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可処分時間の争奪戦を制するECの未来:コンテンツ戦略とリテールメディアの最前線

テクノロジーの進化と社会の変化により、私たちの暮らしは大きく変化しました。特にスマートフォンの普及は、情報収集やコミュニケーションのあり方を一変させ、私たちの時間をより細かく、そして多角的に消費させています。ECの市場規模は年々拡大を続けていますが、その一方で、消費者が自由に使える時間、いわゆる「可処分時間」は減少傾向にあります。

2019年にも「可処分時間」をキーワードにECの未来を考察する記事を公開しましたが、そこから5年以上が経過した今、状況はさらに複雑になっています。この限られた時間をいかに獲得し、顧客との接点を持つかが、これからのEC事業の成功を左右するといえるでしょう。

本記事では、最新の可処分時間の動向を踏まえ、現代の消費者がどこに時間を使っているのかを考察します。さらに、ECサイトや小売企業がコンテンツを通じて顧客とつながるための具体的な戦略として、「ショート動画」と「リテールメディア」の組み合わせに焦点を当て、その可能性と実践方法を解説します。

◆関連記事:処分時間内のタッチポイント作りはデジタルマーケティングの要

消費者の可処分時間の推移と時間の使い方

共働き世帯の増加やリモートワークの普及など、社会構造の変化は私たちの生活時間を大きく変えています。平日の可処分時間は年々減少し、特に子育て世代や若年層ではその傾向が顕著です。

現代社会における可処分時間の「質」の変化

ニュースウィーク誌の調査(2025年5月)によると、過去25年間で子育て世代の女性のフルタイム就業が大きく増加した結果、10代と子育て世代女性の可処分時間が大幅に減少していることが明らかになりました。

子育てや家事、仕事に追われるこれらの層は、一日のうちでまとまった自由時間を確保するのが困難です。そのため、ちょっとした隙間時間を利用して情報収集や買い物を済ませる傾向が強まっています。例えば、通勤中や家事の合間にスマートフォンでSNSをチェックしたり、休憩時間に動画を視聴したりといった行動が一般的になりました。

スマートフォン利用動向に見る時間の奪い合い

スマートフォンメディアは全サービスで利用率が上昇する一方、SNSを除く4サービスでは平均利用時間が短縮し、可処分時間の奪い合いが激化しています。特にSNSは利用時間を伸ばし、TikTokは利用率約30%に達し、情報収集源として重要性を増しています。ライブ配信もSNSが牽引し利用率が大幅に増加。商品認知のきっかけは「検索エンジン」が「TVCM」を抜きトップとなり、能動的な情報収集と「コト消費」の連動が強まっています。EC企業は「体験」を検索・SNSを通じて魅力的に伝えるコンテンツ戦略が必須です。

 「モノ消費」から「コト消費」へのシフトと若年層の新たな時間配分

消費者の購買行動は「モノ消費」から「コト消費」へシフトし、「旅行」「飲食店」などで利用が顕著に伸びています。ECは「体験の予約・購入」や「エンタメを通じた購買」の場へと進化が求められます。若年層ではSNS・動画から「ゲーム」への時間配分が移行し、「エンタメのスーパーアプリ化」が進展 。ECはゲーム内など多様なプラットフォームでの存在感強化が必要です。可処分時間の争奪戦は「可処分精神」の獲得へと深化しており、精神的価値を喚起するコンテンツが購買に直結します。

ショート動画とリテールメディアの相乗効果

現代の消費者がどこに時間を費やしているか、その答えの一つが「ショート動画」です。TikTokやYouTubeショート、Instagramリールといったプラットフォームが提供する短尺コンテンツは、消費者の限られた可処分時間を効果的に獲得する強力なツールとなっています。

なぜショート動画が消費者の時間を奪うのか?

ショート動画がこれほどまでに普及した背景には、いくつかの理由があります。

1、圧倒的な情報密度とエンターテインメント性

数十秒という短い時間に凝縮された情報は、長時間の動画やテキストよりも手軽に消費できます。また、音楽やエフェクトを駆使したクリエイティブな表現は、単なる情報提供にとどまらず、見る人を楽しませ、共感を呼び起こします。

2、アルゴリズムによるパーソナライズ

ショート動画プラットフォームの洗練されたアルゴリズムは、ユーザーの過去の視聴履歴や興味関心に基づいて、次々と最適なコンテンツを提示します。これにより、ユーザーは「次は何が来るんだろう」という期待感から、つい時間を忘れて視聴し続けてしまうのです。

3、購買行動への直接的な影響

ショート動画は、商品やサービスの魅力を直感的に伝えることに長けています。特に商品の使用感や、利用シーンをリアルに表現する動画は、消費者の購買意欲を強く刺激します。動画内のショッピング機能やリンクを活用することで、視聴から購入までの導線をスムーズにつなげられる点も大きな強みです。

ショート動画がECにもたらす変革

ショート動画がコンテンツの主役となりつつある今、小売企業が注目すべきなのが「リテールメディア」との組み合わせです。

リテールメディアとは、小売企業が自社のECサイトやアプリ、店舗のデジタルサイネージなどを活用して、広告枠を販売する取り組みのことです。これにより、小売企業は新たな収益源を確保できるだけでなく、蓄積された顧客データを活用して、よりターゲットに合わせた効果的な広告を提供できます。

