消費者に共感され求められるブランドのための「エシカル消費」
倫理的・道徳的に正しい手法で製造された商品を選ぶことで、フードロス削減などの社会的な課題に取り組む事業者を支援する「エシカル消費」は、その言葉より先に行動が浸透しつつあります。
本記事では、その認知の実態と消費者の行動について分析し、今の時代に消費者から選ばれる企業になるための姿勢について探っています。
広がるエシカル消費の認知 データから見る消費者意識
「エシカル消費」は「倫理的消費」という日本語に置き換えられますが、言葉そのものの意味を理解して行動している消費者は意外に少ないことをご存知でしょうか。
現代社会で多くみられるのは、エシカル消費という言葉の意味を知らずとも自然とエシカルな行動を選択している消費者です。
また、言葉の意味を深く理解していなくても、エシカル消費にポジティブなイメージを抱いたり興味をもったりしていることがデータから明らかになっています。
エシカル消費を理解する 過半数がワードに対してポジティブに反応
消費者庁が2020年2月に公表した「倫理的消費(エシカル消費)に関する消費者意識調査報告書」では、倫理的消費(エシカル消費)という単語を知っている人は、10代〜60代までの男女のうち12.2%、エシカルという単語を知っている人はさらに少なく全体の8.8%に過ぎません。
エコ(72.6%)、ロハス(34.8%)というパーセンテージと比較すると、エシカルはきわめて認知度の低いキーワードであることがうかがえます。
一方で、エシカル消費に対するイメージや興味関心は高く、全体の51.8%がエシカル消費は「これからの時代に必要」であると回答、さらに全体の59.1%はエシカル消費に対して「興味がある」と回答しています。
倫理的消費というワードはやや抽象的で分かりにくく、また、社会的課題に取り組む事業者を支援する消費行動も社会的課題自体が多岐にわたるため、ひとことで説明するのが難しいと感じる人も多いと予想されます。
そのため、エシカルというワードはママ友や同僚といったコミュニティの中で根づきにくい、共通言語化しにくいという側面をもっているかもしれません。
ですが、そうと知らずにエシカル行動を行なっている消費者は意外に多い傾向にあります。
消費者はそうとは知らずにエシカルな行動を実践している
同調査では、エシカル行動について次のようなアクションを取っている人が多くみられました。
- マイバッグ・マイ箸・マイカップ等の利用(全体の86.8%)
- 電気をこまめに消す等の省エネ(全体の73.7%)
- 食品ロス削減(全体の61.9%)
- リサイクル活動・購入(全体の60.2%)
- 国産品の購入(全体の52.6%)
- 地産地消(全体の50.7%)
ほかにも、全体の約20〜30%の回答者が、エコカーや省エネ商品といった環境に配慮した商品を選んだ消費行動、被災地への寄付、物資提供、有機食品の購入といったエシカル行動をしていると回答しました。
このデータから、エシカル消費というワードはほとんどの人にまだ浸透していないが、言葉を知らない大多数の消費者もすでにエシカル消費を実施しているという事実が見えてきます。
企業がエシカル消費についてどのようなプランニングをするか、それはこうした背景を的確に捉えておく必要があります。
エシカルと節約、食育との関連を押さえる
消費者意識の中で、エシカル消費が強く結びついているカテゴリーは「食」といえます。
これは、食べ切れる量だけを買うこと、不揃いな野菜や賞味期限が切れても安全に食べられる食品を買うことが、節約にもつながるためと考えられています。
また、現在多くの人が実践しているエコバッグを使うという行動も、有料になったレジ袋を買わずに買い物を済ませるという節約意識があることは間違いないでしょう。
さらに、食品ロスを減らす努力をしている企業の商品を選んで購入することを、食育と捉える家庭もあります。地産地消の取り組みは学校給食でも実践されており、「作られたものを無駄なく食べるのは環境を守るために大切」という文脈なら子どもも理解しやすいと考える家庭は多いでしょう。
事実、株式会社電通が実施した「エシカル消費意識調査2020」では、10代〜70代までの約37%が、エシカル消費として食品を購入した経験があると回答しています。
ちなみに、第2位は自動車で約27%でした。
企業はエシカル消費をどのように捉えるか
理解するより先に行動を起こしている消費者に対して、企業はエシカル消費をどのように戦略化すべきなのでしょうか。
戦略を展開する際におさえておきたいのが、社会貢献、そしてCSRとSDGsの違いです。
CSRとSDGsはどこが違う?
