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デジタル一辺倒のマーケティングに、体温を。顧客エンゲージメント向上のために今必要なこと(前編)

テクノロジーの進化はとどまるところを知らず、小売業においてもアパレル業を中心に、デジタルを活用したCRM施策でEC化率を競い、EC化率の向上=ビジネスの成長と捉える風潮が当たり前となっています。しかし一方で、OMOという概念がじわじわと業界に浸透しつつある今、生活者にとって、施策としてのデジタルとアナログは本来対等な存在である、という視点に立つことが、顧客エンゲージメント向上を考える上では必須であると言えます。
デジタルにしかできないこと、アナログだからこそできること。企業にとって、本当に有効なデジタルとアナログの「使い方」とは?

今回、創業時から一貫してデータを駆使したダイレクトマーケティングを手がける一方で、日本郵便株式会社主催「全日本DM大賞」で数々の受賞歴を持つなどアナログなコミュニケーションのクリエイティブ領域においても一流の実績を持つフュージョン株式会社の代表取締役社長・佐々木卓也氏を迎え、デジタルとアナログの使い分け方から、顧客に選ばれるビジネスを生める組織の在り方、テクノロジーベンダーとの関係性、そしてこれからの時代に即したマーケティングマインドの育て方まで、幅広い切り口でお話を伺いました。

前編目次

  1. 創業時からデータマーケティングの重要性を見据えていた
  2. 具体的なテクノロジー活用に対するアドバイザーの不在
  3. 「部分最適」ばかりが増えると、目的地に向かって飛べているかが分からない
  4. いかにして「顧客時間」を取るか、第一想起されるか
  5. ECに特化してきた企業が紙のDMで「ありがとう」を伝えたい理由
  6. 「マーケティング」を事業者、MSP、ベンダーの共通言語に

スピーカープロフィール

佐々木 卓也(ささき たくや) 1974年生まれ、2000年に入社、2011年より現職。ダイレクトマーケティングエージェンシーとしてマーケティングテクノロジ導入運用支援、データ分析・活用支援、ダイレクトプロモーション実行検証など顧客との距離を縮めるサポートを行っている。 米国DMA公認ダイレクトマーケティングプロフェッショナル。2017年2月アンビシャス市場上場。
梅木 研二(うめき けんじ) 1977年福岡県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、伊藤忠テクノソリューションズ入社。
一貫して、流通小売業向けのシステム開発に営業として携わる。富士ソフト在籍時は、大規模Eコマースシステム開発に営業として従事、富士ソフト子会社のVINXにてオムニチャネルシステムの企画・支援の立ち上げに参画。2016年にエスキュービズム入社、2018年に取締役就任。

創業時からデータマーケティングの重要性を見据えていた

梅木:佐々木さんとはお付き合いが古いので、かしこまっての対談というよりは、ざっくばらんにお話できればと思っています。宜しくお願い致します。

佐々木さん(以下敬称略):10年以上のお付き合いになりましたね。こちらこそ、宜しくお願いします。

梅木:まず、改めて御社の成り立ちや、今やっていることを教えてください。

佐々木:私たちは1991年に札幌で創業したダイレクトマーケティング専業のマーケティングエージェンシーです。創業当時はまだデータベースが出てきた頃で、汎用機でデータベースを構築して回す、という時代だったのですが、創業時からデータベースを中心としたマーケティング活動を支援する会社にしたいという想いがあって、小売業を中心に顧客管理や購買データ管理、データの解析、そこから生まれるアクションプランの策定やプロモーションの実施検証などをやってきました。

梅木:佐々木さん自身はいつからジョインされたのですか?

佐々木:2000年からです。その後2005年ごろから東京に進出して、今では関東のお客様で売上の8割ぐらいあります。私たちの会社は、基本的に3つのサービスを柱にしています。一つはデータを解析するサービスです。これはビジネス課題を伺った上でオーダーメイドでメニューを作って、何をKPIとして設定すべきかというところまでお客様と一緒に考えるというものです。

二つ目は、データベースを構築する仕事です。これはそれぞれのお客様ごとにDBを構築するもので、年間でだいたい6兆円分ぐらいのデータを預かっています。昔はPOSデータがメインで、データウェアハウスを何十台も買って構えたりしていましたが、今はクラウドを使って、扱うデータもECやオープンデータ、サードパーティの競合店舗データなどを取り込んでAIを使って予測するとか、ウェブログやSNSのデータを一緒に溜め込んでどう価値を高めていくか、というような仕事が増えてきましたね。

