義した価値や体験の創出の手段としてITを利用するという思考が必要なのです。



インターネットが発達してDXが叫ばれる中、各企業は新しい価値の創出や変化する顧客ニーズに必死にこたえようとしています。そのような中で自社が生き残るために、ぜひビジネス・オブ・エクスペリエンスというポイントを意識してみてください。