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カスタマーサポート部門がブランドを作る!アンカー・ジャパンは、どうやって5年で10倍以上の成長を実現したか(後編)

2011年の設立以来、高性能なモバイルバッテリーの販売を中心に躍進したAnker。国内においても2013年に日本法人であるアンカー・ジャパン株式会社を設立し、コアなファンを生み出し続けています。

最近では、手がける製品の領域をオーディオや家電にまで広げ、オンラインに強かった販売チャネルに続いて直営店の展開も加速。アンカー・ジャパンとして昨年度の売上はついに100億円を達成しています。

この、目を見張るほどの急成長の背景にはどのような思想と戦略があるのでしょうか。日本法人の設立以来、ビジネスの成長を一手に担ってきた執行役員 事業戦略本部 統括の猿渡 歩さんに詳しくお話を伺いました。

後編目次

1. 追いかけるメールマーケティングは行わない
2. 在庫管理はシビアに行う
3. 売上と利益率の最大化を達成できれば、戦術は自由
4. メーカーとしての慣習を知らなかったからこそ、オンラインでトップを取れた
5. 作れて、市場が伸びているものなら、やる
6. ポジションが空いていても、本当にいい人に出会うまでは採用しない
7. 災害時ニーズ、「BtoG」ビジネスの可能性
8. 「刺すだけで何でも充電できるバッテリー」が世界を救う

スピーカープロフィール

猿渡 歩(えんど あゆむ) Deloitteにてコンサルティング業務やIPO支援に従事後、日本産業パートナーズにてプライベート・エクイティ投資業務に携わる。14年、アンカー・ジャパンのマーケティング&セールスの総責任者として部署立ち上げより参画。モバイルバッテリー等の主要カテゴリーをオンラインシェア1位に引き上げると共に、オーディオ製品等の新規カテゴリーでも参入から1年以内にオンラインシェア1位を実現。17年より現職。
梅木 研二(うめき けんじ) 1977年福岡県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、伊藤忠テクノソリューションズ入社。
一貫して、流通小売業向けのシステム開発に営業として携わる。富士ソフト在籍時は、大規模Eコマースシステム開発に営業として従事、富士ソフト子会社のVINXにてオムニチャネルシステムの企画・支援の立ち上げに参画。2016年にエスキュービズム入社、2018年に取締役就任。
前編はこちら


追いかけるメールマーケティングは行わない

梅木:御社のバッテリーだと、1度購入したお客様が2台持ち3台持ちをするようなケースもあるんですか?

猿渡さん(以下、敬称略):結構ありますね。ツイッターでも「また買った」という投稿を見かけます。Ankerの箱を20個ぐらい積み上げて…というような方もいらっしゃいますよ(笑)

梅木:フォローメールやサンキューメールなど、アップセルやクロスセルを狙ったメールマーケティングを実施されているのですか?

猿渡:まず基本的にAmazonや楽天で購入したお客様にスポット以外のメールを打つことは禁止されているので、私たちは一切やっていません。実際にはやっているメーカーさんもかなりいらっしゃいますが……特に最近はフェイクレビューの製品がかなり増えてきており、私たちは逆にAmazonに対するフェイクレビュー撲滅運動に力を入れていますよ。

梅木:ひどいところだと、商品が変わってもURLはそのままとかありますもんね。

猿渡:とはいえ、モールの最大メリットは彼らがセッションを集めてきてくれるので、私たちはマーケティングやセールス、サポートも含めてメーカーが本来やるべき仕事に集中できます。私たちは昨年売上100億円を超えているのですが、アンカー・ジャパンにはまだ社員が50人もいないんですよ。そういった状況で比較的効率よく回せる仕組みとして、今のモールを活用したビジネスモデルは最適な形なのかなと思っています。

在庫管理はシビアに行う

梅木:効率という意味では、物流面はどうなっているのでしょうか。海外から発送しているのですか?

猿渡:基本的に製品は中国で作ってグローバルで売っていくスタイルなのですが、倉庫はAmazonのFBAと、私たちが借りている3PLの倉庫の2つを持っています。自社ECでの受注分も含めて、オンライン系は全部FBAから出しています。量販店とかBtoB向けは流通加工、例えばパレットを替えたりバーコードを張り替えたりという作業があるので、それは自社で借りている倉庫で行います。

梅木:これだけ急成長すると、物流のオペレーションとか、そもそも倉庫のキャパシティとか大変ではありませんか?

