デジタルシフトで新たな次元へ、次世代コマースとその未来
コロナ禍でEC利用は拡大し、店舗での購買行動でもキャッシュレス決済が全体の約60%を占める等、小売の現場全体でデジタルシフトは進んでいます。アフターコロナのEコマースは、「何でも、いつでも、どこでも」買えるEコマース3.0の時代を迎えているのです。
今後は世界的に、SNSからサイトに遷移せずに商品が購入できる「オン・プラットフォーム・コマース」や動画を使ったライブコマースの市場規模が拡大していくと予想されていますが、「何でも、いつでも、どこでも買える環境」を整えるには、多くのチャネルを開き、管理して、そこで得られるデータを分析するシステムを整える必要があります。
本稿では、次世代コマースとして挙げられる新しい手法を紹介するとともに、その手法の確立に必要なものを考えていきます。
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ECは次世代コマースへ
オンラインでの購買体験は、また一つ未来へと進んでいます。
コロナ禍においては、「行動制限が解かれたら、消費者は対面式のショッピングに戻ってくる」、「対面での購買行動が一気に増える」と言う意見がありました。
日本国内のBtoC-EC市場規模は、22.7兆円(前年20.7兆円、前々年19.3兆円、前年比9.91%増)となっており、行動制限がなくなっても結果として、消費者のEC利用が大きく減少する事はありませんでした。
経済産業省:令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831002/20230831002.html
消費者はECと店舗を使い分けていて、さらにECを利用する時にも、SNSや公式サイトで情報を調べてモールECで購入するといった複数のデジタル媒体を活用した購買行動が見受けられるようになっています。
これまでも、店舗で実際の商品を見て検討してからオンラインで購入するという「ショールーミング」等、発展したEC利用はありましたが、そこからまた一歩、デジタルへとシフトする形になっています。
この状態は、Eコマース3.0と呼ばれており、このトレンドに合わせたマーケティングや販売方法が求められています。
Eコマース3.0、ユニファイドコマース
今のEコマースは、3つめの段階に来ていると言われています。
Eコマース1.0は、オンラインで「いつでも」買い物ができる時代を指しています。買い物といえば、店が開いている日にち、時間に合わせてするものでしたが、Eコマースの登場によって24時間いつでも欲しいものが買えるようになりました。
Eコマース2.0は、1.0から一歩進んで「いつでも、どこでも」買い物ができる時代を意味します。すなわち、Eコマースプラットフォームによって、企業が自社製品を自社サイトで販売できるようになった時代です。プラットフォームの活用は、アパレル業界から、次第に食料品や家庭用品を扱う業界にも広がり、あらゆる商品が「いつでも、どこでも」買えるようになりました。
Eコマース3.0は、「何でも、いつでも、どこでも」買える時代を指します。あらゆる商品は、消費者が好きな時に好きなタイミングで購入可能となりました。
こうした時代の経過によって、ユニファイドコマースという手法が注目されています。
ユニファイドコマースとはマーケティング手法の一つで、顧客一人一人に価値ある購買体験を提供する手法という意味です。
ユニファイドコマースは、オンライン、オフラインを区別せずに売上を上げるという意味においては、OMOと同じですが、異なるのは、顧客体験の向上をも視野に入れているという点です。
ユニファイドコマースを成功させるためには、ECサイトと店舗両方で得られる顧客情報や行動履歴を包括的に分析し、個々に最適化されたアプローチを実践する必要があります。
BtoB向けに開発されたシステムやツールを上手に活用して、経験則やこれまでの傾向といった情報だけに頼らない、客観的な顧客分析を行う重要性がますます高まっていくでしょう。
多様化するデバイスごとのコマース
PC、スマホといったデバイスの特性を活かしたコマースは、それぞれの特徴を活かして進化しています。
スマホ向けのコマースでは、インフルエンサーが動画で商品を紹介して販売する「ライブコマース」が人気を集めています。ライブコマースは、アジアの若者が主なユーザーですが、北米でも利用が広がっていて、今後市場規模の拡大が予想されます。
また、ライブコマースと同様に消費者が興味を持っている販売スタイルに、メタバースコマースやVRコマースがあります。こちらもこれから市場規模が拡大していくと予想されています。
メタバースコマースは、仮想空間上で店員アバターの接客が受けられるため、次世代の対面式購買行動とも言えるかもしれません。
なお、あるアンケートによると、消費者が次世代コマースの中で特に興味関心を抱いているのは、InstagramとYouTubeを利用したものというデータが出ています。
次にFacebook、TikTokと続き、Pinterestに搭載されているショッピング機能については、「知っている」と答えた人、「興味がある」と答えた人ともに最も低い数字となりました。