エシカル消費について企業が考える時、CSRとSDGsについても理解しておかなければなりません。
CSR(Corporate
Social Responsibility
企業の社会的責任)とは、環境や人権を守る活動をしたり、企業で寄付をしたりと社会をよりよくするために活動しながら利益を上げていこうという考え方で、「自社さえよければそれで良い」という利益至上主義はすでに過去のものになりつつあることを示しています。
一方で、SDGs(Sustainable
Development Goals 持続可能な開発目標)で、これはいわば人類共通で掲げている目標です。SDGsは、2016年〜2030年の間に世界が達成すべき17の目標から成り立ち、具体的なTO DOが169のターゲットという形で明記されています。
17の目標のうちには、
- 5. ジェンダー平等を実現しよう
- 8. 働きがいも経済成長も
- 9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
- 12. つくる責任 つかう責任
- 14. パートナーシップで目標を達成しよう
など、CSRに直結するものもあります。
SDGsの大きな目標の中に、CSRが含まれていると捉えると分かりやすいかもしれません。SDGsは世界共通の目標であり、人類すべてが責任を負っていると捉えるべきです。ひいては、企業にもSDGs達成のために果たすべき社会的責任があるということです。
一般的に、環境保全を主体とした大がかりな生産システムの構築や、ニュースになるほどの多額の寄付を行うのは大企業にしかできないことであると思われがちです。これらの取り組みには金銭的、人的コストが必要になり、中小企業では充分にリソースを割けないというのが理由としてよく挙げられます。
しかし、中小企業には中小企業にしか展開できないCSRの果たし方があります。
そのひとつが「地域共生」です。地域やコミュニティに近しい企業だからこそできる取り組みを、考えていくべきでしょう。
企業が行う社会貢献について考える
そもそもエシカル消費として選ばれる「社会貢献している企業」とは、どのような企業なのでしょうか。
「エシカル」というワードが登場した最初期に注目されたアイテムに、宝飾品があります。金や宝石は、低賃金労働や児童労働といった違法労働によって採石されることが多く、紛争地域で採掘されゲリラの資金源としても利用されていた宝石は、紛争ダイヤモンド(ブラッド・ダイヤモンド)と呼ばれたこともありました。
こうした劣悪な労働や環境を顧みない採掘方法をしていない宝飾品は、エシカル・ジュエリーと呼ばれ、注目されました。
社会貢献といえば、人類全体の共通課題である環境保護がまず思い浮かぶかもしれませんが、このように適正な雇用や取引によって商品を作るという取り組みも、社会貢献のひとつです。
消費者が体感できる社会貢献には、
- 寄付つきの商品を購入して間接的に社会貢献に寄与する
- 環境配慮型の商品を購入して間接的に環境保護に貢献する
- フェアトレード商品を購入して、人権に配慮された労働を間接的に守る
といったものがあります。また、企業が商品を製造するのに消費するエネルギー量を削減したり、リサイクルや無駄のなるべく少ない廃棄システムを構築したりすれば、その企業の商品を購入することこそが、社会貢献そのものと認識されるかもしれません。
いずれにしても、社会貢献のあり方は多様であり企業によって実現が容易なものとそうでないものがあります。自社の強みを活かした社会貢献のあり方や、セールスポイントとしてPRするのに最適な社会貢献のあり方を独自に計画していく必要があります。
企業の社会貢献やCSR活動は、直接利益につながるアクションではないため、はじめのうちは慈善活動の延長線にあるものとして捉えられがちです。
また、消費者からは、SDGsの流行に乗っただけの偽善、やっているふり、などと良くない評価を受けることもあるかもしれません。
しかし、企業の社会貢献活動は継続していくことに意味があります。継続していくことで、活動の目的や社会的責任が広く周知され、結果的に企業イメージの向上につなげられていくことでしょう。
まとめ:共感され選ばれるブランドへ
これまで、エコは環境保全は「真面目」というイメージがあったかもしれません。
しかし、エシカル消費はおしゃれなトレンドとして受け入れられています。スマートなエシカル、サステナブルな取り組みは企業への共感を生み出し、商品ではなく企業のファンを作り出す一助になっています。
エシカルやサステナブルをテーマにしたポップアップ・ストアが百貨店にオープンしたり、エシカル消費の対象となる商品につける共通ロゴができたりと、ファッショナブルなアクションが多数生み出されています。
CSR活動が消費者に与えるポジティブなイメージについては、数字にもあらわれています。
前述した消費者庁の「倫理的消費(エシカル消費)に関する消費者意識調査報告書」では、「エシカル商品・サービスの提供が企業イメージの向上につながると思うか」という項目があります。
この質問に対しては、全世代の約80%が「(向上につながると)そう思う」、「(向上につながると)どちらかというとそう思う」と回答しています。
2016年度に行われた同調査では、約65%が「(向上につながると)そう思う」、「(向上につながると)どちらかというとそう思う」と回答していたため、徐々にポジティブな印象を抱く人が増えてきているといえます。
さらに、エシカルやサステナブルに関連したプロモーションが数多く行われることで、さらにこのパーセンテージが上がっていくことも予想されます。
現代の価値観にマッチした企業となるためには、消費者が無意識に実践しているエシカル消費について、自社ができることを模索していく必要があるでしょう。