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消費者庁への相談件数は増加。特商法改正のその後


特定商取引法(以下、特商法)は、時代に応じて改正が行われています。2023年には、それまで対応の範囲外だった契約書面などの電子化に関する改正が施行され、悪質業者から消費者を守る仕組みが整えられました。



改正もあって、2023年の架空請求に対する相談件数は直近20年で最少の約1.6万件となりましたが、悪質な事業者が撲滅されたわけではありません。
同年の消費生活相談件数は約90.9万件で、前年よりも3万件近く増加しています。



注文していない商品を送りつける、知らずに定期購入させるという明らかに悪質な事業者をゼロにすることは難しいですが、法令を遵守していくことでこれらの業者を締め出し、適正な業界にしていくことは可能です。



本稿では、特商法改正後の動きについて消費者庁が公表したデータで振り返るとともに、法改正の狙いについて解説しています。
また、不正取引やステマ広告を抑止するために何ができるかについてなど、クリーンな業界を保つために注意すべきことをまとめています。


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特商法改正後の動き



特商法は最近では2021年に改正され、その後の2023年に、2021年には未施行であった契約書面等の電子化に関する改正が施行されました。



2021年の改正では、送り付け商法や詐欺的な定期購入商法(消費者には1回のみの注文と思わせて、実際は定期購入の契約をさせる)への対策が強化されました。
また、2023年の改正では、申込書面や契約書面、概要書面の3つが電子交付可能となりました。申込書面は訪問販売・購入、電話勧誘取引、契約書面は通信販売を除くすべての取引の書面、概要書面は連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘因販売取引に関わる書面です。



2023年以前は契約締結に関する書面は、原則として紙で交付する必要がありましたが、現在では「メールに添付する形で送信する」、「サイト上で閲覧・ダウンロードしてもらう」という形での提供が可能となっています。



電子書面は事前に消費者に承諾を得て交付する必要があります。
希望しない消費者に対して電子交付の手続きを進めたり、書面の交付に際して費用を徴収したりすることは禁止されており、違反した場合には懲役または罰金が科されます。



なお、電子交付には提供するデータの仕様について適合基準が定められています。
適合基準については、明瞭に読むことができる(黒色背景に黒色文字、8ポイント未満の文字など見づらい仕様、文字化けする機種依存文字の使用は不可)、容易に閲覧・保存できる(メールにPDF添付するなど)といった観点によって定められたフォーマットがあります。
このフォーマットから逸脱した書面は、交付してもしていないものと見なされ、義務違反と判断されるリスクが生じます。



消費者庁の注意喚起



消費者庁は、1月16日に「特定商取引法の通信販売分野における執行状況」を発表しました。その中で、同庁はインターネット通販・ネットオークション・テレビ通販等の通販サイトのモニタリング調査を実施しています。



違反内容は、解約するための電話番号として連絡が取れる番号を記載していない、お試し購入を申し込むように見せかけて定期購入契約を申し込ませるといったものです。
「注文内容の最終確認」を分かりやすく表示していないという違反も目立ちました。



通販事業者は、「商品の分量」、「販売価格」、「支払い時期と方法」、「引渡・提供時期」、「申込の撤回や解除に関すること」、「申込期限」を最終確認画面に記載することを義務づけられています。



消費者庁は2023年秋からデジタル班を設置しており、通販分野における摘発は今後も強化されていると予測されます。



悪質業者には業務停止命令も



消費者庁は、2023年9月〜2024年4月の8ヶ月間に3件の行政処分を実施しました。
3件はすべて、定期購入に関する最終確認画面の表示義務違反によるもので、業務停止命令や業務禁止命令が下されました。



また、同期間には6件の行政指導も実施されました。
指導内容には、連絡の取れる電話番号を記載していないという違反が含まれていたとのことです。



使用した画像はShutterstock.comの許可を得ています




特商法、景表法改正での消費者庁の狙い



特商法には、2016年に「5年後見直し規定」が設けられています。この規定に基づき、2023年にも時代に即した改正が行われ、施行されました。



特商法や景品表示法(景表法)は、悪質業者の詐欺的な商法から消費者を守るための法律と考えられがちですが、正しい商売を行う事業者を保護する役割も担っています。



正しい手法で商売をしている事業者が、誇大広告で消費者を騙すような悪質業者に負けると、業界に不正業者が増えてしまいます。
「悪貨は良貨を駆逐する」という格言が示すように、法改正は悪質な取引を排除し、健全な商取引を増やすことを目的としています。