猿渡:FBAのキャパシティはなんとかAmazonに調整してやってもらっています。自社で借りている倉庫は必要に応じて見直しを図ったり、サプライチェーンの人数をも増やしたり、ということは日々やっていて、セールスに影響が出ないようにしています。元々はエクセルで管理していたような時代から、システムを入れて、さらにアップデートして……と、継続的に投資は続けていますね。

梅木:商品単価的に、在庫の管理も重要になってきますよね。

猿渡:そこはかなりシビアに見ています。今では1日10,000個以上販売していることも多いですし、Amazonのプライムデーなどのセール時だとさらにぐっと伸びます。売り逃しては機会損失である一方、企業規模が大きくなるにつれて、過剰在庫もしっかり管理していく必要があるので、在庫数の適切性は毎週レビューをかなり精緻にやっていますね。

梅木:グローバル側では日本用にストックを確保してくれるのですか?

猿渡:はい。新製品を見て、初回にキャンペーンをやるならそれも含めて、だいたい何個売れるのかというフォーキャストを事前に出した上で、生産リードタイムから逆算して、在庫が切れないように管理しています。

売上と利益率の最大化を達成できれば、戦術は自由

梅木:これだけチャネルが増えてくると、プライスコントロールも難しいですよね。オムニチャネルの「あるある」として、店頭で売っている価格より全然ネットが安いじゃないか、というのがあって、場合によってはクレームになることもあると思うのですが、価格も本社が一括してコントロールしているのですか?

猿渡:いえ、弊社は外資系の中でもちょっと変わっていて、チャネルごとの価格も全て日本で決めていますし、マーケティングやセールス施策などもほぼ全て日本側で決裁して進めています。

梅木:そうなんですか。

猿渡:もちろん投資金額が大きなものは相談しますが、一番大切なのは、アンカー・ジャパンの売上と利益率最大化です。それさえできていれば、戦術については割と自由ですね。必要なレポートはしていますが、本社からの出向者もいないですし。

梅木:それはAnkerとしてのDNAで、どの国でもそうなんですか?

猿渡:基本的にそうですね。前提として、本社が偉いという発想はないです。私も、立場的には組織としては部門長ではあるのですが、社内の人間が私のことを必要以上に偉い人と感じていることも多分ないですし、あくまでメンバーが、仕事のスキルとやりたいことを踏まえて業務分担しているだけだと思っています。したがって、日本のことは、その言語を使用でき、そしてその市場を知っている人がやったほうが効率的だよね、ということになりますし、それは他国でも同様です。

メーカーとしての慣習を知らなかったからこそ、オンラインでトップを取れた

梅木:社員の中に家電量販店やメーカー出身者の方はいらっしゃるんですか?

猿渡:ほぼいないですね。ゼロではないですが。そもそもアンカー・ジャパン代表の井戸も私もバックグラウンドはメーカーではありませんし、人間考えて行動すれば何でもできるなと実感しています。そういう風に思えるマインドがある人なら、弊社で活躍できると思います。

梅木:とは言え、メーカーとしてのお作法など、知らないが故に苦労したこともあるんじゃないですか?

猿渡:ありましたね。私はコンサルやファンドにいた人間なので数字とロジックをベースにした議論のほうが腹落ちできる人間だと思います。でも業界によってはロジックだけでは上手く交渉が運ばない場合もあります。

ただ、メーカーでの経験がなかったことは逆にがよかったな、とも思うところがあります。だからこそ、まずオンラインで1位を獲って、有名になって交渉力が上がってから再度他の販売チャネルにお話をしに行くという道筋を選ぶことができましたし、結果的にそれはとてもよかったと思っています。数年前はお取引が難しかったところでも、今ではいい関係を構築できて、一緒にAnkerビジネスを盛り上げましょうというところもあります。

作れて、市場が伸びているものなら、やる

梅木:御社は最近オーディオ機器やロボット掃除機にまで製品の領域を広げています。新しいカテゴリーのプロダクトを作る基準というか、何がキッカケで家電をやろう、といった判断をするのですか?

猿渡:シンプルに申し上げると、私たちが作れて市場が伸びているならやるべき、という判断です。例えばイヤホンやスピーカーの市場は伸びていて、私たちは後発で参入しましたが、スピーカーは1年以内にオンラインシェア1位を獲得しました。逆にいうと、弊社の強みであるバッテリーであっても、例えば革新的な技術革新があり、スマートフォンのバッテリーの持ちが10倍になるような状況になったら、モバイルバッテリーの市場は小さくなるので、私たちとしてはこだわることなくやめる判断をする可能性は十分にあります。

梅木:「Anker」というブランド名のもと、お客様の暮らしのシーンを「より良くするために必要なもの」を提供し続けるというスタンスですね。

猿渡:はい。そこはミッションの「Empowering Smarter Lives」からブレずに。そのミッションに則っていれば、バッテリーの充電時間を早くして可処分時間を増やすことと、ロボット掃除機を提供して可処分時間を増やすことは同義です。当然ビジネスではあるので、その上で伸びている市場・製品に投資していく、というスタイルですね。

ポジションが空いていても、本当にいい人に出会うまでは採用しない

梅木:猿渡さんは1日をどのように過ごされていますか?結構ハードワーカーですよね?