三つ目が、コミュニケーションプランの策定と実行です。今はデジタル中心に顧客接点が増えていますので、それこそデジタルとアナログを組み合わせて、年間を通してどうお客様のロイヤリティを高めたり来店や利用などを促進するのか、そして継続的にお買い物をしていただくか、ということを、クリエイティブも含めて作っています。

基本的にはこの三つのサービスを提供すれば、企業が掲げるマーケティング課題というものはワンストップで解決できるというスタンスで仕事をしています。

具体的なテクノロジー活用に対するアドバイザーの不在

梅木:御社の特徴としては、一度取引が始まると、お付き合いの期間が非常に長い、ということが挙げられると思います。テクノロジーベンダーがツールを提供して、「SaaSなので月額利用料よろしくお願いします」というのとは違って、今挙げた三つのサービスを提供し続けるとなると、だいたい3年から5年、長いと10年といったロングスパンでお付き合いすることになるのでは?

佐々木:確かに、5年以上お付き合いのあるクライアントが7割8割だと思います。ほとんどのクライアントは何かしらのマーケティングサポートで繋がり続けるので、完全な「お別れ」になることはあまりないですね。

梅木:創業時からデータを活用してお客様に最適な体験を提供する、ということをずっとやり続けている御社として、日本の小売業におけるマーケティングの変化について感じるところはありますか?

佐々木:小売業に限定していうと、1960年~70年代にスーパーマーケットなどを創業し一代で築き上げてきた経営者たちが代替わりして、今はどんどん経営者が若い世代になっているんですよ。それによってデータやテクノロジーを活用した経営ということに対してものすごくリテラシーが上がった、というのがまず間違いなくありますね。

昔は勘と経験と度胸、いわゆる「KKD」の世界で、私が「データを預からせてください」と言っても、「データとはなんですか?」と聞き返されるような時代でしたが、今はデータを活用することが重要だという前提で話ができます。

ただ、大事なのは理解しているけれど、何から始めてどうやればいいのかが分からない。自分たちの会社にとって、テクノロジーをどう活用すればいいのか、ヒトモノカネというリソースに、どう優先順位をつけて実行すれば有益なのかという判断ができない、というのが今の時代だと思います。

そして、それをアドバイスする人もいないんですよ。「それはこういう段取りで進めて3年、5年かけてこうやりましょう」といった長いスパンでパートナーシップを持って企業と歩むというスタンスの会社が少ない。

アメリカではそういうスタンスの企業を、「マーケティングサービスプロバイダ」、略してMSPと呼ぶのですが、私たちもMSPを標榜しています。逆に、マーケティングテクノロジーを提供するベンダーは「マーテック」と言って、日本だと多分300社ぐらいあります。アメリカだと数十倍、7000社以上ありますね。

そのたくさんのマーテックをどう活用して自分たちの事業をドライブするのかということをコーディネートする立場がMSPなのですが、この役割の会社の数があまりにも少なすぎて、ともすると、それができるのは大手コンサルティング会社だけと思われがち、という状況だと思いますね。

「部分最適」ばかりが増えると、目的地に向かって飛べているかが分からない

梅木:データ活用の重要性は浸透して、土壌はできつつあるけれど、そこに種を植えて花を咲かせるための世話をする人が事業者内部にもいないし、マーテック企業からは「この肥料をやったらいいですよ」みたいに、単品だけを売りに来る。だからテクノロジーを駆使して色々なマーケティングプロモーションをやっても、点ではいいかもしれないけれど、線にもならないし、ましてや面にはならないという。

佐々木:そうなんですよ。デジタル分野の人たちに対して私が感じるのは、部分最適の話しかしない人が多すぎるということです。「これを導入すればこの部分は解決します」という。だけど、それだと全体の最適化には繋がって見えにくい。一生懸命部分最適ばかりをやっているけど、それを全部足したら全体最適になるわけではない。そこにすごく悩んでいる経営者は多いと思います。

それぞれの部署から、このツールを使いたい、買いたい、月額3万円です、5万円です、と来て、それを足し上げて月額数百万円というコストをASPベンダーに払っているけれども、それで売上が上がっているかというとそうでもないと。

経営者からしたら全く全体最適化に向かっていないのに、各部署の人たちは部分最適で満足してしまっている節がある。しかも、マーテック企業もそれを持ち上げて事例記事にしたりもするので、ますます何かいいことをやっている気になってしまう訳です。

本当に企業のためになっているか、というのはCMOのような、俯瞰して見る人がいないと、気づいたら道具は増えるばかり、かつバラバラの施策で顧客体験も単発という状態に陥ってしまいます。

