マーケティングの4Pから考えるジュンク堂のO2O事例【店舗がAmazonに勝つヒント】
メーカーではない小売業はオリジナル商品の取り扱いがむずかしく、Amazonや楽天市場などのオンライン通販の進出により価格競争にさらされています。
オンライン通販は実店舗を持つ小売とくらべて家賃(事務所代やモール出店料)や人件費を抑えることができるため、販売価格を安く設定できることが強みです。
では実店舗をもつ企業は打つ手なく値引き競争に耐えるしかないかというと、そんなことはありません。実店舗があるからこそネット専業よりも選ばれる企業があります。
例えば書店ビジネスは、「商品」や「価格」で差別化を図るのが難しい業種で、Amazonの進出により業界全体としては衰退していますが、丸善&ジュンク堂はO2O(オンライン・ツー・オフライン)により売り上げを伸ばしています。
ジュンク堂の事例をもとに、書店業界×O2Oの新しいビジネスの仕組みを考えてみたいと思います。
これをマーケティングの4Pに当てはめてみると、
Product(商品) :製品、品質、デザイン、ブランドなど。(どの店で買っても同じ。)
Price(価格) :販売価格、割引など。(再販制度によりどの店も定価で販売。)
Place(場所・流通) :チャネル、流通範囲、品揃え、店舗立地、在庫、輸送など。
Promotion(販売促進):販売促進、マーケティング、広告、コミュニケーションなど。
このようになり、他社との差別化を図ることができるポイントは「Place(場所・流通)」と「Promotion(販売促)」に絞られます。
ジュンク堂は「Place(場所・流通)」と「Promotion(販売促進)」を最大限活かすため、O2O戦略に取り組んでいます。
しかし、書籍を求めるユーザーが店舗ではなくAmazonに流れるのは、「本はどこで買っても同じだから」「お店に行っても目当ての本があるかわからないから(無駄足になるかもしれないから)」という理由がありました。
丸善ジュンク堂は北海道から沖縄まで全国に100店舗を展開、ネットショップも運営し、十分なPlaceを持っています。そこで、これらPlaceを連携させ、ユーザーの利便性を向上させて店舗に来てもらおうとO2Oシステムを構築しました。
ジュンク堂のO2Oシステムのポイントは2点です。
①各店舗の在庫状況をオンライン(ECサイト)で確認できる
②オンラインで在庫の取り置きを依頼、店舗で書籍を受け取ることができる
非常にシンプルなO2Oの仕組みですが、ネットから店舗の在庫状況を確認できることで「店舗に行けば“今日、確実に”ほしい本が手に入る」という安心感を消費者に持ってもらうことができます。すると「どうしても今日あの本がほしい」「東京駅付近で商談があるから、ついでに本を買って帰ろう」というニーズに応えることができ、利便性が高まります。店舗に来店してもらえれば、平台のディスプレイや店員の手書きポップで実際の店舗でしか醸し出せない「書店の雰囲気」を楽しんでもらうことができ、ついで買いによる客単価の向上が期待できるのです。
①ネットで注文、指定場所(自宅など)に配送
②ネットで注文、店舗で受け取り
③ネットで店舗の在庫を確認、店舗で購入
http://www.junkudo.co.jp/
例えばこんなときは、丸善&ジュンク堂が便利というケースを紹介しましょう。
中堅広告代理店勤務で東京在住、26歳の若手広告プランナーがいるとします。この人が上司から「明日までにキャッチコピーを3案出して」と突然頼まれます。この場合、ネットで検索しても、「書店に行ったとき実際にあるかな、先に他の誰かに買われないかな」という不安があるのが通常です。しかし丸善ジュンク堂のシステムであれば、店舗の在庫をオンラインで確認でき、さらには来店時確実に受け取ることができるよう、店舗取り置きを最短1時間で実施することができます。(仕組みは後述)
①まず、ネットストアから店舗取り置きの注文が入ると、ユーザーが受け取りを指定した店舗にメールが届きます。
②店員はメールに添付されているスリップを印刷し、本をピックアップして、スリップを挟み込み取り置き棚に置きます。
③店舗での取り置きが完了すると、注文者に取り置き完了メールが送られ、いつでも受け取れることが通知されます。
②で出てくるスリップとは、書籍のなかに破産である二つ折りの細長い短冊のようなシートのことです。専用スリップを活用することで、本をピックアップした店員以外のスタッフでもネットからの注文であることを把握しやすくなり、ユーザーが来店したときにすぐに書籍を渡すことができます。O2Oの仕組み作りでは店舗スタッフの運用負担を下げることも重要です。
丸善&ジュンク堂ネットストアでは、ECサイト会員の5人に1人が店舗受け取りを利用しています。
http://www.junkudo.co.jp/mj/user_data/guide/tokoton_content.php