猿渡:私はもともとこの部署の立ち上げで参画して、当時は一人だったので、Amazon管理画面操作して、量販店で商談を行い、合間でツイッターの中の人をやって……という感じでした。今ではチームも40人ぐらいになっているので、メインは社内・外ミーティングと、会社やチーム体制の検討や、あと採用面接はほぼ毎日やっています。

梅木:面接は猿渡さんご自身で?

猿渡:はい。採用は妥協しないスタイルでやっており、面接は人に振れませんし、重要なポジションでも長期に空席になっていたとしても、本当にいい人に出会うまでは採用しないですね。で、本当にいい人には逆に断られたりするんですけどね(笑)

梅木:同じですね(笑)今は本当に人材不足で、多分IT業界の採用におけるギャラのインフレ率は半端じゃないことになっていると思います。

猿渡:弊社は報酬スタイルは、基本給+ボーナスという一般的なところは変わりませんが、そのほかにも貢献度が高い人には四半期ごとに追加でもらえる「スポットボーナス」という制度をはじめとして、様々な複数の追加ボーナスシステムがあります。そういった施策なども通じて、ハイパフォーマーな人には還元する仕組みを取っているので、それでそれでモチベーションを上げて頑張ってくれている社員も多いと思います。

梅木:リワードによるインセンティブ設計だったり、ここで働く意味や意義を、面接に来る方にしっかり届けられるか、それをビジョン・ミッションとして定義できているかが重要ですね。

猿渡:年収が7万5千ドル(約800万円)を超えると、感情的幸福は収入に応じて比例しないという研究結果もありますが、やりがいと賃金のバランスが一番大切だなと思っています。いくら年収が上がってもそれだけではモチベーションを高く保てませんし、やりがいだけで引き付けるのも違うなと。そういった追加賞与の設計は一例にすぎませんが、ハイパフォーマーには、その対価を適正な基準で還元していくという方針がある会社だと思います。

災害時ニーズ、「BtoG」ビジネスの可能性

梅木:5年で10倍以上の成長を達成された御社の、次の目標ってなんですか?言える範囲で構わないのですが。

猿渡:オンラインでは、色々な製品カテゴリでシェア1位を獲得できているものも増えてきているので、そこに軸足はしっかり起きつつ、まだポテンシャルのあるロボット掃除機などのカテゴリはまだまだ伸ばしていきたいと考えています。また、量販店などのリアル店舗での製品展開の幅も、今以上に広げていきたいです。

あとは売上の多くがBtoCなので、BtoBのビジネス、それからBtoG(goverment)と呼ばれる、自治体向けのビジネスをもっと伸ばしていきたいと考えています。

梅木:BtoGにはどんな需要があるのですか?

猿渡:今でも福岡市や川崎市と一緒に取り組んでいますが、例えば防災用途などですね。

梅木:私たちは流通小売業向けのPOSシステムも扱うのですが、お店の電気が落ちてもレジは動かさなくてはいけないので、セルフレジの筐体の中に入るコンパクトで長持ちするバッテリーが欲しいよね、という話が出ることがあります。例えばそのようなニーズに対して御社がソリューションを提供する、ということもあり得そうですね。

猿渡:「Anker PowerHouse」という製品があります。スマホを約40回分充電できる120600mAhのバッテリーを搭載しながら、コンパクトでACも引け、パソコンや小型冷蔵庫なども動かせるポータブル電源で、福岡市や川崎市の災害対策にもご活用いただいています。スマホがライフラインになった今、災害時に電源は必要不可欠で、実際に台風の被害を受けた関西国際空港にも、災害対策用備蓄として導入いただきました。

今までの非常用電源は持ち運びができないほど大型だったり、非常時でもガスや燃料を使う発電機などしかありませんでしたが、女性でも片手で持ち運べるサイズでACもUSBも使える「Anker PowerHouse」はご家庭や職場問わず、幅広くご活用いただけます。