梅木:部分最適って、最初のうちはいいのですが、必ずどこかで思ったほど効果が出なくなって行き詰まりますよね。すると今度はツールの限界だ、という話になりがちです。

佐々木:エンタープライズな仕組みを入れているような大手企業だと、一応全てが統合されていますがコストが莫大になる。それに対して、安いからと言ってポツポツポツっといろんなツールを入れるとサイロ化して個別のデータベースがいくつも出来上がってしまう。すると、横串を刺して見ようと思った時に何も見えない、という事態になります。

「ここにデータが溜まります、ダッシュボードもあります」と売り込まれて、接客ツールはこれを、ECツールはこれ、アプリはこれ、と全部バラバラな仕組みを入れるのは、要は飛行機を飛ばすのに、ものすごい数の計器を見ているようなものですよ。そんなの素人に操縦できる訳ありません。そこをコントロールしてあげる人がいないと、企業は目的地に向かってフライトできないのです。

いかにして「顧客の時間を獲得する」か、「第一想起される」か

梅木:小売業という組織の中では、デジタルマーケティングという部門で働いている人たちが孤立しがちですよね。なんだか理解できないツールを使って色々やっているというイメージで。お客様のことは分かるけれどもITのことは分からず、会話の言語がそもそも違うために意思疎通ができないという感じがします。

佐々木:そういう会社もいまだにたくさんあると思いますよ。それこそECの部署とリアル店舗の部署で会話もしないし施策も別々、というような。でも、生活者からすれば1つのブランドとして見ているから、店舗とECどちらで買っても同じと思っている。そのあたりのオムニチャネル志向が強くなればなるほど、最終的には「企業ブランド」をどうするか、という話に議論は行き着きます。先進的な企業は特にそうだと思います。

自分たちのブランドを、デジタルと、接客なども含めたアナログを合わせてどう作り上げていくか。それは結局お客様にどういう体験をしてもらいたいかが大切で、それをしっかり持っている企業はデジタルとアナログをすごく有効に融合していると思います。

梅木:デジタルとアナログをお互い機能補完させて、デジタルで表現できること、アナログでしか表現できないことをうまく使いこなしていると。

佐々木:そうです。先進的な企業の経営者や優秀なマーケターの皆さんが共通して言うのは、やっぱり「顧客の時間を獲得」なんですよね。私はそこにすごく共感していて。昔は、「こっちがお得です」という財布の奪い合いだったのが、今はこれだけライバルが多くて、お客様が自発的に検索もできる時代で、スマホでゲームもやるし、SNSをずっと眺めている。そもそも買い物をする時間が減っている中で、どうやったら自分たちの方を向いてくれる時間を多くできるかと言う視点で物事を考える。だからアプリが必要だよね、ECで24時間お買い物出来る状態を作ろうね、そして店舗に来たお客様にはこんな時間を過ごしてもらいたい、ということを組み立てられる企業が、これからは支持されていくのだと思います。

梅木:商品を売ることだけを考えるなら、完全にオンリーワンなモノじゃないと厳しいですね。

佐々木:そう。唯一無比だったら、どうしても欲しいから買うが成立するけど、どこで買っても同じものなら、大事なのは第一想起されるかどうかです。そのブランドなりお店、そこで接客するスタッフが第一想起されない限りはそこに向かって行きません。人は忘れる生き物だから、コミュニケーションを取り続けないと忘れられるし、優先度が下がっていく。しかも人は直前に見たもの、聞いたものに左右されやすいから、どうやって時間を埋め続けるかを考えなくてはいけません。

この課題において、デジタルの力は強いと思うんですよ。デジタルなら24時間コミュニケーションが取れて、いつでもアクセスができる状態を作れるので、隙間が埋められます。でも、五感に訴えることっていうのは、アナログにしかできないのです。

ECに特化してきた企業が紙のDMで「ありがとう」を伝えたい理由

梅木:五感に訴えるとは、例えばどんなことでしょう?