もう絶版になってしまった本は、ヤフオクなどのオークションサイトやAmazonのマーケットプレイス、古本屋で見つけることはできるかもしれませんがが、希少本のため定価よりも高値で取引されています。しかし、本屋さんの棚で発見すれば、定価で購入できるのです。
「トコトンお探しサービス」は日本全国の丸善&ジュンク堂の店舗の在庫をすべて検索し、見つかれば定価で販売してくれるという愛書家にとっては夢のようなサービスです。
このサービスは、WEBで依頼を受けてから、4つのステップで日本全国を探していくカスケード処理と呼ばれるシステムで動いています。
池袋本店、渋谷店、丸善丸の内本店といった大店舗に在庫があるかプログラム上で検索し、あればその店舗にトラックが行って受けとって配送する流れとなります。この大規模店はそのフロア面積の広さから倉庫店舗とも呼ばれています。
オンライン通販は実店舗を持つ小売とくらべて家賃(事務所代やモール出店料)や人件費を抑えることができるため、販売価格を安く設定できることが強みです。
では実店舗をもつ企業は打つ手なく値引き競争に耐えるしかないかというと、そんなことはありません。実店舗があるからこそネット専業よりも選ばれる企業があります。
例えば書店ビジネスは、「商品」や「価格」で差別化を図るのが難しい業種で、Amazonの進出により業界全体としては衰退していますが、丸善&ジュンク堂はO2O(オンライン・ツー・オフライン)により売り上げを伸ばしています。
ジュンク堂の事例をもとに、書店業界×O2Oの新しいビジネスの仕組みを考えてみたいと思います。
目次
書店ビジネスとマーケの4P ~どの店で買っても同じ、差別化できない商品~
本という商品は、どこのお店で買っても同じデザイン、同じ文章です。また、書籍は小売業者が商品の販売価格を変えることができない再販制度の適用商品となるため、どこで買っても同じ価格です。さらに、この再販制度により、他の小売業では一般的な割引やクーポンで集客することもできません。これをマーケティングの4Pに当てはめてみると、
ジュンク堂は「Place(場所・流通)」と「Promotion(販売促進)」を最大限活かすため、O2O戦略に取り組んでいます。
Place(場所・流通)とPromotion(販売促進)を軸にした戦略 ~書店×O2O~
ユーザーがAmazonを使う大きな要因として、「多様な商品」「送料無料で翌日には届く」という利便性があります。これに対する店舗のメリットは「“お店に行けばすぐに”ほしい商品が手に入る」という即時性と、「お店の雰囲気・接客などから感じる購買体験」を提供できることです。しかし、書籍を求めるユーザーが店舗ではなくAmazonに流れるのは、「本はどこで買っても同じだから」「お店に行っても目当ての本があるかわからないから(無駄足になるかもしれないから)」という理由がありました。
丸善ジュンク堂は北海道から沖縄まで全国に100店舗を展開、ネットショップも運営し、十分なPlaceを持っています。そこで、これらPlaceを連携させ、ユーザーの利便性を向上させて店舗に来てもらおうとO2Oシステムを構築しました。
ジュンク堂のO2Oシステムのポイントは2点です。
①各店舗の在庫状況をオンライン(ECサイト)で確認できる
②オンラインで在庫の取り置きを依頼、店舗で書籍を受け取ることができる
非常にシンプルなO2Oの仕組みですが、ネットから店舗の在庫状況を確認できることで「店舗に行けば“今日、確実に”ほしい本が手に入る」という安心感を消費者に持ってもらうことができます。すると「どうしても今日あの本がほしい」「東京駅付近で商談があるから、ついでに本を買って帰ろう」というニーズに応えることができ、利便性が高まります。店舗に来店してもらえれば、平台のディスプレイや店員の手書きポップで実際の店舗でしか醸し出せない「書店の雰囲気」を楽しんでもらうことができ、ついで買いによる客単価の向上が期待できるのです。
書店×O2Oはとてもシンプル、本質的
ジュンク堂O2Oインフラの仕組み1 ~注文して最短1時間で本が手に入る~
丸善ジュンク堂はECサイトを基盤にO2Oインフラを構築しています。丸善ジュンク堂ネットストアの全体像
丸善ジュンク堂ネットストアでは、主に下記の3点ができます。①ネットで注文、指定場所(自宅など)に配送
②ネットで注文、店舗で受け取り
③ネットで店舗の在庫を確認、店舗で購入
http://www.junkudo.co.jp/
ビジネスマンに支持される書店のネットストア
丸善ジュンク堂ネットストアの売れ筋にはビジネス書や小説、新書が多く、他店よりもビジネスパーソンに支持されていますが、その要因には「ネットで注文してから最短1時間で本が手に入る」ことがあげられます。例えばこんなときは、丸善&ジュンク堂が便利というケースを紹介しましょう。
