製造業ECは製品にマッチしたサイト構築がカギになる
いま、製造業ECの再検討が求められています。
「製造→流通→小売」のすべてを自社で行う、あるいは協業やアウトソーシングという形で一貫したシステムを構築することで、さらに利益を追求し企業を成長しやすくなります。
海外では、上手にアウトソーシングを行うファブレス・メーカーも多く、D2Cブランドを買収して飛躍的な成長を遂げる米国企業も話題になっています。
本稿では、「EC活用を再検討する」をテーマとして、製造業と製造小売業、小売業のそれぞれの差異やSPAというワードの概念といった基本的な事柄から、ターゲットとする顧客に合う製造業ECの運営タイプ、D2Cのあり方の動向までをまとめています。
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製造業と製造小売業の違い
政府による「日本標準産業分類」によると、製造業とは「有機又は無機の物質に物理的,化学的変化を加えて新たな製品を製造し,これを卸売する」仕事のことです。
なお、店舗を持たず自ら製造したものを通信販売で販売する場合は製造業のカテゴリの範囲内ですが、自ら製造したものを店舗で個人へ販売する際は、「製造小売業」といい小売業に分類されます。
- 自社製造したものをECで販売(店舗なし)‥‥製造業(製造業)
- 自社製造したものをECや店舗で販売(店舗あり)‥‥製造小売業(小売業)
このように、店舗のあるなしが業種を分ける一つのポイントになっています。
製造小売業と小売業の違い
製造小売業と小売業の違いは、「製造→流通→小売」というフローを自社で完結させているかどうかで決まります。
一般的な小売業は、メーカーから製品を卸しで受け取り店舗やECサイトで販売して消費者の元へ届けます。つまり「製造→流通→小売」のうち「流通→小売」という2つのステップを自社で行います。
一方で、製造小売業は原材料を調達して、製造から小売まですなわち「製造→流通→小売」の3つのステップを自社完結させます。
この製造小売業のあり方をSPAと称することもあります。
SPAは、Speciality store retailer of Private label Apparel(プライベートブランドを販売するアパレルの小売専門店)の頭文字をとったものです。
元々は、1986年に世界的なファッション専門店GAPの会長が自社を表現するために用いたワードでしたが、現在ではビジネスモデルそのものを指す言葉としてアパレル以外でも使われています。
製造小売業は、PB(プライベートブランド)を生産していない企業も含まれるので、厳密には製造小売業=SPAではありませんが、日本では製造・販売を一体型で行うビジネスモデルをSPAと表現することが多くなっています。
もっとも、製造・販売を自社で行うといっても、本当に全てを内製化しているという企業は少数です。 企業には得意不得意があり、苦手な分野は他社と協業して互いにアウトソーシングしあった方が効率が良いためで、海外ではファブレスメーカーという言葉も一般的になっています。
ファブレスとは、工場(fabrication ファブ)のない(less レス)メーカーという意味で、工場を持たない分、研究開発に特化しているメーカーのことを指します。
SPAや製造小売業では、PB生産とそのブランドコンセプト確立も重要な立ち位置にあります。
PB製品は、メーカーやブランドのコンセプトを反映させることで支持されやすくなり、大手製造小売企業ではPB製品が売上に占める割合は高い傾向にあります。PBは同業他社のサイトでは手に入らないという点で差別化しやすく、企業や企業の打ち出すブランドイメージのファンを増やす意味でも効果があります。
製造業は大きく2種類
製造業は、何を製造しているのかによって「消費財を扱う企業」、「生産材を扱う企業」の2タイプに分けることができます。
消費財とは、食品や家電品、雑貨といった個人が消費することを想定して製造された製品です。
生産財は、製品の生産に関わるものとして製造されるもので、製品の原材料、部品、製造に必要な機械等を指します。
扱う製品が異なると、ECのあり方も当然変わってきます。
消費財を扱う企業のECサイトは小売業のサイトに近い構造である場合が多く、必要な商品をカートにいれ、最後にカートの中身を決済するという構造で運営されていることがほとんどです。
消費財を扱うECサイトでは、BtoBtoCというメーカー(B)、販売店(B)、消費者(C)という形式のサイトもあります。
生産財を扱う企業がECサイトを構築する場合は、こうした消費財とは異なる構造が必要とされます。
従来の紙ベースでやり取りされてきた商慣習を、そのままECに置き換えるような形が一般的です。すなわち、顧客企業のデータ管理システム、見積もり機能、承認システムといったBtoBビジネスで行う一連のフローをすべて電子で行える構造が求められます。
BtoB以外のEC活用法