佐々木:例えばお店に行った時の匂いとか喧騒など、一覧性がある中での雰囲気や、接客の人対人のコミュニケーションは五感で感じるものです。私たちが得意としているDMも、封筒を開いた時に感じる紙の感触とかフォントが醸し出す雰囲気、インクの匂い、そういうもので感情に訴えることができるメディアです。

実は、今DMの引き合いが増えているんです。特に通販のお客様から。彼らは今までいかにしてコンバージョンを取って定期購買に持っていくか、という仕組み化にずっと投資してきています。やっていることと言えば顧客がサイトを訪れた瞬間にクーポンを提示する、メルマガで割引をオファーするということばかり。
あるときマーケティング部長さんがふと、「そう言えば我々の部署として、一度もお客様にありがとうって言ったことがないね」と呟いたら、スタッフみんなが「そうですね」となった。それで、「ありがとうって、どうやってクリエイティブに落としたらいいですか」という相談が弊社に来るわけです。上位顧客に、DMでありがとうを伝えたいという。しかも、2、3社から同じタイミングで同じテーマの相談が来たんです。

それぐらい、「ありがとう」はメールのテキストで来るより紙で来た方が感情的にいい気持ちになる、ということをみんなが感覚的に知っているんです。

でも、「今からセールです」というお知らせなんかは、そのタイミングで即連絡するべきだし、そういうデジタルとアナログの使い分けを、これまで一生懸命ECを運営してきた企業も考えるようになってきているのです。それは、新規獲得のコストがこれ以上高値になって取れないとすれば、今いるお客様のエンゲージメントを強くすることに対して投資していかないといけないと考えているからです。

「マーケティング」を事業者、MSP、ベンダーの共通言語に

梅木:マーケティングの領域に華々しくデジタルテクノロジーが登場した時は、デジタルがアナログに取って代わる、デジタル「or」アナログ、という図式でしたよね。でもお互いのいいところと悪いところがだんだん見えてきた。だからデジタル「&」アナログという前提でいろんな設計をしないとビジネスを伸ばしていけないと気づいた企業が、アナログもデジタルも一個のデータとして統合して駆使するのだ、という風に意識が変わってきたのでしょうね。その最たる例が今の「ありがとう」だと思います。

そうすると、大切になってくるのはマーケターの育成ですよね。御社は国内におけるマーケターマインドを持った人材の育成にすごく力を注いでいらっしゃいますが、そこに対する佐々木さんの想いとか狙いをぜひお聞きしたいなと。

佐々木:なるほど。すごく前のめりですね(笑)

梅木:いや、私はこれがすごく大事だと思っていて。お客様のビジネス課題って、もはやテクノロジーを入れてコストを削減するとか効率化する、ということではなくて、効率化されたリソースをお客様のエンゲージメント向上のために割り当てて、コストをIT予算から広告販促予算に振り替えて自分たちのビジネスを盛り上げていくことである、となった時に、テクノロジーベンダーと事業者の距離がどんどん離れていくんですよね。

それを埋めてくれるのがMSPかもしれませんが、やっぱりMSPはテクノロジーベンダーほどにテクノロジーを売れる訳ではないし、どれだけ事業者側に寄っていっても、事業者のプロパーではない。そうなるとテクノロジーベンダー自身がMSPや事業者側に寄っていく必要があるし、逆に事業者側がMSPあるいはテクノロジーベンダーの考え方を理解しなくてはいけない部分が出てくる。この三者を横串に刺す共通理解のようなものが、マーケター的な考え方なのかなと。それがないと、日本におけるDXの究極的な成功事例っていつまでたっても生まれてこないと思っています。

多分、いち早く究極的な成功事例を生んでいくのは、内製化ですよね。然るべきイシューを持ったCMOがプロジェクトをグリップして、内製化されたITテクノロジー部署があって、マーケティングマインドを持っている人たちが内部で作り切ってしまえば、成功への近道になるでしょう。

佐々木:確かにそれが一番手っ取り早いですよね。おっしゃる通り、人への投資を厭わず、そういう人材を揃えたところは内製で成功できます。人への投資に躊躇して、ツールを買ったら解決できると考えてしまう経営者がいると、それは達成できません。やっぱり腹をくくって人に投資した時に初めて血肉となって自社の中にデジタルとかマーケティングマインドが浸透する、というケースもたくさん見ています。

かといって、内製化できるようになったら私たちの役割がなくなるのかというと、そうではありません。なぜなら、マーケティングとは最適解を追い求める活動であり、正解はないからです。常に進化し続ける活動の中で、その時々で私たちがサポートすべき部分というのはたくさんあって、それがお客様の社内でできるようになるまでサポートする、できるようになったらまた次の課題、というサイクルを回すお手伝いをしています。

後編へ続く

後編目次:

  1. 「顧客をちゃんと見つめなさい」
  2. マーケティング思考がないと真のパートナーにはなれない
  3. これからのマーケティングが求められるものとは
  4. デジタルは距離と時間を縮める、アナログはコミュニケーションに深みを与える
  5. 「紙のDM」が、今、若者に刺さるのはなぜか

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