中堅広告代理店勤務で東京在住、26歳の若手広告プランナーがいるとします。この人が上司から「明日までにキャッチコピーを3案出して」と突然頼まれます。この場合、ネットで検索しても、「書店に行ったとき実際にあるかな、先に他の誰かに買われないかな」という不安があるのが通常です。しかし丸善ジュンク堂のシステムであれば、店舗の在庫をオンラインで確認でき、さらには来店時確実に受け取ることができるよう、店舗取り置きを最短1時間で実施することができます。(仕組みは後述)
例えばこんなときは、丸善&ジュンク堂が便利
アマゾンではプレミアム配送制度もありますが、時間制限があったりして届くまでには相当の時間がかかります。しかし、ジュンク堂には1時間後に確実に商品を手に入れることができるサービスがあり、大きな差別化ポイントとなります。注文して最短1時間で本が手に入る仕組み
では実際にどのような仕組みで店舗取り置きが実施されるのか、その仕組みを見ていきましょう。①まず、ネットストアから店舗取り置きの注文が入ると、ユーザーが受け取りを指定した店舗にメールが届きます。
②店員はメールに添付されているスリップを印刷し、本をピックアップして、スリップを挟み込み取り置き棚に置きます。
③店舗での取り置きが完了すると、注文者に取り置き完了メールが送られ、いつでも受け取れることが通知されます。
②で出てくるスリップとは、書籍のなかに破産である二つ折りの細長い短冊のようなシートのことです。専用スリップを活用することで、本をピックアップした店員以外のスタッフでもネットからの注文であることを把握しやすくなり、ユーザーが来店したときにすぐに書籍を渡すことができます。O2Oの仕組み作りでは店舗スタッフの運用負担を下げることも重要です。
丸善&ジュンク堂ネットストアでは、ECサイト会員の5人に1人が店舗受け取りを利用しています。
ジュンク堂O2Oインフラの仕組み2 ~日本全国トコトンお探し~
ジュンク堂では、O2Oの他にもPlace(店舗・チャネル)を活かしたサービスを実施し、他店との差別化を図っています。それが出版社に無い絶版本まで日本全国を総ざらいに探してくれる「トコトンお探しサービス」です。http://www.junkudo.co.jp/mj/user_data/guide/tokoton_content.php
もう絶版になってしまった本は、ヤフオクなどのオークションサイトやAmazonのマーケットプレイス、古本屋で見つけることはできるかもしれませんがが、希少本のため定価よりも高値で取引されています。しかし、本屋さんの棚で発見すれば、定価で購入できるのです。
「トコトンお探しサービス」は日本全国の丸善&ジュンク堂の店舗の在庫をすべて検索し、見つかれば定価で販売してくれるという愛書家にとっては夢のようなサービスです。
このサービスは、WEBで依頼を受けてから、4つのステップで日本全国を探していくカスケード処理と呼ばれるシステムで動いています。
ステップ1 自社倉庫と取次倉庫を探す
まずファーストステップですが、丸善&ジュンク堂の自社倉庫のデータを引き当てにいき、見つからなければ取次の倉庫を探します。取次倉庫にあればそれを引き当てて注文者に配送しますが、なければSTEP2に進みます。ステップ2 大規模店(倉庫店)を探す
セカンドステップでは、ジュンク堂書店の店舗を探します。池袋本店、渋谷店、丸善丸の内本店といった大店舗に在庫があるかプログラム上で検索し、あればその店舗にトラックが行って受けとって配送する流れとなります。この大規模店はそのフロア面積の広さから倉庫店舗とも呼ばれています。
ステップ3 出版社を探す
倉庫にも大規模店にもない場合は、アナログですが電話で出版社に問い合わせ、あればそこから取り寄せる形になります。ステップ4 日本全国の丸善&ジュンク堂100店舗から探す
出版社でも見つからなかった場合、全国の丸善&ジュンク堂100店舗を隈なく探します。ジュンク堂では、ビジネスや料理など各カテゴリに精通した店舗スタッフが書籍を取り揃えているため、出版社にないような本でも、どこかの店舗の棚に並んでいることがあるのです。さいごに
商品や価格で差別化できなくても、消費者ニーズをとらえて利便性を高めれば、「ネットで買う」より「店舗で買う」ことを優先してもらえる仕組みをつくることができます。今後、O2Oは消費者に選ばれるお店になるために欠かせないインフラとなるでしょう。ジュンク堂の事例が『週刊東洋経済』、『東洋経済オンライン』に掲載されました!
2013年12月2日発売の『週刊東洋経済(2013年12月7日号)』と『東洋経済オンライン』にOrange ECを使ったO2Oインフラの事例として株式会社HON様(丸善&ジュンク堂ネットストア運営会社)、ニフティ株式会社様とのインタビューが掲載されています。O2Oの利点や書店の今後の展開についてさらに知りたいという方はこちらもご覧ください。
https://ec-orange.jp/ec-media/?newsrelease=131202_toyokeizai