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プラットフォーマー規制は広告も対象に。諸外国でも巨大IT規制強まる


デジタルプラットフォームは、事業者と消費者を結びつける場であり、デジタルで商品やサービスを取引する上でなくてはならない存在です。 しかし、影響力が強くなりすぎたゆえに、一部の巨大IT企業による市場の寡占状態が懸念されてきました。



これを防ぎ、透明な取引を行うために整備されたのが「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性」いわゆる取引透明化法です。



2021年、この法律の対象事業者は、オンラインモールおよびアプリストアを運営する5つの事業者でしたが、2022年にはメディア一体型広告および広告仲介型のデジタルプラットフォームを運営する事業者も、規制の対象事業者として指定されました。



本稿では、2019年頃から活発化したデジタルプラットフォーマーに対する規制についての、今までとこれからについて紹介しています。 また、EU、米国、中国での巨大IT規制の動向について、最新情報をお送りします。


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デジタルプラットフォーマーに対する規制の動き



デジタルプラットフォーマーに対する規制について、動きが活発になったのは2019年頃です。



2019年12月に公正取引委員会から、巨大ECプラットフォーマーに対して独禁法違反の可能性があるという文書が公表され、翌年の2020年には、政府によって巨大IT規制法案が閣議決定されました。



そして2021年4月、Amazon(アマゾンジャパン合同会社)、楽天市場(楽天グループ株式会社)、Yahoo!ショッピング(ヤフー株式会社)、App
Store(Apple Inc.、iTunes株式会社)、Google
Playストア(Google LLC)の5つの事業者が日本政府によって「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定され、これらの事業者が「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の規制対象になると定められました。



また、翌年には、メディア一体型広告デジタルプラットフォームの運営事業者としてGoolgle
LLC、Meta Platforms, Inc.、ヤフー株式会社が規制対象として指定されました。



「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性」とは



「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性(以下、取引透明化法)」は、2020年5月に成立し、2021年2月に施行されました。 これにより、指定事業者は「特定デジタルプラットフォーム提供者」として、取引条件の情報開示や体制の設備、実施措置や事業概要についての自己評価を国に提出する義務を負うことになっています。



提出された報告書は、取引事業者や消費者だけでなく、学識者等も閲覧できるよう公表されます。
取引透明化法の指定業者は、商品等提供利用者に対して、利用条件を急に変更したり、取得したデータを許可なく使用したりすることはできません。
また、商品・サービスの検索順位決定の条件や、送料・返品・返金を事業者負担とする時の条件や内容の詳細について開示する必要があります。



なお、この開示情報に関して、経産大臣が勧告、命令しても開示が行われない場合には、100万円以下の罰金が科せられることになっています。



取引透明化法に現在指定されている事業者は、ECモール、デジタル広告、アプリストアの3分野に分かれています。



ECモール



ECモールで、取引透明化法の対象事業者となったのは、Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングです。



巨大IT事業者の寡占というと、楽天市場の「送料無料施策」に対して公正取引委員会が立ち入り検査を行なったというニュースが思い出されるのではないでしょうか。



送料無料施策は、楽天が2020年3月に開始すると発表していたものです。楽天の出店者が実質的に送料負担を強いられることから、独禁法の「優越的地位の濫用」にあたるのではないかと問題視されていました。



結果として、楽天は送料無料を一律的に強制しないとして、もっとも厳しい措置である排除措置命令を回避した形に落ち着きました。
しかし、巨大IT事業者が小売に対して圧倒的優位であることが可視化された事例として、記憶に残った人も多いでしょう。



ECモール事業者は、利用者(事業者/消費者)が多ければ多いほど膨大なデータを収集して、サービスを拡充させることができます。
登録されている商品・サービスが膨大であればあるほど、よりユーザーの好みに合致しやすいおすすめ商品を提案しやすくなったり、配送・決済を一元化してコストを下げやすくなったりします。



これは必ずしも「悪」ではありませんが、一つのサービスに小売事業者・消費者が囲い込まれると、その優先的な地位を利用して一方的な契約を結ぶ、同意しない事業者を退会させて市場から事実上排除するという行動が起こりやすくなります。



そのような事態に陥らないよう制定されたのが、取引透明化法です。



デジタル広告



デジタル広告のプラットフォーマーとして指定されたのは、Goolgle LLC、Meta
Platforms, Inc.、ヤフー株式会社の3事業者です。



Google LLCは、Google検索とYouTubeの広告表示に対して、そしてMeta
Platforms, Inc.はFacebook広告を通じたFacebook、Instagramの広告表示に対して、ヤフー株式会社はYahoo!検索を含むYahoo!JAPANに表示される広告に対して指定がなされました。