SNSや動画をチャネルとする場合、レコメンデーションの必要性も高まります。 オンラインにはたくさんの情報があふれていますが、どんなに優れた商品でも顧客の目に触れなければ売上につながりません。たくさんの類似品・サービスの中から顧客に「見つけてもらう」ための対策を講じる必要があるのです。
AIを活用したレコメンド機能も一般的になりつつありますが、その精度はまだ完璧とは言えません。
顧客のライフスタイルが変化したり、トレンドが変化したりすると、レコメンド基準もまた変化させる必要があります。リアルタイムで「今」を反映させていきましょう。
動画コマースや店舗とシームレスにつながる工夫を
次世代コマースには、ライブコマース、ショールーミング以外にもレンタルコマース、ヘッドレスコマース等があります。
さらに、リブランディングやSNSのプラットフォーム化、リピート顧客の育成というマーケティング手法を組み合わせる事で、顧客に合わせた購買体験を提供できるはずです。
導線設計と「どこでも買える」システム構築
オンライン上での導線設計は、タッチポイント作りが重要です。
消費者は、SNSや公式サイト、モール型EC、Web広告など、様々な媒体で情報収集を行っています。これは、企業と消費者の接点を増やせるチャンスと言い換える事ができるでしょう。
接点を増やせるのは良い事ですが、購買の起点によって顧客の購買意思決定や導線は異なってくるため、これらの違いを理解し、戦略的にアプローチする必要があります。
例えば、動画を主体としたライブコマースでは閲覧しているスマホからすぐに購入できるようなシステムが求められます。
また、ショールーミングでは店舗とオンラインをいかにスムーズに行き来させるかが焦点となるため、リアル店舗のデジタル化が不可欠となります。
オンラインとリアルのタッチポイントをうまく統合できれば、ECと店舗の良い点を互いに活かして顧客対応ができるはずです。
チャネル、広報、SNSの使い方
SNSを本格的に運用しようと考えるならば、各SNSプラットフォームの特性を理解しておく必要があるでしょう。
ユーザーの興味を引きつけるコンテンツを発信する、企業のブランドイメージを確立し、顧客のエンゲージメントを高めて消費者のファン化を図る等、SNS上では様々な戦略の展開が可能です。
そして、購買プラットフォームとしてSNSを利用する事もできます。
Instagram、Facebook、TikTokでは、SNS上で商品の閲覧から購買までを完結させる「オン・プラットフォーム・コマース」のシステム整備が進められていいます。
「どこでも買える」という言葉は、オフライン、オンラインの区別だけでなく「オンライン上のどこでも」という捉え方が求められていくのかもしれません。
リブランディングで越境EC開拓、リピート顧客を次世代コマースへ引き継ぐ
Eコマース3.0へとアップデートさせるための施策としても活かせるのが、リブランディングやリピート顧客育成の中期的計画です。
リブランディングは、企業やブランドの成長戦略の一部として位置づけられていますが、その目的は様々です。例えば、メイン顧客層の若返り、ブランドのパーパス(企業の社会的な存在意義)を明確にする、他業種への進出等、企業の数だけ「刷新する目的」は異なります。
このリブランディングを次世代コマースと関連づける事により、越境ECを開拓したり、新たな販売チャネルを開設したりできるかもしれません。
■関連記事:リブランディング戦略で成長を続ける企業になる
また、次世代コマースと言っても、新しいやり方に移行して一から顧客層を形成する必要はありません。
むしろ、リピート顧客はこれまでと同様、企業や商品・サービスのファンでいてもらえるように引き続きCRM(顧客関係管理)を活用し、顧客との関係を維持・向上させることが求められます。
マーケティングには、新規顧客を獲得するには既存顧客の5倍のマーケティングコストがかかるという「1:5の法則」があると言われています。
ヘッドレスコマースのためのシステムを整える、SNSをチャネルとして活用する、こうした改革には設備投資をはじめとして多くのコストが必要です。
このコストをカバーするためには、新規顧客の獲得に気を取られすぎて既存顧客をないがしろにするのではなく、むしろリピート顧客を大切にすべきでしょう。
具体的には、LTV(顧客生涯価値)>CPA(顧客獲得単価)というLTVがCPAよりも大きい状態を維持し続けるのが重要です。
次世代コマースという変革は、販売手法だけを変えるのではなく、販売を取り巻く状況や既存システムを見直し、デジタルシフトできているかを見ていく必要があります。
総括的な「小売の場」作り
OMOの概念が登場した時、オンラインとオフラインで「小売の場」を分けるという考え方は過去のものになりました。
そして、Eコマース3.0となった現在では、より総括的な小売の場を設ける事の重要性がさらに高まっています。
サプライチェーン、店舗、ECの3つを融合できるシステムがあれば、小売に関わるすべての業務を包括的に管理できるようになり、今まで点と点でつながらなかったものも、線としてつながっていきます。線になったデータは、分析の段階で改めて様々なセグメントに切り分けられ、多様な切り口で扱えるようになります。
そして、さらに広い視点で見れば、総括的な小売の場作りは、企業全体のDX化に結びつき、加速度をつけて成長を促進できるはずです。