梅木:そうか、災害時というのは盲点でした。それは社会的にも貢献度が高いですね。

猿渡:場所によってはAC電源を引っ張ることが難しい場合も多々あります。変わった例ですと、コミケのようなイベントでフィギュアを光らせたいとか、屋外にクリスマスツリーを飾りたいとか、キャンプを張りながらフェスに参加するのに持っていくとか、持ち運べるAC電源というのはすごく便利なんです。

梅木:確かに、私がお話ししたのはセルフレジのニーズでしたが、例えばポップアップストアを出すときに1日だけサイネージを使いたい、とかもあり得ますね。

猿渡:ある大手のアパレルメーカーが店舗のディスプレイを光らせるために「Anker PowerHouse」をご活用いただいているのを拝見したこともあります。足元にコードがあると危険だし、コードが見えているのも見栄えがよくないということで。考えれば活用法はたくさんあるのですが、私たちがご提案できてないことも多いので、それらに着手していきたいですね。

「刺すだけで何でも充電できるバッテリー」が世界を救う

猿渡:あとは、USB Power Delivery (以下USB PD)という給電規格が普及してきているのは私たちにとっては追い風です。今までだとパソコン用に専用型式の重い充電器を持ち歩いていたものが、Ankerのバッテリーで充電できるようになってきているので。
梅木:私も3年ぶりぐらいにバッテリーを買い換えましたが、すごく薄くて軽くなっていて驚きました。

猿渡:だいぶ小さくなりましたね。小型化の秘密は、セルの密度です。例えばモバイルバッテリーで使われる18650型電池でも、数年前は2500mAh程度の容量でしたが今では3350mAh以上になっています。つまり、10000mAhのモバイルバッテリーを作るのに昔は4本の電池が必要だったのが3本で済むわけですから、筐体のサイズも小さくできるということです。この辺り、弊社としてはかなり企業努力していますね。

梅木:半導体の世界では「ムーアの法則」というのがありますが、バッテリーの世界でも同様なんでしょうか?

猿渡:明確に数字を出せるものを持ち合わせてはいませんが、窒化ガリウムを採用した急速充電器は従来のサイズから約35~40%ぐらい小型化ができています。日本のお客様は持ち運びに優れたコンパクトな製品を好まれるので、チャージング業界のリーディングブランドとして継続的に投資していきたいですね。

梅木:小さく安くなれば、複数台持つことにも抵抗がなくなるかもしれないですね。

猿渡:それでいうと、私たちがもう一つ目指しているのは、世の中に流通する充電器を減らすことなんですよ。皆さんスマホを買ってもデジカメを買っても1ポートの充電器が付属してくるじゃないですか。世界中規模でみると年間何十億個も同梱されており、そのほとんどが使われないまま自宅で眠っている。無駄になっていて環境にも優しくない。なので、もう充電器はの同梱は止めて、Ankerの充電器を買えば、スマホもノートPCもデジカメも1台で充電できる、という未来にできるのが理想ですね。

梅木:素晴らしい。充電器って燃えるゴミにも出せませんしね。

猿渡:そうなんです。処理も面倒なので、もう「充電器はAnkerが作るので大丈夫です」と言えるようになればと思っています。

梅木:それはぜひお願いしたいですね。私たちも協力したいです。多分これを読んでいる皆さん家中あちこちに充電器が刺さってると思いますよ(笑)

猿渡:意識されていない方もいらっしゃいますが、充電器にもスピードや安全性など品質の違いがあるんです。Anker製品の場合、PowerIQ™️という独自テクノロジーを搭載しており、接続する機器ごとに適切な電圧と電流を流す仕様になっています。充電したい機器と異なる給電規格のケーブルや充電器を使うとせっかくの給電性能が十分発揮されない場合もあるのですが、Ankerの充電器ならお客様自身が細かい規格の違いを考えずに機器にあったフルスピードで充電してくれるので、とても便利ですよ。

PowerIQ™️:https://www.anker.com/deals/poweriq/?country=JP
梅木:「何も考えなくていい」というのは、世代問わず非常に魅力的な、お客様のエンゲージが高まるポイントですよね。Ankerが短期間で急成長できた真の理由が分かった気がします。本日はありがとうございました。

猿渡:こちらこそ、ありがとうございました。

前編はこちら

前編目次

1. 「期間限定のポップアップ」の予定だった直営店
2. お客様の声を直接拾う&いい土地で看板を出す
3. 「1日700件」のお客様の声が事業を成長させる
4. 今後はオンラインとオフラインを繋ぎ、オペレーションを精緻化するフェーズに
5. 自社EC、プラットフォーマーそれぞれのメリットを活かす