なお、Google LLCは、広告仲介型デジタルプラットフォーマーとしても指定されています。



これは、ウェブサイト等の運営者と、広告の出稿希望者を仲介する事業で、Google広告の他にDisplay&Video360を通じた広告も取引透明化法の対象となっています。



アプリ



アプリストアは、App Store、Google Playストアが対象です。



アプリの検索順位が不当であったり、入力した情報が自分の知らないところで利用されたりすると、事業者だけでなく消費者の利益も損なってしまいます。



消費者にとって利用のデメリットが大きいことは、長い目で見ればプラットフォーマーと、プラットフォームを利用している事業者にとっても不利益となるでしょう。







世界での巨大IT規制の状況



世界に目を向けてみると、規制強化に向かっているのはEU(欧州連合)です。



一方で、米国は事業者と消費者の双方に利益をもたらしている場合は、巨大プラットフォーマーといえども自由競争の範囲で認めるという姿勢が見られました。



中国では、インターネット企業に向けた追求が一旦節目を迎えたと見られています。



EU ( 欧州連合)



EUは、「DMA(デジタル市場法)」について合意しました。今年10月には前倒し的に施行されるという見通しもありましたが、今のところは、本来の施行時期である2023年中をめどに準備が進められているようです。



DMAは、米国のGoogleやApple、Amazon、Meta(Facebook)といった世界的なプラットフォーマーに向けられた新法で、違反すると世界年間売上高の最大10%という法外な罰金が科せられます。



また、こうした巨大プラットフォーマー以外にも、時価総額が約10兆1,000億円(750億ユーロ)以上、あるいはEU域内のエンドユーザーが月間4,500万人以上等、一定の条件にある企業も新法の対象となることが伝えられています。



また、オンライン広告にまつわる情報開示や違法コンテンツの速やかな削除義務を課す「DSA(デジタルサービス法案)」についても、EU内で合意が得られたことが公表されました。



GoogleやAppleはこうしたEU内の動きに懸念を示していますが、巨大プラットフォーマーの強大な支配に待ったをかける動きは、もはや全世界的と言えそうです。



米国



シリコンバレー企業の中でも突出した存在であるAppleは、アプリの市場としてApp
Storeを作りました。



現在では、世界中から約50万人の開発者がApp Storeにアプリを登録していて、6,400億ドル(2020年)という事業売上を作り出しています。



App Storeで扱われているアプリやアプリ内の課金は、大半が開発者へと入り、Appleは利益を搾取しているわけではありません。



米国の裁判所は、Appleとアプリ開発会社Epic Gamesの裁判において、Appleが開発者とエンドユーザーの双方に利益を与えていること、Appleと開発者との契約が合法であることを認め、App
Storeが独占的な場ではないことを認めました。



日本では、App Storeが取引透明化法の対象となりましたが、米国では、Appleが一つ一つアプリを人力で審査して違法コンテンツを排除する取り組みをしている点、アプリの売上の大半を開発者へ分配している点、そして世界中で雇用を創出している点等を評価して、判断を下した形となっています。



中国



中国政府は、アリババグループや配車サービス滴滴(ディディ)に対して巨額の罰金を科す等、IT企業に対する締めつけを厳しくしていました。



しかし、2022年8月に施行される改正された独占禁止法を一つの区切りとする動きがみられています。



なお、改正では、企業が他社買収の際に適切な手続きを行わなかった場合の罰金が大幅に引き上げられる、企業が保有するデータ・技術を独占的に使用することを禁ずる、といった内容が明記されました。



公正で健全な市場のために



デジタルの世界にも、公正な取引で健全な企業間競争を促す動きは浸透しつつあります。新しい技術が次々に生まれると、デジタルの世界は広大で、何でも具現化できると錯覚してしまいがちですが、言い換えればリアルと同じように何でも実現できるからこそ、ルールも必要です。世界的な動向を見る限りでも、透明性を保っていくことが今後はより重視されていくでしょう。



プラットフォーマー、事業者、消費者の利益のバランスを追求



透明性を保つために必要なのは、プラットフォーマー、事業者、そして消費者が均衡を保つことです。いずれか一方が優位に立って利益を享受する代わりに、他方が不当な扱いに甘んじることは公正な社会にとって容認されないものです。



とはいえ、日本の取引透明化法と各国の動きはそれぞれに違いがあり、すべての国が足並みをそろえて対応しているわけではないようです。



今後の諸外国の動きと、取引透明化法の規制による効果を今後も注視する必要があります。