これまで、製造業のECといえばその取引の大半がBtoB(企業間電子商取引)で占められていました。
経済産業省によると令和3年度のBtoB市場規模は、372.7兆円です。BtoC(消費者向け電子商取引)の市場規模が20.7兆円だったことと比較すると、約20倍近い金額が動いていることになります。
近年のトレンドとしては、BtoB、BtoC問わず、消費者との直接的なコミュニケーション、バックエンドとのスムーズな連携を主とした抜本的なビジネス改革の目玉としてECを活用する企業も増えています。
ECで消費者との関係性を継続的なものに
ECサイトを構築することで、消費者との関係性を一過性のものでなく継続的なものへと変えていくことができます。
例えば、チャットツールを備えて製品に対する疑問に対応したり、交換部品やオプションアイテムを販売して製品に対する興味関心を継続させたり、といったことが可能になります。
こうしたサイト構築は、住宅に備えつけの電化製品や大型の機械といった「エンドユーザーは日常的に使用するが、製品選定における決定権を持たないことが多い」という製品を扱う製造業に適しています。
ECで消費者ニーズを把握し製品開発に活用
BtoCやBtoB小口取引のECサイトは、自社で運営することでサイトにまつわるデータを大量に収集できるという利点があります。サイトの閲覧動向や購入される製品の傾向を分析して、消費者のニーズを具現化させ製品開発へと活用することができます。
ニーズに応じて交換部品をサイトから購入できるようにしたり、オプション製品を開発したりと、製造の方向性を見定めるヒントになるかもしれません。
ECで法人向け小口取引のスピードUPを実現
法人の小口注文に対応するためにECサイトを構築する企業も増えています。
従来のBtoB受発注は、大口であれば電子化、小口であればFAXや電話で対応する企業が多く、注文商品を届けるまでにタイムラグが生じていました。
FAXや電話で注文を受けると、在庫切れの場合は代替品でも良いか、再入荷を待った方が良いのかといった確認をしなければならないことがあり、注文から発送までの流れが遅れがちになります。
また、在庫管理システムやサプライチェーンのデータと紐づいてないことから、顧客情報を取得しにくいといったデメリットもあります。
これをECに置き換えることで小口取引のスピードUPが実現します。
取引先企業にとっても、ECならば電話やFAXと違って在庫状況を注文前に確認できるので、スムーズな発注ができます。
ECでバックエンド、フロントエンドを改革
ECで在庫の動きを可視化すると、製造ラインの効率化を図ることもできます。
注文を即製造・配送に結びつけるシステムを構築することで、無駄のない製造が実現可能になります。 特に、バリエーション豊富な製品を少量ずつ短い納期で製造するシステムを整備したいという企業に有効な手段です。
EC活用のヒントとなるD2C
コロナ禍によって、米国を中心に改めてD2C(Direct to Consumers:製造者が消費者に直接製品を販売する方法)の可能性が注目されています。
米国では、自社サイトだけでなくAmazonのような大手モールサイトに販売チャネルを持つことで利益を挙げる企業が出ています。
大手モールは、製品の販売だけでなく保管や発送、カスタマーサービスを一手に任せることができます。
利益を上げやすく、柔軟な対応ができるのが自社ECの強みではありますが、大手モールのチャネルは大手モールならではの強みがあるので、両方のチャネルを上手に活用していくのも有効です。
日本でも、2020年以降はコロナの巣篭もり需要によってECの利用が大幅に増え、あらゆる世代、地域の消費者がネットショッピングを活用するようになりました。
ECの需要増加の傾向が高止まりしている今、D2Cを含めた製造業ECは伸長しやすい時期を迎えています。また、成果を出しているD2Cブランドを買収して企業を大きくする投資会社も、米国では注目を集めています。
こうした動きは世界的に続くとみられています。
国内の製造業ECにおいては、自社サイト、大手モールサイトの利用それぞれの強みを把握した施策や戦略を展開していくべきでしょう。
製造業ECの選択肢は多い、自社に合った戦略を
時代にマッチした新しい製造業ECを検討する場合、業態や自社の顧客層に合ったサイトや管理システムを構築していく必要があります。
BtoBであれば、これまでの商慣習をそのままスライドしていけるような見積もりや承認システムを備える必要がありますが、BtoCや小口BtoBを中心に展開するならば、消費者と積極的なコミュニケーションを取れるような、窓口となるサイトが成功する可能性があります。
また、両者とも大手モールと自社運営ECサイトの両方を運営して販売チャネルを多様化させるとさらに利益を上げることができるかもしれません。 自社製品の売りとアピールポイントを把握したEC戦略が次世代の製造業ECには必要です。