ショート動画は低コストで制作でき、新規ユーザーへのリーチや成果に繋がりやすい利点があります。ニトリの事例やYouTubeショートでの「体験」提供のように、商品の世界観や使用体験を伝えることで購買に繋がります。ショートドラマ広告は広告感を抑えつつブランド好感度を高め、売上増に貢献。動画内での直接購入機能を提供するプラットフォーマーも登場し、可処分時間の少ない消費者へ効率的な購買体験を提供します。

プラットフォーム名主なユーザー層/コンテンツカテゴリEC活用メリットEC戦略への示唆
YouTube Shortsアニメ、ゲーム、ハウツー系、幅広い世代幅広いリーチ、低コスト制作、レコメンド機能で新規顧客獲得、チャンネル登録者増加専門知識や体験提供コンテンツで信頼性・エンゲージメントを高め、ブランド認知を拡大。
Instagram Reelsファッション、美容、ライフスタイル、若年層中心視覚的訴求力、コミュニティ形成、インフルエンサーマーケティングとの親和性商品の世界観やブランドイメージを重視し、共感を呼ぶコンテンツで購買意欲を刺激。
TikTok全般、若年層中心、視聴頻度・時間リード高い拡散力、バズりやすい、広告感の低いコンテンツが有効、購買への導線確立ショートドラマ広告など、エンタメ性を追求し、自然な形で商品認知と購買を促進。
主要ショート動画プラットフォームの特性とEC活用メリット

成長するリテールメディア市場とその可能性

リテールメディアは小売企業が顧客データや店舗・ECを活用し、メーカー広告を配信する仕組みで、米国では2028年に15兆円規模と予測される急成長市場です。最大の強みは購買データによる精密なターゲティングで、購買意欲の高い消費者に直接アプローチし、広告効果の透明性を高めます。WalmartのTikTokライブコマース やファミリーマートのデジタルサイネージによる売上向上など成功事例も多数。可処分時間の少ない消費者の「効率的な購買」ニーズに応え、顧客満足度向上に寄与します。

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小売企業がEC運営で取り組むべきこれからのマーケティング

可処分時間が減少する現代において、単に商品を並べるだけのECサイトは、もはや消費者の興味を惹きつけられません。これからの小売企業に求められるのは「コンテンツ」の力で顧客との接点を作り、買い物を「体験」へと昇華させることです。

顧客を「ファン」にするためのコンテンツ創出

購買行動が多様化する中、ECサイトは商品の陳列場所から「ブランドの世界観を伝えるメディア」へと進化する必要があります。

商品のストーリーを語る

食品メーカーであれば、生産者のこだわりや、食材が育つ美しい風景をショート動画で紹介する。アパレルブランドであれば、デザイナーの想いや、アイテムが作られる工房の様子をドキュメンタリー風に配信する。これにより、顧客は単に商品を買うだけでなく、その背後にある「価値」に共感し、ブランドのファンになります。

UGC(User Generated Content)の活用

顧客が自ら作成したレビュー動画や、商品の使い方を紹介する投稿を積極的に活用しましょう。UGCは、企業が発信する情報よりも信頼性が高く、他の顧客の購買意欲を刺激する強力なコンテンツです。ハッシュタグキャンペーンなどを実施して、UGCを促進するのも有効な手法です。

OMO(Online Merges with Offline)戦略との融合

ECと実店舗を切り離して考える時代は終わり、両者をシームレスにつなげるOMO(Online Merges with Offline)戦略が不可欠です。コンテンツマーケティングもこのOMO戦略に組み込むことで、より効果を発揮します。

例えば、ECサイトで見たショート動画に興味を持った顧客が、実店舗でその商品を試せるようにする。あるいは、実店舗のデジタルサイネージで、ECサイト限定のスペシャルコンテンツを配信する。このように、オンラインとオフラインを行き来しながら顧客体験を創出することで、ブランドへのロイヤリティを高め、結果としてLTV(顧客生涯価値)の向上につながります。

可処分時間減少時代のECマーケティング

「可処分時間」が希薄化する現代において、ECサイトや小売企業は、いかにして消費者の限られた時間を獲得し、有意義な体験を提供できるかが問われています。

EC企業は他のエンタメと「競争」だけでなく「共存」の視点を持ち、顧客が時間を費やすあらゆる場所で接点を持つべきです。

そこでこれまでの広告手法に代わる、あるいはそれを補完する新たな手法として、「ショート動画」と「リテールメディア」の組み合わせは、大きな可能性を秘めています。

ショート動画でブランドの魅力を直感的に伝え、リテールメディアで顧客データに基づいたパーソナライズされたコンテンツを配信する。そして、オンラインとオフラインを融合させた顧客体験を設計する。これらの取り組みは、単なる売り上げの向上だけでなく、顧客とブランドの間に強固な信頼関係を築き、ECの未来を切り拓く鍵となるでしょう。

あなたのECサイトは、ただの商品陳列棚になっていませんか? 顧客の可処分時間にいかに寄り添い、価値を提供できるか。今こそ、コンテンツの力を見つめ直す時かもしれません。