義務違反の例を、詐欺や不正取引、誇大広告やステマ広告、電話勧誘販売とそれに伴うクーリング・オフの周知に分けて紹介します。



詐欺や不正取引の抑止



不正な取引には、送り付け商法や強引な訪問購入・買取、マルチ商法などがあります。
実際には注文していない商品を消費者へ送付する送り付け商法は、一方的に商品を送り付け、その代金を請求する商法です。改正法により、勝手に送り付けられた商品は直ちに処分できるようになりました。また、万が一支払ってしまった場合も、後から返還請求を行うことができます。



訪問購入・買取は、自宅を訪問して強引に商品を売買させる手法です。
買取は、「不用品を買い取る」という名目で訪問し、依頼主が手放すつもりのない貴金属やブランド品を安値で買い取ってしまうというもので、ニュースなどで注意喚起の報道を目にした方も多いかもしれません。



これらはいずれも、改正法の「勧誘の要請をしていない者に対する勧誘」、「契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘」に該当し、違反行為となります。



誇大広告やステマ広告の抑止



誇大広告とは実際よりも効果が高いように見せること、ステマ広告とは広告であることを表示せず宣伝をすることです。
ステマとはステルスマーケティングの略で、有償で依頼された投稿にPR表記を付けず、事業者(商品やサービス)に好意的な内容を発信する手法を指します。
これまでにも、大手事業者が消費者を誤認させる広告があった、事実とは異なる使用実態があったなどの理由により、景表法違反で措置命令を受けています。



電話勧誘販売の抑止



特商法改正では、電話勧誘販売についても対象範囲が拡大されました。ウェブや新聞広告などを見て電話をかけてきた消費者に、別商品や定期購入を薦めるというクロスセル、アップセルは、従来よりも厳しい規制が適用されるようになっています。



電話勧誘販売に該当する取引は、事業者名を明示する、クーリング・オフの適用対象であることを明らかにする、契約書面を交付する、断られたら一定期間は再勧誘しないといった義務が生じます。



この改正に適用している事業者もいる一方で、自社の商品提供スタイルはあくまで顧客のヒアリングを元にしているものであって勧誘販売には該当しないというコメントを出している企業もあります。



しかし、消費者庁は広告内にクロスセル、アップセルする予定の商品が紹介されていない以上、電話で別の商品を提案することは、電話勧誘行為に該当すると判断しています。
そのため、改正法に則ってクロスセル、アップセルを行いたい場合は、該当商品の価格や契約条件をあらかじめウェブや新聞広告に掲載する必要があります。



EC・通販の適正な取引を



特商法の改正は、時代とともに変化する社会に対応する形で進められています。
昭和、平成、令和に至るまで、ライフスタイルや価値観、商取引のあり方は変化してきました。



現在の日本は、高齢化と核家族化が進み、一人暮らしの高齢者が増加する中、訪問販売や電話勧誘販売に関するトラブルも増えています。



スマートフォンとECの普及により、若年層のマルチ商法被害も増加しています。2022年に成年年齢が18歳に引き下げられたことも、この増加の一因です。



先の段落で述べたように、悪質な事業者が増えることは、業界が適切な状況を保てないことにつながります。あらゆる世代にとってECが身近になったからこそ、商取引に適正に保つ努力を続けなければならないと言えるでしょう。
なお、消費者庁は、現在のインターネットを通じた強引な勧誘について、以下の特徴を指摘しています。
不意打ち性(SNSで突然メッセージが送られる)、密室性(スマートフォンやPCを介した一対一のやり取り)、攻撃性(断っても繰り返しメッセージを送る)といった点です。



この法をかいくぐるような悪質な業者はこれからも現れると思いますが、その都度特商法も改正されていくでしょう。



適正な取引を続ける事業者にとって、改正内容を周知期間中に確認し、自社の体制を法令に適合させてアップデートすることが重要です。
これが業界をクリーンに保つための、最も簡単で効率的な対策と言えます。
消費者庁のガイドラインをチェックして、これからもクリーンな取引を継続していきましょう。